破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「え!?」
息を整えている最中、バッキーは夜空を見上げた。
――雪……?
ふわふわ、と。
空から何かがゆっくりと降ってくる。
一見すれば幻想的、ロマンティックな光景。
しかし?
「離れて、ここから!!」
バッキーは、イスキの腕をつかんで屋敷へと走り出す。
「な、なんだぁ!?」
驚くイスキだったが、
パチッ
パチパチ
降って来たものは、何かに触れた瞬間火花を放った。
「こいつは……!?」
振り返ったイスキは、その整った顔を歪ませる。
そんな時。
風に流されたひとつが、イスキの近くへ。
「羽?」
降ってきたもの。
それは、小さな鳥の羽だった。
反射的に振り払おうとした途端、
パチッ
「うおっ!?」
イスキの手に、小さな衝撃が走った。
直後。
ほんのわずかだが……。
触れた部分の感覚が鈍っていく。
見た感じでは、少し赤くなっている程度。
「見せて!」
バッキーはイスキの手をつかんで、
「……」
怖い目で、『傷跡』を睨む。
「痛いですか?」
「あ、いや。最初はな? だが、今は感覚が少し……」
驚きながら話すイスキ。
しかし。
すぐに表情を
「麻痺毒か!?」
「そんなに強くはない、ようですけど」
バッキーは魔法をかけながら夜空を見上げ、
「これだけの量が降ってますから……。下手すれば全身に浴びるかも」
「おっかない話だ」
見ていると、
パチッ
パチパチパチパチ!
あちこちで小さな火花が散り、
「やかましいな、これは……」
紫の髪を掻いて、イスキはため息。
「それに、こうあちこちで破裂すると……」
バッキーは手をかざして、顔を目をかばう。
「まぶしくって……視界が。それに、あちこちで魔力が飛ぶから……」
周辺の探知が難しい。
つまり。
この間、外で何か動きがあってもわからない。
そこまでいかないとしても、把握が難しくなる。
「風魔法で、一気に吹き飛ばすか」
イスキは魔法を印を結ぼうとする。
魔法を発動させる準備。
「麻痺は防げるかもしれませんけど、音と光は……」
「まったくもって厄介だ……」
紫髪の貴族。
黒髪のヒーラー。
2人は同時にため息。
「……」
イスキは先に顔を上げ、隣りのバッキーを見る。
「? なにか」
「いや、まあ、なんだ。さすがドラゴンスレイヤーのパーティーだ……ってな」
「ドラゴンスレイヤーは、リーダーだけですよ。私は別に」
「お前さん、謙遜は嫌味だぜ? さっきみたいな真似ができる魔導士、どれだけいると思う。それに度胸もある」
「は、はあ……」
称賛の言葉。
それを正面から受け、バッキーはこそばゆい思い。
同時に、ある種の後ろめたさも感じたが。
「実のところ。努力して得たものじゃないですけどね。特に、治癒魔法は」
我知らずのうち――
やや自嘲的な言葉が出てしまった。
「
「……天。そうですね、確かに神様からもらった
「ふうん?」
イスキは、その整った顔を少しだけしかめたが、
「なるほど。まあ、あんた自身がそう言うのなら、そうなんだろう」
だがな?
と。
右手の人さし指を立てつつ、
「少なくとも、他の魔法。結界を始めとした色々の魔法。あれは相当な修練をつんだものだろう」
「え」
「俺の眼は節穴じゃあない、と言いたいが。気を悪くするとは思うが……お前さんたちのことは、事前に調べた。できる限りな」
「まあ、そりゃあ……。普通ではありますよ」
こんな仕事を、
念入りにするのは、当然であろう。
「ああ。だから、お前さんがあのエルフにみっちり訓練を受けてることも知ってた。で、実際に見た魔法は、才能や一夜漬けで、少なくともそれだけで使えるものじゃない」
「確かにみっちりやりました。今もやってますけど、血を吐くほどのことをした、わけじゃありませんよ」
しんどいことはしんどい。
疲労の上に疲労を重ねる。
最近だんだんハードになり――
魔力を酷使した結果、筋肉痛に似た症状も。
――っていうか、背中とか肋骨が
自身に魔法をかけるのも、かなり苦労した。
とはいえ。
「別につらいとか、やめたいと思うレベルでは……」
「ホントなら、あのエルフが名伯楽ってのは本当らしい」
イスキは肩をすくめ、
「けれど、な? お前さんが修練に時間や体力をかけて打ち込んだのも、本当だろう。確かに師匠が大当たりだった。それも事実だし、要因だろう。だが、修練を積んだのはお前だ。天でもなければ、神でもない」
「言われてみると、確かにそうではあります」
「ああ。だから誇れと強要はしないが、恥と思う必要もないさ」
「……いや、あははは。お上手ですね。ひとを誉めるのが」
「よく言われる。特に女にはな」
「でしょうねえ。けど、ありがとうございます」
バッキーは控えめに笑い、
「だけど――この状況は、どうしたものでしょうねえ……」
降り続ける羽を見て、首をかしげる。
「これでは、どうにも動きが……」
羽が降り、火花と破裂音が飛び交う。
この中で……。
一羽の
……。
――こりゃ、かないませんわ。
その女。
グルグル眼鏡は、屋敷の様子を上空から見ている。
――まいりましたねえ……。こうなっちゃうと、向こうも警戒するだろうし。
自分が撒いている羽を一枚つまんで、
――この手も、けっこう魔力を喰うし……。
乱発。
及び、長時間は不可能。
――ともかく? ここはいったん引きますか。
ドサクサで拾ってきたモノ。
それをポケットの中で確認してから、
――死体あさりとひとは言うでしょうけど。ヒョーズさん、ガゴゼさん。あなたがたならどうこうは言わないでしょ?
背中の翼をはためかせ――
逃げた。