破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「このっ……!」
イセンサは、空中のメテノへ石を投げた。
それは顔面の真ん中へ飛んでいくが、
「いけませんねえ」
メテノはひょいとわずかに顔をそらしただけ。
石は横を通過してしまう。
「短気は心臓に良くないですよ?」
「うるさい!」
「まあまあ。ちょっと落ちついてくださいな」
メテノは両手のひらをイセンサに向けてるような仕草。
袖に隠れているため?
その下でどんなポーズをしているのかは、わからないのだが。
「あなたにとって、重要なことを話すつもりなのですよ? これからねえ」
ふわふわと近くの樹木……その枝に腰をかける。
「さて? まず第一に、あなたを生んだ
イセンサを見おろしながら、メテノは勝手にしゃべり出した。
「まあ、それだけのひとで、あなたの母親ではありません」
「……???」
イセンサは、その内容に混乱した。
何が言いたい。
意味がわからなかった。
――バカにしてる? からかってる?
だが。
メテノはイセンサの心情に構うことなく――
「山の精霊、あるいは山の神ですか」
そういったモノと知性種族、特に人間が子供を成した。
これは古今東西、よくあるお話ですが?
「一方で、山の神は女性である――ともされてるんですよ。これまた、古今東西、どこの国や文化圏でも
ご存じでしたか?
メテノは言って、グルグル眼鏡のズレを直す。
「考えてみれば妙な話ですよねえ? 女性と女性の間に子ができるというのも」
「……」
イセンサは何も言えない。
やはり、意味がわからないのだ。
それは確かにそうなのだが。
「答えは明白でしてね?」
その子供は、山の神……いや女神ですね。
女神の子どもではあるけれど、生んだ女性の子ではないわけです。
と。
メテノはゆっくりと、しかし間を置かずに言った。
ため息をつくように。
「女性は、ひどい話ですが女神の子が血肉を得るための
イセンサはゾッとした。
何か、得体の知れないものが自分の周辺にうずまいているような。
いや。
自分自身の中から、噴き出してくるような。
「多分? あなたはご存じないとは思いますけれど。生き物には遺伝子というものがあります」
メテノは袖に隠れた両腕を広げて、
「わかりやすく言えば、血ですね。親の血。祖父母の血。先祖の血。その流れを表し、形作るもの」
親。祖父母。
祖先。
どれも、イセンサには縁のないものだ。
あるいは。
実感できなかったもの、とすべきか。
「調べればわかるでしょうけど、あなたの遺伝子は生んだ女性とはまるで違うはずです。血縁関係は100%否定されることでしょうねえ」
「じゃあ、私はなんだっていうの!?」
「そうですねえ?」
激昂するイセンサに対し、メテノは首をかしげながら、
「純然たる山神の子ども。あるいは、分身ですか」
「……!」
「ま~別に? 他種族との子どもなんてどこにだっているものですが――」
神と呼ばれるモノの
その神がどういう存在なのか、極めて曖昧ではありますけれど。
「たとえば? サキュバスや高レベルの魔導士なんかも、魔法技術がゼロの文化圏へ行けば……神や悪魔と認識されるでしょうし」
「……」
「言いかたを変えれば? あなたは人間の
「私は……」
「ともあれ。何はなくってもまずはちゃんと調べないと断言はできません。だから、一緒にまいりましょう」
メテノは再び地上へ降りると、
「では。まいりましょうか」
イセンサに笑いかけた。
「触らないで……」
メテノの腕を振り払おうとした時、
「……っ」
イセンサは、急な脱力感にへたりこんでしまう。
「やれやれ。ようやく、ですか」
メテノは肩をすくめながら、
「本当ならもっと穏便で静かに、秘密裏にことを運びたかったんですけど――」
「なにを……」
強い視線で自分を睨むイセンサに、
「迂遠な方法だと、妙な偶然や不運……あなたにとっては幸運ですか。それが連発してちぃとも進展がないのでこういうブサイクな手段を取るしかありませんでした」
薬を盛ろうとすればメイドがティーポットを落として割ったり、ね。
メテノは首を振って、
「魔法や呪術の影響が見えなかったから、もうおかしな偶然としか言えないわけですが――それも完全ではなかったのが、救いでした」
トントン、と。
地面をリズミカルに踏みながら笑う。
ほんのわずか。
気をつけなければわからないほど、うっすらと……。
草で
あるいは魔法陣らしきものが光っていた。
やがて。
魔法陣は光のロープとなって、イセンサを呪縛する。
「苦労しましたよ? 山神の影響力を弱める呪法を用意するのは」
メテノはため息を吐いてから、
「でも、あくまで弱めるだけ、だったようでね!」
いきなり叫び、片手をあらぬ方向へ突き出した。
袖に隠れていた手が露わになり――
灰色に近い手のひら。
その真ん中には、ギョロリとした大きい眼。
まるで、フクロウのような……。
黄色い目に、異様な大きさの黒目部分。
それが不気味に輝いた瞬間、
バサリ
木々の上に、大きな影が飛んだ。
顔を上げたイセンサは、空中を舞う巨大な鳥を見た。
夜にしか飛ばないはずの鳥。
フクロウを邪悪に歪めたような、鳥型モンスター。
そして。
「不意打ちはダメかよ」
「イセンサさん!」
遠くの木陰から、マコネとバッキーが身を乗り出していた。
「白馬の騎士が登場ですか。どっちも女性で、馬にも乗ってないですけど」
メテノはイセンサを捕まえながら、
「でも。私のアイアコスは、ちょっと手強いですよ?」