破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ええ。
まあ……。
そういった次第で?
他の2人は天に召されました。
要するに死んじゃったわけで。
いえいえ。
途中で投げ出すなんてことはいたしませんよ。
こんなお仕事でも、信用が第一ですから。
お受けした以上は必ず成功させます。
はい、もちろん。
…………。
「へえ?」
カーシャはわずかに眉を上げながら、
「心当たりがおありになる、と?」
振り返り、男たちを見る。
部屋にはカップから湯気が上がっていたが……。
男たちの周辺には厳しく、冷たいものが流れている。
「断言はできない、けれどな」
紫髪の男――
イスキ・ダーマはため息を吐き出し、ソファーへもたれかかった。
「……」
ベルツは、無言。
だが。
男の眼はここではない、標的とした相手を見ているようだった。
「それなら良かった、というべきかしら?」
カーシャはテーブルに近づき、カップを手に取る。
――こういう姿は様になっているし、絵になるな。
青い乙女の姿を見て、イスキは内心で感心した。
――前は、こうじゃなかった。いや……。
そういうのに意識が行かなかった、か。
と。
男は思い返す。
かつての
以前の彼女は、遠くから見たり、あるいは話を聞いた限りでは、
「周りへ当たり散らす、反抗期の子ども」
に……過ぎなかった。
外見は最上級でも、
――中身は、まあ。アレだ。
貴族としての教育やマナーがしっかり教えられていても、
――生かせることができてなかった、ってところだな。
「ああ。そういえば?」
すっかり忘れていたけど……。
今思い出した、というような顔で、
「フォイア伯は、ガッコイ侯爵家と縁談のお話があるとか?」
カーシャはベルツを横目に見て、言った。
「……っ」
これに。
反応したのは、むしろイスキ。
「第三者ながら、お互い悪いお話ではないと思いますけれど?」
「……」
一瞬。
ベルツは鋭い眼でカーシャを見る。
一方のカーシャは素知らぬ顔で、
「あなたはまだ
気安い態度で言いかけたが……。
「おや、失礼を。わたくしごときが口を挟むことでは、ございませんでした」
クスクスと笑い、飲み終えたカップをテーブルに戻した。
…………。
「縁談ですか?」
「あー」
フォイア邸の庭先――
マコネとバッキーは、それを二階の窓から見ていた。
「チラッと聞いたがな? ちょいと前にそういう話が持ち上がったらしい」
「はあ。まあ、ちょっと遅いくらいですかね?」
この時代。
この国。
この文化圏。
貴族同士が若いうちから婚約を結ぶ、縁談を持ちかける。
当たり前すぎる話。
特に、女性ならば。
13~14歳での結婚もありふれたこと。
「まだ若いとはいえ、領主様と言われる身分だからな。嫁さんの2~3人いねえのは不自然だ」
場合によっちゃ、ほら。
世間体、ってのがな?
そこらはお貴族様ともなりゃあ……。
マコネは語りながら、肩を半分だけすくめてみせた。
「すると、この場合イセンサさんは」
「まあ、そら。愛人か良くて側室だろうよ。伯爵様の正妻となるにゃ無理がある」
「ですよね」
バッキーはうなずきつつも?
正直なところ。
イセンサを応援したい気持ちもある。
とはいえ、
――少女漫画とかおとぎ話みたいに、たったひとり選ばれたお嫁さんってのは……。
無理だろう。
仮になったとしても、
それは、確実で。
「なんですかね。貴族の奥方というのは、アレでかなり大変らしいですし」
「そこはおいらなんぞにゃ、縁のねえ話だけど。平民だってさ? でかい家じゃ、おかみさんの仕事や責任はでかいって聞くぜ? 下手すりゃ、旦那は飾りでおかみさんが家を取り仕切ってる、なんてのもよくある話さ」
つっても、その旦那も遊んでるだけじゃないらしいけどよ。
付き合いやら接待やら、めんどくせーことをやらなきゃいけねえんだと。
「ふーん。じゃあ、貴族の奥様も……」
「大変じゃねえのかな? あの
「……聞いてるだけで胃が痛くなりますね」
「世の中、楽に生きてられるヤツなんかいねーのかもな」
マコネは皮肉げに笑った。
…………。
「なんと言ったのかしら……?」
その女性は、驚きに目を見開いて聞き返す。
屋敷の中。
テラスの見える部屋。
振り返ったと同時に、ドレスの
質素だが貴族らしい品のあるデザイン。
「ちゃんと、説明をしてくれる?」
女性――ハメシハは、厳しい声でメイドに言った。
この家――娘。
れっきとした貴族令嬢である。
ハメシハ・ガッコイ。
長い銀髪。赤い瞳。
凛とした雰囲気の、背筋が伸びた女性だった。
首の両脇から、ドリルみたいな縦ロールが伸びている。
年齢は18歳だが……。
雰囲気、表情のせいか年齢より大人びて見えた。
「は、はい……」
メイドは委縮して、令嬢の顔色をうかがう。
「あなたを責めているのでなくてよ。ゆっくりでもいいから、わかるように話して」
ハメシハは、口調をやわらげて続きをうながす。
「実は、その。さっき聞いたばかり、なのですが……」
お付きのメイド。
彼女が語る内容に、
「どういうこと……?」
ハメシハは、愕然とした。
ベルツ・フォイア伯の屋敷。
昨夜、そこがモンスターに襲撃された。
正確には、刺客の操るモンスターに。
「私にはさっぱり……。ただ……」
メイドはおずおずと、
「伯爵様が、引き取って世話をされているという娘さんが――」
何度も狙われた。
殺されかけた。
その内容を聞き、ハメシハは顔を強張らせる。
「……急いで車の用意をお願い」
「え?」
「すぐに、フォイア伯のお屋敷へまいります」
「お、お嬢様……」
「先触れを送るよう、伝えてちょうだい。すぐに準備します!」
ハメシハは大急ぎで歩き出し、メイドもあわててそれに従った。