破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
番外にけっこう時間をかけてしまいました……。
その日――
ヒディチの街。
ヤオアムトにはどこにでもある、冒険者の多い辺境都市。
王都から離れた土地で、田舎と言えば田舎。
もっとも。
他国とつながる街道のルート上にあるため、
「そこそこの物やヒトは入ってくる……」
と、いう街だった。
その中を――
ケイゾは、道をプラプラ歩いていた。
キツネの耳とキツネの尻尾。
これが示す通りキツネの獣人族。
そして、元・流民の孤児。
今ではNランクの底辺冒険者。
主に冒険者ギルドの下働き。
雑魚モンスターの駆除で日銭を稼ぐ日々。
一般的なNランク冒険者とも言える。
金をためて装備を整え、どんどんモンスターを狩っていく。
そして、ランクを上げてのし上がる。
……というのが。
ケイゾが抱いていた冒険者イメージで――
が、しかし。
――なんかなァ?
一緒に流れてきた仲間、同郷。
その半数は、すでにリタイアしている。
といっても、
「冒険者をやめました」
「はい、今日から
とはいかない。
まず仕事もなければ身寄りもない。
おまけに……。
流民であるケイゾはヤオアムトの国籍がない。
国籍。
このへん、ヤオアムトは近隣諸国と比較しても、
「死ぬほど厳しい……」
そう同郷の誰かがこぼしていた。
国民でなければ、そこから得られる恩恵は一切ない。
当たり前と言えば当たり前の話だが――
裁判すら受けられないのだ。
ケイゾのような流民が罪を犯した場合。
待っているのは裁判ではない。
「良くてギルドの制裁。悪ければ
……である。
そもそも基本として――
流民や移住者は、『冒険者』としてギルドに一括管理される。
もし登録しなければ、
――日雇い仕事すら回してもらえないんだよなあ……。
税金だけはしっかり取られるのに……。
と。
ケイゾはため息。
さらに――
装備を整えたところで、モンスターは簡単に狩れない。
死肉転がしやスライムならともかく。
ほとんどのモンスターは普通の獣みたいに逃げない。
むしろ積極的に襲ってくる。
そうなると、
――狩りじゃなくって殺し合いだもんね……。
それでも冒険者稼業が成り立っているのは、
「本当に危険で有害なモンスターは、ギルドナイトが率先して駆除している」
からである。
冒険者たちの戦いは、害獣・害虫駆除。
あるいは、
「流民への職業斡旋、公共事業だわな――」
などと。
知り合いの魔導士が言っていた。
「あるいは、
「ま、まびき?」
「その通り――」
適応できるヤツ
分際をわきまえられるヤツ。
そのへんはまあ、生き残れる。
少なくとも、その可能性は大きくなる。
けど、できないヤツは……。
死ぬわなあ、遅かれ早かれ。
ケイゾに、魔導士は笑ってそう言った。
「死にますか」
「のたれ死ぬか。
どっちかだろうなぁ。
あの時見た魔導士の顔。
それは、未だに忘れられない。
――ありゃあまあ……。その通りだったんだなあ。
『個人経営』でやっていける。
かつ、利益を出せる。儲けられる。
少数の上澄みが、生き残っていく中――
そうでない連中は、
「入って初日でやめたくなる」
「3日後には逃げたくなる」
「10日後にはあきらめる」
などと言われる、ギルドナイトの歩兵になる道。
わりと多くがそれを選ぶ。
ナイトといっても……。
正式な騎士爵を持つのは指揮官クラスだけ。
本部の上級幹部であるミゾイ・シーダですら、従士。
従士。
位置的には騎士爵の下。
これは功績を認められた平民に授与される一種の名誉称号。
社会貢献を評価された富裕層が多い。
そのため……。
下手な騎士よりも良い暮らしをする者も多い。
さて。
では歩兵たちはどうかと言えば、
・安い給料。
・過酷な訓練。
・それ以上に厳しい『軍規』。
ただ。
それでも、
「一定の給料は保証されてるしなあ?」
「おれぁもと職人だったから、そっちのほうへ回された。あんがい良いよ?」
「料理が好きだったから、気がついたらそっちのほうへ、ね……」
「全員が全員モンスターやら盗賊と真正面、ってわけでもないしな」
「まあ、なんでも屋だなあ?」
「けど。半分、国軍の予備みたいなもんだよ」
そういうことらしかった。
地道。
手堅い。
こういった利点もある。
しかし、
――キツいもんはキツいか……。
自由さという部分では、冒険者のほうが大きい。
うまくすれば、稼げる。
SRのようなトップクラスでなくても、
「パーティーの編成」
これ次第でなかなか稼ぐ連中もいることはいる。
そんな――
とりとめもない考えの中だった。
「――そこの子ギツネさん」
「へ?」
きれいな声がケイゾを呼び止めた。
美しい、上等の楽器を熟練の楽師が奏でるような――
振り返った時、
――う。
ケイゾは絶句し、金縛りにあった。
魔法や薬を使われたわけではない。
ただ。
相手の雰囲気、目つきだけでそうなってしまった。
――ドラコサイダー……!?
単独、あるいは少数でドラゴンを倒した者。
最強のモンスターを討伐したその強者は、
「
そう呼ばれ、国からその称号を与えられる。
当然、正式な称号を授与されている。
しかし……。
彼女――カーシャ。
その戦いぶりは、殺すとか打ち負かすとか、そんな生易しいものではない。
最強と恐れられ、恐怖や破壊、あるいは強さの象徴となるドラゴン。
カーシャはそのドラゴンを、虫けらのように殺戮していた。
何匹も、何匹も――
ここから。
とある貴人
「
――なんだよ、これ……。ホントに、この世の生き物か……???
すぐ目の前。
そういった状況で確認すると、嫌でもこの女の異常性がわかった。
「
「へ?」
予想外の言葉。
ケイゾはそれに目を丸くした。
ヒディチを流れる河。
ケイゾはその石橋の真ん中あたりに立っていた。
手には、そのへんで拾った小石。
それを落とすと、水面にポチャンと沈む。
――これ、どういう意味があるんだ???
わからない。
理解不能の仕事内容に、ケイゾは得体の知れない気分だった。
カーシャから、
明日の正午。
街の中心にある一番大きな石橋。
そこから、小石を落とせ。
ただ、これだけ。
「あの、それってどういう意味が……」
「黙ってやればいいの」
そう言って――
カーシャは数十枚の高額紙幣を渡してきた。
「あのう……」
「言っておくけど」
とまどうケイゾに対して、
「きちんとやり遂げなかった場合」
あなたは、とても不幸な死に方をするかもしれないわね?
と。
その美しい目を細めた。
死刑宣告にも近い言葉。
もはや、何も言えることはなかった。
「そういやさ?」
後日。
ネビズへと帰ってから、
「姐さん、ヒディチで知らねーヤツに金渡してたけど。何かやらせたのかい?」
「まあ、そうね」
カーシャは簡潔に、『依頼内容』を説明した。
「それって、どういう意味があるんだよ」
「別になにも」
「え」
「だからなんの意味もないわ」
「いや、え? どーしてそんなことしたんだ???」
理解できないマコネに、
「だから意味はないの。あの子ギツネがどう受け取るか、それは知ったことじゃないけど」
意味もなく、おこづかいをあげるよりは……。
面白いんじゃないの?
たぶん。
と。
カーシャは手を動かし続けながら答えた。
手にしているのは、彫刻刀。
なにやら、像のようなものを作っているらしい。
「たぶんって……」
淡々とした態度と物言い。
そんなカーシャに、マコネは呆れるしかなかった。