破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その116、決闘-2 陰影

 

 

「なんだい、そりゃ?」

 

 マコネは話を聞いた直後、顔をしかめて手を止めた。

 これに辻売りの少年は、

 

「だから噂だって」

 

 話の内容は、隣国キーアで騎士やその配下である兵士が大勢粛清されたらしい。

 そういうものだった。

 

「粛清って、お前」

 

「まだハッキリしてないけど、最近あそこはきな臭い話ばっかだったろ?」

 

「そりゃ知ってるよ」

 

 マコネは売り物の川カニを手に、

 

「何だっけか? 軍の人事がどうとかこうとかで、色々揉めてたらしいじゃねえか」

 

「うん。それがさ――」

 

 少年は腕組みをして、

 

「本当のところはわからんけど、とにかく騎士が大勢死んだのは確かだってさ。隊商の連中が言ってた」

 

「なるほど……」

 

 マコネはカニの代金を出しつつ、

 

「その手の連中が言ってるってこたぁ。本当っぽいな? 学のある言いかたをすりゃあ、信憑性が高いってえヤツだ」

 

「でも、変なとこもある」

 

 少年は首をかしげて、

 

「キーアから流民とかが来てないっぽいんだよな。普通そういうゴタゴタがあれば、そういうのが増えるはずなんだけど」

 

「確かにな?」

 

 マコネもそれについて考える。

 

 ――キーアのほうに面した国境、街道……。流民の情報はすぐに伝わるもんだ。けど、そういうのがない。

 

 畑や牧場を潰された。

 家を焼け出された。

 

 ――騎士同士の悶着。でかくなればなるほど、()()()()()を受ける連中は多くなる。で、そうなっちまった連中を、貴族も金持ちも助けちゃくれない。

 

 余裕がない。

 そういう発想がない。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

()()()のプラジナ?」

 

「ああ。前はそんな異名はなかったが、今はしっかり定着してるみてえだ」

 

 ゴトクの雑貨屋。

 

 そのカウンターで、

 

「評判の悪い女だが、腕は確かだ。このあたり……ヤオアムトの周辺まで噂が流れてくる、その程度にはな」

 

「以前に聞いたわねえ?」

 

 カーシャは思い出す。

 

 遠国で、悪鬼のように恐怖されている殺人狂。

 ヒトであれば、

 

「誰でも殺すか」

 

 カーシャは髪をもてあそびながら言った。

 淡々と。

 つまらなそうに。

 

 ――なぜ、よくもまあどうでもいい単純作業に、喜びを見出せるのやら。理解しづらいわね

 

 命を奪う。

 そんなものは、

 

 ――バカでも子どもだってできることじゃない? あやとりのほうがまだ面白い。

 

 とはいえ、

 

「それも好みか」

 

「できればやり方を工夫してほしい趣味嗜好だがな。ものすごく迷惑だからな。でなけりゃ」

 

 ゴトクは嫌な顔をして、

 

「まわりはたまらんぜ」

 

「そこまで創意工夫や努力が必要なものかしら? 探せばどこにだってあるでしょう?」

 

 ヒト殺しの仕事なんて――

 

 と。

 カーシャは店の商品を見てまわりながら、あっさりと言った。

 

「多少使える程度ならな」

 

 ゴトクは首を振る。

 

「だがあいつの腕は並大抵じゃなかった。おまけに仕事も早い。野盗もヒト型モンスターも殺しつくした」

 

「まあ、すごい」

 

 カーシャはパンと手を打つ。

 

「言ったかもしれないが、2~3日殺さなきゃオカシクなろうって殺人狂だ。いや、元からオカシイのか」

 

「そんな豪傑が……」

 

 近くにいると?

 

 カーシャはゴトクを振り返って、静かに言った。

 

「怖いわね」

 

「あんたがか?」

 

「なにをどのように勘違いなさっているのかは知らないけれどねえ? 私だって命は惜しくてよ」

 

 そう語るカーシャに、

 

「そりゃな」

 

 誰だって命は惜しい。死ぬのは嫌だ。死にたいヤツはこの世から逃げたいから死ぬんだ。他に逃げ道があるなら生きたいさ。

 

 ゴトクも静かに応えた。

 

 それから、ジッとカーシャを見つめ、

 

「しかしな? あんた、そいつが逃げても追っかけてくるとしたらどうだ? あるいは、()()()()()()()で勝手気ままに殺しを楽しみ始めたら」

 

 あんた、トンズラするかい?

 

 ゴトクは静かな声で言った。

 

「おやまあ……。ミスター・ゴトク、あなたひょっとして私を焚きつけているのかしら? 残念だけど、私はそういう熱き血潮をたぎらせる性分ではございませんの」

 

「違うよ。ただの質問さ」

 

 それに、とゴトクは続け、

 

「仮にあんたと首切りのプラジナがやりあったとしよう。そうなりゃ周りはとんでもない迷惑だ。巻き添えで何人死ぬかわかったもんじゃない」

 

「ああ、そういう」

 

 ククッ。

 

 カーシャはさもおかしそうに、優雅な動作で苦笑を漏らしながら、

 

「けっこう、けっこう」

 

 パンパンと手を打った。

 

「万が一の時はゴタゴタで迷惑にならぬよう、創意工夫を準備万端で行ってくださいませ? ええ、お好きなように」

 

「ああ、そうするよ」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「異常なし?」

 

「いやぁ、ないってことはないんですが……。少なすぎるんですよ」

 

 と。

 ミゾイは答えた。

 

「流民の数が少ないってこと自体は、大変けっこうなことなんだがねえ……。しかし不自然な数字、これは――」

 

 いけませんよ

 

 ギルドマスターは物憂げに言った。

 それからポットを手にして、ゆったりとした動作でお茶をいれ始める。

 

「ま、ひと息いれなさいよ」

 

「これはこれは」

 

 ミゾイはすすめられたカップを取り、すうっと香りを吸い込み、楽しんで、

 

「マスター手ずからとは、ありがたいですよぅ」

 

 ギルドマスターは苦笑しつつ、

 

「腕はヘボだがね。茶葉はそれなりに上等のはずだが……。それくらいはしないと、どうもね。この仕事もなかなかに大変だから」

 

「でしょうねぇ」

 

 ミゾイはお茶を飲み、

「使う者には、使われる者にはない苦労があるそうですから。その点、ライワさんも大変でしょうよ」

「彼女にも苦労かけとるからなあ」

 

 ギルドマスターは手を頭の後ろにやって、

 

「それにな……。長年の勘というほどでもないが、今回はあまり歓迎したくないことになりそうなんだよ」

 

「ふむふむ?」

 

 ミゾイはカップを置いて――

 ストレートを楽しんだ後は、ミルクと砂糖をお茶に入れた。

 

「それはまた例の……」

 

 ミゾイが何か言う前に、

 

「青いドラゴンスレイヤーさんが関わってくるかもしれん。彼女に関する噂も色々とな……」

 

 ギルドマスターはため息。

 

「偽勇者の時みたく?」

 

「どうかな。しかし、彼女もなかなか恨みつらみを買ってる人物だ。刃傷沙汰が向こうからやってきてもおかしくはないよ。余計な存在でもあるしな」

 

「余計な?」

 

 ミゾイが目を細めると、

 

「政争のゴタゴタで、今や完全に悪役になったゴーム氏の娘だしな。彼女自身も立派な、元はつくけど悪役令嬢。それがドラゴンスレイヤーの称号持ち」

 

 ギルドマスターの言葉。

 

 ミゾイは納得顔で、

 

「ははあ、なるほど。死んだと思っていた毒虫が這い出してきて、より厄介な成虫になって、飛んだり跳ねたりしてる。ある方々からはそう見えると」

 

「厄介な話だよ」

 

 ギルドマスターは暗い目をした。

 

「しかし、今さら暗殺者(アサシン)でも送り込みますかね? 万一バレたらあの女性(ひと)がおとなしくしてるとは思えませんが?」

 

「そうだよ。だから嫌なんだ」

 

 ギルドマスターをそう言って――

 だらりと脱力して、倒れこむように机に突っ伏した。

 

 

 

 

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