破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その116、決闘-12 魔都

 

 

 

 

 

 

「レガヅチ――」

 

「どこだよ、そりゃ」

 

「知らんだろうな」

 

 ゴトクは遠い目で言った。

 

「知るヒトぞ知る。陸の孤島みたいな場所……」

 

 いや――

 街だったか。

 正式には、レガヅチャゲーダ。

 穢れた土地って意味だよ。

 

 言ってから、少しだけマコネとバッキーを振り返る。

 

「ふーん……」

 

 マコネは何となく察して――

 

「ヤバいところかい? まあ、そうなんだろうな」

 

 

 ゴトクの背中を見る。

 

「ああ」

 

 ゴトクは振り返らず、

 

「簡単に言うなら魔窟、暗黒街だった」

 

「だった。つーことは……」

 

「今はもうない」

 

 いや。

 案外再建してるのか。

 それとも別の場所に移ったのか。

 まだ情報は知らんが……。

 

 ゴトクは腕組みをして、両手を腰に当てた。

 

「まあ、どこに出しても恥ずかしい悪所だ」

 

 博奕(ギャンブル)から、密輸密売。

 いや。

 大っぴらにやってたし、あそこじゃフツーか。

 他にも――

 クスリ。

 奴隷売買。

 殺人ショー。

 ヒト……知性種族(マーナヴ)の肉がそこらの店で売ってる。

 まあ、何でもござれ。

 毎日が酒池肉林のカーニバルだ。

 楽しいヤツには楽しい街だった、ろうね。

 

 言ってから、ゴトクは頭を掻いた。

 何とも言えない顔で――

 

「私は、ちょっと遠慮したいです」

 

「おいらも」

 

「そこは同意見だよ」

 

 ゴトクは苦笑。

 

「俺は以前そこへ入り込んだ。まあ、ちょっとした仕事でな」

 

「ははあ」

 

「突っ込んだ話はしねえほうが良さそうだな」

 

「ああ――」

 

 ゴトクはもう一度頭を掻く。

 

「その時、あの女がいることをチラッと聞いた。正直嫌な予感がしてなあ」

 

「逃げたんだろ?」

 

「正解。できる限り迅速に街から抜け出した」

 

「けど、何してたんですかね、その……」

 

「プラジナか。してたというか、捕まったらしい」

 

「捕まったぁ?」

 

 途端に――

 マコネは胡散臭そうな顔をした。

 

「何をどうやったのかねえ。わざとなのか、それともよほど運良くことが進んだか。まあ、恨みはたっぷり買ってるからな。敵はいくらでもいる」

 

「わざとねえ」

 

「だから、詳しいことは俺も知らん。しかし……」

 

「そういう女が、しかもドえらい美人とくれば」

 

 マコネはちょっと嫌そうに言った。

 

「お定まりだろうよ。もっとも、俺なら……」

 

 できるんなら、とっとと始末するがね。

 可能な限り念入りに。

 死体だって放置したくねえ。

 骨も残さんようにする。

 例え怖がりすぎ、考えすぎだとしてもな……。

 

 ゴトクは言いながら、

 

「はあ」

 

 と。

 静かに首を横に動かした。

 嫌なモノでも振り払うかのように。

 

「要するに、そうはしなかったんだろ?」

 

「多分な」

 

「手首を切って動けないようにしてから、奴隷扱い?」

 

 マコネの問いにゴトクは、

 

「やったとして、あまり効果はなかったろうな。手足が動かなくても蛇みたいに動ける技はある」

 

「あ、あるんですか?」

 

 この質問をしたのはバッキー。

 

「あるよ。『歩蛇(ほだ)』といってな、這うだけじゃなく、飛び跳ねることもできる」

 

「ひええ……」

 

「ま、それはどうでもいいとして……。対処すべきは体じゃなくって、ここだな」

 

 と。

 ゴトクは頭をつついてみせた。

 

「色んな術やクスリを使って頭をパープリンにすれば、ヤバい相手を御せる()()もある」

 

「パープリンになったヤツ、かえってあぶねーだろ……」

 

「そうだなあ」

 

 マコネの言葉にゴトクは小さく笑い、

 

「ただ、奴隷じゃなくってオモチャならそれで十分なんだろうさ」

 

「オモチャねえ?」

 

「しかし、それが最悪の結果につながった――と思う」

 

「思うって」

 

「現場を見たわけじゃないし、あくまで推測だからな。俺の」

 

 ゴトクはげんなりとしながら、

 

「離れた後、しばらく遠くから街を観察してた」

 

 遠見の魔法を使って――

 安全圏からさ。

 なんだって。

 まあ、好奇心だよ。

 我ながら悪趣味だとは思ったが……。

 気になってな。

 で。

 あの時だ。

 いきなり、街の一角が吹っ飛んだ。

 それから後は……。

 もうメチャクチャだよ。

 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 音、声だけでわかった。

 もう速攻で魔法を打ち切って逃げた。

 バカでかい爆裂魔法が使われたようなもんだったね。

 あれは。

 

 頭を掻き、首を振った。

 淡々と、感情をこめずに言いながら――

 

「おかしなクスリでプッツンといったんだろうなあ」

 

「ああ」

 

 マコネの推測と、うなずくゴトク。

 

「神のごとき女勇者、女騎士も雌犬同様にするクスリがある。そんなのもチラッと聞く」

 

「雌犬っつうか、人喰い狼になっとるぜ? 話を聞いた感じじゃあ」

 

「快楽への欲求が抑えられず、理性が吹っ飛ぶ――」

 

 ゴトクは腕組みをして、脱力したような顔。

 

「だが、求める快楽がシモ関係とは限らねえ」

 

「まさか」

 

 バッキーは片手で口をおおった。

 

「とにかく斬りてえ。いや、殺してえ。そういうのが全部出ちまったんだろうよ」

 

「ただでさえ殺人鬼で、殺人狂なのに?」

 

「ああ」

 

 プラジナの狂いぶり。

 そいつを甘く見積もったんだ。

 ヒト殺しよりは……。

 下半身のアレコレが勝つだろうってな。

 だが、そうじゃなかった。

 ヤツが殺すことで得る快楽は――

 

 言いかけて、ゴトクはため息を吐いた。

 それは。

 深く、暗く……。

 何ともいいがたいものだった。

 

「そんなに、気持ち良くなるもんかね……」

 

 マコネは揶揄するように顔をそむけた。

 

「俺はあいつじゃねえから、断言はできん。まあ、そうなんだろうよ」

 

「快感、気持ち良さを得るのは結局、頭……脳みそですかね」

 

 バッキーは疲れた声で言った。

 

 ――何ていうのか……。心がひどく疲れる話だよ。

 

「でも、そんなのが」

 

「ああ……。もしも、この国に居つかれたら? 想像したくもねえ。だから」

 

 やっぱり。

 青い戦乙女(ヴァルキリー)には勝ってもらわんと困るのさ。

 ははは。

 戦乙女か。

 我ながらうまいこと言ったもんだ。

 

 ゴトクの言葉に、バッキーはカーシャの美貌を思い返して、

 

「確かに華麗で優美なイメージですよね」

 

「は?」

 

 何気ないバッキーの言葉。

 マコネはそれに訝しそうな目を向ける。

 

「華麗? 優美? あんたのところじゃそうだったのか? まあ、信仰や迷信は色々だが」

 

 ゴトクは興味深そうに言った。

 

「え?」

 

「知らんのか? 確かに見た目はきれいだとされてる。だが、ヴァルキリーってのは死と破滅の象徴だぞ? 赤ん坊だろうと死にかけの病人だろうと殺す時は容赦なく殺す。まさに死神、凶兆だな」

 

「えええ……」

 

「だから、屋根の上に像をつけたりするんだろうが」

 

「確かに魔除けとは思ってましたけど……」

 

「きれいで強いから飾るんじゃない。怖くて危険だから飾るんだ」

 

 魔をもって魔を払う。

 凶をもって凶を倒す。

 そういう発想だよ、アレは。

 

 ゴトクの解説に、

 

 ――あれ、きれいな女騎士みたいに思ってたけど……。鬼瓦みたいなものだったのか。

 

 今さら異文化に触れ、バッキーは驚き――

 一瞬、カーシャとプラジナの戦いを忘れていた。

 

 

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