破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その114、きみは虜囚か姫君か-31 相談事

 

 

 

 

 

「つまるところ……」

 

 と。

 ゴトクは両手を腰に当てたかっこうで振り返り、

 

「ある意味で、このオバチャンも被害者っていえば被害者だ。」

 

 眠る女性を見ながら、若干気の毒そうに言った。

 

「だから、この女はなに? いえ……」

 

 カーシャは自分の青い髪をさわりながら、

 

「おおかた、ガッコイ家の乳母かなにかでしょうけどね」

 

 ハメシハの背中をつまらなそうに見ている。

 

「そのとおりだよ」

 

 ゴトクはうなずいた。

 

「このオバチャンは、ハメシハ嬢の乳母をつとめていたひとだ。立派な働きぶりから評価も高い。ガッコイ家は給金の他に、色々とボーナスやら援助をしていた。あってるかね?」

 

「ええ……。おっしゃるとおりですわ」

 

 ハメシハは立ち上がり、静かな瞳でゴトクを振り返る。

 

「猫のゴトク。あなたは我が家のことをお調べになったようですね、それなりに」

 

「こっちも仕事だし。罪科(つみとが)のない娘の命にも関わってたことだ。気を悪くするなとは言わんけど。そこは飲み込んでくれ」

 

「それも、承知しております」

 

「けっこう。では話していくが……。暗殺を依頼したのは、このひとだよ」

 

 静かで穏やか。

 しかし、容赦のない言葉。

 

「ンなことして、このオバチャンに何の得があるんだよ?」

 

 マコネが、疑問と呆れを混ぜ込んだ声で言った。

 

「健気な忠心。そんなところかしら? 主家のために自腹を切って、罪人になってまで。良い話ではあるわねえ?」

 

 浅はかではあるけど。

 

 カーシャは淡々と、つぶやくように言った。

 

「それ、本当にいい話ですか……?」

 

 バッキーは顔をしかめて、首をかしげる。

 

「まあ? 古臭い田舎芝居みたいな話でもあるわ。もっとも、標的がアレじゃあねえ?」

 

カーシャは、つまらなそうに乳母の寝顔を見る。

 

 ゴトクは続けて、

 

「ガッコイ家に良くしてもらったおかげで、なかなかの貯えもできた。息子夫婦に財産も残せた。もうすでに、生前贈与もすませてるようだ」

 

「変だと思われなかったのかよ、そんなんして」

 

 マコネの言葉に、

 

「思われてたよ。当たり前だわな。だから調べるのは簡単だった」

 

 ゴトクがそう言うと、ハメシハは一瞬目を伏せた。

 瞳に、ひどく悲しい色を浮かべてーー

 

「弁護するなら……。このヒトも、普通の状況だったらまずこんな真似はしなかっただろうね」

 

 ゴトクはガリガリと頭を掻いて、

 

「時に執事さんや? お前さん、だいぶお体が悪いようだね」

 

「……クロード?」

 

 ハメシハは跳ねるように顔を上げ、執事を見る。

 

「お前さんも、ガッコイ侯爵と同じく長年の過労でだいぶ体を痛めつけたようだ。正直、あまり長くはないだろう」

 

「……!?」

 

 ハメシハは息を飲む。

 

「誤魔化すために、かなり強い薬を使ってるようだな。魔法の技を使ったやつだろう。だが――」

 

 それで余計に寿命を縮めてるぜ?

 

 ゴトクは、困った顔で執事を見る。

 

「……まいりましたな。こんな恥を知られてしまうとは」

 

 執事は照れ臭そうに苦笑した。

 

「恥ですって!?」

 

 ハメシハは、声を張り上げて執事を睨みつけた。

 瞳にうっすらと涙を浮かべながら。

 

「それが恥というのなら、あなたに、リビィにそこまでさせてしまった我が家は、いえ……わたくしはどうなのです!? それこそ、恥知らず……厚顔無恥もいいところだわ!!」

 

「まあまあ」

 

 ゴトクは、両者に割って入る形で、

 

「自分で火をつけといて恐縮だが、まあ落ちつきなさい。そういきりたってちゃ話もできない」

 

「どの口が言ってるんだか……」

 

 つまらなそうに言ったカーシャへ、

 

「だからさ? 恐縮だと言ってる。それはさておき。執事さん、いや、クロード・ガシャ。あんたは長年ガッコイ家を支えてきた功労者だ。で、同じく支えてきたこのヒトも、それは間近で見て知ってる……」

 

 ゴトクは苦笑してから、ベッドの女性を見る。

 

「だから、何となく察しただろうな。あんたが長くないことを」

 

「……そうなのでしょう」

 

 老執事クロードは悲しそうに答えた。

 

「現在のご当主も長くない。それを支えるあんたも長くない。とすれば、こちらのハメシハ嬢はほぼひとりでガッコイの家、そして領地を治めていくことになる」

 

「そんなこと、すでに覚悟は決まっております」

 

 射抜くようなハメシハの視線。

 ゴトクはそれに感情を抑えた目つきで、

 

「そうだ。現状だって、あんたはお父上の代理を務めることさえある。お世辞抜きでも、才覚と器を持ったおひとだよ。だがな……。それでも全部を背負ってたわけじゃない」

 

「……何がおっしゃりたいのでしょう」

 

「今だって相当に無理をしてるってことさ。それでも何とかできるかもしれん。だが、いずれはお父上や執事さんの二の舞になる。つまりは体をぶっ壊すってことだよ」

 

「つまり、過労で死んじゃうかも……と、いうことですか?」

 

 バッキーが、おずおずと言った。

 前世の嫌な記憶を刺激されながら――

 

「まあ、そういうこったね。フォイアー家と結ばれれば、ガッコイの領地はフォイアー家に吸収される。表向きはな。しかし、実質的には共同経営って感じだろうよ……」

 

 ベルツ伯は傑物だが……。

 いきなり転がり込んだ領地をうまくさばけるのかといえば? 

 難しいところだな。

 下手すりゃ大火傷になる。

 さて、そうなれば勝手知ったるハメシハ夫人の力を借りるしかない。

 

 と。

 ゴトクは少しばかり皮肉な笑みで、

 

「むしろ現状のワンマン統治は、けっこうしんどいと見たがね? 伯爵殿」

 

「見てきたようなことを言うのだな、はぐれエルフ」

 

「実際見てきましたよ、領地のあちこちをね。それだけで、伯の見事な手腕がわかる。しかし、ちょいと裏の事情を見れば、さっきも言ったとおりのワンマン統治だってのがわかる」

 

「ふうん、なるほど。それはさぞ、ストレスがたまることでしょうねえ」

 

 カーシャは、両手を広げておどけるような仕草。

 横目で、ベルツをあからさまに見ながら――

 それはまるで……。

 下手くそな犬の芸でも見るような視線だった。

 

「何が言いたい」

 

「まあ、おそらく。あなたが死ねば領地は一瞬で混乱に落ち込むでしょう」

 

 肩をすくめて、カーシャはわざとらしい同情の顔。

 

「そのへんは、おふたりで相談なさるこったがね」

 

 ゴトクは金髪を掻きながら、

 

「さしあたっての問題は、このおばちゃんをどうするかだ。ただまあ、それも」

 

 おふたりでご相談なさることだわな。

 

 そう言って、話を締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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