破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「レガヅチ――」
「どこだよ、そりゃ」
「知らんだろうな」
ゴトクは遠い目で言った。
「知るヒトぞ知る。陸の孤島みたいな場所……」
いや――
街だったか。
正式には、レガヅチャゲーダ。
穢れた土地って意味だよ。
言ってから、少しだけマコネとバッキーを振り返る。
「ふーん……」
マコネは何となく察して――
「ヤバいところかい? まあ、そうなんだろうな」
ゴトクの背中を見る。
「ああ」
ゴトクは振り返らず、
「簡単に言うなら魔窟、暗黒街だった」
「だった。つーことは……」
「今はもうない」
いや。
案外再建してるのか。
それとも別の場所に移ったのか。
まだ情報は知らんが……。
ゴトクは腕組みをして、両手を腰に当てた。
「まあ、どこに出しても恥ずかしい悪所だ」
いや。
大っぴらにやってたし、あそこじゃフツーか。
他にも――
クスリ。
奴隷売買。
殺人ショー。
ヒト……
まあ、何でもござれ。
毎日が酒池肉林のカーニバルだ。
楽しいヤツには楽しい街だった、ろうね。
言ってから、ゴトクは頭を掻いた。
何とも言えない顔で――
「私は、ちょっと遠慮したいです」
「おいらも」
「そこは同意見だよ」
ゴトクは苦笑。
「俺は以前そこへ入り込んだ。まあ、ちょっとした仕事でな」
「ははあ」
「突っ込んだ話はしねえほうが良さそうだな」
「ああ――」
ゴトクはもう一度頭を掻く。
「その時、あの女がいることをチラッと聞いた。正直嫌な予感がしてなあ」
「逃げたんだろ?」
「正解。できる限り迅速に街から抜け出した」
「けど、何してたんですかね、その……」
「プラジナか。してたというか、捕まったらしい」
「捕まったぁ?」
途端に――
マコネは胡散臭そうな顔をした。
「何をどうやったのかねえ。わざとなのか、それともよほど運良くことが進んだか。まあ、恨みはたっぷり買ってるからな。敵はいくらでもいる」
「わざとねえ」
「だから、詳しいことは俺も知らん。しかし……」
「そういう女が、しかもドえらい美人とくれば」
マコネはちょっと嫌そうに言った。
「お定まりだろうよ。もっとも、俺なら……」
できるんなら、とっとと始末するがね。
可能な限り念入りに。
死体だって放置したくねえ。
骨も残さんようにする。
例え怖がりすぎ、考えすぎだとしてもな……。
ゴトクは言いながら、
「はあ」
と。
静かに首を横に動かした。
嫌なモノでも振り払うかのように。
「要するに、そうはしなかったんだろ?」
「多分な」
「手首を切って動けないようにしてから、奴隷扱い?」
マコネの問いにゴトクは、
「やったとして、あまり効果はなかったろうな。手足が動かなくても蛇みたいに動ける技はある」
「あ、あるんですか?」
この質問をしたのはバッキー。
「あるよ。『
「ひええ……」
「ま、それはどうでもいいとして……。対処すべきは体じゃなくって、ここだな」
と。
ゴトクは頭をつついてみせた。
「色んな術やクスリを使って頭をパープリンにすれば、ヤバい相手を御せる
「パープリンになったヤツ、かえってあぶねーだろ……」
「そうだなあ」
マコネの言葉にゴトクは小さく笑い、
「ただ、奴隷じゃなくってオモチャならそれで十分なんだろうさ」
「オモチャねえ?」
「しかし、それが最悪の結果につながった――と思う」
「思うって」
「現場を見たわけじゃないし、あくまで推測だからな。俺の」
ゴトクはげんなりとしながら、
「離れた後、しばらく遠くから街を観察してた」
遠見の魔法を使って――
安全圏からさ。
なんだって。
まあ、好奇心だよ。
我ながら悪趣味だとは思ったが……。
気になってな。
で。
あの時だ。
いきなり、街の一角が吹っ飛んだ。
それから後は……。
もうメチャクチャだよ。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
音、声だけでわかった。
もう速攻で魔法を打ち切って逃げた。
バカでかい爆裂魔法が使われたようなもんだったね。
あれは。
頭を掻き、首を振った。
淡々と、感情をこめずに言いながら――
「おかしなクスリでプッツンといったんだろうなあ」
「ああ」
マコネの推測と、うなずくゴトク。
「神のごとき女勇者、女騎士も雌犬同様にするクスリがある。そんなのもチラッと聞く」
「雌犬っつうか、人喰い狼になっとるぜ? 話を聞いた感じじゃあ」
「快楽への欲求が抑えられず、理性が吹っ飛ぶ――」
ゴトクは腕組みをして、脱力したような顔。
「だが、求める快楽がシモ関係とは限らねえ」
「まさか」
バッキーは片手で口をおおった。
「とにかく斬りてえ。いや、殺してえ。そういうのが全部出ちまったんだろうよ」
「ただでさえ殺人鬼で、殺人狂なのに?」
「ああ」
プラジナの狂いぶり。
そいつを甘く見積もったんだ。
ヒト殺しよりは……。
下半身のアレコレが勝つだろうってな。
だが、そうじゃなかった。
ヤツが殺すことで得る快楽は――
言いかけて、ゴトクはため息を吐いた。
それは。
深く、暗く……。
何ともいいがたいものだった。
「そんなに、気持ち良くなるもんかね……」
マコネは揶揄するように顔をそむけた。
「俺はあいつじゃねえから、断言はできん。まあ、そうなんだろうよ」
「快感、気持ち良さを得るのは結局、頭……脳みそですかね」
バッキーは疲れた声で言った。
――何ていうのか……。心がひどく疲れる話だよ。
「でも、そんなのが」
「ああ……。もしも、この国に居つかれたら? 想像したくもねえ。だから」
やっぱり。
青い
ははは。
戦乙女か。
我ながらうまいこと言ったもんだ。
ゴトクの言葉に、バッキーはカーシャの美貌を思い返して、
「確かに華麗で優美なイメージですよね」
「は?」
何気ないバッキーの言葉。
マコネはそれに訝しそうな目を向ける。
「華麗? 優美? あんたのところじゃそうだったのか? まあ、信仰や迷信は色々だが」
ゴトクは興味深そうに言った。
「え?」
「知らんのか? 確かに見た目はきれいだとされてる。だが、ヴァルキリーってのは死と破滅の象徴だぞ? 赤ん坊だろうと死にかけの病人だろうと殺す時は容赦なく殺す。まさに死神、凶兆だな」
「えええ……」
「だから、屋根の上に像をつけたりするんだろうが」
「確かに魔除けとは思ってましたけど……」
「きれいで強いから飾るんじゃない。怖くて危険だから飾るんだ」
魔をもって魔を払う。
凶をもって凶を倒す。
そういう発想だよ、アレは。
ゴトクの解説に、
――あれ、きれいな女騎士みたいに思ってたけど……。鬼瓦みたいなものだったのか。
今さら異文化に触れ、バッキーは驚き――
一瞬、カーシャとプラジナの戦いを忘れていた。