破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
まさに、
パンッ!
そんな感じの、気持ち良いとさえ言える音。
ハメシハは――
ルビーのような赤い瞳でベルツを睨みつけている。
その奥には、強い怒りの火が燃えていた。
「まるで、私がやらせたとでも言うようなおっしゃりようですわね!?」
「そうは言っていない」
「……さようですか。それは、大変なご無礼をいたしました」
ハメシハ少し間を置き、息を整えながら言った。
右手を胸に添えて。
「ですが」
令嬢の声は、落ちついてた。
しかし。
赤い視線は依然厳しいままで。
「こんなことがあっては、
「……」
「残念なことではございますけれど、後日正式なお断りをお伝えいたします」
言い残して、ハメシハはベルツに背中を向けた
伯爵は瞳を閉じ、眉を寄せている。
――疑ってしまえば、切りがないか。
……。
「一流の貴族とは、一流の役者でもある。また、一流の役者でなければ、一流の貴族とは言えない」
カーシャは、窓の外を見ながらつぶやいた。
まるで古い
水色の瞳は、去っていくガッコイ家の魔導馬車を映していた。
「なんだよ、それ?」
マコネがたずねると、
「貴族同士の交流。社交界なんてものは……ある種、お芝居の舞台みたいなもの――」
振り返らず、カーシャは応えた。
「味方みたいな顔して、隠した手ではお互いにナイフを握ってたり。あるいは、突き刺しあったりね。悲劇のヒロインを演じながら、その
まあ、魑魅魍魎の世界よ。
つまらなそうに言って、青い乙女はテーブルへと向かう。
「……とはいえ?」
湯気の立つカップを取り、風雅な動作をまじえながら、
「一流の役者であったなら、彼女のお父上もそこまで苦労はしてないと思うけど」
「……? よくわかんねーけどさ、バカ正直で損こいてるみたいに聞こえるぜ」
「ふふっ。うまいことを言うわね」
まあ実際?
その通りなのだけれど。
カーシャは小さく笑ってから、ソファーに腰をおろす。
「感じからして、あの旦那は縁談相手を疑ってたンかな」
マコネはティーセットと一緒に置かれている茶菓子をつまむ。
「どうかしからね。まあ、確かに可能性はありうるのだけど――」
同じように、カーシャも茶菓子を手にして、
「邪魔な相手が、誰かを暗殺しているように思わせる。そのために、わざわざ相手の敵に刺客を送るパターンもあるそうだから」
「なんで関係ない奴にンなことすんだよ」
「相手から味方を減らすため、逆に敵を増やすため。または、相手陣営に仲たがいを起こさせるため……かしら?」
「まどろっこしい話だなあ」
「その意見には賛成よ。実にまどろっこしくて
カーシャはお茶を飲み干し、菓子をいくつかたべた後――
「まあ、多少ご縁もあることだし? ちょっとご挨拶をしてきましょうか」
「誰にさ?」
マコネの問いにカーシャは答えず、
「色々準備をしなくちゃ。貴族というのはこれで面倒だから……」
何やらひとりで言いながら、首をかしげていた。
……。
「ガッコイ侯――お目にかかれて、光栄です」
無駄のない、流麗な所作。
カーシャは礼を取り、美しい顔に微笑を浮かべた。
青い髪をクラウンブレイド・スタイルでまとめ、薄く口紅をつけている。
礼服も男装的なもの。
地球で言うところの、パンツスーツに近い。
「いや、こちらこそ……。噂に名高いドラゴンスレイヤーの英雄に会えて、嬉しく思いますぞ」
笑顔で迎えるガッコイ家当主。
誠実さがうかがえる眼差し……ではあるが。
――長くは、ないわね。
青い髪の乙女は、そう思った。
さすがに?
今日明日ということはない。
しかし……。
決して長く生きられないであろう。
それは、誰でもわかると思われた。
ジェラン・クン・ガッコイ侯爵
ひと言で説明すれば――
「骸骨に皮を張り付けたような……」
人相だった。
笑顔で応対している。
だが。
おそらく、起きて話すのもかなりつらいはずだ。
長年の肉体的・身体的な疲労に
それでも、よく見て観察すれば――
若く健康だった頃は、なかなかの美男子だったらしい。
――やはり
侯爵の様子に、カーシャは辛辣な評価を下す。
家柄や財産、まして人格的な良し悪しは関係ない。
権謀術数の伏魔殿。
そんな場で、立身出世をできる人物ではない……ということだ。
少なくとも、先頭に立つことは難しいだろう。
――まあ、だからこそ。領地経営だけを考えてきたのでしょうね。
逆に言うのなら、極めて堅実な人物だと言える。
侯爵と会う。
このために、カーシャはアレコレと用意しなければならなかった。
まず、
侯爵と旧知の間柄である某夫人から紹介状を用意してもらう。
加えて、事前に話を通してもらう。
それから。
会うためのそれらしい衣服などを整える。
この点は、
やはり、それらしい服装をさせねばならない。
いざ準備をすれば――
もともと本物の上流貴族だっただけに、違和感はゼロ。
顔を合わせた侯爵のほうも、
――なんとまあ……。まるで一国の女王ではないか。
その立ち振る舞いに驚くしかなかった。
だが、同時に。
――なるほど……。確かにコレはドラゴンとて対峙するだろう……。
内面から感じる、