破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ブラウザバックか半分くらいの読み飛ばしを推奨いたします。
※ラストの部分を少し変えました。
ご意見をいただいて考えましたが、やはり彼女にはふさわしくないかもと。
――あそこは。
休みなく苦しみが続く場所。
無限であり、『無間』の場所だった。
我が物顔で歩き回る獣頭のバケモノたち。
奴らの吐く炎は皮膚や肉どころではない――
骨髄まで溶かす。
また、一撃で即死というのは少ない。
運が良いほうだ。
バケモノどもは、捕らえた獲物をいたぶることを好んだ。
例えば……。
口を鉄の金具で開かれ、舌に数十の釘を打ち込まれた。
そこへ溶けた銅を注ぎ込まれ、内臓まで焼かれる。
焼け焦げた鉄の山を強制的に追い立てられ、そこで五体を切り刻まれた。
巨大なモンスターに体を食われ、砕かれた。
鉄の雨が投げつけられ、鉄棒で打たれた。
飢えれば泥や糞便、自身の肉を削いで喰らった。
口を裂かれ、煮えたぎる血肉と糞便の沼に落ちて溺れながら、焼けた。
体を回転させられながら、溶けた鉛で煮られた。
内臓を引き抜き、溶けた鉄を腹にねじこまれた。
全身……目、耳、鼻、性器までも刃でえぐられた。
鉄の塊が降りそそぐ中、鋼鉄のようなモンスターに犯されながら喰われた。
蘇生する前の死体を喰い、逆に蘇生の途中で食い殺されることもあった。
巨大な鉄の木に挟まれ粉々になり、鳥の餌となった。
鉄の箱に閉じ込められ、鋼鉄の杵でミンチにされる。
常に何かの病気に発症し、苦しみもがき苦しんでいた。
踏み潰され、体を裂かれ、目玉をすすられた。
高所から落とされ、全身の骨が砕け、内臓が潰れた。
性器や肛門に刃を突き刺され、頭まで貫かれた。
渇きの中熱砂でのたうち、皮膚が焼けただれた。
モンスターの種を植えつけられ、腹を引き裂きながらモンスターの幼体や卵を産まされた。
寄生型のモンスターに脳髄や内臓、骨まで喰われた。
絞め殺された。
溺死させられた。
焼き殺された。
叩き殺された。
何千も何万回もなぶり殺されて――
殺す側に回ったのは、いつのことだったか。
中でも……。
ウシアタマ。
ウマアタマ。
巨大な、悪魔としか言いようがないバケモノたち。
さらには――
無数の眼と、曲がった歯を持つ連中もいた。
オーガに似た……
獣と人間を、悪意たっぷりに混ぜ合わせ、ゆがめたような顔。
複数の頭を持つ者もいた。
そいつらは、炎、稲妻、毒、場所にとっては氷のブレスを吐き出した。
あいつらには常に苦戦して、何度も何度も殺された。
殺せるようになるまでどれだけかかったものか。
……。
「思えば、懐かしい気もする――」
カーシャは微笑した。
時間にすれば、ほんの少し前――
あそこから戻って1年にもならないはずなのだが。
それから。
闇の向こうで、動揺した気配を見る。
「ふーん。なるほど、幻影、いえ精神攻撃魔法か。考えたわねえ」
カーシャはさらに微笑む。
優しげとさえ言える顔だった。
「なかなか良い刺激でもあった。そう、こういうのをイメージトレーニングなんて言うのかしら」
――こいつ……。まさか、苦痛も何も感じたことがないのか!?
どんな者でも――
生きていれば苦しみ、悲しみは避けられない。
その痛みがいつまでも残り続けて、苦しみ続ける。
えぐられれば……。
時には、死に至るほどに。
どんな肉体のダメージよりも強い痛みとともなって。
「ところで」
お前――
私の記憶だか悪夢はのぞいていたのかしら?
カーシャは少しだけ首をかたむけて、言った。
――知るものか。
闇に潜む女は、音を立てずに舌打ちをする。
毒殺。
それをするのに、わざわざその毒を飲む必要はない。
ただ。
毒の扱い方、効能のみを習得すればいい。
まして。
心だの精神だのになれば……。
下手に踏み込むと自分のほうが危なくなる。
「なるほど。そうではない、と。まあ、正解かもねえ」
カーシャは気配から、そのへんを察した。
そして、静かに動く。
ひと呼吸の後。
女は、カーシャの右手に胸を貫かれていた。
「誰の差し金、なんて無駄なことは聞かない」
どうせ言わないだろうし。
知ってるとも限らないしね?
いや。
騙されてるパターンもありかしら。
突き入れた右手。
それで女の心臓をつかみながら、カーシャは微笑する。
女は、暗い目でカーシャを見返した。
「しかし、
独特の瞳。
牙。
そして、灰色の肌。
時にアンデッドとも同一視される種族。
「……!!」
つかまれたまま、女はその瞳でカーシャを睨んだ。
わずかな電流のような――
それがカーシャの内部を走る。
まばたきするかしないか。
いや。
それ以上に短い一瞬。
カーシャは、あの赤黒い
さっきと、同じように――
「それはもう見た」
ため息。
その後で、カーシャは失望の視線を向けた。
「いくら
言ってから、カーシャは女の心臓を握り潰した。
首をはねた。
女の肉体が崩れ、灰となっていく中、
「お前も、すぐに死ぬ――……」
呪詛か。
予言か。
どちらともつかない言葉。
それを残して、女は死んだ。
「……つまらないものね」
カーシャは頭を掻いてから、掃除用具を手にした。
部屋に残った灰を集め、捨てる。
――こいつが本命とも思えない。
そのうち、来るだろうとは予想していた。
しかし。
コソコソと接近してきたのが、さっきの女吸血鬼。
要するに――
――相手のトラウマをえぐって、精神的に殺す技か……。
うまい手ではあるわね。
拍子抜けはしたけれど。
さめた気分の中で、カーシャは窓から外を見た。
その時だった。
ピリリ……と。
胸の奥で、小さな火花が走っていく。
――さっきのが、まだ残っている?
気づけば――
どこかで――
カーシャは誰かと対峙して、戦っていた。
多分、少年らしい。
少なくとも大人ではない。
――なかなかやる……!
ドラゴンをひねり潰すカーシャの連撃。
少年はそれに真正面から向かってきた。
必死でかわし、あるいは耐えながら。
血まみれだった。
余裕なら、カーシャのほうが圧倒的だ。
戦闘力でも負ける要素はゼロ。
しかし、
――追いつめられている? 今の私が……?
ジリジリ、と。
カーシャは半死半生の少年に押されだしていた。
いや――
――違う……!?
上ではなかった。
自分と同等、あるいはそれ以上の――
鋭い刃がカーシャを狙う。
自分よりも強い敵。
強大な敵。
苦しい状況。
そんなものは何万回も体験した。
――何が違うというの……?
やはり、違う。
自分と同じく、殺して殺されてを繰り返した――
――だれ……?
動揺が走った。
忘れかけていた恐怖と焦燥が胸を走る。
――いや、ちがう。それが原因じゃない。
不利な状況だからではなかった。
ただ。
目の前の少年。
それ自体に押され、負け始めている。
死にそうになりながら――
血まみれになりながら――
それでも、少年はまっすぐにカーシャを見ている。
憎悪でもない。
怒りでもない。
熱のない、ただただ暗い瞳。
やがて。
少年の刃が、カーシャを貫いた。
――負ける? まさか、こんな形で……。
返す刃が、カーシャの喉を切り裂いた。
血が、雨のように降る。
倒れたカーシャを、少年は黙って見おろしていた。
――お前は……。
その時、カーシャは何を思ったのか。
何を、思おうとしたのか。
「……」
幻影が去り――
カーシャはそこに立ったままだった。
「なに、今のは……」
掃除用具を片づけ、大きな椅子に座る。
それなりの値段がつく、『良いもの』だった。
――さっきのは、予知夢? それとも、恐怖? あるいは……。
願望なのか。
カーシャは自分自身を不思議に感じ、胸に触れた。
脳裏に、幻影の少年が一瞬かすめて――
消える。
「テラ、だったわね」
幻影の中で殺し合い、殺された相手。
自分と同じ臭いをまとった、虚ろな瞳の少年。
――ひょっとして、会いたいのかしら? あの子に……。
だが、何故。
カーシャは自問する。
自分の指先で、自分の唇を撫でる。
あるいは、
「死の予感かもしれないわねえ……」
死ねばどうなるのかしら?
また
虚無に還るのか。
「唐突だこと……。それとも、最後が近いから?」
カーシャは自分自身を嘲り、肩を震わせた。
「そうね。死ぬのは怖いし、厭だわ……」
それでも――
戦いのときは、近づいていた。
ゆっくりと。