破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その116、決闘-11 戦線

 

 

「あのー」

 

「何だよ?」

 

「ひょっとして、その殺し屋? の……顔とかわかったりします? そう、写真みたいな……」

 

 そんなバッキーの質問に、

 

「あー……」

 

 ゴトクは嫌そうな顔をしながらも、手のひらを上にかざす。

 そこへ、一枚の『写真』――

 美しい女の顔が浮かび上がった。

 

 金髪の美女。

 造形の良しあしではなく……。

 単純な魅力や、セクシーさではカーシャよりも上だろう。

 

 しかし、

 

「あ」

 

 女の顔。

 特にその眼を見た瞬間、バッキーはゾッとするものを感じた。

 

 それは経験則――

 転生後の、()()()()()()から学習したもの。

 

 ――こりゃあかんわ。

 

 バッキーは一瞬でそう思った。

 

 ヒト殺し。

 狂人。

 バケモノ。

 

 異常なモノや危険なモノを表す単語。

 それが洪水みたいに脳内を流れていく。

 

「あまり思い出したくない顔だが、忘れるのは命に関わる――」

 

「……でしょうね」

 

「姐さんが刃物なら、こいつは毒薬だな」

 

 マコネはげんなりした顔でそう言う。

 

 しかし、

 

 ――けど、何かなあ?

 

 妙な既視感が、バッキーの中に走った。

 

 ――初めて見るはずだけど、どっかで見たような……?

 

 少しばかり考えた後で、

 

 ――あ。

 

 思い出した。

 つながった。

 

 ――これって……。

 

 確か。

 日本ではR-15、海外ではR-18。

 とにかく年齢制限のある、過激なゲーム。

 

 ――こういう、ヤバい格好をした女性主人公が、モンスターとか盗賊とか殺しまくるゲーム……だったような。

 

 ゲーム内のそれは、アニメ風の3Dだった。

 だからすぐにはわからなかったのだけれど……。

 

 ――そもそも、好きなジャンルじゃなかったし……。アクションゲーム苦手だし……。

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「結局、後手後手に回ってしまった――」

 

 リーンは虚しそうにつぶやいた。

 自分にだけ聞こえる声で――

 

 多忙だった。

 客観的に見てもそうだったはず。

 

 しかし、

 

 ――言い訳は、言い訳。

 

 自己弁護は、むしろ虚しさを際立たせた。

 

 ――私は恩知らずの冷血漢と呼ばれるのだろう。

 

 実際、その通りではある。

 

 ――ならそのまま、そう呼ばれるしかない。

 

 開き直るわけではないが……。

 ただ、受け止めるだけ。

 それしかできないのだ。

 

「バカな子ね、リーン」

 

 背後からの声。

 ゆっくりと振り返る。

 

 幻影の少女がそこにいた。

 今よりも小さく、幼い頃の自分。

 

 父を失い、叔父の元で召使いか奴隷のような扱いだった生活。

 それが始まって間もない頃のリーン自身。

 

「お姫様になって、それで満足した? めでたしめでたしだと思った?」

 

 それとも、安心した?

 

 幻影のリーンは冷たく言った。

 

 ――そんなことはない。ないつもり……。

 

 でも、胸を張って言いきれるのか。

 それはきっと無理なのだろう。

 

「ええ、そうよ。あなたはカンペキじゃない。女神でも聖者でもない。多少身分が高いだけの小娘」

 

 ――そうね。

 

 リーンは、幻影の自分に心の中でうなずいた。

 

「ありがとう、子爵。とても参考になりました」

 

「もったいなきお言葉……」

 

 老子爵は、目を伏せて礼をとった。

 

 ――ルソンツ準伯は、私に汚れるなと言った。

 

 でも――

 もう……

 そういうわけにはいかない。

 

 リーンは拳を握った後、手を数度叩いた。

 すぐに扉が開き、侍女がやってくる。

 

「ルソンツ準伯を呼んで」

 

 リーンは、穏やかな声でそう命じた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 どんどんと――

 自分の〝状態(モード)〟が切り替わっていく。

 カーシャは明確にそう感じた。

 

 あの世界――地獄(ナラカ)

 そこで過ごした苦痛と恐怖、そして殺して殺される時間。

 興奮はない。

 ただ、ひたすらに冷めていく。

 

 どう動けば効率的か。

 どう斬れば相手は死ぬのか。

 どうすれば、より簡単に殺せるのか。

 そんなことに身体が集中していく。

 

 相手から目を離すことはない。

 絶対に――

 

 だが……。

 

 上下左右、あらゆる角度からの視点。

 こういったものが複数同時展開で脳内に奔る。

 それらを統合して、本能的に動く。

 

 ――見えてくる。

 

 敵は強い。

 だが、つけ入る隙はいくらでもある。

 あるが、容易でもない。

 

 空気が裂ける。

 斬る。

 殴る。

 打つ。

 突く。

 蹴る。

 無数の組み合わせが何度も噛み合い、ぶつかり合う。

 

 本能。反射。

 カーシャの動きはそれらで構成されている。

 獣がそうであるように。

 

 だが。

 

 『訓練』に裏打ちされたはずの……。

 プラジナの動きもまた、

 

 ――本能。

 

 これに近かった。

 いや、欲望か。

 

 殺してやる。

 殺してやる。

 殺してやる。

 殺してやる。

 殺してやる。

 殺してやる。

 殺してやる。

 殺してやる。

 

 笑顔はない。

 だが、プラジナの瞳は明確な狂喜で燃え上がっている。

 それは時間を増すごとに強まり……。

 狂喜が強まるごとに剣の技は研ぎ澄まされていく。

 

 ――ふん。

 

 カーシャは斬撃を受け止め、腹を蹴る。

 インパクトの瞬間、プラジナは飛んでかわす。

 

「好きなモノこそ、上手なれ――か」

 

 つぶやき、カーシャは冷笑した。

 

 ――なるほど。得意なことイコール生きがい、楽しみ……ね。

 

 狂喜に染まったプラジナの瞳。

 カーシャは、それに少なからず嫉妬を感じた。

 

 ――これも、懐かしい気持ちだわ……。

 

 思いながら身をひねって移動し、走る。

 

「羨ましいわね、楽しそうで――」

 

 しかし。

 その独り言が隙となった。

 

「……!」

 

 空気を裂き、プラジナの刃がカーシャの喉元に迫る。

 

 激突。

 瞬間、衝撃が破壊をまき散らしながら周辺へ飛ぶ。

 

 地面が爆ぜた。

 木々が砕けた。

 草花が朽ちた。

 

 虫も獣も逃げるか、殺気を受けて死ぬ。

 

「はあああ……」

 

 ため息のような吐息。

 それを吐いたのはプラジナだった。

 

 斬りつけた刃。

 それは、カーシャの口元で停止している。

 

 虫歯ひとつない鋼鉄のような歯。

 噛みしめる金属がミシミシと悲鳴を上げていた。

 

 そして――

 

 ベキリベキリ、と。

 刃の切っ先は噛み砕かれ、粉々になっていく。

 

「じゃあああッッ!!」

 

 奇怪な声で叫び、刃を突き込もうとするプラジナ。

 しかし、動かない。

 カーシャの左手が刃をつかみ、放さない。

 

「――……!」

 

 一瞬の硬直。

 そこへ、

 

「べッッッ!!!」

 

 カーシャは噛み砕いた金属片を、プラジナに吐きつけた。

 どす黒いナニかと共に――

 

「……!?」

 

 目を閉じて、顔をそらすプラジナ。

 カーシャはその機を逃さず、

 

「ふ」

 

 プラジナの顔面を蹴りつけた。

 回し蹴りに似た動作。

 

 音というよりも、破壊。

 あるいは爆裂。

 衝撃波が、空間を引き裂く。

 

 プラジナは回転しながら空中へ飛んで――

 地面に着地した。

 

 カーシャが金属片を吐くと同時に……。

 プラジナも武器から手を放していたのだ。

 

「……」

 

 無言で立ち上がるプラジナへ、

 

「は」

 

 息と共に――

 カーシャは半分砕けたプラジナの剣を投げた。

 

 黒く染まったそれは円を形作りつつ、飛ぶ。

 プラジナは動かない。

 ただ。

 左手で顔をかばうような動作をした。

 

 そして――

 ボム……と。

 

 爆裂。

 音と衝撃、粉塵が飛び散り周辺に叩きつけられていく。

 

「……なるほど」

 

 カーシャはつぶやき、カーラナーガを握り直す。

 

 爆心地。

 そこには、丸形の盾と長剣を構えたプラジナが立っている。

 

 ――予備用か。しかし……。

 

 ()()()()()でもないらしい。

 カーシャはプラジナの武器をそう判断した。

 

 

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