破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その23、忍者シーフ カーシャを観察する

 

 

 

 ベシャ……!

 

 周辺に、血と肉塊が飛び散った。

 うんざりするような光景。

 それが大きな森林のあちこちで生み出されている。

 

 ゴブリン。

 オーガ。

 レッサードラゴン類。

 

 そして、

 

 ――オークオーガ……。

 

 ヒーダの事件で確認された未知の亜人種。

 ギルドではとりあえず、そのまんまの名称で呼んでいる。

 そいつらも、みんな死体になっていた。

 

「……」

 

 ほとんど見ているだけのトクベーは、ため息をつくしかない。

 もちろん。

 黙って見学していたわけではなかった。

 

 しかし。

 

 トクベーのおこなったサポート? それはほとんど無意味だった。

 まったく役に立っていない。

 ……わけではない。

 

 そうではないのだが。

 別になくても、何の問題もなかった。

 

 ――っていうか、あの人……僕のこと完全に忘れてるんじゃないのか?

 

 血の臭いにうんざりしながら、トクベーはまたもやため息。

 気づけば、モンスターの気配は消え去っていた。

 少なくとも、森の中からは全て。

 

「うーん……」

 

 凄惨な現状をみながら、トクベーは首をひねった。

 いろいろと本気で悩みながら。

 

「なに?」

 

 そんなトクベーに気づいたのか、カーシャは振り返った。

 

「いや、これ。もしかするとやりすぎだったんじゃあ? と…」

 

「具体的に言ってくれない?」

 

「えっとですね? もちろん敵の数を減らすに越したことはないんです。ないんですが……多分これ文字通り全滅させちゃってるわけで。と、なると……向こうはより警戒するんじゃあ……」

 

「つまり。今まで以上に守りを強固にする、ということ?」

 

「はい……」

 

「まあ、いいわ」

 

「いやぜんぜん良くないですよ!?」

 

 あっさり流そうとするカーシャに、思わずトクベーはつっこんだ。

 

「守りが硬いのなら、根城を挑発すればいいでしょ」

 

「いや挑発って……。予定と完全に違っちゃうじゃないですか!?」

 

「予定は未定よ」

 

「そんなムチャクチャな……。クエスト違反になる危険性がありますよ?」

 

「嫌なら一人で帰れば?」

 

 カーシャは血まみれのまま歩き出す。

 

「――わかった! わかりましたから、勝手にドンドン行かないでください、お願いだから! 前に目立たないルートは見つけてるんです!」

 

 トクベーは叫びながら、急いでついていった。

 

 

 

「ふーん。あまり隠す気はないようねえ」

 

 そびえる岩の城を見上げながら、カーシャは髪をなでる。

 

 岩山をあちこちくりぬいて作られた要塞。

 

 そこに、いくつもの影が見えた。

 

「入口は少ないようです。一見無人に思えますけど、岩陰のあちこちに見張りがいますよ」

 

「そのようね」

 

「え。あの、ちょっと……?」

 

 スタスタ歩いていくカーシャに、トクベーはギョッとした。

 すぐに、あちこちから矢、そして槍が飛んでくる。

 

 が。

 

 カーシャは歩みを止めず、ハエでも追い払うように叩き落としていく。

 

 そして、

 

 トンッ……

 

 という音を、トクベーは聞いた気がした。

 

 カーシャは高く高くジャンプ。

 そこから一気に急降下していった。

 

 メギリッ……

 ガゴッ……!

 ペキペキ……

 プチン……!

 ゴリュッッ……!!

 

「……うぎゃあああっ」

 

「……ゴボッ!?」

 

「……グェ」

 

「ヒィィィィ……!!」

 

「助けっ……」

 

 嫌な音と、耳ざわりな悲鳴。

 

「やるにしてもさあ? ……もうちょっと、慎重にやってくれよ!?」

 

 思わず口に出しながら、トクベーも走った。

 追いついた時には、もう死体の山。

 文字通り、血の海ができていた。

 死体を見ると、人型に近いモンスターが中心。

 

 ――他の魔獣系は、あんまりいないか。……とっ!

 

 トクベーは気配を感じて、空中を睨んだ。

 上空から大型のモンスターが飛来してくる。

 

「グリフィン!」

 

 ドラゴン種には及ばないが、危険度では上位にあるモンスター。

 

 バキン

 

 トクベーが迎撃の準備をしかけたと同時に、

 

 ドサッ

 

 低空飛行してきたグリフィンは、半身を潰されて落下。

 

「…………」

 

 トクベーは虚しい気持ちで、グリフィンの死体を見る。

 

 ――いや、わかってたよ? 知ってたよ? さっきも、この前のクエストでも嫌ってほど見たし。ドラゴン種だって秒殺してたし。でもさあ? なんか、こう……もうちょっと、ほら。

 

 深いため息をつきながら、トクベーはモヤモヤした気持ちである。

 

「ちょっと」

 

「え?」

 

 いきなり声をかけられ、トクベーはギクリッとする。

 

「あなた、シーフだったわね」

 

「はい、そうですけど……」

 

「なら入口か、それに近い場所を探してちょうだい。あちこち叩き壊していくのも、ちょっと面倒だから」

 

 ――面倒……ね。ちょっと、ね……。

 

 それは確かに、言葉どおりなのだろう。

 

 ――大した労力じゃないんだな、この人には。絶対そうだ……。

 

 とはいえ、ちゃんと役割をふられるのはありがたい。

 

 ――いる意味ある? って気分は嫌だからね……。

 

 かくして、シーフの少年トクベーは――

 カーシャが一方的な殺戮を繰り返している横で、ジョブにふさわしい仕事を始めた。

 

 地面や岩に耳を当てる気配を探る。

 そんな行為を何度か繰り返した後、

 

「ここです」

 

 トクベーはある場所を指して言った。

 

「ここ、ここに入口が……」

 

 急いで開けます。

 シーフがそう叫ぼうとした直後、

 

 ボゴン!!!

 

 カーシャが拳を叩きつけた瞬間、岩肌は崩壊して空洞が露出した。

 

「………………………」

 

 無言のトクベー。

 

 その前で、

 

 ゴン!

 ガン! 

 バコッ!!

 

 カーシャは空洞の中へ、大小の岩を蹴りこんでいく。

 

 それから。

 

 少し様子を見た後で、カーシャは中へゆっくり入っていった。

 後にトクベーが続くと、

 

「ひ、ぎゃああ!?」

 

「早く……ぎいぃぃぃぃ!!」

 

「逃げ……!!」

 

 ――エルフ……!

 

 モンスターに混じって、多数のエルフがいる。

 よく見ると、岩で潰された死体もあちこちに。

 次々飛んでくるモンスターのブレス、エルフの攻撃魔法。

 

 ほとんどはカーシャに当たらない。

 当たっても、あっさりと弾き飛ばされてしまう。

 まるで、紙切れでも吹き飛ばすように。

 

 ――岩の奇襲を受けたってのも、あるだろうけど……。

 

 だが。

 

 そのへんを考慮しても?

 向こうの戦力は、決して弱くはない。

 むしろ。

 冒険者どころか、軍隊でもよほどの戦力で当たらねば危険。

 そういうレベルだった。

 

 ビュンビュン飛んでくる攻撃魔法。

 

 ――アレだって、まともに食えば即死か行動不能だぞ? それが……。

 

 まるで通用しない。

 

 ――確かに対魔力のスキルや防御魔法はあるけど。あのひと、魔法をぜんぜん使ってないじゃないか!?

 

 ブンブンと高速で振るわれる黒い剣。

 

 ――剣っていうか、単なる金属の塊だろ……。

 

 そして、時おりカーシャから見える黒いモヤのようなナニか。

 

 ――あれは……。

 

 トクベーは妙な親近感? を覚える。

 

 ――魔法じゃない……。フツーの魔力でもない? むしろ……。

 

 トクベー自身が学んだ忍法とどこか近い気がした。

 もちろん、まったく同じものではないけれど。

 

 頭の片すみで、トクベーはまた思い出す。

 師匠のもとで励んだ忍法修行を。

 

 ――あの時は。

 

 『お前につける修行は、1日、あるいは半日でそこそこの忍法を身につけるものだ』

 

 大丈夫なんですか、それ?

 

 トクベーは思わずそう言った。

 そんな、インスタントなものが信用できるのかと。

 

 『心配無用。それっ』

 

 いきなり、師匠はトクベーをそばにあった井戸に放り込んだ。

 死ぬ。

 そう思った後、トクベーはおかしな場所に転がっていた。

 灰色の空。まわりの木も草も、地面の土までみんな灰色。

 空気まで灰色な気がした。

 

 『ここは、ま。俗世の連中が煉獄と呼んどる。地獄の一つ上にある場所だな。まあ冥界の一部……これ、あわてるな。そう呼ばれておるだけで、別に死後の世界ではないぞ? 時の流れかたは違うがな』

 

 『煉獄では、俗世の1日が100年に相当する。しかもじゃ、100年すごしても1日ぶんの年しかとらん』

 

 『そういうわけでな。ここでは時間を気にせずにたっぷりと修行できるというわけよ。便利じゃろ?』

 

 『ちゅうてもまあ。煉獄での修行はぬるーいほうじゃがの。下の地獄ですごせば、それはもうどエラいことになる』

 

 『ふむ? 地獄での修行? やめとけ、やめとけ』

 

 『あそこにいったら、お前の人格は完全に崩壊するぞ』

 

 『なるほど、確かに超人的な戦闘力、破壊力は身につこう』

 

 『だがの? あそこでの過酷を超えた過酷な経験は確実に心を壊して、魂を歪めまくるぞ』

 

 『もはや完全な化け物よ』

 

 『そうなったら、たとえ無事俗世に戻ったところで、まともな暮らしなんぞできんわな。できるのは、生き物を殺すことと、なんかをぶっ壊すことだけだ』

 

 『非生産的極まりない』

 

 『お前、そんな風になりたいか? どれだけ武功をつもうが、英雄的行動をしようが、多分なぁんの達成感も喜びもないぞ』

 

 『まー、たまぁに? 多少まともな心を残せるヤツもおるようだが……』

 

 『そんなのはまだ浅い階層で、過ごした時間も短いヤツよ。もちろん以前とは比較にならぬ力は身につこう』

 

 『が、天の法則を超えた怪物にはほど遠い。ま、その程度が一番いいんじゃろーけど』

 

 『おまけに……。どの階層に落ちるか、どの程度の期間過ごすか。いつ俗世の、どこに戻れるのか』

 

 『そんなものは、完全な運任せ。リスクの高すぎる大博打(おおばくち)だのう……』

 

 トクベーはカーシャの背中を見つめ、

 

 ――この女性(ひと)が、まさかの〝黄泉がえり〟……? しかし、いや、ううん……。でも、うむぅ……。

 

 確かめてみたいが、正直怖いトクベーだった。

 

 ――今まで接してみた感じから、理不尽にキレる人じゃなさそうだけど……。

 

 その代わり、いたって冷静に、もうなんでもない日常のような感じで、

 

 ――あっさり殺しにかかるかもしれない……。

 

 正直そうなった場合、

 

 ――逃げ切れる自信がない……。スイッチが入ったらどんなに命乞いしても無駄な気がする……。

 

 だから、

 

 ――聞くのは、怖い。

 

 もしもキレさせれば、100%命はない。

 

 それから、もう一つ思い出したこと。

 

『お前はおそらく、転生者というやつであろう』

 

 いつか師匠から聞かされた話。

 

『時々そんな者が出てくるのだ。異世界よりここへ生まれ落ちた者。時には前世の記憶、あるいは特別な力を与えられてなあ』

 

 

 

 

 

 

 

 

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