破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その26、カーシャは壁の花・マコネとバッキーはあれこれ思い返す

 

 

 

 

「……」

 

 カーシャは壁際で発泡ワインを飲んでいた。

 

 ――ああ、こんな味だったわ。

 

 久しぶりに酒を飲んだ。

 令嬢時代は、高価なものを当たり前に飲んでいたが。

 一般庶民が飲むものとは、味も値段も格段に違うもの。

 

 だったらしい。

 

 今の身分になってから、というよりも。

 

 ――〝こうなってから(・・・・・・・)〟は、お酒なんか一滴も口にしていなかったわね。飲みたいとも思わなかったし。そうできれば、ヤケクソと現実逃避で酒びたりだったかも。

 

 その点だけなら、あの赤い地獄にいたことは良かったかもしれない。

 カーシャは皮肉な笑みをほんの一瞬浮かべた。

 

「それにしても、いつもに増してお美しいですなあ」

 

 少し離れた位置にいたギルドマスターが、愛想良く言ってきた。

 

「お褒めにあずかり光栄ですわ。たとえ社交辞令でも」

 

「いやいや。まぎれもない本心ですよ」

 

 確かにそれは事実。

 黒をベースにしたシックなドレスはカーシャの美貌を引き立てている。

 この場で、カーシャ以上に美しい女はいない。

 

「そうですか。ところで」

 

「何でしょう?」

 

「爵位もある立派なかたが、いつまでも敬語でいらっしゃるのね。家名もない冒険者の女風情に――」

 

「ははは。バカ正直なことを言ってしまえば、あなたのような武人に対してはつい腰が低くなってしまうもので。領主だギルドマスターなんぞといばってみても、肝が小さい小物なんでしょうな」

 

「ご謙遜をおっしゃること。それに」

 

 カーシャはギルドマスターの後ろで控えているライワを見て、

 

「美しいかたなら、いつもおそばに置いていらっしゃるのに」

 

 言われて、ライワは一瞬だけ(ほお)をピクリとさせた。

 ライワ自身も――

 女として自分の容貌には、相応の自負を持っている。

 だが、あまり認めたくないことだが、

 

 ――美貌でこの女に勝る自信はない……。

 

 カーシャという女。

 姿かたちだけなら、令嬢時代とまったく変わらない美貌を保っている。

 

 ――いや、むしろ……。

 

 ユオンの見せた過去のカーシャ。

 あの当時も公爵令嬢として誇るべき美少女だった。

 しかし、研ぎ澄まされた刃のごときものをまとった現在。

 美しさはより増していると思える。

 

「彼女が噂の……」

 

「庶民落ちした……」

 

「相変わらず、嫌な目つき……」

 

 遠くからは何人かがカーシャの噂をしていた。

 中にはカーシャを知っている者もいるようだ。

 特に女は、敵意や悪意のある視線を送っている。

 

「あら? ずいぶんと懐かしいお顔をお見かけいたしました」

 

 と。

 

 1人がツカツカと近づいてきた。

 

 ――だれ、あいつ。

 

 カーシャは記憶をたどるが、よくわからない。

 

 ――顔を知っているけど……まあ、わりと低い家柄の女でしょうね。

 

 恨みを買っていただろうが、そんなものはいちいちおぼえていない。

 敏感に反応したのは、むしろ――

 

 ――バカッ……! うかつに近づくなっ。

 

 カーシャのほうを確認しながら、ライワは背筋が凍る。

 場合によっては、貴族だろうと王族だろうとその場で殺しかねない。

 そう思わせるモノがカーシャにあるのだから。

 

 ――そうならなくても、絶対ロクなことにはならん……!

 

「いやあ、これはこれは! すっかりご無沙汰しておりまして!」

 

 いきなり、ギルドマスターが笑顔で前に進み出た。

 

「お父上はご息災でしょうか? 近々ご挨拶にうかがおうと」

 

「ちょ、あの……」

 

「それにしても、美しくなられた! まるで花の妖精か天使のようですな」

 

 歯の浮くようなセリフ。

 ギルドマスターは相手をベタほめしながら、どんどん距離を遠ざけていく。

 相手はすっかり呑まれていた。

 

「ほうっ……」

 

 上司のすばやい行動に、ライワは安堵の息。

 

「何を心配しているか存じませんが」

 

 そんなライワに、カーシャは淡々と言った。

 

「このような場で血生臭いことをするほど、分別は失っていません。ご安心を」

 

 ――それができないから、肝を冷やすんだ……!!

 

 ライワは心の中で怒鳴りちらした。

 以前ギルドマスターがつぶやき、ライワも同意した言葉。

 

『彼女の一番怖いところは、保身ってものを考えてないところなんだよなあ。いやまったくゼロってわけじゃあないんだけど、いざとなったら多分平気で放り捨てるだろうなあ。そうなりゃ、地獄だ』

 

 フツーの人間にしたって、保身を完全に考えなくなったヤツってのは……そりゃあオッカナイもんだよ。

 そう言っていた。

 

 ライワ自身も過去に、

 

 ――そんなヤツは目にしたことがある……。

 

 おかげで、かなりの被害を出たのをライワも見ていた。

 

 

 

 その頃。

 

「今頃は、姐さん舞踏会だなあ。美味いもん食ってるのかねえ、やっぱ」

 

 宿泊所の個室で、マコネは言った。

 

「ダンスとか誘われたりしてるんでしょうか? ちょっと見てみたいです」

 

 バッキーが想像するのは、いつかアニメで見たような華やかなもの。

 

「そんな度胸のあるおぼっちゃまがいるかぁ? ま、よっぽど鈍いヤツならあの顔見れば飛びつくかもなー」

 

「美人ですもんねえ。うらやましい」

 

「貴族様であれだけの美人なら、お誘いもさぞ多かったろうぜ。ロマンスもけっこう体験してたりな」

 

「そうですか?」

 

「あんがい? お上品な詩のやり取りとかしてたり? なんかオモシレー」

 

「あははは……」

 

「けどよ?」

 

 と、マコネはふと真顔になって、

 

「こーやって2人だけだと、エルフにさらわれたの思い出すなあ」

 

「……死ぬかと思いましたよ、アレは」

 

 バッキーは引きつった笑顔で言った。

 

 あの時――

 

 バタムの宿で眠りかけてマコネはふと胸騒ぎで目が覚めた。

 

「おい、起きろ……。妙な感じだ」

 

「へっ……?」

 

 グースカ眠っていたバッキーを揺り起こしかけた直後、

 

「……ぐっ!?」

 

 いきなり、拘束され口を封じられて動けなくなった。

 2人ともだ。

 

 ――ありゃ縛られたとかじゃないな。たぶん、魔法でやられたんだ……。

 

 そして、わけもわからないうちに。

 エルフのアジトに連れ込まれていた。

 部屋の隅っこで放り出され、小さな魔法結界で閉じ込められ、

 

「ありゃまるで、動物(ケダモノ)みてーな扱いだったな」

 

「生きた心地しませんでしたよ……」

 

「しっかし、あいつらの反応がさあ……」

 

「……正直できることなら、ぶん殴ってやりたかったです」

 

 マコネは頭をかきながら天井を見上げて、バッキーは渋い顔に。

 

「あの子ブタみたいな女が?」

 

「情報では確かに……」

 

「だが、人間だぞ?」

 

「試せばわかるさ」

 

 そんなヒソヒソ話の後、バッキーだけが結界から出された。

 

「拘束の魔法は、解除されてたみたいですけどね。ただ。余裕ゼロでぜんぜん気づかなかった」

 

「そんでさ? あそこにゃあ、何人もケガ人がいたんだよな」

 

「死にかけや、動けないレベルのひとまで……」

 

 どんな目に合うのかと震えあがっていたバッキーは、

 

「治癒魔法で彼らを治せ。妙な真似をすれば即座に殺す」

 

 脅されて、ヒーラーとしての役目を強制された。

 

「エルフとかにも、私の魔法が効果あるのか不安でしたけど」

 

「いや。おめー、前に犬やら牛を治したことあったじゃん。そこは心配ないと思ってたぞ」

 

 バッキーの魔法を目にして、

 

「……バカな!?」

 

「人間がこんなレベルの魔法を……?」

 

「ありえん。こいつ、本当に人間なのか?」

 

 エルフたちは混乱しかけたが、

 

「落ちつけ。以前、人間のくせに妙な能力を持ったヤツを見たことがある。よそでも、そんな噂を聞いた。おそらく、こいつはギフト持ちとかいう突然変異だ」

 

 1人がそう言って、エルフたちは納得した。

 

「お前、あのまま姐さんが来なかったら死ぬまで便利に使われたぜ?」

 

「怖いこと言わないで……」

 

「けど良いじゃねーか。おいらなんか、あのままだとぜってーコレだ」

 

 マコネは喉をかき切るジェスチャーをした。

 

「ますます怖いですよ、それ」

 

 目の前で仲間が惨殺されるのは、たまったものではない。

 

 ――でもなあ……。そんなこと思っても、エルフのグロ死体を山ほど見ちゃってるんだよね、私。今さらだよ……。

 

 バッキーはどこか憂鬱になって、目を閉じる。

 いくら敵であり、異種族だとしても、

 

 ――ほとんど人間と変わらないし、言葉だって通じるし……。それがボンボンとミンチみたいになっちゃって……。フツー、絶対にトラウマになるか、頭ヘンになってる……。

 

 だが。

 

 ――けど、もうお肉だって食べれるし? 怖い夢とか見ないし、リーダーが……いや、怖いのは怖いけど、近づかれたら悲鳴あげるわけでもないし。ていうか、ほぼ平気なまんまじゃん。なんだ、これ。

 

 一度死んだせいだろうか。

 それとも、転生した時に何か変わっているのか。

 

 ――……そーいや、こっち来てから体調も特に悪くなってないわ。そういうのも、調整(・・)されたのかしらん。

 

 向こうで、死んだと思った後――

 

『お前をこれから、異世界転生させる。これだけでも理解できるだろう? 肉体を再構成して、新しいものに移すから転生と言って良かろう。ついでに、特別に能力(ちから)もくれてやる。それを何に使うかはお前の勝手だ。じゃあな』

 

 ――あの、ひと? 声だけだったな。しかも男か女かよくわからない……。やっぱり神様? むうう……。やめよ、考えるだけ無駄だよね。

 

「……リーダー、いつ頃帰りますかね?」

 

「転送ゲート使ってたからな。金使ってら」

 

「え。あれって、緊急用じゃないんですか?」

 

「遠くまで一気に飛ばすヤツはな。フツーのはゲートからゲートへ飛び飛びで行くんだよ、その度に使うやつが乗り降りすっから時間かかんだ」

 

 ――各駅停車の電車みたい……。

 

 

 

 

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