破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その115、子守唄を海に流せ-3 ふるさとについて

 

 

 ジロとネイテクの視線。

 それに、

 

「いや。すまない。邪魔をする気はなかったんだ」

 

 ジェリフは照れ笑いをしながら、部屋を後にした。

 

 この時、

 

「うん。まあ、嫌いなもんちゅうか……。地雷は誰にでもあるわなあ」

 

「まあ人生は色々ですからねえ」

 

 ――気にするな。

 

 そんなニュアンスのこもった返事。

 

「ありがとう」

 

 ジェリフは振り返り、軽く手を振って応えた。

 

 

 ・  ・  ・

 

「……」

 

「……」

 

 マコネとバッキーは無言でカーシャを見ていた。

 

 青い髪の、龍の虐殺者(ドラコサイダー)と呼ばれる女は甲板に寝転がっている。

 大の字だ。

 

「あのさー」

 

 しばらくして――

 マコネはあきれ顔で声をかけた。

 

「なに?」

 

「いや、なにって。何してんのさ」

 

「寝転がってる」

 

「見たまんまかよ」

 

「初めてだからね、こういうのは。好奇心よ」

 

「船に乗るのが、ですか?」

 

 バッキーがたずねれば、

 

「いえ。こうして、船で沖合まで出るのが。船上パーティーには何度か出たわ。でも、湖や港に停泊したものばかりで……」

 

 こういう船旅は初めて。

 

 カーシャは語りながら、空を見ている。

 雲。太陽。風。潮の香り。

 

 ――良いのか悪いのか。

 

 まあ。

 自分の場所……。

 少なくともふさわしい場所ではないかもねえ?

 客観的事実として……。

 どうでもいいけど。

 

 そんなことを思いつつ、少し視線を動かす。

 

 離れた場所で、あの若い冒険者が海を見ていた。

 心、ここにあらず。

 そんな表情で、海を見つめている。

 カーシャたちにも、気づいていないようだ。

 

 ――ジェリフ、とか言ったかしら? 本名ではないのかもね。やっぱり、どこか違和感がある気がするわ。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 海の香りと、音。

 その中に、あの歌が混ざっているような気がした。

 

 懐かしくも忌まわしい歌だ。

 

 アレは、いつの記憶だったのか?

 眠りの中で聞いた歌。

 

 子守歌。

 故郷に古くから伝わっているもの、らしい。

 

「お母上は、貴方様のために毎日歌っておられたのですよ」

 

 乳母はそんなことを言っていたか。

 

 ――嘘だ。

 と。

 あの時、あの幼い頃は思った。

 声に出して否定もしなかったが。

 

「そう」

 

 などと、可愛げのない返事をしたかもしれない。

 

 今にして思えば、

 

 ――まあ多分本当なのだろう。

 

 とも思う。

 

 だが、

 

 ――ヒトの心は、変わるからな。

 

 そう思い、

 

 「ふ」

 

 若者は、ひとり自嘲する。

 

 

「後継者は、**とする」

 

 

 病の床で父は、はっきりとそう言い残した。

 それが遺言になったわけだが……。

 

 ――まさか。

 

 いくらなんでも、予想外の言葉。

 

 あの時……。

 ジェリフは悪い冗談みたいな気分だった。

 

 長子である自分ではなく、まだ8歳の妹を跡継ぎとする。

 他のことなら、まだ理解できた。

 父も母も、とにかく妹を溺愛していたのだから。

 

 だから。

 妹に多くの財産を残すとか、有利な立場にするとか。

 そのあたりならば、飲みこめたのだ。

 

 だが、

 

 ――しかし、まさか。そこまでするとは……。

 

 怒るよりもあきれ果ててしまった。

 

 確かに妹には好かれやすいというのか、そういう魅力がある。

 大勢が味方したくなる、そういうキャラクターなのだ。

 神輿(みこし)としても、持ち上げやすい。

 

 ――とはいえ、それとこれとは話が違うだろう?

 

 この遺言は波紋を呼んだ。

 納得できない者も大勢いたわけである。

 

 しかし。

 結果として、

 

 ――俺は負けた。

 

 どうやら?

 父は準備というか、死ぬ前に対策していたらしい。

 

 ジェリフはほとんど身ひとつで追われる身となった。

 

 ――我ながら、何ともブザマなもんだ。

 

 あの時……。

 今、()()を起こしても勝ち目はない。

 そう判断したから、逃げた。

 

 反論も言い訳もできない。

 見事なまでの敗走。

 認めるしかない。

 

 だが、負けたままで終わるつもりはなかった。

 

 暗く湿った憎しみと怒り。

 それがいつも心の奥で燃えている。 

 

 一矢報いる。

 たとえ死んだとしても。

 染み込んだ屈辱を消すには、それしかない。

 

 少なくとも、ジェリフはそう考え、思い極めている。

 

 

 ある意味では、故郷すらどうでもよかった。

 

 

 ――いっそ全てを焼き払うか。できるとしたら、やりたいのかもな。

 

 

 自分を否定し続けた国が、恐怖と苦痛の中で燃えて、滅んでいく。

 

 ――さぞかし、痛快なものだろうさ。

 

 ジェリフは、歪んだ笑みを隠すように口もとを左手で覆う。

 

 

 そのためには――

 

 

 金もいる。

 武力もいる。

 何よりもヒトがいる。

 

 全てをそろえるため、

 

 ――それには、冒険者しか……な。

 

 この国でジェリフは――

 国籍を持たない、素性の知れない他国人(よそもの)にすぎない。

 危険だが、一攫千金を狙える冒険者を選ぶしかなかった。

 

 ――最低でも、商売をするにしろ何にしろ、まとまった金が要る。

 

 そんな――

 暗い記憶と情念を頭に浮かべている中、

 

 ――……っ!

 

 ハッと、ジェリフは自分を見る視線に気づいた。

 

 ドラコサイダー・カーシャ。

 

 最高の美術品みたいな美形。

 その顔を一瞬凝視して、

 

 ――ああ、そうか。簡単なことだ。何で今まで……。

 

 彼女が頭から離れなかった理由。

 もちろん、その反則まがいの美貌もあるが、

 

 ――あの女性(ひと)も、同じなのかもなあ。

 

 親から見放され、国さえ追われたジェリフという敗者。

 カーシャの立場は、途中までよく似ている。

 

 そう。

 途中までは――

 

 ――英雄、ドラゴンスレイヤー、いや、ドラコサイダーか……。うらやましい、と思うのさえ傲慢だな。

 

 存在を認知しただけで、ゾッと震える。

 

 ――できることなら、あれくらいの強さが欲しいものだ……。

 

 ジェリフは、羨望の眼差しをカーシャに向ける。

 

 と。

 いきなりカーシャは立ち上がった。

 冷たい水色が、海を見ている。

 

 ――なんだ?

 

 空気がおかしい。

 それを感じ取ったジェリフは、警戒しながら周りの波を観察。

 

 すると、

 

<こちらへ、高速でモンスターが接近してきている! 各自、戦闘準備!!>

 

 甲板、いや船全体に警報が鳴り響いた。

 

 

 数分もしないうちに――

 

 甲板には冒険者たちが集合していく。

 

 カーシャのパーティー。

 そして、ジロとネイテク。

 最後にジェリフ。

 

 たった6人。

 

「よう考えると、たったこれだけかい」

 

 ぼやくジロ。

 

「戦力の大半は船自体の武装と、元からの人員。ミズ・カーシャ以外はおまけみたいなものですよ!」

 

 ネイテクが叫ぶ。

 

 そして。

 遠くの波間から、モンスターの大群が――

 ひとつの巨大な生き物みたいに、近づく姿が見えた。

 

 

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