破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
紫の炎。
それは蟻の黒雲と
夜の闇を薄暗く照らす。
熱を持たない陰火。
なのに。
燃える紫は、蟻を狙うかのように焼いていった。
まるで、それ自体が意思を持つ生き物かのように……。
――魔力を感じん、だと?
闇へ身を潜めた黒頭巾は、未知の現象に目をむいた。
魔力で生み出されたものではなく――
自然の火でもない。
激しく燃え盛っているのに、まるで熱を感じない。
――こいつぁ、一体……?
暗殺者という身に堕ちた身ではあるが……。
魔導士の端くれとして、嫌でも好奇心を刺激される。
そして、
――ヒョーズはしくじったか……。
遠くからうかがえる、フォイア邸の様子。
感じ取れる気配、雰囲気。
それで、状況は察せられた。
――しかし……。
3人のうち、最後の一人。
グルグル眼鏡のとぼけた女。
――このドサクサで、仕事をやるのかもしれんが……。
どうであれ、
「仕事は、きっちりとやらなきゃあな」
そのまま地面に左手を置いて、
「出番だ」
自分が育てた、モンスターへと呼びかけた。
「最後の、切り札――というところかしら?」
「……ッ」
前方の闇から、淡々とした女の声が響く。
美しい声だった。
まるで。
優れた楽器。優れた演奏家。
そのふたつが生み出す音色。
ガッ
声が聞こえた。
そう思ったとほぼ同時に、
「ごぼ……」
血の塊が、口から吐き出される。
ガゴゼの胸には、ポッカリと穴があいていた。
――はははは……。まあ、そうなるか……。
敵が攻撃に入る前に叩く。
当然といえば、当然。
「残念ね? 私も、いささか不愉快になったのよ」
――不愉快ですむのか。
蟻の群れを操る技。
それは、今までほぼ負けなしの戦法だった。
もちろん?
色んな条件を整えた上での話だが。
――死ぬな。
暗闇に意識を落としながら、ガゴゼは自嘲する。
――まあ、こんなもんだ。
裏稼業。
暗殺者。
汚れた道を歩んできた以上、まともな死などありえない。
もうすぐ、死ぬような気がする。
そんな気持ちは、常に持っていた。
だからこそ。
余計刹那的に生きてしまったものか。
――さんざん、殺しを楽しんできたからな。自分の番が来ただけだ……。
ガゴゼが裏道に来てしまったきっかけ。
それは、ひと殺しをしたためだ――
〝ガゴゼ〟。
この呼び名は、彼の
そして、相手を罵る言葉でもある。
子ども時代。
彼は痩せた、貧相な子どもだった。
周りからははぐれ、ひとり魔法の本を読みふけるばかり。
いかにも陰気で、友人のいない少年。
他の子どもから避けられ、バカにされた。
殴る蹴るは日常茶飯事。
また。
彼の生まれた国は、魔法の技術も乏しい未発展の国。
男の価値は、腕力と筋肉であるとされる。
もっとも。
ヤオアムトからすれば、
「侵略価値すらない、吹けば飛ぶような遠くの弱小国」
に過ぎなかっただろう。
さらに。
単純な、物理的腕力でもヤオアムトには負けていた。
一時的な
自らに負荷をかけ、効率的な身体機能の強化を実践する。
そのための研究や実践も貪欲に行う。
こういう相手に……。
原始的な鍛錬しかやっていない連中が勝てるはずもない。
だからこそ?
魔法に関しては、国レベルでコンプレックスがあったのだろう。
彼自身魔法には強い憧れを持っていたが、
――こりゃあ、かなわんはずだ……。
ヤオアムトを実際に見て痛感している。
特に騎士の称号を持つレベルとなれば――
自分とは違う意味でバケモノばかりだった。
それはともかく。
ある日。
彼は自分をさんざんいじめてきた相手を、殺した。
別に大した話ではない。
単純な罠をはり、かかったところを、
「どうした、どうした?」
などと。
助けに入るような顔をしながら、
腕力に自信はなかったので、当然素手ではない。
適当な棒に長い釘を根本まで打ち込み、飛び出した釘の先を研いで鋭くしたもの。
簡単に造れるものだった。
後ろから一撃。
即死とはいなかったが、何度かやるとあっさり死んだ。
念のため、重い石を頭に落としておいた。
――なんだ、こんなもんか。
拍子抜けしたのをよくおぼえている。
別に。
正々堂々と戦う必要はなかった。
少しだけ、頭を使い工夫する。
たったこの程度。
それだけで、ふんぞり返っていた相手は無様に死んだ。
もちろん。
周りに取り巻きや友達がいれば、そうはならなかっただろう。
――すると、なんだな。どんな強がってるヤツでも、油断してたり、ひとりきりになっていると……。
見下していた弱者に、あっさり殺される。
世の中は、そういうものだ。
これを心底痛感すると共に、
――ああ、確かに自分は〝ガゴゼ《バケモノ》〟だ。
それも、心底実感した。
殺人を犯した時、彼はこれまでにないほど興奮し、高揚していた。
むしろ。
欲情していたとさえ言える。
だが、それが異常なことだともわかっていた。
わかってはいたが、抑制する気も起きなかった。
だから。
そのまま故郷を逃げた後……
傭兵や盗賊狩りをしていたこともあった。
だが。
快楽から殺しを行うガゴゼは、結局どこからもはみ出してしまう。
腕はそれなりにたっても、冒険者さえ無理だった。
すぐにパーティーから追放されてしまう。
気づけば。
ひと殺しを
相手は拘らないし、拷問がしたいわけでもない。
ただただ。
殺したいだけ、殺すのが気持ちいいだけ。
結果は、
――おさだまりだなあ。
そう思ったのを最後に……。
ガゴゼは死んだ。
「おかしな男ね」
紫の炎で焼かれ、朽ちていく男の
それを
ただ。
どことなく、他人とは思えないような気もした。
初めて会って、会ってすぐに殺した相手なのに。
やがて、
「ふ」
短く息を吐いて、カーシャはそこから去った。
残ったものは、わずかな残骸だけ。
それも、風に吹かれて消えてなくなる。