破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「なんだい、そりゃあ」
ゴトクは商売相手から聞かされた話に、思わずそう返した。
「ずいぶんと物騒な話だな、おい」
この日――
ヤオアムトを離れてある国。
ゴトクはそこでいくつかの買い物をしていた。
仕入れのためである。
話の内容は、
「無惨な死に方をした女騎士のデュラハンが、あちこちで殺しをしてる……ねえ。ありふれてるが、年明け早々ヤな怪談じゃねえか」
「いや、そうじゃないんだ」
相手の商人は手をあげて否定。
「そいつが持ってるのは自分の首じゃなくって、斬り落とした獲物の首なんだ」
「はぁん」
ゴトクは首をひねる。
デュラハンとは首無し騎士。
あるいは自分の首を持ったアンデッドの一種。
高レベルで危険なアンデッドだが、
「ずっと東の国では――」
討ち取った敵の首。
そいつを、手柄の
……てな風習があるというがね。
金髪を掻きながら――
ゴトクは伝聞を述べる。
「だからねえ。多分だが、アンデッドじゃないんだよ」
「違うのか?」
「そうだよ」
とにかく片っ端……。
冒険者だろうと野盗だろうと。
女子供、年寄り、とにかく関係なく――
目についた者は殺す。
そんなヤツの噂だ。
商人は青い顔で、声を潜めながら真剣な声で語った。
「そりゃあ……」
ゴトクは嫌なものを感じた。
――とにかく殺すことしかやらない……。
思い当たるのがひとりいるが……。
あいつは別の国で。
いや。
移動するのは容易いか。
と。
記憶の中から、該当する人物を掘り出して大きくため息。
「とにかく、気をつけな」
「ああ……」
話を切り上げて去っていく商人。
その後ろを見ながら、ゴトクは首を振って頭を掻く。
――あの女か。
別の国で見た女。
ヒトであればためらいなく――
むしろ嬉々として殺戮する異常性格者。
青い瞳と金の髪。
絶世の美形といえる乙女。
――見た目はまだ若かった……。20は超えていまい。だが、あの眼は……。
ゴトクは帰り支度を始めながら、
「嫌な予感は当たると言うがな」
つぶやきながら、遠くの空――ヤオアムトの方角を見た。
・ ・ ・
「う~~ん……」
バッキーは、教会の中でその絵を見上げていた。
チュービの村。
バッキーにとって最初のクエスト。
その舞台となった、ある意味とても思い出深い? 場所なのだが……。
地獄絵。
見ている絵はまさにそれだった。
――日本にも、えげつない地獄絵ってのはたくさんあったけど。ちょっと似てるかな?
ある程度のデフォルメ。
しかし、改めてじっくり見てみれば内容は凄まじい。
お互いに殺し合う人々。
噴き出す血、内臓。
首が飛んだり、絞め殺したり、とにかく残虐な殺戮シーンの数々。
――子どもが見たらトラウマになるよ。
実際のところ……。
後にバッキーが村の住人たちへ聞いてみた結果――
「いやあ、昔から怖くってねえ」
「悪さすると教会であの絵を見せられた」
「ガキの頃にさ、『悪さばっかしてるとあの絵みたいな地獄に落ちるぞ!』って脅された。そりゃビビるよなあ」
「度胸試しで夜中に絵を見に行った」
「なかなか名人の作らしいよ?」
「困るんですよねえ……。いえ、子どものしつけはまあともかく、あれは一応ちゃんとしたものなんだから、肝試しのネタにされるのはいささか……」
最後に語るのは教会の
「おーい、そろそろ行くぜ?」
絵を見るバッキーへ、外からマコネが声をかけてきた。
「あ。はい。今行きまーす」
小走りに出てきたバッキーへ、
「お前あんな辛気臭くって気色悪い絵が気に入ったのかよ? 野暮かもしれんけどあんまりいい趣味とは……」
「いえ、違うんですってば」
マコネの意見にバッキーは、
「あの絵――最初に会ったばかりのリーダーがジッと見てたのを思い出して……。あの頃のリーダーって今より怖くて無口だったし」
「ああ、そっか。そうだな」
マコネはうなずく。
今回チュービに訪れているのはマコネとバッキーのふたりだけ。
マコネの器用さ。
バッキーの魔法。
それが中心となるクエストだったため、カーシャ抜きの行動となっている。
「一緒のパーティーになって」
「あン?」
「まだ1年もたってないんですよね。けど、何か? 5~6年もたったような気がします」
「そうか?」
「はい、濃密でしたから」
バッキーの言葉に、マコネは最初は淡白な反応だったけれど、
「かもな」
すぐに、肯定した。
「お前も、おいらも変わったよ。こんなもん使うようになったし」
と。
マコネは肩の
「わ、私も最初はもーホントにコミュ障で、あははは。変な笑いかたして気味悪かったですよね。ふひっ」
「おい、久々だぜ? その笑い」
「ふひひ……」
マコネとバッキーは互いに笑顔を交わしてから、歩き出した。
「じゃ、帰るか」
「はい。帰りましょう」
・ ・ ・
「はあ」
カーシャは息を吐いて、周辺を見回している。
疲労はほぼない。
ただ、面倒だっただけだ。
あちらこちらに、首をへし折られたり、切り落とされたグリフォンが転がっている。
数は4体。
「凄まじいどすなあ?」
陰から這い出してきたキツネ獣人――タロザは苦笑した。
「バケモノ」
コボルトのメッカイはつぶやく。
グリフォンの死体を確認しつつ、同時に散らばる〝残骸〟を集めながら――
「うちらぁ来た意味あるんですか?」
タヌキのキューモは言った。
「あるよ。僕らの仕事はグリフォンが逃げたり、部外者が近づくのを防ぐことだからね。……あ、無事に片づきました。はい、はい。大丈夫です」
応えるトクベーは魔導符でギルドへ連絡。
やがて――
ギルドナイトが複数の大型魔導馬車で現場に到着。
グリフォンの解体を始めた。
「手間かかるなあ」
「しょうがないだろ? こうしないと車に入りきらねえんだよ。でかいからな……。しかも4匹だし」
グリフォンの基本サイズは10メートル。
全長12メートルの『馬車』でギリギリ。
「翼もたたませないと……。って、おい? あっちに手を貸してやれよ! 下敷きになるぞ?」
「早くゴーレムを出せ」
そんな喧騒をよそに?
カーシャは少し離れた場所で空を見上げていた。
寒い風が吹いている。
「……?」
ほんの一瞬だが……青い空が赤黒く染まったような、そんな気がした。
乙女の鼻を
無論、
――最近、あの赤黒い場所が妙に懐かしく感じるわ。別に戻りたいわけではないけど。
カーシャは首をかしげた。
普通なら二度と戻りたくない場所。
ただ――
カーシャにとっては慣れ親しんだ、『人生』でほとんどの時間を過ごした場所。
恋しさなどない。
しかし、懐かしさはある。
少しだけ目を閉じてから、カーシャははるか遠くの木陰を睨む。
そこに、黒い猫がいた。
にゃおう
嘲笑うような鳴き声を発して、猫は2本の尻尾を揺らしている。
先端には炎が燃えていた。
――貴様。
スッと、青い乙女が
猫の姿はもうない。
カーシャはもう一度目を閉じた。
少しだけだが……。
乙女の気持ちは高ぶっていた。