破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
さて――
遠くから海上を観察していた海軍兵によると……。
「真っ赤な潮吹きが見えた」
と。
そういった内容がギルドへ報告されたらしい。
「ケートスが血を噴き出して死んだ」
まあ、そういうことで――
リキュール支部長はどこかヤケクソ気味でそのように語った。
「しかし、問題もありまして」
ケートスの血と、肉片。
「大部分は回収しましたが、それでもかなりの量が海中へ散乱した。してしまったのですよ」
「なるほど。それはまずい」
うなずいたのはネイテクだった。
「俗に、ドラゴンの血を浴びれば不死身になる。無敵の勇者になるなどと言われてますしねえ」
「あ。つまり魚とかモンスターが……」
ハッと気づいたバッキーへ、
「さよう。個体差はあるでしょうけど、強化されたり巨大化、あるいは凶暴化するでしょうな」
当面、海は荒れるでしょう。
と。
ネイテクはバッキーのみならず、その場の全員に説明をした。
「ですから」
「追加報酬が出るなら」
支部長が言い終わる前に、カーシャはいつも通りの淡々とした顔で、
「
「助かります」
「時に。まさか、お前の責任だから
「滅相も無い! 信用に関わります」
支部長はキッパリと強く否定した。
こういったわけで。
カーシャはしばらくリキュールでモンスターの駆除に奔走した。
いきがかりというのか……。
他の面々も駆除に参加した。
そして――
ジェリフは、カーシャという女の戦闘能力を再び見ることになった。
今度はより長く、より近くで。
……。
――む?
モンスター駆除もひと段落ついた頃だった。
ひと段落……。
とにかく?
見つけるはしからモンスターはミンチとなったわけで。
駆除には、さほど時間がかからなかった。
――というのか、あっという間だわなあ。
後でそれを思い返すたびに、ジェリフは何とも言えない気分となる。
それはさておき、
「失礼」
ジェリフは、波止場でひとり海を眺めるカーシャを見つけ、声をかけた。
「ミズ、おとなりをよろしいか?」
「お好きにどうぞ、紳士様」
カーシャはわずかに視線を投げて――
どうでも良さそうに言った。
実際、どうでもいいのだ。
「ここを占領する気もありませんので」
カーシャの態度。
それは戦闘時の凄まじさからは想像しにくい――
どこか、まったりした様子だった。
「あなたの力、とくと拝見させていただきました」
「そう」
カーシャの態度はそっけない。
だが。
ジェリフにはむしろそれが好ましく、心地良かった。
「凄まじいもの、ですね――」
ジェリフはカーシャの横顔を見る。
「強い。噂はたくさん聞いていたが……それ以上だった」
「光栄ですわね」
カーシャは、淡々と返す。
ただ静で――不愛想という印象もない。
「俺は、金や力が欲しいんですよ」
いや……ただ、『力』が欲しかったというべきかなあ……。
ジェリフは照れ臭さで赤くなる。
「過去形?」
カーシャは視線を合わせることなく、やはり淡々とつまらなそうに返す。
――返事してもらえるだけ、ありがたいかな。
「金は今でも欲しいですが」
「まあ、わかりますわ。あればあるだけ欲しくなるとも言うし。これは、何事にも言えるのかしら」
「あなたは篤志家という一面もあると」
そうジェリフが問えば、
「誰が言っているのか知らないけれど、ずいぶん評価されたものね」
クックックッ。
と。
青い乙女は面白そうに、何かを嘲笑うばかり。
「違うのですか」
「失望でもされました?」
「まさか。そんなことが言えるような立派なシロモノじゃありませんよ、俺は」
ジェリフは頭を掻き、苦笑。
まるで初心な少年のように――
「ただ。ミズ・カーシャ? あなたはそれだけのモノがありながら、意趣返しなどはお考えにならない?」
「あら? それはまた物騒な……」
その意趣返しとやらで――
ヤオアムトに反乱でも起こせと
カーシャは鼻で笑った。
「いやいやいやいや。まさか、まさか、まさか! それこそとんでもない」
あわてるジェリフに、
「ふーん。なら……」
あなたなら、そうする。あるいは、そうしたい……ということで?
と。
カーシャは目を細めた。
「……そうですねえ。いえ、そうかも、そうだったかもしれません」
ジェリフは自嘲して、遠くを見た。
前では、ただ波がうねっている。
――港か。最初来た時は意識もしなかったが、美しいものだなあ。いや、
ジェリフはボンヤリと思いつつ、
「ミズ・カーシャ。俺はねえ……」
前を見たまま意識することなくポツポツと語り出す。
「これでも良い所の生まれだったのですよ」
「へえ。どこかの貴種だと」
それはまた、高貴な血筋であらせられるのですねえ?
と。
カーシャは淡々と返す。
「そんなモノかもしれません。自慢するというわけではない……。まあ、過去を誇っても虚しいだけだが」
「でしょうね」
「ええ、虚しいのですよ」
何しろ。
跡目争いで敗れて逃げてきたという……。
何とも情けない身の上でして。
ははは。
ジェリフは自分を笑う。
だが、どこか爽やかな気分だった。
――いらないものを捨てた。必要不可欠だと思っていたものが、そうでもないとわかった……。そんなところか?
さっぱりと、大掃除でもしたような。
「どうもね」
これはミズ、あなたのおかげ、人徳のおかげみたいなのですよ。
「人徳?」
カーシャは露骨に冷笑した。
「ずいぶん、私に縁遠い評価をされたものね。そうだとしても、あなたのひとりよがり、妄想だわ」
「でしょうね」
冷笑にも、ジェリフは微笑で返す。
「だけど。それはそれで良いのですよ」
あなたをね。
あなたの姿や戦いぶりを間近で見ていなければ――
今も妄執に囚われていた。
そんな気がするのです
笑顔で語るジェリフへ、
「気味の悪い」
「いやあ、まったくお恥ずかしい」
「そんな戯言を言って、私が気まぐれであなたを八つ裂きにしないと確信でもおありに?」
「怖いですな」
カーシャの水色の双眸。
ジェリフはそれを見つめた後、髪を掻いて眩しそうに海を眺める。
「こういうきれいな風景で――」
あなたみたいな絶世の美女に殺される。
こりゃあ考えてみると……。
最高に素晴らしい死にかたかもしれない。
何しろ絵になる。
溺死よりもはるかにマシだ。
と。
ジェリフはひどく爽やかな、青年らしい表情と声で語った。
「変なひと」
カーシャはあきれ顔でため息。
――妙な男だけど、面白くもある……。ふむ。冒険者稼業にはこういう面白さもある、わけか。なるほど?