破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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かなり加筆が入ってしまった……。


その24、カーシャたちが話している間に勇者パーティーは魔王のもとへ

 

 

 

 ひとまず。

 

 周辺の敵を残らず倒して、一時静かになった。

 

 ――またすぐ、迎撃が来るんだろうけど。

 

 トクベーはゆっくり息を吐く。

 少しの、休憩といえば休憩。

 カーシャも、立ち止まって返り血をぬぐっている。

 

「……あのぅ、差しつかえなかったらお尋ねしたいんですけど」

 

「なに?」

 

「いえ、あなたのことじゃなくって。あなたのパーティーにいる、ヒーラーの」

 

「ああ。彼女がなにか?」

 

「ちょっと気になることがあって……。あの人って、どういう人物(ひと)なんですか?」

 

「……」

 

 カーシャは、ジロリとトクベーを見る。

 バッキーとトクベー。

 色んな意味でまるで違うだが、

 

 ――でも、共通点も多い。髪や瞳の色、同じ人種に見える。それに雰囲気もどこか似ている……。

 

 カーシャは、バッキーのことを考える。

 

 ――あの異常な治癒魔法。そういえば、妙なことも言っていた……。

 

 『私のこれは、後付けっていうか。ある〝ひと〟からもらった力なんですよ。だから、努力してゲットしたもんじゃないんです』

 

「……さあ。どうでもいいことだったから、彼女の過去は聞いてない」

 

「そうですか」

 

「逆に聞くけど、あなたはその技術をどうやって手に入れたのかしら?」

 

「はい?」

 

「ひょっとして、誰かにプレゼントされた(・・・・・・・・・・・)――とか?」

 

「えっ」

 

 トクベーはギョッとした顔になる。

 

 ――それ、どういう……? ひょっとして、バッキー(あのひと)は僕と同じで……。

 

 【転生者】なのか、トクベーは心の中で首をかしげる。

 

 ――ただ、自分のこと? なのに、転生ってのがあんまりよくわからんけど……。

 

 考えながらも、少年シーフは息を吸い直して

 

「そうだと言えば、ある意味そうです。これは独学で学んだわけじゃなく、師匠から教えてもらったものなので」

 

「…………」

 

 カーシャは無言。

 会話が途切れた中、トクベーは思い出す。

 

 どこで、どうなったのかはわからない。

 気づいた時には5歳くらいの子供だった。

 どこからか逃げてきたような、うっすらとした記憶。

 くわしいことは、何もおぼえていない。

 ボロボロで、完全な浮浪児状態。

 

 ――ああ、これすぐに死ぬな……。

 

 疲労と空腹でグチャグチャになった頭でそう思った。

 

 ボーっとした中で、妙な記憶やら風景が浮かんでは消えて――

 知らないはずなのに、知っているような。

 ニホンとか、ネットとか、学校とか、なんとか……。

 ひどい目にあった気もするし、良い思いもしたかもしれない。

 混沌として理解ができない。

 死ぬ間際の幻だと思った。

 

 やがて、

 

「おい、生きてるかボーズ」

 

 そう言いながら助けてくれたのが、【お頭】。

 腕利きの冒険者でシーフ。そしてパーティーのリーダー。

 シーフ職でありながら魔法や武術に通じており、クエストでも先頭で戦うスタイル。

 15歳の時まで彼のもとで冒険の基礎を学んだ。

 

 そして、

 

 『もうそろそろ、独り立ちしてみるか』

 

 お頭はそう言って、ある山への地図をくれたのだ。

 

 『なあ。お前は俺の術を習いたがってるが、俺じゃあ良い師匠にはなれねえ。代わりに俺の師匠にあたるおかたの居場所を教えてやる。そこでみっちり修行してこい』

 

 こうしたわけで。

 

 トクベーはその山に登った。

 

 ――しかし、アレはしんどかったよなあ……。

 

 師匠のもとへ無事たどりつくまで道のり。

 獣道すらない場所を進み、時にはモンスターに追いかけられ、

 

「ひどく苦労しましたよ」

 

 その経緯をゆっくり話しながら、トクベーはその体験を思い出す。

 

「自分的にはひどく昔な気もするけど、実際は師匠のもとをはなれてから、大して経ってないんですよね」

 

「へー……」

 

 カーシャは相槌を打つが、

 

「結局、経験の浅いルーキーだったってことね。ああ、どうりで……」

 

「うぐっ」

 

 痛いところを突かれ、トクベーが一瞬かたまるが、

 

「……えーと、それで師匠のもとで修行した後、あちこち旅しながら今の仲間に会って。で、今のパーティーに」

 

「それだけ?」

 

「え、まあ大体は……」

 

 ――どうも、まだ何か隠しているような気もするけど。

 

 隠すというよりも、話していないことか。

 

「ところで、せっかくだから聞いておくけど」

 

「え、はい」

 

「バタムで、あのエルフ娘をかばったのはどういうつもり? それも、筋違いな例え話までして」

 

「それは……」

 

「正直、一瞬あの場で叩き殺そうかと思ったわ」

 

「……!!」

 

 淡々としたカーシャの声に、トクベーは心臓が止まりそうになった。

 

 

 少年シーフの頭によぎったもの。

 お頭のもとからはなれる2年ほど前。

 

 ある国で、流民が狩られる場面へ出くわした。

 逃げまどう中には、子供も年寄りもいて。

 そのうちの、女の子がこちらに走り寄ってきた。

 

「助けて」

 

 実際に、言ったのかどうかはわからない。

 でも、その顔は明らかにそう叫んでいた。

 

 考える前に、とっさに。

 手を伸ばそうとした瞬間、

 

「ぎゃ……」

 

 小さく叫んだ、女の子には矢が突き刺さっていた。

 血が地面へ流れていく中、いくつもの悲鳴がこだまして。

 人の生き死には、何度も見た。

 

 しかし。

 小さな、女の子。

 それが無情に殺害される場面など、初めてで。

 

 

 後で知ったことだが――

 

「あいつらは、なんか違う神様を拝んでたらしい」

 

 情報を集めた仲間がそう言った。

 信仰する神が違う者同士。

 それが争いあうことはある。

 だが――

 

「そんなのは、よくあることじゃないか」

 

 納得ができなかった。

 この世には、千の神々がいるという。

 国どころか家レベルで信仰する神が異なるのは普通のことだ。

 あるいは、複数の神を崇めることも。

 

「そうじゃない、そうじゃなかったんだ」

 

 仲間は首を振った。

 

「あいつらはなあ、自分たちの信じる神以外はニセモノだと言ってたんだ。そればかりじゃねえ、あちこちの神殿やら神棚をぶっ壊してまわってた」

 

「ニセモノじゃなくって、自分たちの、本物の神を拝めってな」

 

 無茶な話だった。

 

「かわいそうだが、どっちみちあの連中はああなってただろうよ。気にするなとは言わねえ。しかしよ? 死人に引きずられちゃあいけねえ」

 

 ショックを受けている中、お頭はそう言った。

 

 それはわかっていた。

 わかっていたつもりだったが。

 

「自分が何とかできたとか、助けられたとか、そんなこたぁ傲慢だぜ? 俺たちはただの流れ者で、神様じゃないんだからな」

 

 いや、神様だって無理なことは無理だ。

 

 そうも言われた。

 

 頭では納得したつもりで。

 

 しかし。

 

 ――お頭は、僕を助けてくれたじゃないですか。

 

 

「前に……」

 

「は?」

 

「前に、目の前で、助けてって……そう言ってた女の子がいました。でも」

 

「助けられなかった? それでついあんなことをしたと?」

 

「……」

 

「バカじゃないの」

 

「……そうですね」

 

「なにかの(えん)だから、教えてあげましょうか? 世の中にはね、助けられたり恩を受けたら、逆恨みしたり憎むヤツもいるのよ」

 

「……!」

 

 冷たい女の言葉に、トクベーはハッと顔を上げた。

 

「そう、例えば……」

 

 少し首をかしげてから、

 

「この私とかね――」

 

 カーシャはわずかに冷笑した。

 

 ――少なくとも、前はそうだった。今は……。

 

 変わったのか、変わっていないのか。

 カーシャ自身にもわからない。

 

 

 しばし、気まずい沈黙の後――

 

 

「――!」

 

 ギロッ、と。

 

 カーシャは刃物みたいな目つきで、斜め横を睨む。

 ふわふわと、岩の隙間から白い人魂みたいなものが出てきた。

 

「あ、どうもどうも」

 

 のんきな声がして、人魂に顔が浮かぶ。

 いつかの自称はぐれエルフ……ユオン・キナの顔だった。

 

「うわ、なんだコレ!」

 

 トクベーは身構える。

 

 ――こいつ、あの時のエルフ。

 

 カーシャは、チュービから帰り道であったつまらないゴタゴタを思い出す。

 その中にいた得体のしれない相手。

 さらに、王都から派遣されてきたという調査員でもあった。

 

「任務達成、ありがとうございます』

 

 人魂のユオンはペコリを頭をさげる。

 

「おかげさまで、こっちも無事に終わりましたので、これより帰還いたします」

 

「終わったって……」

 

「魔王はやっつけました」

 

 ?を頭に浮かべるトクベーに、人魂ユオンは笑いかける。

 

「あなたがたも、テキトーに撤退してください。後の処理は国軍がやりますので」

 

「わかったわ」

 

 カーシャは小さくうなずく。

 

「では、よろしく。この手形をギルドに渡してくだされば万事OKですので」

 

 言った後、人魂はポンと煙になった。

 代わりに小さな板がふわふわ浮いている。

 

「これが証明の手形らしいわね」

 

 カーシャは板を手に取って、トクベーを見た。

 

 

 

 

 時間を少し戻して――

 

 ユオン・キナは目を覚ますと、すぐに着替えて朝食の準備を始めた。

 と、いっても宿の厨房から料理を持ってくるだけのこと。

 ベッドでは〝勇者様〟が女2人とのんきに高いびき。

 

 昨夜(ゆうべ)はさんざんお楽しみだった後。

 

 その中には、ユオンもいたわけだが。

 魔導士と、戦士。

 どちらも、王宮から特命を受けてパーティーに加わった連中。

 そこはユオンも同じ立場ではある。

 

 キッチンワゴンで朝食を運びながらユオンは念話で上司に定時連絡を入れる。

 魔道具を使わずに、念話で遠くに声を送る。

 地味だが、ハイレベルの魔法。

 少なくともベッドでグースカ寝ている魔導士には使えない。

 

<おはようございます。今朝も特に問題ありません>

 

<よし。こちらでもな、場所も確認して手筈(てはず)も整えた。後は乗り込んで討伐させるだけだ>

 

 向こうでは、通信機でユオンの声を聴いているだろう。

 

<勇者様のコンディションはまあまあですね。元チーフウォール令嬢との一件でショックを受けてましたが、まあなんとか自信は回復してます>

 

<いいだろう。このためにわざわざ召喚したんだ、役目を果たしてもらわんと困る>

 

<今までもけっこう厄介ごとを片づけさせていたのでは? ドラゴン討伐とか、オーガキングとか>

 

<それも含めてだ。軍を動かすのは金もかかるが、手間や人がいるからな>

 

<ま、少数でチャチャッとやってもらうのに越したことはないですか>

 

<わかってるなら、最後までやらせろ。確実にな>

 

<はいはい。了解です>

 

 通信を終えた後、

 

「勇者様、そろそろ起きてください。朝食をもってまいりました~~」

 

 ユオンは100点満点の笑顔で部屋に入っていった。

 

 

 そして。

 

 

「うーん。だいぶ派手ですが、陽動班はよくやってくれてるみたいですねえ?」

 

 カーシャの理不尽な破壊と殺戮。

 おかげで、魔王の岩城は大混乱になっていた。

 エルフたちの注意は完全にそっちへいっている。

 

「なんか、私らの影が薄くなってないか?」

 

 女戦士はやや不満そうに言う。

 

「まあまあ。私たちの役目は確実に魔王を討伐することです。別に敵を全滅させることじゃありません」

 

 ユオンがフォローすると、

 

「ボスさえ倒せば、後は烏合の衆ってわけね」

 

 魔導士のシーラ・チゴ・ガイミヌはうなずいた。

 

「その通りですよ」

 

 ユオンはニッコリと肯定。

 

 内心では、

 

 ――ボスが消えても、新しいのがリーダーになって活動するでしょうけどね。ここで言う必要はないですか。後のことは上の人たちが決めるわけだし。

 

「無事、この戦いに勝ったら……今度は、あいつを……!」

 

 シーラは杖を握りしめながら、唇を噛む。

 

 ――ありゃりゃ。

 

 どうやら、カーシャへの復讐戦を考えているらしい。

 

 ――困りましたねえ? でもま、魔王討伐さえ片づけば後はいいでしょ。事前に向こうへ話を通しておけば、ね。

 

 上司からも言われている。

 

 『あいつらは半分捨て駒だからな』

 

 別に用が済めば処分されるとか左遷されるという……。

 そういう、ありきたりなパターンではないだろうが。

 

 ――経験上、こーゆー人たちは自爆するパターンが多いんですよねえ。

 

「おいおい、それは後にしとけよ。今はさっさと魔王様を片づけようぜ?」

 

 シーラの肩をつかんで抱き寄せながら、勇者がニヤリとした。

 

「そういうこと。今度は、ベストコンディションでやればいいさ。油断せずにな」

 

 女戦士も同調。

 言いつつ、勇者にすり寄っている。

 

 ――うむうむ。すっかり自信を取り戻してますねえ。アレコレとケアした甲斐があるというものです。

 

 ユオンは自分の仕事に満足する。

 もともと、自己評価の高い男だ。

 傲慢と言ってもよろしい。

 それなりに頭も働くし、要領も良いわけだから、

 

 ――いち庶民としては、それなりに楽しく生きられるタイプでしょうから。それなりはそれなりでしかないですけど。

 

 王宮の魑魅魍魎どもから見たら、経験の浅い青二才(こども)だ。

 

 『魔王と相打ちになっても良し。見事生還して英雄になっても良し』

 

 『用事を済ませて死んでくれればせいぜい派手な墓を建ててやる』

 

 『どっちにしろ無駄にはならん』

 

 『中途半端に有能なバカは、そこらの無能よりも扱いやすい』

 

 そういうことなのだ。

 

 ――まー、どっちにしろ名声とお金と女性には困らないので本人的にも幸せでしょ。

 

 

 で。

 

 結果だけを言うなら。

 【魔王】は無事に討伐された。

 

 

 

 

 

 

 

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