破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「はえ~~……。すっごい……」
その光景を遠目に見ながら、バッキーは感嘆の声。
大勢が行き交いする巨大な市場。
取り扱われるのは、全て魚介類。
「港町ってのは、初めて来たなあ」
隣では、マコネが同じような顔で市場の様子を観察していた。
活動している者たちの動きや声。会話。
それに運ばれていく商品たち。
特に目的があるわけでもないが、
――色々見聞きしとくのに、損はねーからな?
なのだった。
「シー・ポープ?」
資料を見てから、カーシャはギルドマスターを見る。
「はあ、まあ。そういうわけなんです」
「シー・モンクなら聞いたことあるけど――」
イカとエイの
「
「はあ。ご察しの通りそれだけ厄介なわけですな」
ギルドマスターはちょっと視線を落として、頭を掻く。
「まあ、クラーケンや海棲のドラゴンよりはマシですがね」
「おんなじことを何度も聞いて恐縮だけど、軍にやらせないの?」
「陸でもそうですが、海軍も航路の安全確保で……」
「海軍は大変ねえ?」
「……の、ようですね。海にダンジョンはわかない、という説もありますが。陸に負けず劣らず危険なモンスターは多いわけですし」
ギルドマスターは苦笑しながら
「そういうわけなので、あなたにお頼みしたいんですよ」
「ああ、そう」
こういった経緯で――
カーシャは港で船を見ていた。
マハリ。
ヤオアムトで最大の港町。
海軍の基地も隣接しており、街自体の防備も堅い。
――魔導船か……。
魔導船。
文字どおり、魔導技術を用いて造られた船。
外見も性能も多種多様。
漁船から軍艦、小型ヨットまである。
現在カーシャが見上げているのは、帆船型。
――見た目は、クラシック。ほとんど骨董品。どころか、文化遺産ものだけど。
機能・内装はまるで違う。
後でバッキーは、
――地球のヤツより、高性能じゃない???
と、驚愕することになる。
「今回のクエストで使用する船です。名前は〝赤エイ号〟」
カーシャの横に立つ女が言った。
黒に近いグリーンを、動きやすいショートヘアにしている。
美人。
若くはないが、中年でもない。
ピンと背筋の伸びた、いかにも〝しっかり者〟という雰囲気。
ジョナ・イーゲン。
冒険者ギルドのマハリ支部長。
「船のことはわからないけど、なかなか上品ですわね」
「ええ。何しろうちの支部における、『顔』ですから。一応、ですが」
「顔?」
「ええ。うちの戦力というか、そういうものの象徴です。もちろん乗員も腕利きを集めました」
「それはそれは」
「今回のクエストはかなり面倒です。余計なことでしょうが、ご注意を」
「なるほど。確かに、私も海のクエストは初めてですわねえ」
「初めて?」
「ええ。まあ、所詮は死ねばそのまま……の、冒険者稼業。ご心配なく」
「――そうですか」
ジョナは少し咳払いをしてから、簡単に赤エイ号の説明をする。
「魔導船は基本的にそうですが……」
「潜水能力を持ち、水中戦闘を想定して設計されています」
「加えて――
「モンスターを追い払う機能と」
「モンスターから身を隠すステルス機能を備えています」
「目標を見つけるまで、無駄な戦闘を避けられるはずです」
「船内には、乗員を保護、あるいは船体に固定する装備が常備されています」
「緊急や戦闘で使う装備もありますよ」
「主なものは……」
「簡易型ですが、水中特化型の魔導アーマーですね」
「正直なところ、もっと良いものが欲しいのですけれど、何分にも予算が……」
「さらに」
「最大で1キロ圏内なら水中での五感、そして呼吸の補助を行う魔導装置もあります」
「ただし」
「これは広範囲になるほど、持続時間が短くなるので注意してください」
などなど……。
少し黒目勝ちのギルド支部長は、熱心に語った。
やや早口で――
そして、3日後。
カーシャたちのパーティーは、赤エイ号でマハリを出港した。
「……速い」
船の速度に、バッキーは驚いていた。
動きはスムーズ。
まるで生き物みたいに海上を進んでいく。
――まあ、そっか。普通? の帆船じゃないもんね。
いくつかの部分では、地球以上の技術を持つ国。
そんな場所にいることを思い出しつつ、ため息をついていた。
一方。
カーシャはと言えば――
「あら」
クエストに同行する冒険者たちを見て、首をかしげた。
馬面をした背の高い中年男・ジロ。
黒髪で
「妙に縁があるわね」
「いやあ、ご一緒ちゅうのは心強い限りですわ」
「あなたが主力なら、こっちは自分と船のことに専念できますね」
ちょっと照れているジロ。
三角帽子をかぶり直すネイテク。
「それで。こちらは初めてと――」
カーシャは、もうひとりの冒険者を見た。
若い。
少なくとも二十代半ばを超えていないだろう。
ブルネットの髪。黒い瞳。
細身に近いが、引き締まったしなやかな体格。
――育ちは良い……。貴族、あるいは……。
王族かもしれない。
カーシャは、男の整った顔を見ながら推測する。
無精ひげがあるが、さほど濃くはない。
服装も、よくある下級ランク冒険者。
しかし。
汚れ気味の顔は荒くれ者という雰囲気ではなかった。
服装を少し変えれば、なかなかの美青年となるだろう。
――武術と魔法。
「お初にお目にかかります。ジェリフという未熟者で……。ついこの間HRになったばかりですが」
「そうですか。精悍な殿方とご一緒できるなんて、光栄ですわね」
カーシャは目を細めた。
磯風になびく青い髪を掻きあげながら――
「……ご冗談を」
ジェリフは苦笑して、身を低くした。
「……」
「な、何か?」
「いえ。なぜでしょうね。あなたには、少しだけ親しみ……いえ? 似たようなものを感じるので」
「まさか――」
青年冒険者は自嘲気味に笑う。
「ドラゴンスレイヤーのあなたと自分では、天と地ほどの差がありますよ」
「どうかしら」
カーシャは肩をすくめてから、
「クエストではお互いに励みましょう。死なないようにね」