破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その114、きみは虜囚か姫君か-22 いなくても大丈夫なのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、ダメだね――」

 

 従者……の出で立ちをしていたエルフは、首を振った。

 

「まあ、そうでしょうね」

 

 その報告に、カーシャは淡々とした声。

 

「おたくの反則ヒーラーなら、延命はできるだろうが……。それも一時的だな」

 

 穴のあいたバケツに、水を入れるようなもんだ。

 時間がたてば、あっという間に水はなくなる。

 

 エルフは言って、首を振る。

 

「穴をふさぐことは?」

 

「あんた、わかってて聞いてるだろ。ンなことは、根本的にあり方っていうか、下手すりゃ現実そのものを書き換えなきゃ無理だよ」

 

「そうなの?」

 

「……ああ、そーだよ。たとえば、絵草紙(マンガ)の中で物語が進んでいるとする。これ自体はどうにもできねえ。本を破ろうが燃やそうが、話そのものは変えられん。なら、どうする?」

 

「どうするのかしら?」

 

「物語を変えるには、絵草紙(マンガ)そのものを描き直して、別の内容にするしかないな。それは物語の登場人物にはできない。読者にもできん。やれるのは、作者だけだ」

 

「それは、神様の仕事になるわねえ」

 

「神様だって無理な話だろうぜ」

 

 エルフ――『猫のゴトク』は疲れたように言って、腕を組む。

 

「とりあえず。お手数をかけたようだし、ひと息ついてちょうだいな」

 

 カーシャは微笑して、湯気の立つカップをすすめた。

 品の良い、上質なお茶の香りが立ち昇っている。

 

「ご主人様手ずから()れていただいたお茶をいただけるとは、光栄ですな」

 

「ええ、そうよ。ありがたく押しいただきなさい?」

 

 やや嫌味の混じったゴトクの言葉。

 これに、平然と返すカーシャの声。

 

「ま。それは置いておくとして――」

 

 ゴトクはひと(くち)かふた(くち)、香りと味を楽しんでから、お茶カップを置く。

 

「伯爵様の屋敷を襲ったのは、二人ともモンスターテイマーらしいな」

 

「ええ」

 

「二流以下なのが、良かったんだか悪かったんだか」

 

「あら。そんなにダメな連中だったのかしら?」

 

「モンスターテイマーやら、魔導士としてはともかく……」

 

 ゴトクは自分で自分の肩を揉みながら、

 

「あんな派手なことやらかして、あの始末だろ。暗殺者(アサシン)としちゃ、三流どころか最低だ。頼むほうも頼むほうだな」

 

「おや、まあ」

 

 カーシャはわざとらしい態度で、口元へ右手をやる。

 

「遠回しな自殺をしてた、としか思えんね」

 

「……自殺ね」

 

 カーシャは少しだけ、眼を閉じる。

 

「例の愛人かなんかが邪魔なら、もっとやりようはいくらでもあったはずだ。そうでないなら――」

 

 神様か、それとも悪魔の加護でもあるのかね?

 その可愛い子ちゃんには。

 

 エルフの意見ともぼやきともつかない言葉。

 カーシャはそれを聴きながら、亜麻色の少女について思い返す。

 

 ――(いわ)くありげな娘……。

 

 とは、思った。

 

 しかし?

 何か未知の魔力(ちから)とか、そういうものがあるか、と言えば、

 

 ――よく、わからないわね。

 

 わずかに考え込んだカーシャ。

 

 それに対し、

 

「だけど、良いのか?」

 

 ゴトクはやや硬い声で言った。

 

「なにが?」

 

「離れて、だよ」

 

「……」

 

 ゴトクは、無言のカーシャを見ながら、

 

「あんたが離れたとわかれば向こうは確実に仕掛けてくるぜ」

 

「――でしょうね」

 

「今までのやり口を見るに、何というのか。今回も力技で来る可能性は高い」

 

「ええ」

 

「次が、他よりも弱い可能性も低い。あるいは、単なるゴリ押しで来る可能性もな」

 

「おっしゃるとおり。先の失敗があるから、そうなるかもしれないわ」

 

「良いのかい」 

 

 ゴトクは、もう一度たずねた。

 

「あんた抜きで、勝てる見込みがあるか――少なくとも、100%ではなかろうぜ」

 

「世の中に、100%なんてものがどれほどあるかしらね」

 

「そいつも道理だがね」

 

「実力についてなら」

 

 カーシャは、こめかみのあたりを人さし指でなでつつ、

 

「私よりも、あなたのほうが把握しているのではなくって?」

 

「それもそうだな」

 

 ゴトクはため息を吐いて苦笑。

 

「絶対とは言わんさ。まあ、勝てないにしてもあっけなく死ぬことは、そうそうないと思う。負けても、しぶとく逃げのびるだろうし」

 

 そのへんについても、教えたつもりだよ。

 

 エルフの、師匠としての返答。

 

「なら、いいでしょう」

 

 カーシャは微笑み――

 

 その話題は、ここで終わった。

 

 

 しばらくして。

 

 

「お待たせいたしました」

 

 丁寧な言葉と、静かで嫌みのない所作

 

 ハメシハ・ガッコイはそれと共に部屋に入って来た。

 

「いえ。わたくしのほうこそ、突然のおしかけ、まことに失礼を」

 

 カーシャはこれに、相応の礼をとる。

 

 最初。

 当たり障りのない話を数度交わした後、

 

「お父上……ガッコイ侯にもお話しはさせていただいたのですが」

 

「我が領内で、モンスター討伐をなさりたいと」

 

「ええ。私用ながら、少し必要となる素材がございまして」

 

 カーシャはあくまで慇懃(いんぎん)な態度で、

 

「これを得るために、こちらで討伐のご許可を(たまわ)りたいのです」

 

「その、素材というのは? 差支えなければお聞かせ願いたいですね」

 

 ハメシハの問いに、

 

「逆鱗というものをご存じでしょうか?」

 

「いえ。寡聞ながら――」

 

「あまり知られてはおりませんけれど、ドラゴン種の肉体には一か所、逆鱗――そう呼ばれる部位がございます。これが、あるアイテムの作製に必要でして……」

 

「ははあ……。初めて聞きました」

 

「もちろん? 勝手をさせていただく以上、できるだけのお礼はさせていただく所存。首尾よく討伐が成った後には」

 

 必要部位以外のドラゴンの素材は、全てそちらへ……。

 

 と。

 カーシャはややもったいつけながら言った。

 

 

 ――逆鱗なあ?

 

 後ろで、従者の役として控えているゴトク。

 エルフは内心肩をすくめる。

 

 逆鱗。

 実際の話、そんな部位は無い。

 

 要するにこの話は、

 

「ドラゴンの素材をただで譲る」

 

 という話を遠回しにしているだけだ。

 

 さらに言うなら、実質袖の下(ワイロ)である。

 

 ――ドラゴンか……。中間体にいかん個体でも、それなりに成長してるならけっこう金になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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