破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「なんちゅう状態だ」
ギルドマスターこと、ラリー・ヌーン・ヒョー辺境伯。
彼はあきれた声をあげる。
現場を
眠そうな目をしょぼつかせて。
「まるでドラゴンが暴れたような有様じゃアないですか」
同じように……。
となりの女
周辺の木々はなぎ倒されている。
岩は砕け、地面は吹き飛んでいる。
森とはいかないが、そこそこ草木もあった場所なのだ。
それが、
「まるで荒野ですねェ。一部砂漠みたいになってるし」
ミゾイは荒れた土をなでながら言った。
「あちこちに刺激されたモンスターが出て大変だったよ。街道の近くじゃなくてホッとする」
「
「いやあ、それがなあ」
ギルドマスターは背伸びをして、タバコをくわえた。
その先端に、一瞬青白い火がともる。
片手を差し出したミゾイの魔法だった。
「疲れたから嫌だと即答されたよ」
「おやまあ。あの御方がねえ?」
「それだけ、とんでもないバケモノだったってことだろう」
「ドラゴンを瞬殺する英雄が苦戦する相手ですか……」
想像したくもない。
そして……。
会いたくもないですねえ。
と。
ミゾイはフェイスベールの下で苦笑した。
それから、
「時に――おタバコはお控えになっていたのでは?」
「いやあ、こうもストレスが重なると、ねえ」
ギルドマスターは苦笑して、煙を空に向かって吐き出す。
「とはいえ。部隊の再編制は正解だった。おかげで、後片付けがスムーズだ」
言いながら――
ギルドマスターが手をかざした先。
そこでは、駆除されたモンスターを歩兵たちが処理していた。
離れた場所では、傷を負った者たちが手当の最中。
「しかし……。まさかグリフォンやマンティコアまで出てくるとはなあ……」
運ばれていくマンティコアの尾を見ながら、ギルドマスターは頭を掻いた。
「向こうの丘には、レッサードラゴンの群れも出てましたよぅ?」
ミゾイは遠目に見える丘を指して苦笑。
「閣下――」
そこへ、新顔のギルドナイトが小走りにやって来る。
「大型モンスターの積み込み、完了しました」
と。
若いギルドナイトはやや固い態度で敬礼をした。
「ああ、よろしい。出発してくれ。それと負傷者もな」
「了解しました」
ギルドナイトは敬礼を解き、機敏に走っていく。
「閣下ねえ……」
ギルドマスターは頭を掻いて、苦笑を漏らす。
「あなたは、旧家の貴族であり――れっきとした、国の高官ですよぅ?」
ミゾイはつっけんどんに言った。
やや、あきれた顔である。
「まあ、それはそうなんだがね」
ギルドマスターは照れたように言った。
実際、少し照れている。
「社交界でテキトーにやるのは、慣れてるんだが……。どうもなあ?」
「軍で言えば、かなりのものになるんじゃございませんか?」
「一応な。階級で言うなら将官クラスだ。といっても、所詮形ばっかりさ。正式な軍人からすれば、チンピラの管理人にすぎんよ」
「ギルドナイトの隊長クラスは全員騎士爵持ちですがねえ」
「だが、国軍じゃないし。当然、階級もない。そういう意味じゃ二等兵以下だ」
「その二等兵以下のチンピラ集団に、あんなのが編成されるとは」
ミゾイは肩をすくめ、先ほど報告に来た男を見やる。
「下級貴族の三男以下で、おまけに妾腹。そんなのばかりだなあ。やる気はあるし、実力もそれなりだが」
「確かにそれなりの実戦経験はあり……。野盗だのモンスターだのを殺した経験はあるようですねぇ」
「だろう?」
「しかしながら、全員が全員じゃあない」
ミゾイがそう言うと、
「ん~……。どう考えても文官向きのヤツも送られてきとるが。物置にしまっておくわけにもいかん」
「別に文官候補だって欲しい人材ですから、かまやしませんけど? しかし本人のアレがねぇ」
「功を焦ってる連中もチラホラいるな。あんまり良くない傾向だ。早死にする」
ギルドマスターは2本目のタバコを取り出す。
「できれば、そうなってほしくはないですけど。こればっかりはねえ」
「叩き上げの連中だって、離職率はそこそこだからなあ……」
「半分は殉職ですよぅ」
「ああ」
ギルドマスターは応えて、煙を空に向かって吐いた。
物憂げな表情で――
「時に、青い御令嬢は留守だと聞いたが」
「ええ。骨休めにカジノで遊んでくるとか」
「カジノって」
「スミオですねぇ」
「……スミオか」
ギルドマスターは三本目のタバコを取り出す。
「ちょいとペースが速くありませんか?」
魔法で火をつけながらも……。
ミゾイは呆れている。
「確かに治安の悪い場所ですが、あの
「〝暁のゾラ〟ってヤツを知ってるかね?」
と。
ギルドマスターは淡々と言った。
半ば、ミゾイの言葉を遮るように。
「ああ。ちょっと聞いた覚えはありますかねぇ? 昔、名をはせた冒険者でしたか」
「ゾラ・キィナ。俺が生まれる前の人物だが、死んだじい様がよく話しててね。相当な腕利きだったらしい」
「へえ……。先々代が」
「そいつは殺しても死なないと言われたヤツだったが、あっさりと死んだ」
「まあドラゴンクラスにでも出くわせば大抵は……」
「いやいやいや。そうじゃない」
ギルドマスターは手を振る。
「ある夜、汚い路地裏でな」
「んん?」
「どうってことない物取りに刺されて、死んだ」
「はあ。そんな腕利きが? いえ、油断と不運ってやつでしょうねぇ。そればっかりはどうしようもない」
「だなあ。で、ゾラはその傷がもとで死んだ。最期を看取ったのは、マントゥ売りのオッサンだ」
マントゥとは――
地球でいう肉まんと大体同じもの。
「マントゥ売り? ああ……夜中に歩いてることもありますからねえ」
「最後の言葉は……」
そこでギルドマスターはタバコを深く吸って、吐き出す。
「母さん、寒い――だった」
「よくそんな逸話が伝わってますねえ? 誰が言いだしたんだか」
「そりゃ聞いたのは、じい様だからな」
「はい……?」
「うちのじい様は、物売りに変装して街をうろつくのが趣味だったんだよ」
「そりゃあ、また……」
「おかげで、世間のことはよく知ってたわけだ。ま、ばあ様はよく愚痴ってた」
「辺境伯のなさることじゃありませんもの。私だって怒りますよぅ」
「一応、陰から護衛をつけてはいたらしいがね」
「はあ……。それで」
「ああ。偶然だが、ゾラの最期に出くわした。最後の言葉も、多分事実だろう」
「へえ……。ん?」
ミゾイはうなずいた後、怪訝な顔になり、
「もしかすると、青いお嬢様もそんな最後を迎えると」
「うん。一瞬? ちょっと、そんなことを思ったりもしたが……」
ギルドマスターは4本目のタバコを吸いつけ、
「でも、それはないだろなあ」
「背中どころか、体中に目のついているような御仁ですからねぇ」
「ああ。眠ったまま大量殺戮をしかねん女だよ」
・ ・ ・
――満月だ。
夜の街から夜空を見上げ、カーシャは思った。
スミオの夜は眠らない。
むしろ――
夜こそがその真価を発揮する場所だ。
後ろには、カジノのネオンが輝く。
あちこちで、酒場が客を待っている。
さらに向こうでは、サキュバス街が騒がしい。
そんな中でも……。
大きな満月は強い存在感を放っていた。
裏道を歩きながら、カーシャは首をかしげた。
活気のある表とは違って、そこは違う意味で魔窟だ。
得体の知れない連中が陰でコソコソと蠢いている。
酒に溺れる者。
得体の知れない薬で狂う者。
まさに、犯罪の温床。
一般人はまず近づかない。
とはいえ。
それでも、ギルドの
――ある意味では面白いか。
カーシャはボーッとした顔で、歩く。
その背後を、薄汚れた男が追っていた。
手には、錆びかけたナイフを持っている。
目が異常だ。
明らかにまともではない。
そして。
カーシャが、また満月を見上げた時。
男は走った。
・ ・ ・
・ ・ ・
・ ・ ・
――面白いとはいえば、面白いけど。
2度も3度も来たくなる場所じゃない。
表通りに出ながら、カーシャは肩をすくめた。
路地裏の壁。
そこには、肉と血と骨が混ざり合ったものが、
錆びたナイフを持った男。
男の姿はどこにもなく――
二度と見つかることはなかった。
エピソード『決闘』完結。
次回は番外予定です。