破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その116、決闘-13 死合

 

 

 ギラギラと――

 プラジナの剣はおぞましい光沢を放っていた。

 

 盾の周りには小さな刃がついている。

 さらには、その真ん中に突き出たスパイク。

 

 ――攻守を兼ねた盾か。

 

 カーシャは一歩後退した。

 プラジナは、逆に一歩前進する。

 

 さらに後退したところで、

 

「あげるわ」

 

 カーシャは止まると、ポイっと何かを放った。

 緊張感のまったくない仕草。

 まるで……。

 友人に菓子でも渡すような――

 

 瞬間。

 

 雷撃がプラジナを襲った。

 

「――!?」

 

 プラジナは盾で自分を守る。

 

 魔法爆弾。

 特殊な技術で魔法をこめられた使い捨てのアイテム。

 主に攻撃魔法をこめて使用される。

 

 当然。

 その威力・効力は込められた魔法に準拠するわけだが。

 

 ただ便利であることに変わりはなく……。

 非常時の切り札ともなりうるので、密かに携帯する冒険者も多い。

 

 カーシャが投げた爆弾。

 それには、比較的高レベルの電撃魔法がこめられていた。

 攻撃範囲が狭い分、威力が高い。

 なので。

 強力な個体相手には有用である。

 

「……はああ」

 

 吐息の音。

 粉塵の中で、それが聞こえた。

 

 カーシャは音の方向を見やる。

 そして、カーラナーガを一閃させた。

 

 ただし――

 吐息の方向ではなく、背後に向かって

 

 バグン……! と。

 強烈な破壊音が響いた。

 粉砕された金属の破片が飛び散る。

 

 散らばっていくのは――

 先ほどまでプラジナが装備していた盾だった。

 

 つまり、さきほど……。

 それが高速回転しながら、背後から飛んできたわけだ。

 

 ――雷撃を受けつつ、それを利用したわけねえ?

 

 カーラナーガを構え直し、カーシャは少しだけ笑った。

 

 ――便利なものがあること。うらやましいわ。

 

 こいつを叩き殺して――

 武器を奪ってやろうか。

 そんな考えが少しよぎるが、

 

 ――余裕はないか。

 

 すぐに打ち消し、動いた。

 

 かくして、再び……。

 刃と刃が打ち合うこととなる。

 

 甲高く、時には重苦しい金属音の連続。

 

 荒々しい騒乱の中で、

 

 ――まさか、壊されるとは……?

 

 盾を破壊されたほう――

 プラジナは内心、忸怩(じくじ)たる思いがあった。

 

 車輪の盾。

 それが盾の名称だった。

 

 攻防一体の優れたもので、

 

 ――ゲームじゃあ、高難易度ステージで得られるものだったのに。

 

 プラジナが転生した際。

 ゲーム内で得た武器は、全て手元にあった。

 

 いや。

 正確には、指輪の中に収納されていた。

 

 格納の指輪。

 好きな武装やアイテムを自由に取り出せる道具。

 

 ……と。

 ゲーム内で解説されていたものだ。

 

 ――要するに……。

 

 武器の出し入れや変更をするための方便。

 便利機能にそういう設定をつけただけなのだが。

 

 しかし。

 

 ――面白くはない。

 

 さほど、こだわりもない。

 だが、使い捨てたいものではなかった。

 

 ゲームではどれだけ酷使しても破壊はされなかったが、

 

 ――現実ではこうもなるか……。

 

 一瞬。

 プラジナは皮肉な気分となった。

 

 しかし――

 それはやはり、一瞬のことだ。

 一秒にさえ、はるかに満たない刹那の時間。

 

 その思考は即座に抗えない欲望に塗りつぶされた。

 すなわち、

 

 ――殺してやる。

 

 憎悪でもなく、怒りでもない。

 まして。

 恨みなどあるわけもない。

 

 しかし、そんなものは……。

 最初からまったく関係がないのだ。

 

 これほどまでに、

 

 ――斬りがいのある相手は……。

 

 地獄(ならか)での時間以来だった。

 

 ――殺してやる。殺してやる。

 

 砂漠の中で欲する水。

 いや。

 それ以上の欲望がプラジナを突き動かす。

 

 あそこでは、無限の殺戮が許されていた。

 どれだけ殺しても、咎める者はいない。

 

 自分が殺されたとしても、

 

 ――すぐに蘇れる。つまり、殺せる。

 

 わけだから……。

 

 殺すために、満たされたが――

 満足はなかった。

 

 ――欲望には際限がない。

 

 飢えも渇きも――

 どれだけ満たされようが、それはなくらない。

 生きていく限りは、絶対に。

 

 ――ならば。

 

 いくらでも殺そう。

 何度も死のうが、殺されようが知ったことではない。

 

「殺してやるぞ」

 

 狂った剣士のつぶやき。

 カーシャの聴覚は、ハッキリと捉えた。

 

 ――死ぬのは……。

 

 カーシャは動き、カーラナーガを振るう。

 

 ――お前だ。

 

 心の中で言い切って、動く。

 

 そして。

 何度目になるのか――

 武器と武器の打ち合い、斬り合いが再開した。

 

 幾度もぶつかり、幾度も離れる。

 斬り合い、蹴り合い、殴り合う。

 それが繰り返された後。

 

 変化が起こった。

 

「あ」

 

 つぶやき声。

 

 攻撃していたカーシャは、空振りをした。

 腕だけが虚しく空を切る。

 

 カーラナーガを握った右手――

 その手首が斬り飛ばされたのだ。

 

 黒剣を握ったまま、カーシャの手首は宙を舞う。

 グラリ、と。

 青い影が崩れ落ちていく。

 

「じゅあッッッ!!」

 

 プラジナは獣のように吠え、走った。

 理性は、ほぼ消し飛んでいる。

 しかし。

 反面、体中に染みついた技は、精密に刃を振るう。

 

 

 少し斜めの位置。

 そこから刃は跳ね上がり、カーシャに迫る。

 

 切断。

 

 それをプラジナが獣の感覚で確信した。

 まさに、この時。

 

 いきなり、プラジナの体が傾く。

 

 ――何だ……!?

 

 まっすぐに動いていたはず。

 なのに、地面が横からせり上がってくる。

 そのように感じた。

 

 ――あ。

 

 横倒しになっていく中。

 プラジナの視覚は、

 

 ――足。

 

 自分の足が砕けていることを知る。

 

 ――どうやって?

 

 疑問。

 答えは、すぐにわかった。

 

 斬り落としたはずの、カーシャの右手首。

 それは黒い稲妻みたいな影を通じて、右腕とつながっていた。

 これが、まるで鞭のように動き――

 カーラナーガを握った手が、振るわれて――

 

 ――こっちの、足を。

 

 砕いたらしい。

 

 ――やられた。

 

 一瞬の敗北感。

 だが、

 

 

 ――そう簡単に。

 

 崩れる体。

 プラジナは地面に手をついて支える。

 

 この時……。

 プラジナの視界は暗くなった。

 そして、奇妙な感触。

 

 これが――

 プラジナが最後に感じたこと。

 

 瞬転。

 プラジナの意識は闇に落ちて、消えた。

 

 その顔をおおったカーシャの左手。

 これが上から下まで一気に下降し――

 プラジナを四分割に引き裂いた。

 

 血と肉片、骨、内臓。

 それらがぶちまけられる直前。

 カーシャは後ろへ跳んで距離を取る。

 

 しばらくの間……。

 見るも無残な死体となった敵を観察してから、

 

 ――死んだか……。

 

 気配から、プラジナの死亡を確信した。

 

 それから。

 カーラナーガを左手に持ち、右手首を見た。

 

 切断された手首――

 今は、黒いオーラで強引に縫いとめられている。

 

 ジュウジュウと……。

 焦げるような音と臭い。

 

 これまた。

 強引に腕と手首がくっつき、再生していく。

 

「こんなことができたとはね……」

 

 今さらオーラの力を自覚して、

 

「何ともはや、驚きだわ……」

 

 カーシャは自嘲するようにつぶやいた。

 

 それから。

 プラジナの()()を見る。

 

 ――こいつは。

 

 死んで、また、地獄(ナラカ)に戻ったのか。

 それとも――

 

 ――魂は、消えてなくなるのか。朽ちるのか。

 

 考えながら、空を見上げる。

 

 ――まあ、天国とやらにいけるヤツではなし。私もそうだけど。

 

 カーシャは肩をすくめ、ゆっくり背を向けた。

 歩きながら――

 

 手のひらで燃え上がる黒い炎(オーラ)

 肩越しに、それを投げる。

 

 残骸に落ちた炎は、一気に燃え上がり……。

 残った肉片を焼き尽くしていった。

 

 

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