破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「あのー」
「何だよ?」
「ひょっとして、その殺し屋? の……顔とかわかったりします? そう、写真みたいな……」
そんなバッキーの質問に、
「あー……」
ゴトクは嫌そうな顔をしながらも、手のひらを上にかざす。
そこへ、一枚の『写真』――
美しい女の顔が浮かび上がった。
金髪の美女。
造形の良しあしではなく……。
単純な魅力や、セクシーさではカーシャよりも上だろう。
しかし、
「あ」
女の顔。
特にその眼を見た瞬間、バッキーはゾッとするものを感じた。
それは経験則――
転生後の、
――こりゃあかんわ。
バッキーは一瞬でそう思った。
ヒト殺し。
狂人。
バケモノ。
異常なモノや危険なモノを表す単語。
それが洪水みたいに脳内を流れていく。
「あまり思い出したくない顔だが、忘れるのは命に関わる――」
「……でしょうね」
「姐さんが刃物なら、こいつは毒薬だな」
マコネはげんなりした顔でそう言う。
しかし、
――けど、何かなあ?
妙な既視感が、バッキーの中に走った。
――初めて見るはずだけど、どっかで見たような……?
少しばかり考えた後で、
――あ。
思い出した。
つながった。
――これって……。
確か。
日本ではR-15、海外ではR-18。
とにかく年齢制限のある、過激なゲーム。
――こういう、ヤバい格好をした女性主人公が、モンスターとか盗賊とか殺しまくるゲーム……だったような。
ゲーム内のそれは、アニメ風の3Dだった。
だからすぐにはわからなかったのだけれど……。
――そもそも、好きなジャンルじゃなかったし……。アクションゲーム苦手だし……。
・ ・ ・
「結局、後手後手に回ってしまった――」
リーンは虚しそうにつぶやいた。
自分にだけ聞こえる声で――
多忙だった。
客観的に見てもそうだったはず。
しかし、
――言い訳は、言い訳。
自己弁護は、むしろ虚しさを際立たせた。
――私は恩知らずの冷血漢と呼ばれるのだろう。
実際、その通りではある。
――ならそのまま、そう呼ばれるしかない。
開き直るわけではないが……。
ただ、受け止めるだけ。
それしかできないのだ。
「バカな子ね、リーン」
背後からの声。
ゆっくりと振り返る。
幻影の少女がそこにいた。
今よりも小さく、幼い頃の自分。
父を失い、叔父の元で召使いか奴隷のような扱いだった生活。
それが始まって間もない頃のリーン自身。
「お姫様になって、それで満足した? めでたしめでたしだと思った?」
それとも、安心した?
幻影のリーンは冷たく言った。
――そんなことはない。ないつもり……。
でも、胸を張って言いきれるのか。
それはきっと無理なのだろう。
「ええ、そうよ。あなたはカンペキじゃない。女神でも聖者でもない。多少身分が高いだけの小娘」
――そうね。
リーンは、幻影の自分に心の中でうなずいた。
「ありがとう、子爵。とても参考になりました」
「もったいなきお言葉……」
老子爵は、目を伏せて礼をとった。
――ルソンツ準伯は、私に汚れるなと言った。
でも――
もう……
そういうわけにはいかない。
リーンは拳を握った後、手を数度叩いた。
すぐに扉が開き、侍女がやってくる。
「ルソンツ準伯を呼んで」
リーンは、穏やかな声でそう命じた。
・ ・ ・
どんどんと――
自分の〝
カーシャは明確にそう感じた。
あの世界――
そこで過ごした苦痛と恐怖、そして殺して殺される時間。
興奮はない。
ただ、ひたすらに冷めていく。
どう動けば効率的か。
どう斬れば相手は死ぬのか。
どうすれば、より簡単に殺せるのか。
そんなことに身体が集中していく。
相手から目を離すことはない。
絶対に――
だが……。
上下左右、あらゆる角度からの視点。
こういったものが複数同時展開で脳内に奔る。
それらを統合して、本能的に動く。
――見えてくる。
敵は強い。
だが、つけ入る隙はいくらでもある。
あるが、容易でもない。
空気が裂ける。
斬る。
殴る。
打つ。
突く。
蹴る。
無数の組み合わせが何度も噛み合い、ぶつかり合う。
本能。反射。
カーシャの動きはそれらで構成されている。
獣がそうであるように。
だが。
『訓練』に裏打ちされたはずの……。
プラジナの動きもまた、
――本能。
これに近かった。
いや、欲望か。
殺してやる。
殺してやる。
殺してやる。
殺してやる。
殺してやる。
殺してやる。
殺してやる。
殺してやる。
笑顔はない。
だが、プラジナの瞳は明確な狂喜で燃え上がっている。
それは時間を増すごとに強まり……。
狂喜が強まるごとに剣の技は研ぎ澄まされていく。
――ふん。
カーシャは斬撃を受け止め、腹を蹴る。
インパクトの瞬間、プラジナは飛んでかわす。
「好きなモノこそ、上手なれ――か」
つぶやき、カーシャは冷笑した。
――なるほど。得意なことイコール生きがい、楽しみ……ね。
狂喜に染まったプラジナの瞳。
カーシャは、それに少なからず嫉妬を感じた。
――これも、懐かしい気持ちだわ……。
思いながら身をひねって移動し、走る。
「羨ましいわね、楽しそうで――」
しかし。
その独り言が隙となった。
「……!」
空気を裂き、プラジナの刃がカーシャの喉元に迫る。
激突。
瞬間、衝撃が破壊をまき散らしながら周辺へ飛ぶ。
地面が爆ぜた。
木々が砕けた。
草花が朽ちた。
虫も獣も逃げるか、殺気を受けて死ぬ。
「はあああ……」
ため息のような吐息。
それを吐いたのはプラジナだった。
斬りつけた刃。
それは、カーシャの口元で停止している。
虫歯ひとつない鋼鉄のような歯。
噛みしめる金属がミシミシと悲鳴を上げていた。
そして――
ベキリベキリ、と。
刃の切っ先は噛み砕かれ、粉々になっていく。
「じゃあああッッ!!」
奇怪な声で叫び、刃を突き込もうとするプラジナ。
しかし、動かない。
カーシャの左手が刃をつかみ、放さない。
「――……!」
一瞬の硬直。
そこへ、
「べッッッ!!!」
カーシャは噛み砕いた金属片を、プラジナに吐きつけた。
どす黒いナニかと共に――
「……!?」
目を閉じて、顔をそらすプラジナ。
カーシャはその機を逃さず、
「ふ」
プラジナの顔面を蹴りつけた。
回し蹴りに似た動作。
音というよりも、破壊。
あるいは爆裂。
衝撃波が、空間を引き裂く。
プラジナは回転しながら空中へ飛んで――
地面に着地した。
カーシャが金属片を吐くと同時に……。
プラジナも武器から手を放していたのだ。
「……」
無言で立ち上がるプラジナへ、
「は」
息と共に――
カーシャは半分砕けたプラジナの剣を投げた。
黒く染まったそれは円を形作りつつ、飛ぶ。
プラジナは動かない。
ただ。
左手で顔をかばうような動作をした。
そして――
ボム……と。
爆裂。
音と衝撃、粉塵が飛び散り周辺に叩きつけられていく。
「……なるほど」
カーシャはつぶやき、カーラナーガを握り直す。
爆心地。
そこには、丸形の盾と長剣を構えたプラジナが立っている。
――予備用か。しかし……。
カーシャはプラジナの武器をそう判断した。