破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
カーシャは、波の上を飛び跳ねていた。
潜っては跳ぶ。
跳んでは潜る。
同じことを繰り返す。
ただ、それだけ――
しかし。
見る見るうちに、モンスターは死体……。
いや、残骸となって海に消えていく。
――凄まじいな……。
ジェリフは、戦慄するばかりだった。
自分も船に近づくモンスターを魔法剣で迎撃するが、
――こういうのを、落ち穂拾いと言うのか。いや、ちょっと違うか?
モンスターは半数以上がカーシャに撃破されていく。
時には複数が一気にミンチと化していた。
海はモンスター……の血と肉で黒く染まっている。
――視界は悪いが……!
「***……!」
後ろで目を閉じ、杖をつかむヒーラー。
バッキーは、大規模な索敵魔法を展開させている。
一定距離近づいたモンスターは、目立つ光に包まれていく。
このため。
潜ってくるモンスターの動きもすぐにわかった。
「こういう使いかたがあったとはなぁ!!」
バッキーの横では、野良猫みたいな赤い髪の少女。
マコネというレンジャー職の少女が、弓を連射している。
弓を引き絞る方の腕。
そこには、変形したモンスターがくっついている。
こいつが、魔力を弓から矢へと流し込んでいるようだ。
魔力を帯びた矢は、意思を持つ生き物のようにモンスターへと命中していく。
それはもう、面白いほどに。
――こりゃあ、すごい……。
カーシャの非常識な戦闘力のせいで目立たないが……。
ふたりの能力もかなりの高レベル。
――今のランクは、
そんなことを考えているジェリフだったが、
「毎度毎度、カンベンしてくれやーーー!?」
大型の盾を構えた、フルアーマーのジロが叫んだ。
2メートル近い、盾というより鉄板みたいな代物。
その盾に向かってモンスターの遠距離攻撃が集中している。
ヒットするたびに、盾が爆発で揺れた。
モンスター……シーモンク。
イカとエイの
粘性を帯びた黒い塊。
それはもはや小型爆弾のようなもの。
――ひとたび食らえば……運が良くても動けなくなるか。
致命傷を免れても、爆発の衝撃は相当らしい。
――あの盾にはモンスターのヘイトを集める作用があるのか。
「しんぼうしてくださいよ、あなたも重要な役をしてるんだから!」
ジロの後ろで、ネイテクは魔法を使いながら叫ぶ。
「けど。いつおっこちても大丈夫だから安心してください!」
「そんなことできるか、アホゥ!」
「その気合があればいけますって」
「じゃかましわぃ!!」
――面白い連中だ……。
必死な戦闘の中。
フッと笑いたくなる。
ジェリフは攻撃に集中しながらも、少しだけ頬が緩んだ。
頭の隅で――
「シー・ポープ討伐だね」
冒険者ギルド・リキュール支部。
そこで受付と交わした会話だった。
「そいつは、確か」
「はあ。こういうヤツだね」
受付は真上のボードを指す。
その画面へ、モンスターの姿が映し出された。
ウツボの首とウミガメの胴体を持った
「サイズはだいたい10~15メートル。肉を溶かす毒のブレスを吐く。体のでかさと、場所が海ってのも厄介だけど」
「船がいるな」
「いや、このクエストでは船はギルドが用意する。相応の装備をしてな」
「だったらギルドでやればいいんじゃないか?」
「これでも、忙しいからね。どこもそうだけど、人手も金もかかる。おまけにこいつは防御力もあるからね。半端な武装だと余計に被害がデカくなるんだよ」
受付は苦笑した。
「なら、海軍がいるだろ。一番確実だ」
「海軍は、クラーケンだの海棲ドラゴンの警戒でもっと忙しいよ」
「それはどっちもレアなモンスターだろう? そう何度も……」
「出てきてからじゃ遅いんだよ」
受付は首を振って、
「俺がガキの頃、ケートスの幼体が港まで近づいてきてな。えらい騒ぎになった。ヒトもけっこう死んだなあ……」
ケートス。
海棲ドラゴンの一種。
クジラに似ているがイノシシみたいな牙を持ち、水のブレスを吐く。
水といっても、大量に、しかも強烈な勢いで吐き出される。
範囲は狭いが、それは津波に襲われるようなものだ。
「いくらドラゴンでも、幼体で?」
「幼体、子どもっつったって成長段階ってもんがある。人間の子どもだって、赤ん坊と3歳、3歳と6歳じゃ別モンだろ?」
「まあ、そうだな」
ジェリフは納得した。
乳飲み子と、自分で歩いて話せる6歳児。
どっちも子供だが、その差は大きい。
「6歳のガキだって虫けらを踏み潰すことは簡単なんだぜ?」
「なるほど」
ドラゴンからすれば、俺たちは虫けらか。
と。
ジェリフは苦笑するしかなかった。
「で、まあ……。その時は軍隊が出てきて始末したけどな。けっこうな被害が出たもんだ。金の損害だけでも……考えたくないな」
「だから嫌でも取りこぼしが出るか。陸も海も厄介なものだ」
「空もな。いつ気まぐれでドラゴン御大が飛んでくるのかわからない」
「わかったよ。それで報酬は」
「前金でこれだけ。後金はこうだね」
「ふうん。前金がもらえるのか」
「かなり危ないからな。準備やら身内に渡すやらで必要ってことだ」
「それを持って逃げたりは……できないか」
「当たり前だろ。冒険者はみんな、それつけられてるからな」
受付はジェリフの右手。
正確にはその甲部分、刻まれたギルドの紋章を指して、
「そいつがついてるってことは、見えない鎖と鈴がついてるのと同じだ。どこに逃げてもすぐにわかる。すぐに捕まる。後はまあ、地獄だな。見せしめで縛り首か、悪くすると『藁踊り』か」
「バカな真似はしないさ。ああいう死に方はしたくないからな」
ジェリフは肩をすくめる。
特製の油をしみこませた特製の藁。
これで包まれた者へ、生きたまま火をつける。
そのまま焼き殺されるわけだが……。
のたうち回るその姿から、いわく藁踊り。
――溺死とどっちがマシか。比べたくもないな。
ジェリフはゾッとしながらも、剣を振るう。
生きるため、糧を得るために。
そして。
恨み、憎む者たちへの、復讐のために。