破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「そもそもだが……」
「うむ。あの刑は甘かったのではないか、と今では思うな」
「だがあの時は納得した」
「誰も予想はしなかったからな」
「アレが、あんなバケモノになるなど、誰が予想できた?」
「今さらだが……アレは本当に……」
「間違いなしと答えは出ている」
「しかしだな、何をどう考えてもありえん話ではないか」
「どんな秘術や禁術を使ったのだ」
「禁術か……」
「ならば、そちらの線で攻めるのは?」
「確かに」
「禁術は、場合によっては王族でも厳罰となりうるものだぞ」
「ダメだ」
「なに?」
「そんなことは、とっくにやってみた」
「宮廷の風見鶏どもは、まるで手ごたえがない」
「揉め事は嫌だと言うのか」
「……あの、腰抜けどもめ」
「けしからぬ」
「我々の殿下は正式に妃殿下となられた今……」
「おう。地盤をより盤石とせずにどうするか」
「宮廷ばかりではないぞ」
「アレと関わったり見た連中は、みんなダメだ」
「軍属や
「うむ。ワドー翁もな……」
「なに? かの人物と言えば……」
「まさかよ……」
「古強者でも屈指の英傑。どれほどの武勲を上げたことか」
「ええい、情けない!」
「まあ、ワドー翁も年だからな……」
「かつての英雄豪傑も、寄る年波には勝てぬか。哀しいものだ」
「しかし……」
「そうだ。座して待つなどできん」
「とはいえ。アレが異常な力を持つのは……」
「確実である。そこだけは否定しようのないことだぞ」
「なれば」
「やはり、あやつを……か」
「いかにも、そうだ」
「アレがバケモノであるのなら、仕方ない」
「バケモノにはバケモノをぶつけるのが定石だよ」
「だがあいつ自体も危険ではないか」
「今さら遅い」
「そうだ。引くことはかえって災いとなろう」
「では……」
「うむ」
「簒奪者の娘は、追放せねばなるまい。現世から地獄へな――」
・ ・ ・
「こりゃあ、やはり……」
トクベーは首を振ってから、深刻な顔で仲間を見回す。
「タロザの意見が、正しいだろうな」
「おわかりいただけますか?」
「ああ。ここは色々良いところもあるから――」
残念だけどな……。
ため息の後。
トクベーはタロザにうなずいてから、
「みんなはどう思う?」
「
コボルトのメッカイは同意を示し、鼻をひくつかせた。
続いてキューモが、
「ほんなら、おやっさん?」
ぐい、とちょっとだけトクベーへにじり寄りながら、
「噂のヤツぁ、そがぁに……」
獣の瞳でトクベーを見た。
「
「避けられるなら、避けたい相手だよ」
「ははあ……。するともしや」
「そうだなあ。最悪の場合、あの青いお姉さんくらいの――」
実力者かもしれない
と。
トクベーは悩まし気に首を振った。
「そりゃあ、
キューモは大げさに叫んだが、
「うちはヤオアムトはきょうてえところじゃあと、聞いとりましたけぇど……」
声を落とし、真剣な顔となる。
「あがいなきょうてえモンがおるとは、思いませんでした」
「まるでバケモノ扱いだなぁ」
思わず苦笑するトクベーだったが、
「いや――」
カーシャの姿を思い返して、
「そうだな。あの
わずかに、肩を震わせた。
・ ・ ・
多くの人間が道を急ぐ。
故郷から逃げ出した流民の群れ。
ヤオアムトにつければ……。
街にたどりつければ……。
食い物がある。仕事がある。
そういう希望にすがって、歩き続けるのだ。
「父ちゃん、まだつかないのか?」
「やいやい言うな。国境も越えたし、すぐだすぐ」
ある父子の会話。
「ヤオアムトで冒険者するのか、俺たち」
「そうするしかねえらしいや」
「流民なんぞまともな仕事にはつけねえ」
「俺はガキの頃から石工をやってたんだがなあ」
「手に職があってもダメかい?」
「ダメらしいや。許可が出ないとよ」
男ふたりづれの会話。
「まさか出戻りとはね……。情けないことになったわ」
「おねえさんはこっちの生まれだったね」
「ええ……。扱い悪かったし」
「そうなのかい」
「ここじゃ、女の価値は低いのよ。まして平凡な女なんて」
「しかし、おねえさんは」
「魔導士だって? そんなのはここじゃ標準だもの」
「そういえば、そうか」
こういった――
多くの嘆きと、多くの希望。
そんなものをぶら下げた行進。
しかし。
彼らが街や村にたどり着くことは、なかった。
・ ・ ・
「あの――」
「何だよ」
「以前から、いえ、あんまり考えたことはなかったですけど」
リーダーのあの強さというか。
技……。
武術、ですか。
アレって――
そんなバッキーの質問に、
「ああ。それか」
ゴトクは眼を開いて応えた。
定期的なゴトクの訓練。
最近は新しいことよりも?
基礎をより強固にすること――
その方向で訓練していた。
ちょうど、小休止の時。
バッキーがふと質問をしたのだった。
「技とは言えねえな。ありゃ経験で自然に積み上がったもんさ」
「経験」
「他人に教えられるものじゃない」
それは確かだな。
と。
ゴトクは空を仰ぎ見る。
「経験って……」
「そうだな。ありえん」
俺も少しばかり調べたがね。
あいつは――
カーシャ・チーフウォールって娘は――
そんな経験なぞ積めるはずもない。
こっちに来るまでの間……。
どこにも。
そんな時間が挟まる余地はないんだ。
ゴトクの返答に、バッキーは頬を掻き、
「じゃあ……」
「そうだなあ」
ゴトクは、次に視線を地面に落とした。
「色んな神話や宗教に伝わる地獄ってのは、長い時間を過ごすそうだ」
「……はい?」
「一説によると、一番浅い地獄でも地上での1日が500年になるという」
「は、はあ」
「つまり、地獄で500年過ごしても地上に戻ればたった一日というわけだな」
「……え。それって」
「年も、地上での1日分しかとらん、らしい」
「けど、でも」
「そう。ありえん。だから――」
こいつは一種の思考実験。
いや?
単なる
ゴトクはバッキーに苦笑を投げた。
「だがよ、地獄ってのは……」
もっとも過酷で。
もっとも深い階層では。
地上での一日が6万4000年。
これの場合――
小一時間でも、途方もない年月だな?
言ってから、ゴトクは肩を揺する。
そして、笑う。
この場にいない誰かを、せせら笑うように。
ただ、それは、
――多分、リーダーじゃない。
バッキーには、そんな確信があった。
そして。
ふと。
――あ。
大臣、身に重き病を受て、日来を経て死給けり。
即ち閻魔王の使の為に搦められて、閻魔王宮に至りて、罪を定めらるるに、閻魔王宮の臣共の居並たる中に、小野篁居たる。
大臣、此れを見て、
「此れは何なる事にか有らむ」
と怪く思えて居たる程に、篁、笏を取て、王に申さく、
「此の日本の大臣は、心直くして、人の為に吉き者也。今度の罪、己れに免し給らむ」
と。
王、此れを聞て宣はく、
「此れ、極て難き事也と云へども、申請ふに依て、免し給ふ」と。
然れば、篁、此の搦たる者に仰せ給て、「速に将返るべし」と行へば、将返ると思ふ程に、活(いきかへ)れり――
学生時代。
ゼミで学んだ古文の一部。
ある人物の話。
生きながら冥界に出入りして、閻魔の手伝いをしていたという男。
――生きたまま地獄へ……。え、でも、まさか?