破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「何だと……?」
「さよう。先にやらせてもらった――」
「……勝算はあるとでも」
「無論。なければ誰がやるものかよ」
「だが、普通の者では手に負えん」
「それで片づくのなら苦労しておらんのだぞ」
「わかっておる」
「ならば……」
「そうだ。もしもことが……」
「まあ、聞け」
「何ぃ……?」
「不死身のドラゴンを退治した英雄」
「神話にも語られた英雄も、毒であえなく最期を迎えた」
「あるいは? 神の武器を装備していなかったため、不覚を取ることもな」
「なればよ」
「
「否」
「どれほどの力を持つ者でも、心というものがある」
「心」
「いかにも。その心ほど脆いものはない」
「伝説の武具も、心までは守れぬのだ」
「されば?」
「おうとも。心を討つ。それで解決するというもの」
「……だが」
「
「心をやられた
「二重の仕組みというわけか」
「そうだ」
「だが――」
「何だ?」
「我らの放った者が、ひとりで片づけてしまうかもしれぬな」
「なにぃ……」
「いかに剛の者であろうとも、心が死ねば討つのもたやすかろう」
「ふふん。うまくいけばな」
「嫌なのか?」
「何だと?」
「いや。こちらで全てやってしまえば、すなわち全てこちらの手柄になるではないか」
「そんなことは、成功してから言うものだ!」
「待て!!」
「む……」
「こんなところで、仲間割れなどしてどうするか」
「さよう。こんなザマでは、リーン妃殿下に合わせる顔があるまいよ」
・ ・ ・
「なんだってえ?」
ガジカは、思わず聞き返した。
「本当らしい」
答えたのは、隊商に参加している
商売と共に他国の情報をよく持ってくるのだ。
「エリザべ党といやあ、あんた」
「ああ。うん」
同族は、飲んでいたグラスを置いてうなずく。
グラスの中身は、蛇の血入りのワイン。
「キーアと**国、その国境あたりで盛り上がってた連中だよ」
「
ガジカは不審を込めて言った。
エリザベ党。
実力はあるが、同族からも嫌厭されるような――
「部族や出身も関係なく、ロクデナシが寄り集まってる、あいつらだろ」
「そうそう。こっちも迷惑してたから……」
消えてくれてラッキー、じゃあるがね。
薄情でもないだろう。
ほら。
今までが、今までだけにさ。
と。
同族は苦笑した。
「本当かね?」
ガジカは信じがたい。
同族だから情報も入るし、その実力も理解できる。
「ミカリのねえさんも、連中を警戒してたけどさァ」
ミカリ・バーバ。
ガジカの姉貴分とも言える
冒険者ギルド・スミオ支部支部長。
「確かな情報元からだ。間違いない」
疑問のガジカに、同族はハッキリと言った。
「エリザべ党の連中は、なんだっけ。元はどっかの国で……」
「大昔だな。貴族階級だった連中の末裔だ」
「そうそう。それだよ、それ」
ガジカは思い出す――
以前、エリザべ党と接触した時のことだ。
「ふんぞり返った、偉そうな連中だったねぇ」
まあ、くたばってくれたのはいい気味だけどさぁ。
やった相手が問題だよ。
どこのどいつだい?
と。
ガジカは突っ込んだことを聞く。
「そこはハッキリしないけど、どっちかといやあ? 人間とかよりも、やっぱり同族だろうな」
「同族……。なぁるほど、縄張り争いか」
「下手に人間とやり合うよりも、さ。ほどよく付き合いたいって派閥」
「血液ならぬ美味い汁を吸いたい連中ってか?」
「その通りさ。とはいえ、そこまでベッタリでもなかろうがね」
「待てよ?」
この時――
ガジカはハッとあることに気づいて、
「近頃、話に聞くヤバいヤツってのはまさか」
「さてね……。それもあるんだが――」
同族は肩をすくめていたが――
不意に、声を潜めて話題を変える。
「何なのさ?」
「どっかの貴族に飼われてるヤツがいる」
「は?」
「そういうような連中がいるって噂さ」
「ああ……。そういうのか」
どこの国にもいるが――
その国の貴族や富豪などなど……。
財力や権力を持つ階層が、子飼いの集団を抱えている。
私兵から技術者や愛人、そして暗殺者まで。
そういう集団は、どこにでも、どの種族でもいる。
当然
「もしかするとさ、最近のゴタゴタは」
その手の連中が関わってるんじゃないか?
って、物騒な噂もあるのさ
同族は、警戒するようにそう語った。
・ ・ ・
「冗談じゃねえや」
女の話に、男は即答した。
「報酬は、はずむ」
「金の問題じゃない。命の問題だ」
「命が惜しくって、やっていける稼業か?」
「ああ。惜しいね。一か八か? 冗談じゃない、ほぼゼロじゃねえか」
「……」
「だいたいな……」
あの
そんなもん、勇気じゃねえ!
遠回りな自殺だ。
死にたいのなら、ひとりで死にな。
吐き捨てるように言って、男は席を立った。
「悪いが、俺もおりるよ」
別のひとりも席を立った。
「私も……」
違う女が闇に消える。
「青い
「こないだも、キングワイバーンを仕留めたそうじゃないか」
「あいつには天地がひっくり返っても、歯が立たねえ」
やがて――
女は暗闇にひとり残った。
「……」
フードの下で顔を歪め、女もその場から姿を消す。
後には、闇だけが残った。
・ ・ ・
「どこでもいい。しばらく屋敷を出なさい」
「ええ……」
反応に困っているバッキーへ、
「もっとも。徒歩や魔導馬車での移動はおすすめしないけどね」
カーシャは淡々と言った。
いつものように――
「は、はあ……」
テーブルの上に置かれた4つの札束。
それぞれバッキー、マコネの前に置かれている。
「んー……。あいよ」
マコネは少し考えてから、素直に札束をつかむ。
「ちょ、マコネさん???」
驚きの声をあげるバッキーだが、
「何か、ヤバいことでもあるんだろ」
マコネは平然とした顔でカーシャを見る。
「たぶんね」
「了解、了解。そこらの孤児院でもまわっとくよ」
マコネが片手を上げて微笑しつつ、
「あとさ。ボロンも一緒に連れてくんだろ?」
と。
横で眠っているボロンを見た。
ソファーの上で太平楽な鼻チョウチン。
「まさか、ここが襲われるってことは……」
何となく状況を察したバッキー。
やや上目遣いでカーシャを見る。
「ありうるかもね――」
カーシャは言って、かすかに笑って……。
少しだけ目を閉じた。