破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その25、舞踏会への招待状

 

 

 

 

「とりあえずは、まあ良かったってことかねえ」

 

「だといいんですが」

 

 カーシャから受け取った手形を見ながら、ギルドマスターは少し笑って。

 ライワはため息まじりに返す。

 

「いずれにしろ、あの女が厄介な存在というのは変わりませんよ」

 

「……だなぁ」

 

 ギルドマスターはうなずいて、お茶をいれ始める。

 

「どう?」

 

 いれたばかりのお茶を、まずライワにすすめた。

 

「ありがとうございます……。甘めですね」

 

「お好みじゃなかった?」

 

「いえ。甘いものは嫌いじゃないです」

 

「そうだったな。で……確かにあのお嬢さんが厄ネタってのは変わらないが、非常に有用であることも事実だ。その分、リスクが大きいけど」

 

 ギルドマスターはお茶をゆっくり飲み終えてから、

 

「彼女、バタムでのクエストでエルフを一人逃がしたと報告してたな」

 

「ええ……。ただまあ、その後で別アジトを全滅させていますが」

 

「うん、そう。けどその時にも逃げたヤツは仕留められなかったとか」

 

「結果をみれば、とんでもない成果ではありますが。本人的には不服だったようですね」

 

 ライワは、その時に見たカーシャの目つきを思い出す。

 

「ほっておけと(くぎ)を刺さなければ、勝手に追跡しそうな気がしました。無頓着のようで、相当執念深いようです」

 

「おっかないねえ。まあ、なんだ。ご令嬢時代から陰湿というか粘着質な性格だったようだし……。そのへんは、地なのかなあ?」

 

「私としては、追わせるのも悪くはなかったと思います。ああいう連中は徹底的に潰さねば後に祟りますから」

 

「確かにな。ただ、上の方針としては泳がせて他の生き残りと合流させてからまとめて……という算段らしいや」

 

「それはつまり、エルフを群れさせることに他なりませんが?」

 

「だからね。その時はすぐ、あの御令嬢に動いてもらえるよう、今から段取りしとけとさ」

 

「気楽にご命令してくださるのですね、偉いかたがたは……」

 

「ほんとになあ。ま、それはそれとして――」

 

「何か?」

 

「んー……。近々さ? リオーワでちょっとした舞踏会があるんだけどね。ほら、恒例で功績のある冒険者たちも何人か招かれるだろ」

 

「はい。確かに」

 

「人選は、こっちでピックアップする連中もいるけど、向こうから名指しで招待されるのもいるわけだよ」

 

「……まさか」

 

「その〝まさか〟だ。あの元・ご令嬢もその中にいるってわけ」

 

 

 

「舞踏会?」

 

 招待状を渡されたカーシャは、不審そうに ミゾイを見た。

 

「そそ。たぶん、こないだの火炎竜討伐のおかげだろうねえ。ドラゴンスレイヤーの称号を正式に授与されるってさ」

 

「……」

 

 カーシャは遠くなっていた記憶を掘り返す。

 一度だけ、確か父の代理でそのような場に出向いたことがある。

 

 ――あの時は……。まあ。大して興味なかったわね。

 

 当時のカーシャにとっては、いくら功績をあげようと冒険者など下賤の者にすぎなかった。

 

 ――今は私自身がその下賤の立場だけど。

 

 それについて、今さらどうこう思うわけでもないが。

 感覚的には、遠い遠い過去にすぎなかった。

 

「で?」

 

「ドラゴンスレイヤーとなれば、もう立派な英雄と言ってもいいさ。正式に称号をもらえば色々便利になるしねえ。何より士官や叙爵(じょしゃく)だって夢じゃない。現にそうやって貴族になったヤツもいる」

 

「聞いたことは、あるわね?」

 

 先祖がドラゴン討伐をした家というのも知っている。

 伯爵だかの家でそういうのがいた。

 

 ――そうね、確か軍人貴族だったわ。

 

「……今さら、ねえ」

 

 どこか皮肉な気分で、カーシャは招待状をもてあそぶ。

 

「嫌かい?」

 

「別に」

 

 たぶん、どうだっていい。

 

「そうかい。だったらまあ、出席しとくれよ」

 

 ミゾイは肩をすくめて、背を向ける。

 

「……」

 

「あ、そうそう。舞踏会用のドレスはこっちで用意しとくから安心だよ」

 

 女ネクロマンサーは振り返りながら、言い残していった。

 

 

 

「はぁはぁ……」

 

 エルフの少女は足を引きずように、森を進む。

 

 ――ちくしょう、ちくしょう……!

 

 心の中で何度も何度も罵声を繰り返す。

 

 ――あのかたまで、シュテル様までやられるなんて……。

 

 人間が魔王と呼ぶエルフのリーダー。

 彼までも、死んだ。

 

 本拠地に、人間が攻めてきた時。

 レベルの高い者や、強力なモンスターで守りをかためていた場所。

 

 ――ドラゴンも加えて、軍隊相手も想定してたはずなのに。

 

 事前の攻撃で――

 最大戦力。

 そうなるはずのドラゴンが、あっさりとやられた。

 ドラゴンが指揮するワイバーンの群れも。

 並のモンスターと違い、ドラゴン種は手なずけることも、数をそろえることも難しい。

 しかし、わずかな数でも巨大な力となる。

 

「……ひとつの国を滅ぼすことだってできる、火炎竜だぞ?」

 

 倒れそうになりながら、エルフはつぶやいた。

 その力は、決して見込み違いではなかったはず。

 

 ――なのに……なんなんだ、あいつは!

 

 エルフは思い返す。

 あの、暗い青髪と水色の瞳をした人間。

 思い出すだけで、背筋が凍りつく。

 まるで地獄の悪鬼みたいな女。

 仲間も大勢殺された。

 研ぎ澄ましたエルフの魔法がほとんど通じず、虫けらのように。

 

 ――化け物……。

 

 そうとしか、言いようのない相手。

 アジトを2つも潰されて、そのたびに自分だけ逃げのびた。

 最初のアジトではただの運。

 緊急用に持っていた転送の呪符があったおかげ。

 

 2つ目のアジトは仲間に逃がされた。

 

「お前はまだ若い!」

 

「他の仲間に合流しろ!」

 

 そして、本拠地では。

 

「バカな……! また、またあの化け物が」

 

 シュテルは壁によりかかるようにして、つぶやいていた。

 年長のエルフたちも同じような反応。

 

「なんなのです……? あの人間をご存じなのですか!?」

 

 思わずたずねたが、シュテルは無言。

 代わりに、他の年長者たちが語り出した。

 

「200年前、我らの故郷が人間どもに攻められた時……」

 

「本来なら、人間のつまらぬ魔法や武器など問題にならん。そのはずだったが……」

 

「……しかし、人間どもの中に化け物、化け物のような人間がいた」

 

「死体を焼いたような、嫌な臭いをした男だ」

 

「まるで死人のごとく生気も感情も見えない目だった、今でも忘れぬ」

 

「そいつは人間どもの先頭に立って、我らの戦士たちをゴミクズのように殺していった」

 

「故郷は焼かれ、多くの仲間が殺されて、あるいは奴隷にされた……」

 

「ヤツさえいなければ、いなければ! 我らが負けるはずはなかったのだ!」

 

「あのおぞましい化け物と、あの女は同じ臭いを放っている」

 

 そんな。

 信じられなかった。

 確かに、いくら数で勝っても人間の魔法はひ弱だ。

 そのはずなのに。

 でも非情すぎる現実は、すぐそこまで来ていた。

 

「逃げろ、お前たちは逃げろ! 今は生きのびて次の機会を待つのだ!!」

 

 そして――

 

 若い、あるいは幼いエルフたちは特別製の脱出口から逃がされた。

 混乱の中で、散り散りになりながら。

 

 ――待っていろ……。

 

 エルフの少女は奥歯を噛みながら、夜空を見上げた。

 

 ――いつか必ず、絶対に人間(やつら)を滅ぼしてやる……!!

 

 

 

「しっかし、姐さんが舞踏会ねえ?」

 

 宿泊所――カーシャの部屋。

 

「でけえ手柄たてたヤツがお呼ばれするってのは、聞いたことあったけどさあ」

 

「あのう、それって……」

 

「おいらたちが一緒に行けるわきゃあないわな。いくら同じパーティーだからってよ、招待されてないヤツらは()ん出されるだけだ」

 

 バッキーの言いたいことを察したマコネは、そう言った。

 

「別に行きたいわけじゃないですけど……」

 

 バッキーはあいまいに笑う。

 

 ――そういう晴れの舞台っていうか、陽キャの集まり? ムリムリムリ……。

 

「けどさ? 姐さんはそんだけの立場になってるのに、新しいメンバー募集したりしねえな?」

 

「さあ。特にあてもないし、そういう話もこないわ」

 

「あー……」

 

 マコネは微妙な顔になる。

 

 ――そうだった……。他の連中はみーんなビビッて近づこうとしねーんだったか。

 

 下手につっかかったり、何かしてきたヤツはみんな半殺しになっている。

 

 ――……いやいや、おいらたちの知らんところで何人か()ってるかもな。

 

 ――確かに……。私が同じ立場だったら絶対勧誘しないし、同じパーティーはやだわ……。怖いもん。ん? けどよく一緒にいて平気だな、私。慣れかしら?

 

 レンジャー職とヒーラー職。

 知らないところで、同じようなことを考えていた。

 

「じゃ、姐さんが留守の間またおいらたちでクエストしなきゃだなバッキー」

 

「地味目のやつですね、いつもの」

 

「もともと、そっちのほうが身の丈にあってんだよ」

 

「そりゃそうですね」

 

 うなずき合うマコネとバッキー。

 

「……」

 

 カーシャは2人を見ながら、

 

「私がいない間、何かやってるわけ?」

 

「だからさ、ちっこいクエストを地道にやってるのさ。雑魚モンスター駆除したり、ダンジョンの浅ーいところだけ探って安物のアイテム取ってきたり。なにせレンジャーとヒーラーだけだろ? 火力不足だから、ゴトクんとこで紹介された臨時メンバー呼んできて」

 

 マコネは手をヒラヒラさせて笑った。

 

「ふーん」

 

「そいつらも、正式にうちに来るかって聞いても、断るんだよな」

 

「連れて来たいのなら、好きにすれば? 入れるかどうかは私が決めるけど」

 

「いやだから誰も来ないんだって」

 

「どうでもいいわ」

 

「……言うと思った」

 

 

 

 

 

 

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