破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その116、決闘-4 流民

 

 

「そもそもだが……」

 

「うむ。あの刑は甘かったのではないか、と今では思うな」

 

「だがあの時は納得した」

 

「誰も予想はしなかったからな」

 

「アレが、あんなバケモノになるなど、誰が予想できた?」

 

「今さらだが……アレは本当に……」

 

「間違いなしと答えは出ている」

 

「しかしだな、何をどう考えてもありえん話ではないか」

 

「どんな秘術や禁術を使ったのだ」

 

「禁術か……」

 

「ならば、そちらの線で攻めるのは?」

 

「確かに」

 

「禁術は、場合によっては王族でも厳罰となりうるものだぞ」

 

「ダメだ」

 

「なに?」

 

「そんなことは、とっくにやってみた」

 

「宮廷の風見鶏どもは、まるで手ごたえがない」

 

「揉め事は嫌だと言うのか」

 

「……あの、腰抜けどもめ」

 

「けしからぬ」

 

「我々の殿下は正式に妃殿下となられた今……」

 

「おう。地盤をより盤石とせずにどうするか」

 

「宮廷ばかりではないぞ」

 

「アレと関わったり見た連中は、みんなダメだ」

 

「軍属や古強者(ふるつわもの)でさえ腰が引けておる」

 

「うむ。ワドー翁もな……」

 

「なに? かの人物と言えば……」

 

「まさかよ……」

 

「古強者でも屈指の英傑。どれほどの武勲を上げたことか」

 

「ええい、情けない!」

 

「まあ、ワドー翁も年だからな……」

 

「かつての英雄豪傑も、寄る年波には勝てぬか。哀しいものだ」

 

「しかし……」

 

「そうだ。座して待つなどできん」

 

「とはいえ。アレが異常な力を持つのは……」

 

「確実である。そこだけは否定しようのないことだぞ」

 

「なれば」

 

「やはり、あやつを……か」

 

「いかにも、そうだ」

 

「アレがバケモノであるのなら、仕方ない」

 

「バケモノにはバケモノをぶつけるのが定石だよ」

 

「だがあいつ自体も危険ではないか」

 

「今さら遅い」

 

「そうだ。引くことはかえって災いとなろう」

 

「では……」

 

「うむ」

 

「簒奪者の娘は、追放せねばなるまい。現世から地獄へな――」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「こりゃあ、やはり……」

 

 トクベーは首を振ってから、深刻な顔で仲間を見回す。

 

「タロザの意見が、正しいだろうな」

 

「おわかりいただけますか?」

 

「ああ。ここは色々良いところもあるから――」

 

 残念だけどな……。

 

 ため息の後。

 トクベーはタロザにうなずいてから、

 

「みんなはどう思う?」

 

()()()()()の意見は絶対」

 

 コボルトのメッカイは同意を示し、鼻をひくつかせた。

 

 続いてキューモが、

 

「ほんなら、おやっさん?」

 

 ぐい、とちょっとだけトクベーへにじり寄りながら、

 

「噂のヤツぁ、そがぁに……」

 

 獣の瞳でトクベーを見た。

 

恐ろしい(きょうてえ)んですかのう? 逃げにゃならんほど」

 

「避けられるなら、避けたい相手だよ」

 

「ははあ……。するともしや」

 

「そうだなあ。最悪の場合、あの青いお姉さんくらいの――」

 

 実力者かもしれない

 

 と。

 

 トクベーは悩まし気に首を振った。

 

「そりゃあ、()()()()()!」

 

 キューモは大げさに叫んだが、

 

「うちはヤオアムトはきょうてえところじゃあと、聞いとりましたけぇど……」

 

 声を落とし、真剣な顔となる。

 

「あがいなきょうてえモンがおるとは、思いませんでした」

 

「まるでバケモノ扱いだなぁ」

 

 思わず苦笑するトクベーだったが、

 

「いや――」

 

 カーシャの姿を思い返して、

 

「そうだな。あの戦闘力(ちから)はそうとしか言えないか」

 

 わずかに、肩を震わせた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 多くの人間が道を急ぐ。

 故郷から逃げ出した流民の群れ。

 

 ヤオアムトにつければ……。

 街にたどりつければ……。

 食い物がある。仕事がある。

 

 そういう希望にすがって、歩き続けるのだ。

 

「父ちゃん、まだつかないのか?」

 

「やいやい言うな。国境も越えたし、すぐだすぐ」

 

 ある父子の会話。

 

「ヤオアムトで冒険者するのか、俺たち」

 

「そうするしかねえらしいや」

 

「流民なんぞまともな仕事にはつけねえ」

 

「俺はガキの頃から石工をやってたんだがなあ」

 

「手に職があってもダメかい?」

 

「ダメらしいや。許可が出ないとよ」

 

 男ふたりづれの会話。

 

「まさか出戻りとはね……。情けないことになったわ」

 

「おねえさんはこっちの生まれだったね」

 

「ええ……。扱い悪かったし」

 

「そうなのかい」

 

「ここじゃ、女の価値は低いのよ。まして平凡な女なんて」

 

「しかし、おねえさんは」

 

「魔導士だって? そんなのはここじゃ標準だもの」

 

「そういえば、そうか」

 

 こういった――

 

 多くの嘆きと、多くの希望。

 そんなものをぶら下げた行進。

 

 しかし。

 

 彼らが街や村にたどり着くことは、なかった。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「あの――」

 

「何だよ」

 

「以前から、いえ、あんまり考えたことはなかったですけど」

 

 リーダーのあの強さというか。

 技……。

 武術、ですか。

 アレって――

 

 そんなバッキーの質問に、

 

「ああ。それか」

 

 ゴトクは眼を開いて応えた。

 

 定期的なゴトクの訓練。

 

 最近は新しいことよりも?

 基礎をより強固にすること――

 その方向で訓練していた。

 

 ちょうど、小休止の時。

 バッキーがふと質問をしたのだった。

 

「技とは言えねえな。ありゃ経験で自然に積み上がったもんさ」

 

「経験」

 

「他人に教えられるものじゃない」

 

 それは確かだな。

 

 と。

 ゴトクは空を仰ぎ見る。

 

「経験って……」

 

「そうだな。ありえん」

 

 俺も少しばかり調べたがね。

 あいつは――

 カーシャ・チーフウォールって娘は――

 そんな経験なぞ積めるはずもない。

 こっちに来るまでの間……。

 どこにも。

 そんな時間が挟まる余地はないんだ。

 

 ゴトクの返答に、バッキーは頬を掻き、

 

「じゃあ……」

 

「そうだなあ」

 

 ゴトクは、次に視線を地面に落とした。

 

「色んな神話や宗教に伝わる地獄ってのは、長い時間を過ごすそうだ」

 

「……はい?」

 

「一説によると、一番浅い地獄でも地上での1日が500年になるという」

 

「は、はあ」

 

「つまり、地獄で500年過ごしても地上に戻ればたった一日というわけだな」

 

「……え。それって」

 

「年も、地上での1日分しかとらん、らしい」

 

「けど、でも」

 

「そう。ありえん。だから――」

 

 こいつは一種の思考実験。

 いや?

 単なる戯言(ざれごと)だなァ。

 

 ゴトクはバッキーに苦笑を投げた。

 

「だがよ、地獄ってのは……」

 

 もっとも過酷で。

 もっとも深い階層では。

 地上での一日が6万4000年。

 これの場合――

 

 小一時間でも、途方もない年月だな?

 

 言ってから、ゴトクは肩を揺する。

 

 そして、笑う。

 この場にいない誰かを、せせら笑うように。

 

 ただ、それは、

 

 ――多分、リーダーじゃない。

 

 バッキーには、そんな確信があった。

 

 そして。

 ふと。

 

 ――あ。

 

 大臣、身に重き病を受て、日来を経て死給けり。

 即ち閻魔王の使の為に搦められて、閻魔王宮に至りて、罪を定めらるるに、閻魔王宮の臣共の居並たる中に、小野篁居たる。

 大臣、此れを見て、

「此れは何なる事にか有らむ」

 と怪く思えて居たる程に、篁、笏を取て、王に申さく、

「此の日本の大臣は、心直くして、人の為に吉き者也。今度の罪、己れに免し給らむ」

 と。

 王、此れを聞て宣はく、

「此れ、極て難き事也と云へども、申請ふに依て、免し給ふ」と。

 

 然れば、篁、此の搦たる者に仰せ給て、「速に将返るべし」と行へば、将返ると思ふ程に、活(いきかへ)れり――

 

 学生時代。

 ゼミで学んだ古文の一部。

 

 ある人物の話。

 生きながら冥界に出入りして、閻魔の手伝いをしていたという男。

 

 ――生きたまま地獄へ……。え、でも、まさか?

 

 

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