破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その116、決闘-15 幕引

 

 

「なんちゅう状態だ」

 

 ギルドマスターこと、ラリー・ヌーン・ヒョー辺境伯。

 彼はあきれた声をあげる。

 現場を直接(じか)に確認しながら――

 眠そうな目をしょぼつかせて。

 

「まるでドラゴンが暴れたような有様じゃアないですか」

 

 同じように……。

 となりの女死霊魔術師(ネクロマンサー)・ミゾイはあきれた声。

 

 周辺の木々はなぎ倒されている。

 岩は砕け、地面は吹き飛んでいる。

 

 森とはいかないが、そこそこ草木もあった場所なのだ。

 それが、

 

「まるで荒野ですねェ。一部砂漠みたいになってるし」

 

 ミゾイは荒れた土をなでながら言った。

 

「あちこちに刺激されたモンスターが出て大変だったよ。街道の近くじゃなくてホッとする」

 

()()()()に後始末を頼むのは、無理でしたか」

 

「いやあ、それがなあ」

 

 ギルドマスターは背伸びをして、タバコをくわえた。

 その先端に、一瞬青白い火がともる。

 片手を差し出したミゾイの魔法だった。

 

「疲れたから嫌だと即答されたよ」

 

「おやまあ。あの御方がねえ?」

 

「それだけ、とんでもないバケモノだったってことだろう」

 

「ドラゴンを瞬殺する英雄が苦戦する相手ですか……」

 

 想像したくもない。

 そして……。

 会いたくもないですねえ。

 

 と。

 ミゾイはフェイスベールの下で苦笑した。

 それから、

 

「時に――おタバコはお控えになっていたのでは?」

 

「いやあ、こうもストレスが重なると、ねえ」

 

 ギルドマスターは苦笑して、煙を空に向かって吐き出す。

 

「とはいえ。部隊の再編制は正解だった。おかげで、後片付けがスムーズだ」

 

 言いながら――

 ギルドマスターが手をかざした先。

 

 そこでは、駆除されたモンスターを歩兵たちが処理していた。

 離れた場所では、傷を負った者たちが手当の最中。

 

「しかし……。まさかグリフォンやマンティコアまで出てくるとはなあ……」

 

 運ばれていくマンティコアの尾を見ながら、ギルドマスターは頭を掻いた。

 

「向こうの丘には、レッサードラゴンの群れも出てましたよぅ?」

 

 ミゾイは遠目に見える丘を指して苦笑。

 

「閣下――」

 

 そこへ、新顔のギルドナイトが小走りにやって来る。

 

「大型モンスターの積み込み、完了しました」

 

 と。

 若いギルドナイトはやや固い態度で敬礼をした。

 

「ああ、よろしい。出発してくれ。それと負傷者もな」

 

「了解しました」

 

 ギルドナイトは敬礼を解き、機敏に走っていく。

 

「閣下ねえ……」

 

 ギルドマスターは頭を掻いて、苦笑を漏らす。

 

「あなたは、旧家の貴族であり――れっきとした、国の高官ですよぅ?」

 

 ミゾイはつっけんどんに言った。

 やや、あきれた顔である。

 

「まあ、それはそうなんだがね」

 

 ギルドマスターは照れたように言った。

 実際、少し照れている。

 

「社交界でテキトーにやるのは、慣れてるんだが……。どうもなあ?」

 

「軍で言えば、かなりのものになるんじゃございませんか?」

 

「一応な。階級で言うなら将官クラスだ。といっても、所詮形ばっかりさ。正式な軍人からすれば、チンピラの管理人にすぎんよ」

 

「ギルドナイトの隊長クラスは全員騎士爵持ちですがねえ」

 

「だが、国軍じゃないし。当然、階級もない。そういう意味じゃ二等兵以下だ」

 

「その二等兵以下のチンピラ集団に、あんなのが編成されるとは」

 

 ミゾイは肩をすくめ、先ほど報告に来た男を見やる。

 

「下級貴族の三男以下で、おまけに妾腹。そんなのばかりだなあ。やる気はあるし、実力もそれなりだが」

 

「確かにそれなりの実戦経験はあり……。野盗だのモンスターだのを殺した経験はあるようですねぇ」

 

「だろう?」

 

「しかしながら、全員が全員じゃあない」

 

 ミゾイがそう言うと、

 

「ん~……。どう考えても文官向きのヤツも送られてきとるが。物置にしまっておくわけにもいかん」

 

「別に文官候補だって欲しい人材ですから、かまやしませんけど? しかし本人のアレがねぇ」

 

「功を焦ってる連中もチラホラいるな。あんまり良くない傾向だ。早死にする」

 

 ギルドマスターは2本目のタバコを取り出す。

 

「できれば、そうなってほしくはないですけど。こればっかりはねえ」

 

「叩き上げの連中だって、離職率はそこそこだからなあ……」

 

「半分は殉職ですよぅ」

 

「ああ」

 

 ギルドマスターは応えて、煙を空に向かって吐いた。

 物憂げな表情で――

 

「時に、青い御令嬢は留守だと聞いたが」

 

「ええ。骨休めにカジノで遊んでくるとか」

 

「カジノって」

 

「スミオですねぇ」

 

「……スミオか」

 

 ギルドマスターは三本目のタバコを取り出す。

 

「ちょいとペースが速くありませんか?」

 

 魔法で火をつけながらも……。

 ミゾイは呆れている。

 

「確かに治安の悪い場所ですが、あの女性(ひと)ですから」

 

「〝暁のゾラ〟ってヤツを知ってるかね?」

 

 と。

 ギルドマスターは淡々と言った。

 半ば、ミゾイの言葉を遮るように。

 

「ああ。ちょっと聞いた覚えはありますかねぇ? 昔、名をはせた冒険者でしたか」

 

「ゾラ・キィナ。俺が生まれる前の人物だが、死んだじい様がよく話しててね。相当な腕利きだったらしい」

 

「へえ……。先々代が」

 

「そいつは殺しても死なないと言われたヤツだったが、あっさりと死んだ」

 

「まあドラゴンクラスにでも出くわせば大抵は……」

 

「いやいやいや。そうじゃない」

 

 ギルドマスターは手を振る。

 

「ある夜、汚い路地裏でな」

 

「んん?」

 

「どうってことない物取りに刺されて、死んだ」

 

「はあ。そんな腕利きが? いえ、油断と不運ってやつでしょうねぇ。そればっかりはどうしようもない」

 

「だなあ。で、ゾラはその傷がもとで死んだ。最期を看取ったのは、マントゥ売りのオッサンだ」

 

 マントゥとは――

 地球でいう肉まんと大体同じもの。

 

「マントゥ売り? ああ……夜中に歩いてることもありますからねえ」

 

「最後の言葉は……」

 

 そこでギルドマスターはタバコを深く吸って、吐き出す。

 

「母さん、寒い――だった」

 

「よくそんな逸話が伝わってますねえ? 誰が言いだしたんだか」

 

「そりゃ聞いたのは、じい様だからな」

 

「はい……?」

 

「うちのじい様は、物売りに変装して街をうろつくのが趣味だったんだよ」

 

「そりゃあ、また……」

 

「おかげで、世間のことはよく知ってたわけだ。ま、ばあ様はよく愚痴ってた」

 

「辺境伯のなさることじゃありませんもの。私だって怒りますよぅ」

 

「一応、陰から護衛をつけてはいたらしいがね」

 

「はあ……。それで」

 

「ああ。偶然だが、ゾラの最期に出くわした。最後の言葉も、多分事実だろう」

 

「へえ……。ん?」

 

 ミゾイはうなずいた後、怪訝な顔になり、

 

「もしかすると、青いお嬢様もそんな最後を迎えると」

 

「うん。一瞬? ちょっと、そんなことを思ったりもしたが……」

 

 ギルドマスターは4本目のタバコを吸いつけ、

 

「でも、それはないだろなあ」

 

「背中どころか、体中に目のついているような御仁ですからねぇ」

 

「ああ。眠ったまま大量殺戮をしかねん女だよ」

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ――満月だ。

 

 夜の街から夜空を見上げ、カーシャは思った。

 

 スミオの夜は眠らない。

 むしろ――

 夜こそがその真価を発揮する場所だ。

 

 後ろには、カジノのネオンが輝く。

 あちこちで、酒場が客を待っている。

 さらに向こうでは、サキュバス街が騒がしい。

 

 そんな中でも……。

 大きな満月は強い存在感を放っていた。

 

 裏道を歩きながら、カーシャは首をかしげた。

 活気のある表とは違って、そこは違う意味で魔窟だ。

 

 得体の知れない連中が陰でコソコソと蠢いている。

 

 酒に溺れる者。

 得体の知れない薬で狂う者。

 

 まさに、犯罪の温床。

 一般人はまず近づかない。

 

 とはいえ。

 それでも、ギルドの()()()()で成り立っているにすぎないが。

 

 ――ある意味では面白いか。

 

 カーシャはボーッとした顔で、歩く。

 

 その背後を、薄汚れた男が追っていた。

 手には、錆びかけたナイフを持っている。

 目が異常だ。

 明らかにまともではない。

 

 そして。

 カーシャが、また満月を見上げた時。

 

 男は走った。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ――面白いとはいえば、面白いけど。

 

 2度も3度も来たくなる場所じゃない。

 

 表通りに出ながら、カーシャは肩をすくめた。

 

 

 

 路地裏の壁。

 そこには、肉と血と骨が混ざり合ったものが、()()()()とこびりついていた。

 錆びたナイフを持った男。

 男の姿はどこにもなく――

 二度と見つかることはなかった。

 

 

 




エピソード『決闘』完結。
次回は番外予定です。
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