破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その114、きみは虜囚か姫君か-14 眼鏡ヒーラー 奮闘す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かな怒りと憎悪に燃え、魔力を練っているベルツ。

 

 その後ろで――

 援護や防御の魔法を準備しているバッキー。

 

 ふたりの魔導士に対峙して、

 

 ――厄介な状況(こと)になった……。

 

 と。

 スキンヘッドの男・ヒョーズは内心苦笑していた。

 

 自分の育て、鍛えた自慢の両生類型モンスター。

 ドラゴンの幼体を喰わせ、苦労して育てた傑作。

 

 ()()()は、ラダマンティスと勝手に名づけていたが……。

 

 ――まあ、名前ぐらいあってもよかろう。

 

 自分で呼ぶことはないが、そういう名前だとしておいた。

 

 ――だが……。

 

 外の状況は、ラダマンティスを通じてある程度わかる。

 現状の敵戦力程度なら、恐れるに値しない。

 

 が。

 

 それはあくまで、現状のままならば……ということ。

 この規模の領地。そこの騎士団が、あれだけということはありえない。

 

 援軍が本腰を入れてやってくれば、

 

 ――まあ、終わる……。

 

 仮に死なないとしても、無傷ですむわけもなく。

 致命傷を受け、逃げた後で死ぬ可能性も高い。

 

 ――下手すれば、国軍が出張るかもしれん……。そうなれば、完全に詰みだ。

 

 他国ならいざ知らず、この軍事大国(ヤオアムト)内部で。

 

 いや。

 それ以前に、

 

 ――暗殺稼業として、こんな派手なことをした時点で失敗か。

 

 厄介な男爵と、その援護に回っているヒーラー。

 

 さらに。

 肝心の標的は、強固な結界で守られている。

 

 時間がたつほど、状況は悪化するばかり。

 

 ――なら、良いさ。いっそここで死ぬか。

 

 ストン、と。

 

 ヒョーズの中で、決定がくだった。

 

 こんな稼業をしている以上、まともには死ねない。

 

 また。

 先に希望とか未練があるわけでもない。

 

 ――ここで、魔導士として術を尽くして死ぬのも悪くないさ。

 

「……っ!」

 

 ニィ、と笑った暗殺者。

 これに、バッキーは危険なものを感じた。

 

 ハッタリではない。

 

 また。

 自暴自棄のヤケクソとも、似ているようで何か違う。

 

 さながら。

 自分の残った生命(いのち)をこの場で全て燃やし尽くす。

 そういうものに思えた。

 

 ――当たってるとすれば……。

 

 先のことも、保身も考えない。

 しかし。

 安易な自爆特攻でもない。

 

 バッキーが杖を握る手に力を込めた時、

 

 ――……!? まずい!!

 

 ボッ……!

 

 いきなりの爆発。

 それが廊下、屋敷の一部を吹き飛ばした。

 

 が。

 

 ベルツ。

 イセンサ。

 そして、バッキー。

 

 3人とも、より強固な結界で被害を逃れていた。

 

 しかし、建物の損壊はどうにもならない。

 

「……あ!」

 

「イセンサ……!」

 

 結界の球体(ボール)ごと、落下していくイセンサ。

 反射的に手を伸ばすベルツ。

 

 キンッ

 パキ……!

 

 しかし、ベルツは走りながら飛んでくる攻撃を弾いた。

 

 青黒い巨大な鱗を固めたもの。

 暗殺者(ヒョーズ)はそれを飛び道具として使っているのだ。

 

「貴様……!」

 

 ベルツは、その整った顔を歪めてヒョーズを睨んだ。

 

「彼女は私が!!」

 

 バッキーは叫び、自分の結界ボールに入ったまま下へ飛び下りる。

 

「フォイア伯……ご武運を!」

 

 落ちていく直前、バッキーは援護の魔法をベルツへと放った。

 

「っち……」

 

 ベルツは舌打ちを漏らすが――

 その口元は、少しだけ苦笑を浮かべていた。

 

下賤(げせん)な殺し屋相手に、卑怯などと言うなよ!?」

 

 ヒョーズは青黒い剣を振るって、ベルツを挑発。

 鱗を束ねて刃と化したもの。

 振るった瞬間、ラダマンティスの吐いた毒気――

 これと同じものが、固体となって飛ぶ。

 

 だが――

 毒気の塊は空中で何かにさえぎられた。

 

 途端に、爆発が起こる。

 高熱と毒をまき散らされる中、

 

「……気に入らんが、今は助かるな」

 

 粉塵が舞う中。

 ベルツは左手の甲をかざし、つぶやく。

 

 バッキーが放った輝く小さな魔法陣。

 それは、小規模な結界……魔力の盾をベルツに装着させていた。

 

 ――ずいぶんと、良いものをもらったなベルツ卿……。

 

 刃を構えつつ、ヒョーズは苦笑する。

 

 ――ずいぶん不利になったが、ズルいと言える立場でもない。

 

 左手にバッキーの盾。

 そして右手。

 

 ベルツが手にしていたシンプルなデザインの魔杖。

 それが魔力の光を帯びて輝く剣と変わる。

 

 ――黒装束のくせに、まるで光の騎士(ブライト・ナイト)だな? しかし、それも良かろう!

 

 破壊された建物の中。

 二人の男が、走った。

 

 光と黒の刃がぶつかり合い、魔力の火花を散らしていく。

 

「貴様……」

 

 刃を打ちあい、鍔迫り合いとなった時。

 ベルツは小さくつぶやき、ヒョーズを睨む。

 鋭く、相手の内部を突きさすような視線。

 

「妙な詮索でもしているのか!?」

 

 ヒョーズは肉薄した状態で、刃へ魔力を送る。

 

 途端、

 

 ボムッ

 

 魔力が(ふく)らみ、熱気と毒気が爆発を起こした。

 

 ベルツは半ば吹っ飛ぶように後退。

 しかし、ダメージはない。

 

 左手に装備された『盾』が、爆発を防いでいた。

 

「――その所作、太刀筋(たちすじ)。単なる殺し屋ではあるまい」

 

「単なる殺し屋だ」

 

 ベルツの問いともつぶやきともわからないもの。

 ヒョーズはそれに、刃で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて見ると、これは……」

 

 騎士たちを相手に暴れ狂うオオサンショウウオのモンスター。

 バッキーはそれを見上げながら、苦笑しかける。

 

 口から吐き出される、毒気の塊。

 それは着弾した途端、爆発を起こす。

 まるで、爆弾か大砲。

 

 ――おまけに、毒までまくって……。なんて迷惑な……。

 

 視線を移せば――

 毒でやられた仲間を、必死で救助する騎士団の姿。

 

「これじゃ、うまく戦うことができない、か」

 

 つぶやいた後。

 バッキーは無事を確かめたイセンサを見る。

 もう一度。

 守りの結界を多重にかけてから、

 

「……大丈夫」

 

 うなずき、バッキーはモンスターを見た。

 

「……うん」

 

 イセンサが結界の中でうなずくのを見届けた後、

 

「******……」

 

 バッキーは呪文を唱え、最初のモンスター襲撃時で使った結界球を作り出し――

 

「むん……」

 

 杖を突き出し、空中へと浮遊させる。

 さらに。

 魔力を送り、練って、編み込む。

 

 球体はより強固に、より大きく変わり?

 プラス。

 いくつものスパイクがあちこちから飛び出す。

 

「いっくよ……!」

 

 バッキーの声と共に、杖の動きに合わせ、球体は宙を舞う。

 

 そして、

 

 バゴッ!

 

 モンスターの横っ面に、叩きつけられた。

 

 ギュアアアアア……!

 

 打撃とスパイクでダメージを負い、叫ぶ怪物。

 

 巨体が揺らいだところへ、2度、3度と叩き付けられる結界球。

 

 それはもはや……。

 巨大なモーニングスターそのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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