破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その114、きみは虜囚か姫君か-23 そうまとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「避難所ですか」

 

「ああ」

 

 下へ続く階段を先導しながら、ベルツは言った。

 

「先代が――戦争や緊急時のため、に造ったものだ」

 

 保身のうまい、あの男らしい。

 

 そのつぶやきは、伯爵にだけ聞こえるものだった。

 

「へえ……」

 

 バッキーは降りながら首をかしげる。

 いわゆる、抜け穴というヤツらしい。

 

 ――昔の時代劇で見た気がするな、こういうの……。

 

 やがて。

 地下通路へと到着。

 

 正直、きれいというか洗練された造りではない。

 かなり雑というのか。

 もっぱら実用性だけを重視したものらしい。

 

 途中には、広めに作られた部屋。

 

「しばらく地下にこもる時。それに備えた準備もしてある」

 

「ははあ」

 

「そして」

 

 相づちを打つバッキーの横で、ベルツは暗い通路を指した。

 

「あそこから、特別な避難場所へと続いている」

 

「ふむふむ。これなら、いざという時に逃げられますね」

 

「うまくいけばな」

 

「でも、いいんですか?」

 

「なにがだ」

 

「私、一時的に雇われてるだけの部外者ですよ? ここ、秘密なのでは」

 

「かまわん。いずれここは封鎖して、全部壊す予定だからな」

 

 ベルツはどこか皮肉な笑みで暗い道を見た。

 

「それはまた、どうして……」

 

「下手に小細工をしても、地下を移動する蛇竜(ワイアーム)あたりが通れば破壊される。下手な小細工はかえって危険だ」

 

「ああ。そういうこともありえますねえ」

 

「だが、もし問題はある場合は――」

 

「……」

 

 言葉が途切れる間。

 いや、その前に。

 

 ほんのわずかだが……。

 バッキーは杖を握る手に力を入れていた。

 

「お前が()()()()()()()()()いい」

 

「??? はい?」

 

 意味がわからない。

 

「そういうこともある、というだけだ」

 

 勝手に言葉を切り、ベルツはそっぽを向いてしまった。

 

「いえ。ですから、意味が……」

 

 

 その時――だった。

 

 

 ぞわり、と。

 寒気がするような空気。

 

 背中に走る、粘液質な不快感。

 バッキーはハッとして、顔を上げた。

 

 天井に、無数のトカゲが張り付いていた。

 しかも。

 猫くらいはありそうな、大型サイズ。

 

「うえっ!?」

 

 驚くバッキーだが、一瞬後あることに気づく。

 

「オオサンショウウオ!?」

 

 群れを成すのは、間違いなくその姿をしていた。

 

 ――まさか、あの殺し屋以外にも同じようなテイマーが……!?

 

 バッキーは魔力を練りつつ、思考を走らせた。

 オオサンショウウオ型モンスターを操っていた殺し屋。

 その男(ヒョーズ)の死体は、バッキーも確認している。

 

 しかし?

 問題はそれだけではなかった。

 

「ちっ……! やはりもう使えんか」

 

 ベルツは手杖(ワンド)を取り出し、舌打ちをした。

 

 通路の床に、大型の虫がひしめいている。

 ギチギチと顎を鳴らす、大きな蟻の群れ。

 

 ――リーダーが、蟻型モンスターを使うヤツが襲ってきたって……言ってたけど!?

 

 バッキーはあわてつつ、

 

「*****!!」

 

 呪文を唱え、通路を魔力の壁でふさいだ。

 

「こんなのは一時しのぎです! 逃げましょう!!」

 

「おい、引っ張るな!?」

 

 ベルツの腕をつかみ、大急ぎで階段を駆けのぼる。

 

 

 そして。

 階段を登り切ったと思えば……。

 

「うぎゃああ!?」

 

「ひいい!!」

 

「くるな、くるな!!」

 

 屋敷は、阿鼻叫喚の大騒ぎ。

 使用人たちはオオサンショウウオと大型アリから逃げ回っていた。

 

「これはまた……!」

 

 階段の入口を閉めながら、バッキーはもはや呆れていた。

 

「やってくれる……!」

 

 ベルツはワンドを振るって。小型の雷撃魔法を連続して放つ。

 雷撃は的確にモンスターたちを貫いていった。

 

「さっさと行け! 安全な場所へ全力で逃げろ!」

 

 ベルツはあわてふためく使用人たちへ指示を出す。

 

「っていうか、警備の騎士団は……?」

 

 バッキーは魔力の傘で上を守りつつ、扉へ走る使用人たちを補助。

 

 この時。

 屋敷が大きく揺れて、バッキー達の足元を危うくした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、なんてえこったい!?」

 

 窓の外を睨み、マコネは歯噛みをした。

 

 今は昼間。

 そのはずだった。

 

 だが?

 窓から見える景色は薄暗く、まるで夜。

 

 かてて加えて……。

 

 庭や、壊れた柵を超えた屋敷。

 そこでは、

 

「走れ、走れ!」

 

「魔導砲を出してくれ!!」

 

「助けて……!!」

 

 巨大な影に、兵士たちが必死で応戦していた。

 

 後ろ足で立つ、2体の異形。

 

 オオサンショウウオに似た青黒いモンスター。

 体色が黒と白で構成された昆虫……蟻型のモンスター。

 

 この2体が、無軌道に暴れている。

 

「逃げるぜ、()()()!!」

 

 マコネはイセンサの手を取り、ドアを蹴破るように部屋を飛び出す。

 そのまま二人連れで走っていくのだが、

 

「な、なんだぁ!?」

 

 下のほうでも、大騒ぎ。

 見れば、あちこちにオオサンショウウオと蟻の群れ。

 

「冗談じゃねえや!」

 

 マコネは叫んで、逃げ場を探す。

 

 そこへ――

 

「あ。良かった! 無事だったんですね!?」

 

 転がるように、バッキーが走ってくる。

 

「今はそうだけどよ。この先はわからんぜ!?」

 

「ともかく、屋敷から出ないと……! 西の裏口なら外のモンスターをよけて逃げられます」

 

「そりゃ助かるな!?」

 

 マコネが苦笑して叫んだ時、再び屋敷が大きく揺れた。

 外で暴れるモンスターのせいである。

 

 どうやら、屋敷の一部を破壊したらしい。

 先日の襲撃時で壊された部分も、合わせればかなりの存在になるか。

 

 マコネは大きく足元を崩され、半ば尻餅をつきかけた。

 このため、

 

「あ」

 

 イセンサから、手を放してしまった。

 

「やべっ!?」

 

 そこに。

 崩れた建物の一部が、落下してきた。

 

「きゃああっ!?」

 

 イセンサはとっさに、頭を抱えて転がって逃げた。

 

「なんとぉ!?」

 

 バッキーは杖を突き出し、大きく広げた魔力の傘で瓦礫を防ぐ。

 

 一方のイセンサ。

 勢いあまって、バッキー達から距離が出来てしまった。

 

 と。

 

「え……?」

 

 彼女は気づいた。

 

 モンスターの群れが、自分に向かって集まってくることに。

 無数の視線。

 あるいは、意識?

 

 それが、自分に一点集中していることに。

 

 

 ――私を狙ってる? あ、それは、そうか。

 

 

 当たり前だ。

 最初からそうだったではないか。

 

 少女の脳裏に、死んだメイドの死体が浮かぶ。

 そして。

 自分を見る使用人たちの眼も。

 

 刹那の時間。

 

 イセンサは、自分の過ごしてきた12年を一気に思い返す。

 

「はは」

 

 何かが、切れて。

 何かの、スイッチが押された。

 そんな感覚だった。

 

 少女(イセンサ)は、バッキー達を見て、少しだけ笑う。

 

 直後。

 山村育ちの少女は、昔を思い出して走り出した。

 

 バッキー達とは逆方向に。

 全速力で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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