破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その116、決闘-6 刺客

 

 

 

「何だと……?」

 

「さよう。先にやらせてもらった――」

 

「……勝算はあるとでも」

 

「無論。なければ誰がやるものかよ」

 

「だが、普通の者では手に負えん」

 

「それで片づくのなら苦労しておらんのだぞ」

 

「わかっておる」

 

「ならば……」

 

「そうだ。もしもことが……」

 

「まあ、聞け」

 

「何ぃ……?」

 

「不死身のドラゴンを退治した英雄」

 

「神話にも語られた英雄も、毒であえなく最期を迎えた」

 

「あるいは? 神の武器を装備していなかったため、不覚を取ることもな」

 

「なればよ」

 

()()()()()()()というのか?」

 

「否」

 

「どれほどの力を持つ者でも、心というものがある」

 

「心」

 

「いかにも。その心ほど脆いものはない」

 

「伝説の武具も、心までは守れぬのだ」

 

「されば?」

 

「おうとも。心を討つ。それで解決するというもの」

 

「……だが」

 

()()()のことなら心配無用」

 

「心をやられた彼奴(きゃつ)のとどめを刺すはあいつだ」

 

「二重の仕組みというわけか」

 

「そうだ」

 

「だが――」

 

「何だ?」

 

「我らの放った者が、ひとりで片づけてしまうかもしれぬな」

 

「なにぃ……」

 

「いかに剛の者であろうとも、心が死ねば討つのもたやすかろう」

 

「ふふん。うまくいけばな」

 

「嫌なのか?」

 

「何だと?」

 

「いや。こちらで全てやってしまえば、すなわち全てこちらの手柄になるではないか」

 

「そんなことは、成功してから言うものだ!」

 

「待て!!」

 

「む……」

 

「こんなところで、仲間割れなどしてどうするか」

 

「さよう。こんなザマでは、リーン妃殿下に合わせる顔があるまいよ」

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

「なんだってえ?」

 

 ガジカは、思わず聞き返した。

 

「本当らしい」

 

 答えたのは、隊商に参加している同族(ヴァンパイア)

 商売と共に他国の情報をよく持ってくるのだ。

 

「エリザべ党といやあ、あんた」

 

「ああ。うん」

 

 同族は、飲んでいたグラスを置いてうなずく。

 グラスの中身は、蛇の血入りのワイン。

 

「キーアと**国、その国境あたりで盛り上がってた連中だよ」

 

()()じゃあないのかい?」

 

 ガジカは不審を込めて言った。

 

 エリザベ党。

 実力はあるが、同族からも嫌厭されるような――

 性質(たち)の悪い、ヴァンパイアの集団。

 

「部族や出身も関係なく、ロクデナシが寄り集まってる、あいつらだろ」

 

「そうそう。こっちも迷惑してたから……」

 

 消えてくれてラッキー、じゃあるがね。

 薄情でもないだろう。

 ほら。

 今までが、今までだけにさ。

 

 と。 

 同族は苦笑した。

 

「本当かね?」

 

 ガジカは信じがたい。

 同族だから情報も入るし、その実力も理解できる。

 

「ミカリのねえさんも、連中を警戒してたけどさァ」

 

 ミカリ・バーバ。

 ガジカの姉貴分とも言える吸血鬼(ヴァンパイア)

 冒険者ギルド・スミオ支部支部長。

 

「確かな情報元からだ。間違いない」

 

 疑問のガジカに、同族はハッキリと言った。

 

「エリザべ党の連中は、なんだっけ。元はどっかの国で……」

 

「大昔だな。貴族階級だった連中の末裔だ」

 

「そうそう。それだよ、それ」

 

 ガジカは思い出す――

 以前、エリザべ党と接触した時のことだ。

 

「ふんぞり返った、偉そうな連中だったねぇ」

 

 まあ、くたばってくれたのはいい気味だけどさぁ。

 やった相手が問題だよ。

 どこのどいつだい?

 

 と。

 ガジカは突っ込んだことを聞く。

 

「そこはハッキリしないけど、どっちかといやあ? 人間とかよりも、やっぱり同族だろうな」

 

「同族……。なぁるほど、縄張り争いか」

 

「下手に人間とやり合うよりも、さ。ほどよく付き合いたいって派閥」

 

「血液ならぬ美味い汁を吸いたい連中ってか?」

 

「その通りさ。とはいえ、そこまでベッタリでもなかろうがね」

 

「待てよ?」

 

 この時――

 ガジカはハッとあることに気づいて、

 

「近頃、話に聞くヤバいヤツってのはまさか」

 

「さてね……。それもあるんだが――」

 

 同族は肩をすくめていたが――

 不意に、声を潜めて話題を変える。

 

「何なのさ?」

 

「どっかの貴族に飼われてるヤツがいる」

 

「は?」

 

「そういうような連中がいるって噂さ」

 

「ああ……。そういうのか」

 

 どこの国にもいるが――

 その国の貴族や富豪などなど……。

 財力や権力を持つ階層が、子飼いの集団を抱えている。

 私兵から技術者や愛人、そして暗殺者まで。

 

 そういう集団は、どこにでも、どの種族でもいる。

 当然吸血鬼(ヴァンパイア)にも。

 

「もしかするとさ、最近のゴタゴタは」

 

 その手の連中が関わってるんじゃないか?

 って、物騒な噂もあるのさ

 

 同族は、警戒するようにそう語った。

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

「冗談じゃねえや」

 

 女の話に、男は即答した。

 

「報酬は、はずむ」

 

「金の問題じゃない。命の問題だ」

 

「命が惜しくって、やっていける稼業か?」

 

「ああ。惜しいね。一か八か? 冗談じゃない、ほぼゼロじゃねえか」

 

「……」

 

「だいたいな……」

 

 あの悪鬼(おに)に仕掛けようとなんてな。

 そんなもん、勇気じゃねえ!

 遠回りな自殺だ。

 死にたいのなら、ひとりで死にな。

 

 吐き捨てるように言って、男は席を立った。

 

「悪いが、俺もおりるよ」

 

 別のひとりも席を立った。

 

「私も……」

 

 違う女が闇に消える。

 

「青い悪鬼(フィーンド)が相手じゃ、勝ち目はねえもんな」

 

「こないだも、キングワイバーンを仕留めたそうじゃないか」

 

「あいつには天地がひっくり返っても、歯が立たねえ」

 

 やがて――

 女は暗闇にひとり残った。

 

「……」

 

 フードの下で顔を歪め、女もその場から姿を消す。

 後には、闇だけが残った。

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

「どこでもいい。しばらく屋敷を出なさい」

 

「ええ……」

 

 反応に困っているバッキーへ、

 

「もっとも。徒歩や魔導馬車での移動はおすすめしないけどね」

 

 カーシャは淡々と言った。

 いつものように――

 

「は、はあ……」

 

 テーブルの上に置かれた4つの札束。

 それぞれバッキー、マコネの前に置かれている。

 

「んー……。あいよ」

 

 マコネは少し考えてから、素直に札束をつかむ。

 

「ちょ、マコネさん???」

 

 驚きの声をあげるバッキーだが、

 

「何か、ヤバいことでもあるんだろ」

 

 マコネは平然とした顔でカーシャを見る。

 

「たぶんね」

 

「了解、了解。そこらの孤児院でもまわっとくよ」

 

 マコネが片手を上げて微笑しつつ、

 

「あとさ。ボロンも一緒に連れてくんだろ?」

 

 と。

 横で眠っているボロンを見た。

 ソファーの上で太平楽な鼻チョウチン。

 

「まさか、ここが襲われるってことは……」

 

 何となく状況を察したバッキー。

 やや上目遣いでカーシャを見る。

 

「ありうるかもね――」

 

 カーシャは言って、かすかに笑って……。

 少しだけ目を閉じた。

 

 

 

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