破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
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ゾクリ、と。
ジェリフは、背中に冷たいものを感じた。
ぬらりとした、同時に氷みたいな冷たい毒蛇。
それが背骨の中を這いずってくような……。
――……これは。
<シー・ポープ接近を確認した! 各自戦闘準備!!>
船内に響く新たな警報。
バシャ
「う」
ジェリフは、わずかにうめいた。
いきなり、顔に飛び散って来る水。
それは海水だけではなく、
――血と、肉……。
粉砕されたモンスターの残骸がたっぷりミックスされたもの。
少し離れた場所には、ずぶ濡れのカーシャが立っていた。
――さっき着地したのか。それで、
今気づいたが、カーシャは素手。
つまり、今までそれでシーモンクたちを叩き潰していたらしい。
「すごいな、あなたは……」
引き込まれるように――
ジェリフはカーシャに近づいて、言った。
心からの、称賛。
「いったい、どんな鍛錬を積めばそこまで……」
「……」
カーシャはキョトンとして、子どものような視線を返してきたが、
「慣れよ」
「な、慣れですか……?」
「そう。慣れ。数をこなしていけば、嫌でも慣れる」
殺し合いを重ねれば、殺しかたは自然におぼえるわ。
と。
カーシャは淡々と語って。
まるで、当たり前のことみたいに。
「それは……」
理屈としてはそうなのだろう。
だが、容易にできることではない。
――殺す……ではなく、
モンスターを、敵を殺す。
そんなことも、慣れれば手際よくなるだろう。
しかし、
――殺すことと、殺し合いは違う……。失敗すれば、こちらも殺されるということだ。
たとえ殺して、勝ったとしても――
傷や毒で、結局死ぬかもしれん。
ジェリフはそれを考え、戦慄しながらカーシャの横顔を見つめる。
――生き残るためには、そういったことも含めて、自然と対処できるようになるしかない……。できなければ、死ぬ。つまり、このひとは……。
地獄みたいな過程を経て、ここに至ったのだな。
ストン、と。
ジェリフは理解し、納得した。
同時に、
――まいったな……。
頭を掻いて、うつむく。
ああなりたい。
あれくらいに強くなりたい。
あんな力が欲しい。
さっきまでそう思っていた自分が、ひどく恥ずかしくなる。
――まったく、俺というヤツは……。菓子を欲しがる
美しいカーシャの横顔が、余計に羞恥心をかき立てる。
そして、
――いかん。いかんなあ、いかんいかん……。
こんな
ジェリフは小さく首を振り、自分の顔を何度も叩いた。
反省もある。
だが、今は目の前に近づくモンスターだ。
が――
バン!
いきなり、甲板に大きなへこみができた。
「え」
ジェリフはハッとして、目を遠くへ向ける。
海上に島のようなものが見えて――
――あれが、
長い、ウツボに似た首。
それがこちらを向いて、まっすぐに近づいてきた。
しかし、同時に。
――砲弾……。いや……。
ジェリフは見た。
空中から、何かがシー・ポープへ向かって落下――
――違う……。落ちてるんじゃない、あれは……!
回転ノコギリ。
いつか見た、ヤオアムト産の魔道具。
草を刈りはらうための、円盤型ノコギリ。
縦に回転する何かは、それと似ている。
気づいたのか……。
シー・ポープは長い首を上げ、毒のブレスを吐き出す。
「皆さん、ジロさんの後ろへ――!!」
ネイテクの叫び声。
「おい、色男のにいちゃん! お言葉に甘えようぜ!?」
マコネがジェリフの尻を叩き、走っていく。
ネイテクは、すでにジロの後ろで魔法の準備をしていた。
「なるほど、タンクか」
理解したジェリフは、皆に続く。
「さ、ジロさん盾を構えて!!」
「お前らはええけど、わしはどないなるんじゃボケ!!」
ジロが涙声で怒鳴る。
すると、
カシャン
ジロのかぶっていたマスクが変形。
その顔を全て覆ってしまう。
「ふが!?」
「その状態なら、水中でも毒ガスの中でも平気です! こっちも防御幕を作るのでがんばって!」
「気安くいってくれるのう!?」
半泣きで叫びながら、ジロは大盾を構える。
と。
鎧と盾が共鳴するように輝き出した。
周辺に複数の、半透明の板が浮かんでいく。
「魔力の、防御幕か!?」
「加えて毒……状態異常の無効化もありますよ」
ある程度の条件がそろわないと、なかなか発動が難しいですがね。
ネイテクはジェリフに向かい、クスッと笑う。
「それ以上に、海に落ちる危険のほうが……」
「あ」
後ろで、バッキーはつぶやいた。
シー・ポープの吐き出した毒。
それが、二つに裂けていく。
回転するモノは、毒のブレスを切り裂き、跳ね飛ばして――
シー・ポープを両断した。
首が飛び、恐ろしく強固……であるはずの甲羅を切り割る。
「え。まさか、終わり……か?」
波間に浮かぶ、半分にされたシー・ポープ。
その上に、青い影が立っている。
「相変らず、とんでもないのう……あのおねえちゃんは……」
ジロが身震いする。
「いや……なんなんだコレは……。俺は、ほとんど何もしてないぞ」
「何言ってんだ、にいちゃん」
マコネは苦笑しながら、またジェリフの尻を叩く。
「シー・モンクを何匹も狩っただろ。忙しくしてただろ」
「ははは……。そうだったな」
ジェリフは苦笑したが――
――いや。おかしい。
妙な違和感に、表情を消した。
魔導船が、戦闘態勢を解除していない。
すでに、目標のモンスターは倒されているのに。
「なんだぁ……?」
マコネも、同じ疑問を抱いたらしい。
<警報! 警報!! 総員、すぐに船内へ戻れ!!>
「な、なんですか!?」
バッキーは驚いてマコネにくっつく。
<巨大な物体、いや……モンスターだ! でかいモンスターがこっちへ進んでくる……。速い、とんでもないスピードだ……!!>
「なにぃ!?」
マコネは、いや、その場にいる全員が……。
離れた波間で、シー・ポープの死体に乗っている者。
カーシャのほうを注目する。
<ミズ・カーシャ!! 戻れ、危険だ……! 予定にないモンスターが……>
「ダメだ、こりゃ。聞くつもりはないらしい」
魔導望遠鏡を手に、ネイテクがあきれ顔をしていた。