破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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※今回はかなりグロな表現が多いので、ご注意願います。
 ブラウザバックか半分くらいの読み飛ばしを推奨いたします。

※ラストの部分を少し変えました。
 ご意見をいただいて考えましたが、やはり彼女にはふさわしくないかもと。


その116、決闘-7 回想

 

 

 ――あそこは。

 

 休みなく苦しみが続く場所。

 無限であり、『無間』の場所だった。

 

 我が物顔で歩き回る獣頭のバケモノたち。

 

 奴らの吐く炎は皮膚や肉どころではない――

 骨髄まで溶かす。

 

 また、一撃で即死というのは少ない。

 運が良いほうだ。

 

 バケモノどもは、捕らえた獲物をいたぶることを好んだ。

 

 例えば……。

 口を鉄の金具で開かれ、舌に数十の釘を打ち込まれた。

 そこへ溶けた銅を注ぎ込まれ、内臓まで焼かれる。

 

 焼け焦げた鉄の山を強制的に追い立てられ、そこで五体を切り刻まれた。

 巨大なモンスターに体を食われ、砕かれた。

 鉄の雨が投げつけられ、鉄棒で打たれた。

 

 飢えれば泥や糞便、自身の肉を削いで喰らった。

 口を裂かれ、煮えたぎる血肉と糞便の沼に落ちて溺れながら、焼けた。

 体を回転させられながら、溶けた鉛で煮られた。

 

 内臓を引き抜き、溶けた鉄を腹にねじこまれた。

 全身……目、耳、鼻、性器までも刃でえぐられた。

 鉄の塊が降りそそぐ中、鋼鉄のようなモンスターに犯されながら喰われた。

 

 蘇生する前の死体を喰い、逆に蘇生の途中で食い殺されることもあった。

 巨大な鉄の木に挟まれ粉々になり、鳥の餌となった。

 鉄の箱に閉じ込められ、鋼鉄の杵でミンチにされる。

 

 常に何かの病気に発症し、苦しみもがき苦しんでいた。

 踏み潰され、体を裂かれ、目玉をすすられた。

 高所から落とされ、全身の骨が砕け、内臓が潰れた。

 

 性器や肛門に刃を突き刺され、頭まで貫かれた。

 渇きの中熱砂でのたうち、皮膚が焼けただれた。

 モンスターの種を植えつけられ、腹を引き裂きながらモンスターの幼体や卵を産まされた。

 寄生型のモンスターに脳髄や内臓、骨まで喰われた。

 

 絞め殺された。

 溺死させられた。

 焼き殺された。

 叩き殺された。

 

 何千も何万回もなぶり殺されて――

 

 殺す側に回ったのは、いつのことだったか。

 

 中でも……。

 

 地獄(ナラカ)という場所で、最強格であった存在。

 ウシアタマ。

 ウマアタマ。

 巨大な、悪魔としか言いようがないバケモノたち。

 

 さらには――

 無数の眼と、曲がった歯を持つ連中もいた。

 オーガに似た……

 獣と人間を、悪意たっぷりに混ぜ合わせ、ゆがめたような顔。

 複数の頭を持つ者もいた。

 そいつらは、炎、稲妻、毒、場所にとっては氷のブレスを吐き出した。

 

 あいつらには常に苦戦して、何度も何度も殺された。

 殺せるようになるまでどれだけかかったものか。

 

 ……。

 

「思えば、懐かしい気もする――」

 

 カーシャは微笑した。

 

 時間にすれば、ほんの少し前――

 あそこから戻って1年にもならないはずなのだが。

 

 それから。

 闇の向こうで、動揺した気配を見る。

 

「ふーん。なるほど、幻影、いえ精神攻撃魔法か。考えたわねえ」

 

 カーシャはさらに微笑む。

 優しげとさえ言える顔だった。

 

「なかなか良い刺激でもあった。そう、こういうのをイメージトレーニングなんて言うのかしら」

 

 ――こいつ……。まさか、苦痛も何も感じたことがないのか!?

 

 どんな者でも――

 生きていれば苦しみ、悲しみは避けられない。

 その痛みがいつまでも残り続けて、苦しみ続ける。

 

 えぐられれば……。

 時には、死に至るほどに。

 どんな肉体のダメージよりも強い痛みとともなって。

 

「ところで」

 

 お前――

 私の記憶だか悪夢はのぞいていたのかしら?

 

 カーシャは少しだけ首をかたむけて、言った。

 

 ――知るものか。

 

 闇に潜む女は、音を立てずに舌打ちをする。

 

 毒殺。

 それをするのに、わざわざその毒を飲む必要はない。

 ただ。

 毒の扱い方、効能のみを習得すればいい。

 

 まして。

 心だの精神だのになれば……。

 下手に踏み込むと自分のほうが危なくなる。

 

「なるほど。そうではない、と。まあ、正解かもねえ」

 

 カーシャは気配から、そのへんを察した。

 そして、静かに動く。

 

 ひと呼吸の後。

 女は、カーシャの右手に胸を貫かれていた。

 

「誰の差し金、なんて無駄なことは聞かない」

 

 どうせ言わないだろうし。

 知ってるとも限らないしね?

 いや。

 騙されてるパターンもありかしら。

 

 突き入れた右手。

 それで女の心臓をつかみながら、カーシャは微笑する。

 

 女は、暗い目でカーシャを見返した。

 

「しかし、吸血鬼(ヴァンパイア)とは」

 

 独特の瞳。

 牙。

 そして、灰色の肌。

 時にアンデッドとも同一視される種族。

 

「……!!」

 

 つかまれたまま、女はその瞳でカーシャを睨んだ。

 

 わずかな電流のような――

 それがカーシャの内部を走る。

 

 まばたきするかしないか。

 いや。

 それ以上に短い一瞬。

 

 カーシャは、あの赤黒い地獄(ナラカ)を追体験した。

 さっきと、同じように――

 

「それはもう見た」

 

 ため息。

 その後で、カーシャは失望の視線を向けた。

 

「いくら()()()()になっても、続けば飽きるわよ」

 

 言ってから、カーシャは女の心臓を握り潰した。

 首をはねた。

 

 女の肉体が崩れ、灰となっていく中、

 

「お前も、すぐに死ぬ――……」

 

 呪詛か。

 予言か。

 どちらともつかない言葉。

 それを残して、女は死んだ。

 

「……つまらないものね」

 

 カーシャは頭を掻いてから、掃除用具を手にした。

 部屋に残った灰を集め、捨てる。

 

 ――こいつが本命とも思えない。

 

 そのうち、来るだろうとは予想していた。

 しかし。

 コソコソと接近してきたのが、さっきの女吸血鬼。

 

 要するに――

 

 ――相手のトラウマをえぐって、精神的に殺す技か……。

 

 うまい手ではあるわね。

 拍子抜けはしたけれど。

 

 さめた気分の中で、カーシャは窓から外を見た。

 

 その時だった。

 ピリリ……と。

 胸の奥で、小さな火花が走っていく。

 

 ――さっきのが、まだ残っている?

 

 気づけば――

 どこかで――

 

 カーシャは誰かと対峙して、戦っていた。

 

 多分、少年らしい。

 少なくとも大人ではない。

 

 ――なかなかやる……!

 

 ドラゴンをひねり潰すカーシャの連撃。

 少年はそれに真正面から向かってきた。

 必死でかわし、あるいは耐えながら。

 

 血まみれだった。

 余裕なら、カーシャのほうが圧倒的だ。

 戦闘力でも負ける要素はゼロ。

 

 しかし、

 

 ――追いつめられている? 今の私が……?

 

 ジリジリ、と。

 カーシャは半死半生の少年に押されだしていた。

 

 いや――

 

 ――違う……!?

 

 上ではなかった。

 自分と同等、あるいはそれ以上の――

 

 鋭い刃がカーシャを狙う。

 

 自分よりも強い敵。

 強大な敵。

 苦しい状況。

 そんなものは何万回も体験した。

 

 ――何が違うというの……?

 

 地獄(ナラカ)のバケモノども。

 やはり、違う。

 自分と同じく、殺して殺されてを繰り返した――

 

 ――だれ……?

 

 動揺が走った。

 忘れかけていた恐怖と焦燥が胸を走る。

 

 ――いや、ちがう。それが原因じゃない。

 

 不利な状況だからではなかった。

 ただ。

 目の前の少年。

 それ自体に押され、負け始めている。

 

 死にそうになりながら――

 血まみれになりながら――

 

 それでも、少年はまっすぐにカーシャを見ている。

 

 憎悪でもない。

 怒りでもない。

 熱のない、ただただ暗い瞳。

 

 やがて。

 少年の刃が、カーシャを貫いた。

 

 ――負ける? まさか、こんな形で……。

 

 返す刃が、カーシャの喉を切り裂いた。

 血が、雨のように降る。

 

 倒れたカーシャを、少年は黙って見おろしていた。

 

 ――お前は……。

 

 その時、カーシャは何を思ったのか。

 何を、思おうとしたのか。

 

「……」 

 

 幻影が去り――

 カーシャはそこに立ったままだった。

 

「なに、今のは……」

 

 掃除用具を片づけ、大きな椅子に座る。

 それなりの値段がつく、『良いもの』だった。

 

 ――さっきのは、予知夢? それとも、恐怖? あるいは……。

 

 願望なのか。

 

 カーシャは自分自身を不思議に感じ、胸に触れた。

 

 脳裏に、幻影の少年が一瞬かすめて――

 消える。

 

「テラ、だったわね」

 

 幻影の中で殺し合い、殺された相手。

 自分と同じ臭いをまとった、虚ろな瞳の少年。

 

 ――ひょっとして、会いたいのかしら? あの子に……。

 

 だが、何故。

 カーシャは自問する。

 

 自分の指先で、自分の唇を撫でる。

 

 あるいは、

 

「死の予感かもしれないわねえ……」

 

 死ねばどうなるのかしら?

 

 また地獄(あそこ)へ戻るのか。

 虚無に還るのか。

 

「唐突だこと……。それとも、最後が近いから?」

 

 カーシャは自分自身を嘲り、肩を震わせた。

 

「そうね。死ぬのは怖いし、厭だわ……」

 

 

 それでも――

 

 

 戦いのときは、近づいていた。

 ゆっくりと。

 

 

 

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