破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「らしくないな――」
幾度か剣で切り合い、刃をぶつけ合った
ベルツは観察でもするようにヒョーズを見た。
「殺し屋らしい、貴様の
騎士だな。
その言葉に、ヒョーズはただ笑うだけ。
皮肉、あるいは自嘲的な笑み。
ヒョーズ。
本名……生来の名前ではない。
その名前は、とっくに捨てた。
生まれたのは、ヤオアムトから離れた国。
弱小ではないが、強国と言えるレベルではない。
その程度の国。
ただ。
レベルは劣るが、ヤオアムトと同じく魔導国家でもあった。
支配階級は魔導に通じ、その力で国を統治する。
魔法は、あくまで貴種のみに許された技。
そういう国だ。
平民が魔導を学び、識字率も100%に近いヤオアムトとは、
――決定的に違っていたな。
後年。
何度も思い返し、皮肉な気分になったものだ。
歴史も文化も、成り立ちも異なる国同士。
単純に同じことをすれば、発展するというわけでもなかろうが……。
ヒョーズは、その国で貴族の家に生まれた。
嫡男ではないものの……。
ちょっとした秀才であったため、婿入りの口はあった。
そのまま何事もなければ、婿入りした家を継いでいたのだろう。
しかし。
婚約者であり、古くからの友人でもあった娘。
彼女は他の男と情を通じ、婚約を破棄してきた。
その上で、相手の男と一緒に出奔、つまり駆け落ち。
恋でのぼせ上った結果の暴走とも言える。
貴族として、男として――ヒョーズのメンツは徹底的に潰された。
ヒョーズもまた憎しみで暴走。
悪魔のような執念で逃げた2人を見つけ出し、逃走先で惨殺した。
伊達に文武両道の秀才と言われていたのではない。
魔法だけではなく、武術においても相当に使えたのだ。
殺した2人を路上にさらした後。
そのまま、逃げた。
たとえ自分に正当性があったとしても――
砕かれたプライドはもはやどうにもならない。
名前を捨て、身分を捨て。
あちらこちらへの放浪をへて。
気づけば、ヤオアムトに潜り込み、
――たどりついた先は、チンケな殺し屋か。
モンスターテイムの技を重ね、強力なモンスターを鍛え、育てる。
それは、唯一残ったよりどころだったのかもしれない。
――だが、それもしまいだ。
ヒョーズは内心で自分をあざ笑う。
こんな
――ならば。術の限り、技の限りを尽くして、勝ってから死にたい。
その肩から、殺気と闘志が炎のように燃え上がる。
「……いいだろう」
ベルツは、ヒョーズの顔を睨み剣と盾を構えなおす。
何故、そんな言葉を返したのか。
自分もわからない。
ただ、こう思った。
――あるいは、俺もこうなっていたかもしれない。
やはり、理由とか根拠はわからないが。
……。
「……クッソ。きりがねえ」
片腕に
何度その鞭を振るったか。
地面に散らばる羽根を睨み、マコネは毒づいていた。
――ああ、もう! バッキーに……いや、こんだけ騒いでりゃわかるだろうけどさあ!?
自分たちの
イセンサの身を
ならば。
まずは、そこを最優先としなければならない。
そう判断しての行動だった。
――とりあえず、毒気をよけて裏手から……。ああー、いっそ窓ぶち破ってすぐ行けば良かった! 失敗した!!
この時、
「うひゃ!?」
闇から襲ってきた複数の何か。
マコネは、その攻撃を寸前で回避した。
しかし、下へと転がり落ちてしまう。
――また虫か?!
落下しながら思うマコネ。
ゲカットを装備に変えながら、壁に張り付く。
そこを狙い、攻撃はさらに続き……。
「あー。ちっきしょ……」
応戦するうちに、マコネは地面に着地。
走り、鞭を振るい続ける苦行。
倒した相手は、地面に落下するか、闇の中に消えるのだが。
「鳥か……」
落下したのは、鳥。
正確には、鳥の形をした黒い塊。
しばらくすると、わずかな羽を残して霧となって散った。
残った羽根もやがて消える。
だが、周囲にはまだまだ殺気が満ちている。
――こりゃ、まずいわ。
孤立状態。
これはよろしくない。
マコネはそう判断するや、
「おらぁ!!」
武器を鞭から巨大な鉄拳へ変え、
バギンッ
屋敷の壁を叩き壊す。
空いた穴から、中へと逃げ込んでいった。
飛び込んだ後は、そのへんの家具など適当なものを、
「よいせっと……」
鞭を触手のごとく操って移動させ、穴をふさぐ。
そして、すぐに走り出した。
……。
「おやおや――」
闇の向こうで、女は肩をすくめた。
白衣にグルグル眼鏡の妙な女。
――とりあえず、戦力を削っておこうと思ったけど……。こりゃ予想外でしたわ
右手をかざした体勢。
手のひらには、目玉。
いや。
目玉のような、紋様が不気味に輝いている。
しかも、その紋様。
時々まばたきみたいな動きをする。
グルグル眼鏡は、樹上の陰で使い魔を操っていたのだが、
――まいったなあ~。今回の仕事は、アカンですかね。こんな有様じゃ……。
このドタバタ騒ぎでは、
――暗殺者っていうより、テロリストですわ。
グルグル眼鏡は、ふわっと樹上から跳び、空中に浮かぶ。
「しかし。あきらめちゃったら、そこでお仕事失敗ですよね」
まだ
おどけた
それを残し、グルグル眼鏡は闇へと溶ける。
……。
ボゥ……
炎が燃えた。
普通の火ではない。
暗い、紫の炎。
燃え続ける不気味な炎が群れる蟻の大群を焼き尽くしていく。
「そういえば……」
青い乙女は一歩進み、つぶやいた。
全身に紫の炎をまとって。
「あまり、使う必要も機会もなかったわね?」
わずかに首をかたむけ、カーシャは淡々とつぶやく。
水色の瞳へ、暗い紫の火を映しながら――