破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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ゆっくり読み上げを使って誤字脱字チェックをしてみたけど
どんなもんでしょうか……


その114、きみは虜囚か姫君か-30 「そもそも……」

 

 

 

 

 

 

 

「そもそも? ことの始まりはだ」

 

 と。

 金髪のエルフは少し顔を上げて、淡々と語る。

 視線は、やや上に向いている。

 

「お二方(ふたかた)の縁談がお流れになった。ここからだな」

 

 その発言に、

 

「あら。なりかけていた時、じゃなくて?」

 

 カーシャは、金髪のエルフ……猫のゴトクに言った。

 作り物じみた微笑を浮かべて――

 

「事実上、破談になっていましたわ」

 

 この一連の会話。

 それは、場の空気を凍らせかけたが、

 

「否定はしません。ええ、事実ですわね」

 

 銀髪縦ロールの令嬢……ハメシハ・ガッコイは静かに言った。

 毅然とした態度。

 

 一方で白面の貴公子……ベルツ・フォイア伯爵は感情の見えない眼。

 

「結論だけ言うと。イセンサ嬢を手に入れたいと思う者と、排除したい者。前者が後者をうまく利用した」

 

 そして失敗して今に至る。

 こういった次第だね。

 

 ゴトクは部屋を歩きながら、用意されていたお茶のカップを取る。

 

「前者は、あのグルグル眼鏡女かしら」

 

 先にカップを手にしていたカーシャは薄く笑う。

 お茶の香りを楽しみながら。

 

「いかにも。後者……つまり、暗殺を依頼した者は自分が利用されてる、とは気づかなかっただろうな」

 

 ゴトクは言いながら、肩をすくめた。

 

「つまり?」

 

 ハメシハは顔をしかめつつ、

 

「その前者……。黒幕というべき不逞(ふてい)の輩は、わざわざ暗殺という形にしてことに及んだと?」

 

 何ともはや……。

 ずいぶん手の込んだ真似を……。

 

 渋い顔で、深々とため息。

 品の良いデザインをした扇で、軽く自身の頭を叩きながら。

 

「そうだなあ」

 

 ゴトクは顎を撫でながら、窓の外を見る。

 

「ひとつは目くらましかね。もうひとつは、まあ金の節約?」

 

「金だと?」

 

 伯爵は顔を歪めた。

 

「そう。何事も、先立つものがないとどうにもならんしね。銭はいくらでも欲しいさ。特に……」

 

 あの眼鏡女は魔導研究者だったようだしな。

 そりゃ金はいくらあっても足りんだろうねえ。

 

 ゴトクは、左の親指、人さし指で丸を作ってみせた。

 

「しかしあんな派手な真似を……」

 

「領内の騎士まで出張ったそうではありませんか」

 

 ハメシハの当然なツッコミに、

 

「まったくですなあ」

 

 と。

 ゴトクは気だるそうに髪を掻きながら、

 

「まあ……。眼鏡女も含めて、殺し屋どもは全員ちゃんとした、これも妙な言い回しだが? ()()()()()()暗殺者じゃなかった」

 

「どういう意味ですの?」

 

 ハメシハは、胡散臭そうにゴトクを見た。

 いや。

 睨んだというほうが正確である。

 

「ふむ? 要するに。それにふさわしい人材ではなかった、と」

 

 カーシャは自分の美しい髪を触りながら、つまらなそうに言った。

 

「そうだなあ」

 

 ゴトクはこれに同意しながら、

 

「暗殺者なんて連中が、いくら事情があろうとあんなバカ騒ぎを起こすわけがない。絶対に、少なくともこっそりと、それと悟られんよう動こうとするはずだ。聞いた話じゃあ……」

 

 最初にマコネがイセンサ嬢と会った時も、だ。

 連中、でかい蜂の使い魔を操ってただろ?

 あの時点でもうカンペキにとち狂ってる。

 

 また髪を気だるそうに掻いた。

 

「つまり、とち狂った連中が殺し屋ごっこをして暴れたというの?」

 

「身もふたもない表現をすればそうなるね。あの眼鏡女もイカれてたんだ」

 

「へー……。僥倖(ぎょうこう)でしたわねえ、フォイア伯? 可愛いかたが、狂った魔導士の実験材料にならずにすんだようですわ」

 

 カーシャは上品な仕草と声でコロコロと笑う。

 

「不愉快な女だ」

 

 ベルツはただ一言(ひとこと)返すのみ。

 

「さて。話に戻ろうかね。眼鏡女……メテノと名乗ってたらしい、元の名前は捨てたようだ。で、そのメテノは自分の研究に使うためにイセンサ嬢をかどわかすつもりだった。当然殺すつもりはない」

 

「他の連中は知ってたのかしら?」

 

「おそらく知らなかったろうな。だが、眼鏡女だって万が一にも死なないよう備えてただろう。死んだとしても……」

 

 研究素材としちゃ、申し分なかった――

 そういうことだろうな。

 おっと。

 ご不快にさせたのは謝るが、まあ抑えていただきたい。

 

 ゴトクは、目をむいたベルツに片手をあげてみせた。

 

「金と目くらまし。この二つを兼ねた計略。それに巻き込むため、ガッコイ家の縁者が利用された。思うに、お家のため、お嬢様のため。そう思い込むよう誘導されたんだろう。知らず知らずのうちに、な……」

 

「なんてこと……」

 

 ハメシハは、顔を抑えてわずかにうつむいた。 

 美しく気品のある顔が複雑な感情で歪み、震えている。

 

「では、その利用された相手というのは?」

 

 ベルツが鋭く切り込むと、

 

「ああ、それは」

 

 ゴトクが言いかけた時、だった。

 

 やや焦った感じで、ドアがノックされる。

 

 入って来たのは、ガッコイ家の執事。

 老齢に達しているが、若い頃の美男子ぶりを想像できる顔立ち。

 今なお、上品で整った顔でもある。

 

「あの――ゴトク様とカーシャ様を、お訪ねしてこられたかたが……」

 

 言いかけた執事の後ろから、

 

「姐さん、何とか間に合った感じだぜ?」

 

 ひょいとマコネが、その野良猫みたいな顔を覗かせた。

 

「ですってよ?」

 

 カーシャは微笑んでゴトクを見る。

 

「やれやれ。最悪の事態は回避できたっぽいか」

 

 ゴトクは金髪を掻きながら、ホウッと息を吐いた。

 

「……どういうことですの?」

 

 半ば睨むようなハメシハの視線。

 ゴトクはそれに首をすくめながら、

 

「あんたにとっちゃ、少々キツいかもしれんがね」

 

 まあ。

 ガッコイ家の、次期当主として避けるわけにもいくまいよ。

 

 淡々とそう言った。

 

「クロード」

 

 ハメシハは、老執事のほうへと視線を送る。

 ゴトクから顔をそむけるように――

 

「はっ……」

 

 執事は静かに礼を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正直あわてました。毒を飲んでて……」

 

 と。

 バッキーはベッドの前で困った顔。

 後ろのベッドには、壮年の女性が静かに眠っている。

 

「とち狂って、ちょっとメンドーだったぜ。錯乱つうやつかね?」

 

 案内をつとめたマコネは、やはり困った顔でため息をつく。

 両手を後頭部に回したスタイルで――

 

「ともかく、眠り薬をかがせてこの状態だ。弱い薬だからすぐに目を覚ますと思うけどよ」

 

「で。どなたかしら、このご婦人は」

 

 チラリとハメシハを見るカーシャ。

 

「リビィ、どうして……」

 

 ハメシハはベッドへすがりつくように膝をつき、声を震わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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