破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「なんだい、そりゃ?」
マコネは話を聞いた直後、顔をしかめて手を止めた。
これに辻売りの少年は、
「だから噂だって」
話の内容は、隣国キーアで騎士やその配下である兵士が大勢粛清されたらしい。
そういうものだった。
「粛清って、お前」
「まだハッキリしてないけど、最近あそこはきな臭い話ばっかだったろ?」
「そりゃ知ってるよ」
マコネは売り物の川カニを手に、
「何だっけか? 軍の人事がどうとかこうとかで、色々揉めてたらしいじゃねえか」
「うん。それがさ――」
少年は腕組みをして、
「本当のところはわからんけど、とにかく騎士が大勢死んだのは確かだってさ。隊商の連中が言ってた」
「なるほど……」
マコネはカニの代金を出しつつ、
「その手の連中が言ってるってこたぁ。本当っぽいな? 学のある言いかたをすりゃあ、信憑性が高いってえヤツだ」
「でも、変なとこもある」
少年は首をかしげて、
「キーアから流民とかが来てないっぽいんだよな。普通そういうゴタゴタがあれば、そういうのが増えるはずなんだけど」
「確かにな?」
マコネもそれについて考える。
――キーアのほうに面した国境、街道……。流民の情報はすぐに伝わるもんだ。けど、そういうのがない。
畑や牧場を潰された。
家を焼け出された。
――騎士同士の悶着。でかくなればなるほど、
余裕がない。
そういう発想がない。
・ ・ ・
「
「ああ。前はそんな異名はなかったが、今はしっかり定着してるみてえだ」
ゴトクの雑貨屋。
そのカウンターで、
「評判の悪い女だが、腕は確かだ。このあたり……ヤオアムトの周辺まで噂が流れてくる、その程度にはな」
「以前に聞いたわねえ?」
カーシャは思い出す。
遠国で、悪鬼のように恐怖されている殺人狂。
ヒトであれば、
「誰でも殺すか」
カーシャは髪をもてあそびながら言った。
淡々と。
つまらなそうに。
――なぜ、よくもまあどうでもいい単純作業に、喜びを見出せるのやら。理解しづらいわね
命を奪う。
そんなものは、
――バカでも子どもだってできることじゃない? あやとりのほうがまだ面白い。
とはいえ、
「それも好みか」
「できればやり方を工夫してほしい趣味嗜好だがな。ものすごく迷惑だからな。でなけりゃ」
ゴトクは嫌な顔をして、
「まわりはたまらんぜ」
「そこまで創意工夫や努力が必要なものかしら? 探せばどこにだってあるでしょう?」
ヒト殺しの仕事なんて――
と。
カーシャは店の商品を見てまわりながら、あっさりと言った。
「多少使える程度ならな」
ゴトクは首を振る。
「だがあいつの腕は並大抵じゃなかった。おまけに仕事も早い。野盗もヒト型モンスターも殺しつくした」
「まあ、すごい」
カーシャはパンと手を打つ。
「言ったかもしれないが、2~3日殺さなきゃオカシクなろうって殺人狂だ。いや、元からオカシイのか」
「そんな豪傑が……」
近くにいると?
カーシャはゴトクを振り返って、静かに言った。
「怖いわね」
「あんたがか?」
「なにをどのように勘違いなさっているのかは知らないけれどねえ? 私だって命は惜しくてよ」
そう語るカーシャに、
「そりゃな」
誰だって命は惜しい。死ぬのは嫌だ。死にたいヤツはこの世から逃げたいから死ぬんだ。他に逃げ道があるなら生きたいさ。
ゴトクも静かに応えた。
それから、ジッとカーシャを見つめ、
「しかしな? あんた、そいつが逃げても追っかけてくるとしたらどうだ? あるいは、
あんた、トンズラするかい?
ゴトクは静かな声で言った。
「おやまあ……。ミスター・ゴトク、あなたひょっとして私を焚きつけているのかしら? 残念だけど、私はそういう熱き血潮をたぎらせる性分ではございませんの」
「違うよ。ただの質問さ」
それに、とゴトクは続け、
「仮にあんたと首切りのプラジナがやりあったとしよう。そうなりゃ周りはとんでもない迷惑だ。巻き添えで何人死ぬかわかったもんじゃない」
「ああ、そういう」
ククッ。
カーシャはさもおかしそうに、優雅な動作で苦笑を漏らしながら、
「けっこう、けっこう」
パンパンと手を打った。
「万が一の時はゴタゴタで迷惑にならぬよう、創意工夫を準備万端で行ってくださいませ? ええ、お好きなように」
「ああ、そうするよ」
・ ・ ・
「異常なし?」
「いやぁ、ないってことはないんですが……。少なすぎるんですよ」
と。
ミゾイは答えた。
「流民の数が少ないってこと自体は、大変けっこうなことなんだがねえ……。しかし不自然な数字、これは――」
いけませんよ
ギルドマスターは物憂げに言った。
それからポットを手にして、ゆったりとした動作でお茶をいれ始める。
「ま、ひと息いれなさいよ」
「これはこれは」
ミゾイはすすめられたカップを取り、すうっと香りを吸い込み、楽しんで、
「マスター手ずからとは、ありがたいですよぅ」
ギルドマスターは苦笑しつつ、
「腕はヘボだがね。茶葉はそれなりに上等のはずだが……。それくらいはしないと、どうもね。この仕事もなかなかに大変だから」
「でしょうねぇ」
ミゾイはお茶を飲み、
「使う者には、使われる者にはない苦労があるそうですから。その点、ライワさんも大変でしょうよ」
「彼女にも苦労かけとるからなあ」
ギルドマスターは手を頭の後ろにやって、
「それにな……。長年の勘というほどでもないが、今回はあまり歓迎したくないことになりそうなんだよ」
「ふむふむ?」
ミゾイはカップを置いて――
ストレートを楽しんだ後は、ミルクと砂糖をお茶に入れた。
「それはまた例の……」
ミゾイが何か言う前に、
「青いドラゴンスレイヤーさんが関わってくるかもしれん。彼女に関する噂も色々とな……」
ギルドマスターはため息。
「偽勇者の時みたく?」
「どうかな。しかし、彼女もなかなか恨みつらみを買ってる人物だ。刃傷沙汰が向こうからやってきてもおかしくはないよ。余計な存在でもあるしな」
「余計な?」
ミゾイが目を細めると、
「政争のゴタゴタで、今や完全に悪役になったゴーム氏の娘だしな。彼女自身も立派な、元はつくけど悪役令嬢。それがドラゴンスレイヤーの称号持ち」
ギルドマスターの言葉。
ミゾイは納得顔で、
「ははあ、なるほど。死んだと思っていた毒虫が這い出してきて、より厄介な成虫になって、飛んだり跳ねたりしてる。ある方々からはそう見えると」
「厄介な話だよ」
ギルドマスターは暗い目をした。
「しかし、今さら
「そうだよ。だから嫌なんだ」
ギルドマスターをそう言って――
だらりと脱力して、倒れこむように机に突っ伏した。