破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
またもや反省の多いものになりました……。
「まあ……。終わってみれば――屁みたいな結果だよなあ」
テーブルに両肘を突き、マコネは呆れたように言った。
今や常連客になっている喫茶店。
オープンテラスで、2人は会話していた。
その横で――
バッキーは2人の会話を半分聞き流しつつ、
――あ。美味し……。
ヤギのミルクと砂糖が入ったコーヒーを楽しんでいた。
さっきまで、わりと大勢のケガ人を治療してきたばかり。
――しかし、ギルドの兵士ってのはハードなんだなあ……。
ギルドが行った大型モンスターの討伐。
これが予想外に苦戦して、大勢のケガ人が出てしまった。
そういうわけで。
バッキーも助太刀の参加を要請され――
とにもかくにも……。
治癒魔法を連発することになった次第。
――何度も思うけど……。ヤオアムトって何か異世界ファンタジーっぽくないよね。ネットやテレビがないのが不自然なくらい……。
そんなことを思ったりもする。
――まあ? この国は文化も文明もハイレベル? らしいから……。
一方で、
「そうね」
マコネの声にカーシャは新聞に目を向けたまま言った。
どうでも良さそうな声で。
「あの乳母は結局ガッコイ領から所払い、永久追放。フォイアー領にも居住どころか進入禁止」
「けどあっちから出向いてくのは自由なんだろ?」
「でしょうね」
「やったこと考えりゃ、首チョンパか、逆さ吊りにされるレベルじゃねーの? いくら正式な国民だからって温情つうか
「そのへんはテキトーに誤魔化したんでしょ」
「良いのかね、それで」
「代わりに預けられた領内では死ぬまで監視されるわ。何かあれば即座に処分されるし。それに……」
「……家族も訪ねては行きづらいし、オバハンだって来てくれとも言えないか」
「そんなところでしょう」
「とはいえさ。あのオバハンが二度も大それたことするたぁ思えないけど」
「だったらそれで良いんじゃない? 知らないけど」
「預けられたほうは災難だなあ」
「どうかしら。相応のものはもらってるでしょ」
「まあ、そうだろうな」
「私も、口利きの代金としていくらかお土産をいただいたけどね」
カーシャは、淡々とどうでも良さそうに言った。
「ふーん」
マコネも薄い反応。
――いくらか、って金額じゃないだろうが……。このヒトはなあ?
カーシャという女。
元々金銭欲はない。
稼ごうとすれば、いくらでも稼げる。
――大型モンスターの2~3匹も叩き殺せばいいんだからな。ま、それがあっさりできるってのが、マトモじゃねえんだけど。
マコネは軽く息を吐いた後、
「だけど、あの連中どうすんのかね。いや、もうおいらたちの知ったことじゃないけどさ?」
「さあね」
カーシャは読み終えた新聞をたたむ。
「どっちが追い出されるか、逃げ出すか。それとも、女同士の喰い合いが始まるのか……」
それはわからないけど。
まあ、血を見る可能性も無くはない、かしら?
お茶のカップを取りながら、青い乙女は肩をすくめる。
「そうですかね……?」
コーヒーの味と香りを楽しんでいたバッキーは、独り言のように言った。
「ん?」
マコネはその言葉に振り返り、
「何かあるのか? そういう確信みたいなのがさ」
興味本位でたずねる。
「確信はないっていうか、ハッキリとはわかりませんけど……」
バッキーはコーヒーを一口飲んでから、
「でも――」
イセンサとハメシハとの、初対面の場。
そこに、バッキーはほぼなし崩しで同席していた。
どうも、
「イセンサ嬢の頼み。それもたっての……」
と、いうことだったらしい。
「あのヒトの、イセンサちゃんを見る目はどこか優しかった気がするんです」
「はあ。そうなん?」
マコネは首をひねりつつ、
「おいらは直接見てないから、何とも言えんけど」
チラッとカーシャを見る。
「そうね。確かに、殺気とか敵意はなかったわね」
カーシャはあやとりをしながら、バッキーに同意した。
彼女もそこに同席はしていた。
これは別に頼まれたわけではない。
単なる野次馬である。
敵意とか殺意。
そういうものはすぐわかるが、
――善意とか好意っていうのは、どうにもね。
後日。
「――まあ、縁談は進みだしたようだな。うまくいったとも言えるか」
バッキーがそれを聞いたのは、魔法の訓練中。
指導を受けるためにゴトクのもとを訪れた時だった。
「いったんですか、うまく」
「ああ」
「良かった」
バッキーは正直な感想を、率直に言った。
「けど。そうなっちゃうとイセンサちゃんは」
「まあ。同居する側室ってことになるわな。珍しい話でもないが、どこでもここでもある話でもない」
どれだけ合理的に考えても――
感情面ではな……。
ゴトクはバッキーと話しながら、
――何か修理? してる?
のだった。
視線もそちらに向けられている。
――それでいて、こっちにも向こうにも支障がないんだからなあ……。
バッキーは感心と同時に呆れたが、
「ガッコイの侯爵家やら領地を調べた時にわかったが……。ハメシハ嬢は子供の頃、妹を亡くしてるようだ。そこらへんが理由かもな」
「妹さん……」
「ああ。モンスターに襲われた時、傷がもとで亡くなったらしい」
「それは……」
「相当複雑な心境だった、だろうなあ」
「ですよね」
うなずいた後バッキーは、
「あのおばさんはどうなってるんですかね?」
「質素にひとり寂しく暮らしてるとよ。いっそ首切られてたほうがマシだったかもしれねえよ」
「……」
バッキーは静かにため息を吐き出した。
罪は罪。
やってしまったことは、重すぎる。
――息子家族や長年仕えてたお嬢様からも切り離されて、孤独な老後かあ……。
「かといって。首でもつったらイセンサ嬢に恩を仇で返すことになる。あそこまで減刑されるのに四苦八苦してたからなあ」
「それだけ、大事に思ってたんでしょうか。そうなんでしょうね」
「らしいなあ」
ゴトクは修理を終えたらしく、いじっていた道具をしまい始める。
「非常時以外は手紙も送れないそうだから、かなりのもんだわ」
「それもダメなんですか。いえ、そうかもしれません」
バッキーは、またもため息。
「さて――今日の訓練はこんなもんだろう。俺はでかける」
ゴトクは立ち上がり、
「この後、その哀れなオバチャンに差し入れなんぞ持ってくからな」
「え。ゴトクさんが」
「ああ。
そう言って――
猫のゴトクは金髪を掻いた。
次は番外編です