破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「つまるところ……」
と。
ゴトクは両手を腰に当てたかっこうで振り返り、
「ある意味で、このオバチャンも被害者っていえば被害者だ。」
眠る女性を見ながら、若干気の毒そうに言った。
「だから、この女はなに? いえ……」
カーシャは自分の青い髪をさわりながら、
「おおかた、ガッコイ家の乳母かなにかでしょうけどね」
ハメシハの背中をつまらなそうに見ている。
「そのとおりだよ」
ゴトクはうなずいた。
「このオバチャンは、ハメシハ嬢の乳母をつとめていたひとだ。立派な働きぶりから評価も高い。ガッコイ家は給金の他に、色々とボーナスやら援助をしていた。あってるかね?」
「ええ……。おっしゃるとおりですわ」
ハメシハは立ち上がり、静かな瞳でゴトクを振り返る。
「猫のゴトク。あなたは我が家のことをお調べになったようですね、それなりに」
「こっちも仕事だし。
「それも、承知しております」
「けっこう。では話していくが……。暗殺を依頼したのは、このひとだよ」
静かで穏やか。
しかし、容赦のない言葉。
「ンなことして、このオバチャンに何の得があるんだよ?」
マコネが、疑問と呆れを混ぜ込んだ声で言った。
「健気な忠心。そんなところかしら? 主家のために自腹を切って、罪人になってまで。良い話ではあるわねえ?」
浅はかではあるけど。
カーシャは淡々と、つぶやくように言った。
「それ、本当にいい話ですか……?」
バッキーは顔をしかめて、首をかしげる。
「まあ? 古臭い田舎芝居みたいな話でもあるわ。もっとも、標的がアレじゃあねえ?」
カーシャは、つまらなそうに乳母の寝顔を見る。
ゴトクは続けて、
「ガッコイ家に良くしてもらったおかげで、なかなかの貯えもできた。息子夫婦に財産も残せた。もうすでに、生前贈与もすませてるようだ」
「変だと思われなかったのかよ、そんなんして」
マコネの言葉に、
「思われてたよ。当たり前だわな。だから調べるのは簡単だった」
ゴトクがそう言うと、ハメシハは一瞬目を伏せた。
瞳に、ひどく悲しい色を浮かべてーー
「弁護するなら……。このヒトも、普通の状況だったらまずこんな真似はしなかっただろうね」
ゴトクはガリガリと頭を掻いて、
「時に執事さんや? お前さん、だいぶお体が悪いようだね」
「……クロード?」
ハメシハは跳ねるように顔を上げ、執事を見る。
「お前さんも、ガッコイ侯爵と同じく長年の過労でだいぶ体を痛めつけたようだ。正直、あまり長くはないだろう」
「……!?」
ハメシハは息を飲む。
「誤魔化すために、かなり強い薬を使ってるようだな。魔法の技を使ったやつだろう。だが――」
それで余計に寿命を縮めてるぜ?
ゴトクは、困った顔で執事を見る。
「……まいりましたな。こんな恥を知られてしまうとは」
執事は照れ臭そうに苦笑した。
「恥ですって!?」
ハメシハは、声を張り上げて執事を睨みつけた。
瞳にうっすらと涙を浮かべながら。
「それが恥というのなら、あなたに、リビィにそこまでさせてしまった我が家は、いえ……わたくしはどうなのです!? それこそ、恥知らず……厚顔無恥もいいところだわ!!」
「まあまあ」
ゴトクは、両者に割って入る形で、
「自分で火をつけといて恐縮だが、まあ落ちつきなさい。そういきりたってちゃ話もできない」
「どの口が言ってるんだか……」
つまらなそうに言ったカーシャへ、
「だからさ? 恐縮だと言ってる。それはさておき。執事さん、いや、クロード・ガシャ。あんたは長年ガッコイ家を支えてきた功労者だ。で、同じく支えてきたこのヒトも、それは間近で見て知ってる……」
ゴトクは苦笑してから、ベッドの女性を見る。
「だから、何となく察しただろうな。あんたが長くないことを」
「……そうなのでしょう」
老執事クロードは悲しそうに答えた。
「現在のご当主も長くない。それを支えるあんたも長くない。とすれば、こちらのハメシハ嬢はほぼひとりでガッコイの家、そして領地を治めていくことになる」
「そんなこと、すでに覚悟は決まっております」
射抜くようなハメシハの視線。
ゴトクはそれに感情を抑えた目つきで、
「そうだ。現状だって、あんたはお父上の代理を務めることさえある。お世辞抜きでも、才覚と器を持ったおひとだよ。だがな……。それでも全部を背負ってたわけじゃない」
「……何がおっしゃりたいのでしょう」
「今だって相当に無理をしてるってことさ。それでも何とかできるかもしれん。だが、いずれはお父上や執事さんの二の舞になる。つまりは体をぶっ壊すってことだよ」
「つまり、過労で死んじゃうかも……と、いうことですか?」
バッキーが、おずおずと言った。
前世の嫌な記憶を刺激されながら――
「まあ、そういうこったね。フォイアー家と結ばれれば、ガッコイの領地はフォイアー家に吸収される。表向きはな。しかし、実質的には共同経営って感じだろうよ……」
ベルツ伯は傑物だが……。
いきなり転がり込んだ領地をうまくさばけるのかといえば?
難しいところだな。
下手すりゃ大火傷になる。
さて、そうなれば勝手知ったるハメシハ夫人の力を借りるしかない。
と。
ゴトクは少しばかり皮肉な笑みで、
「むしろ現状のワンマン統治は、けっこうしんどいと見たがね? 伯爵殿」
「見てきたようなことを言うのだな、はぐれエルフ」
「実際見てきましたよ、領地のあちこちをね。それだけで、伯の見事な手腕がわかる。しかし、ちょいと裏の事情を見れば、さっきも言ったとおりのワンマン統治だってのがわかる」
「ふうん、なるほど。それはさぞ、ストレスがたまることでしょうねえ」
カーシャは、両手を広げておどけるような仕草。
横目で、ベルツをあからさまに見ながら――
それはまるで……。
下手くそな犬の芸でも見るような視線だった。
「何が言いたい」
「まあ、おそらく。あなたが死ねば領地は一瞬で混乱に落ち込むでしょう」
肩をすくめて、カーシャはわざとらしい同情の顔。
「そのへんは、おふたりで相談なさるこったがね」
ゴトクは金髪を掻きながら、
「さしあたっての問題は、このおばちゃんをどうするかだ。ただまあ、それも」
おふたりでご相談なさることだわな。
そう言って、話を締めくくった。