破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「いやあ。ここらの飯屋はどこ行ってもうまいねえ? 魚もエビもカニも安いのに、ボリュームあってよ」
マコネは笑いながらバッキーを振り返る。
ふたりが歩く魚市場のすぐ近く。
そこには色んな飲食店が並び、活気があった。
あちこちから食欲を誘う香りが漂っている。
「さすが港町ですねえ」
バッキーはさっき出てきた店を振り返り、
「よくわかんないけど、あの美味しさは素材の良さが大きいんですかね? やっぱり目利きの専門家が集まる場所だからかなあ」
「食いもんだけでも、ここに来る値打ちあるな」
マコネは両手を頭の後ろにやって、
「せっかくだし、何か土産でも買ってくかねえ。魚でも買ってかえってさ。サキュバス街の料理屋で何か作ってもらうとか」
「あ、いいですね」
けど――それって、迷惑じゃないですか?
バッキーはマコネに賛同したものの、すぐ困った顔で疑問を口にする。
「紹介状でも持ってきゃいいさ」
マコネはカラカラ笑い、
「ゴトクでも、ギルドの親分でも、ギルドナイトの隊長さんでも。なじみの、良い店は知ってるだろうぜ」
「そんなの簡単に……」
と。
バッキーは逡巡しながらも?
マコネの口にした面々の顔を思い浮かべた後――
「いや、大丈夫かも???」
「おうよ。ただ、それには……」
我らがリーダー。
ドラゴンスレイヤーたるカーシャ姐さん。
その口利きが
マコネはニッと猫のような笑み。
「OKもらえますかね」
「さてね。ただよ?」
まあ。ああいうヒトだけども?
食い物にはわりかし
そういうとこあるからな。
いけるかもだぜ。
それから。
マコネはポンとバッキーのお尻を叩いた。
・ ・ ・
「なるほど。チームか」
ネイテクに向かい、ジェリフはうなずきながら顎を撫でた。
場所は、とある飯の隅っこである。
「さよう。私が後衛でジロさんがタンク」
「そして俺が前衛の攻撃、いわば火力担当か。一応バランスはとれるわけだな?」
「そうです、そうです」
ネイテクはうなずき、
「ジロさんは魔導アーマーの性能もプラスして、パワーはあるのですが……。いささか瞬発力や対応力がね?」
「悪かったのう」
ジロはやや不機嫌そうに言った。
それから。
無言でジョッキのビールをぐいぐい飲み干していく。
「飲み過ぎないようにね」
ネイテクはジロに対し、あくまでクールだ。
「遅くても3日後には次のクエストに向かいたいですからねえ。我々は貧乏暇なし……なのですよ」
「そうなのか?」
ジェリフはそこに疑問を挟んだ。
「ん……? しかし例の
「いやいや、それが――」
ネイテクは苦笑して手を振り、
「彼に使わせている魔導アーマー。あれの整備、いえいえ研究開発でお金がかかるんですよ。何せ個人でやってますからねえ?」
「魔導アーマー。確かにすごかったが」
ジェリフの相づちに、
「そうでしょう、そうでしょう。いやあ、後始末ではだいぶ水中戦のデータが取れてホクホクでした。シー・ポープの時はミズ・カーシャの活躍で、こっちはちょっと……でしたから。」
ネイテクは『喜色満面』で語る。
「実験に使われるこっちの身にもなってくれや」
「仕方ありませんね。私もあなたをひろってから、今日までだいぶにお世話焼いてきましたよ。今回でけっこう減ったけど、まだ借金残ってますからね」
不満のジロに、ネイテクは指を振る。
「いや、それはしゃーないけど……」
ジロは大柄を縮こませるように……。
所在なさげ。
と、いう感じでモジモジしていた。
「しゃーけど、わしかて体はってるやん」
「そこのケアもしてるでしょ」
「まあまあ。お前さんがたのことはちょっと置くとしてだ……。さっきの話に戻りたいんだが?」
「チームのことですな」
「ああ、そうだ」
ジェリフは振り返ったネイテクにうなずく。
さらにジロのほうにも視線を送り、
「面白い。やろうじゃないか」
笑って、ジョッキを持ち上げた。
「ほう? これはまた……。快諾していただけるとは嬉しいですな」
「ダメかい?」
「とんでもない。大歓迎ですよ」
「はは。まあそういう反応も、仕方なくはあるかな。何しろ俺はどうも――いや、口にするのも野暮かな」
「まあ、そういうことです」
「いや、どういうことやねん?」
ひとり蚊帳の外なジロ。
いわゆるジト目で男ふたりを見比べる。
「ちょっと前なら――」
ネイテクは三角帽子を取り、
「私たちのような零細、雑魚冒険者と組むとは考えにくかったということです。おっと、野暮でしたかね?」
「ハッキリ言う。まあ事実だからしょうがないけど」
ジェリフは苦笑して、
「表面上はとりつくろっていたがね、腕利きだったり、これというモノを持ち合わせた実力者や富者。そういうのとつながりを持ちたかったのだよ」
「あんた、そんなんやったんかい」
「恥ずかしいが、そうなのだよ」
こういった経緯をへて……。
『ソロ』と『コンビ』は3人パーティーとなった。
機嫌よく店を出た後――
「おや……」
ジェリフたちは、マコネとバッキーに出会った。
乙女二人は波止場で船を見ていた途中。
「これはミズ・カーシャの」
「ん。魔法剣士のあんちゃんか」
マコネは返答をしながら――
ちょっとバッキーと顔を見合わせて、
「昼間から酒かよ」
「ちょっとした前祝でね」
ジェリフは苦笑した後。
ふと何かに気づいた顔となった。
そして。
荷物から紙包みを取り出して、
「よければもらってくれ」
「何だよ、これ」
「いやあ。こいつは俺が使ってた古着なんだが、もう着ることはないんでね。生地はわりと上等なものだ」
マコネはちょっと考える。
罠という雰囲気ではないが――
「もらえるってんならな? ……はあ。確かにこりゃなかなかのシロモノらしいけど。あんた、これ……」
マコネは一瞬疑わしそうにしたものの、
「まあ、いいか。けど良いのかい?」
「ああ。もう、いらないんだ。気に入らなかったら捨てる売るなり好きにしてくださって結構」
「かえってやりにくぜ、その言いかた」
そんなジェリフに対して、
「あんたさ、最初と雰囲気変わったな。前は何か――いや、気のせいかな。今のは無し」
マコネはとぼけるように笑った。
ジェリフは頭を掻き、
「そりゃあ、アレかな。あの
「は……?」
これに驚いたのは、マコネだけではない。
――リーダーに? いや、うん。確かにすっごい美人だし、女の私でもいまだに見惚れちゃうことあるし。でもなあ、このヒトすごいわ。
バッキーは驚き戸惑っている。
――これまた豪傑な発言だ。
――惚れたって。そら見た目は最高中の最高やけどなあ。色気というそういうのはゼロやし。だいたい……中身はバケモンやで、色んな意味で。怖っ……。
ネイテクは称賛。ジロは恐怖。
マコネは、
「そりゃあえらいロマンスだな? 何なら口をきいてやろうか? 案外うまくいくかもだぜ?」
半分探るように提案。
「いやあ、それはけっこう」
ジェリフは少し離れて、遠くの水平線へと顔を向けた。
マコネたちから表情は見えない。
……♪
…………………♪~~♬
……♪♪♪
ジェリフは少しの間――
遠い国の歌を小さく口ずさんだ。
その後、ゆっくりと背伸びをする。
ネイテクはあることに気づいた。
「おや、その歌は……。確か、嫌いなのでは?」
「まあ好きではないけどな。格別嫌う意味もなかったなと、気づいたんだよ。」
ネイテクの問いに、ジェリフは肩をすくめる。
「でも、きれいな歌ですね」
「そうかい。こいつは私の国に伝わってる子守唄でね。みんなこれを聞いて育つのさ」
バッキーへジェリフは微笑を返す。
――う……。
その笑顔に、バッキーはハッとして赤面しながら顔を伏せる。
ジェリフはもう一度海を向いて、
…………………♪~~♬
その歌声はさらに小さく、ゆっくりと波間に流れていき――
静かに、消えていった。
・ ・ ・
後日。
――おいおいおい。こりゃあ……カワディー布地の上物、いや上物中の上物じゃねえか。王族か大貴族しか着れないシロモノだぜ?
ゴトクは、上着を鑑定して驚く。
「ヤバいもんかい?」
「いや――品物自体はまっとうだ」
まっとうどころか、相当な値打ちもんだな。
かなり大事に保管してたらしいが……。
これをくれたってヤツぁ……?
その疑問へ、
「これこれしかじか、の……あんちゃんさ」
マコネが説明すると、
――……そういや、あの国で後継者争いでゴタゴタがあったそうだが……。ってことは、その
ゴトクはそこまで考えて、
「うちじゃ扱いたくないね」
「おいおい……。やっぱり厄ネタだな、 タダだったから変だとは思ってたがあの野郎……」
「よせよ」
ゴトクは首を振って、
「売りたきゃお前らの大将に売りな。今の話を説明してからよ。ダメだったら、捨てるかしまっとくかにしとけ」
「姐さんにぃ……?」
「あいつなら、多少の厄ネタは娯楽だろうよ」
で。
「ふーん。ま、いいわよ。いくら? わからない? ……ああ、そう。ふむ、じゃあこれくらい出しましょうか」
カーシャは相当の代金で買い取り、
「うわあ、マジかよ……」
マコネを恐怖させた。