破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「まあ、ダメだね――」
従者……の出で立ちをしていたエルフは、首を振った。
「まあ、そうでしょうね」
その報告に、カーシャは淡々とした声。
「おたくの反則ヒーラーなら、延命はできるだろうが……。それも一時的だな」
穴のあいたバケツに、水を入れるようなもんだ。
時間がたてば、あっという間に水はなくなる。
エルフは言って、首を振る。
「穴をふさぐことは?」
「あんた、わかってて聞いてるだろ。ンなことは、根本的にあり方っていうか、下手すりゃ現実そのものを書き換えなきゃ無理だよ」
「そうなの?」
「……ああ、そーだよ。たとえば、
「どうするのかしら?」
「物語を変えるには、
「それは、神様の仕事になるわねえ」
「神様だって無理な話だろうぜ」
エルフ――『猫のゴトク』は疲れたように言って、腕を組む。
「とりあえず。お手数をかけたようだし、ひと息ついてちょうだいな」
カーシャは微笑して、湯気の立つカップをすすめた。
品の良い、上質なお茶の香りが立ち昇っている。
「ご主人様手ずから
「ええ、そうよ。ありがたく押しいただきなさい?」
やや嫌味の混じったゴトクの言葉。
これに、平然と返すカーシャの声。
「ま。それは置いておくとして――」
ゴトクはひと
「伯爵様の屋敷を襲ったのは、二人ともモンスターテイマーらしいな」
「ええ」
「二流以下なのが、良かったんだか悪かったんだか」
「あら。そんなにダメな連中だったのかしら?」
「モンスターテイマーやら、魔導士としてはともかく……」
ゴトクは自分で自分の肩を揉みながら、
「あんな派手なことやらかして、あの始末だろ。
「おや、まあ」
カーシャはわざとらしい態度で、口元へ右手をやる。
「遠回しな自殺をしてた、としか思えんね」
「……自殺ね」
カーシャは少しだけ、眼を閉じる。
「例の愛人かなんかが邪魔なら、もっとやりようはいくらでもあったはずだ。そうでないなら――」
神様か、それとも悪魔の加護でもあるのかね?
その可愛い子ちゃんには。
エルフの意見ともぼやきともつかない言葉。
カーシャはそれを聴きながら、亜麻色の少女について思い返す。
――
とは、思った。
しかし?
何か未知の
――よく、わからないわね。
わずかに考え込んだカーシャ。
それに対し、
「だけど、良いのか?」
ゴトクはやや硬い声で言った。
「なにが?」
「離れて、だよ」
「……」
ゴトクは、無言のカーシャを見ながら、
「あんたが離れたとわかれば向こうは確実に仕掛けてくるぜ」
「――でしょうね」
「今までのやり口を見るに、何というのか。今回も力技で来る可能性は高い」
「ええ」
「次が、他よりも弱い可能性も低い。あるいは、単なるゴリ押しで来る可能性もな」
「おっしゃるとおり。先の失敗があるから、そうなるかもしれないわ」
「良いのかい」
ゴトクは、もう一度たずねた。
「あんた抜きで、勝てる見込みがあるか――少なくとも、100%ではなかろうぜ」
「世の中に、100%なんてものがどれほどあるかしらね」
「そいつも道理だがね」
「実力についてなら」
カーシャは、こめかみのあたりを人さし指でなでつつ、
「私よりも、あなたのほうが把握しているのではなくって?」
「それもそうだな」
ゴトクはため息を吐いて苦笑。
「絶対とは言わんさ。まあ、勝てないにしてもあっけなく死ぬことは、そうそうないと思う。負けても、しぶとく逃げのびるだろうし」
そのへんについても、教えたつもりだよ。
エルフの、師匠としての返答。
「なら、いいでしょう」
カーシャは微笑み――
その話題は、ここで終わった。
しばらくして。
「お待たせいたしました」
丁寧な言葉と、静かで嫌みのない所作
ハメシハ・ガッコイはそれと共に部屋に入って来た。
「いえ。わたくしのほうこそ、突然のおしかけ、まことに失礼を」
カーシャはこれに、相応の礼をとる。
最初。
当たり障りのない話を数度交わした後、
「お父上……ガッコイ侯にもお話しはさせていただいたのですが」
「我が領内で、モンスター討伐をなさりたいと」
「ええ。私用ながら、少し必要となる素材がございまして」
カーシャはあくまで
「これを得るために、こちらで討伐のご許可を
「その、素材というのは? 差支えなければお聞かせ願いたいですね」
ハメシハの問いに、
「逆鱗というものをご存じでしょうか?」
「いえ。寡聞ながら――」
「あまり知られてはおりませんけれど、ドラゴン種の肉体には一か所、逆鱗――そう呼ばれる部位がございます。これが、あるアイテムの作製に必要でして……」
「ははあ……。初めて聞きました」
「もちろん? 勝手をさせていただく以上、できるだけのお礼はさせていただく所存。首尾よく討伐が成った後には」
必要部位以外のドラゴンの素材は、全てそちらへ……。
と。
カーシャはややもったいつけながら言った。
――逆鱗なあ?
後ろで、従者の役として控えているゴトク。
エルフは内心肩をすくめる。
逆鱗。
実際の話、そんな部位は無い。
要するにこの話は、
「ドラゴンの素材をただで譲る」
という話を遠回しにしているだけだ。
さらに言うなら、実質
――ドラゴンか……。中間体にいかん個体でも、それなりに成長してるならけっこう金になる。