破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その27、強引な流れで闘技場でモンスターとのバトル

 

 

 

 

 闘技場の真ん中にカーシャは立っている。

 

 ――王都にも同じようなものがあったけど。

 

 規模はだいぶ劣る。

 

 だが、

 

 ――地方領主の建てたものとすれば……まあ、立派なものね。

 

 観察をしながら、カーシャは追放された王都サムーシャを思い出す。

 

 ――しかし……。

 

 ここの土には、かなりの血が流れていたのがわかった。

 

 ――闘犬や闘牛。あるいは両方。

 

 王都ではもはや廃れたものだが、犬や牛を戦わせる見世物は古くからある。

 貴族同士の揉め事、あるいはギャンブルとして行われるもの。

 庶民は、ニワトリを戦わせている闘鶏のギャンブルを楽しむ。

 

 ――闘鶏……。ネビズに来て初めて見たか。別に面白いとは思えなかったけど。ああ、そういえば……昔は猛獣と人を戦わせることもあったとか……。

 

 そして、人間同士を殺し合わせることも。

 

 ――ここで、似たようなことをしているわけねえ。

 

 カーシャは退屈しながら、この【催し】を開いた主催者を見た。

 ラジーニ・モノーニ侯爵。

 この周辺をおさめる領主であり、

 

 ――闘技場の所有者……か。

 

 カーシャはこの場所で、用意されたモンスターと戦わなければならない。

 観客は意外に多い。

 非公式の、わずかな関係者だけのはずだが。

 席にはギルドマスターとライワが複雑そうな顔をしていた。

 

 他は――

 

 興味半分。

 残酷ショーを期待している趣味人。

 出場者の無残な死に方を見たがっている者。

 無駄に手の込んだ、悪趣味な処刑とも言えた。

 

 何故、こうなったかと言うと。

 

 

 

 ちょうど。

 

 ギルドマスターが離れ、ライワも少し席をはずしていた時。

 

「おおう、これは! チーフウォール家のご令嬢ではありませんか!」

 

 退屈していたカーシャは、わざとらしい声に顔を上げた。

 

 顎髭(あごひご)をたくわえた偉丈夫の貴族。

 年齢は若くない。

 

 ――? どこかで見たかしら?

 

 顔や名前を知っている程度の貴族は、数えるのも面倒なほどいたが。

 

 ――身なりや雰囲気からして、ここらの領主か。

 

「いや、元・チーフウォール家令嬢でしたか! 失礼をいたした!」

 

 どうやら、嫌味を言ってるらしい。

 あちこちから、クスクスと笑い声が聞こえてきた。

 

「はあ。で、その冒険者風情にもったいなくもお声をかけてくださる貴方様は、どちらのおかたでしょうか?」

 

「……お忘れかな? ラジーニ・モノーニ。あなたのお父上とは昵懇(じっこん)の間柄でしてな」

 

 ――モノーニ。ああ……。

 

 確か。

 父と揉めたことのある侯爵。

 あの性格とやり方から、父は恨みを買うことが多かった。

 

 ――まあ、それも強引な手や公爵の地位で潰してきたようだけど。

 

 なるほど。

 客観的に見れば。

 今のカーシャは、落ちぶれて後ろ盾どころか、貴族の身分さえ剥奪された小娘にすぎない。

 おまけに、魔法すらも使えなくなったときている。

 

 ――恨みを晴らすには、絶好の機会というわけか……。

 

「聞けばドラゴンスレイヤーの称号を受けるほどの武勲をたてたというお話! できれば、その技をお目にかかりたいものですな! いやいや、是非にもお願いしたい!」

 

「そうですか」

 

 カーシャはわずかに目を細めた。

 

 ――疑っている、か。ン……。確かに、常識的に考えれば何か裏があるか、ペテンだと思うわね。

 

 王都からネビズに追放され、今日までの時間は短い。

 そんな短期間で、小娘がエルフやドラゴンを討伐するほどのレベルアップ。

 

 ――ありえない。普通、そう考えるわ。どうだっていいけど。

 

「それで?」

 

「恥ずかしながら、不肖わたくしは以前よりモンスター・ブラッドに()っておりましてなあ! 自前の闘技場まで造ってしまう始末! そこで、新しき英雄にわたくしが飼っておるモンスターと一戦お願いできますかな!? なぁに、素人趣味のつまらんヤツばかりです。ドラゴンスレイヤーには暇つぶしにならんと思いますが、道楽者の酔狂ということで!!」

 

 モンスター・ブラッド。

 要するに闘犬や闘牛のモンスター版。

 

「わかりました」

 

 カーシャは無表情にそう言った。

 

 少し離れた位置では。

 ギルドマスターがため息をつき、ライワは頭を抱えていた。

 

 

 もはや止めることはできない。

 さらに、あらかじめ準備は万全だったようで。

 カーシャたちは闘技場へと案内された。

 ほぼ連行されたというべきか?

 

 ――やれやれ……。

 

 控え室で、カーシャはあちこち見まわした。

 

「どうぞ、得物はご自由にお選びください!」

 

 侯爵は恩着せがましく言っていたが、

 

 ――まともなものなんかないじゃない。

 

 武器も防具もひどいものだった。

 安物、できそこない。

 しかも錆びてボロボロだったり、破損していたり。

 愛用の品となったカーラナーガを思い返して、カーシャは呆れかえった。

 

 ――まあ……仮にアレを持っていたとしても? 小細工をして、使わせないようにしたでしょうね。

 

 どっちにせよ、ないものは仕方がない。

 カーシャはフンと鼻を鳴らして、闘技場へ向かった。

 

 その途中で、

 

 ――……。だれ?

 

 後ろから追ってくる気配に、カーシャは振り返る。

 白髪の老人。

 しかし、肉体も顔つきも精悍な武人という雰囲気だった。

 

「どなたかしら?」

 

 カーシャはたずねたが、老人は無言のまま驚愕の顔で固まっている。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!」

 

 ――なに、このおじいさん。

 

 カーシャが黙っていると、老人は苦しげな息を吐きながら、

 

「……お忘れかもしれんでしょうが、王宮より軍人職を与えられている、ニュー子爵家のワドーです」

 

「失礼ながら、覚えておりません。ご容赦を」

 

「そのようなことは、どうでもよろしい!」

 

「何かご用事でも?」

 

「王宮の正式な調査を信じるなら、あなたは元・チーフウォール家のカーシャ嬢に間違いない。しかし……あまりにも、違いすぎる……!!」

 

 絞り出すような声で、老軍人は叫んだ。

 

「あなたに、何があったのですッッ!? あなたは何なのですか! いえ、何者になってしまったのですか!?」

 

「おっしゃる意味がわかりませんが、まあ強いてお答えするなら……」

 

 ヒトゴロシかしら?

 

 それだけ言い残して、カーシャは闘技場へと歩き出した。

 老人は全身から汗を流して、カーシャを見送るばかり。

 

 ――何なのだ、彼女は……。とても、人間(ひと)とは思えんッッ……。

 

 最初ワドーはこの悪趣味な試合を止めるつもりだった。

 できるなら、舞踏会の場でそれをするべきだと。

 しかし、気づくのが遅すぎた。

 

 だから。

 

 なんとか闘技場に行く前に止めようと思ったのだ。

 いくら悪評極まった者だとしても、

 

 ――うら若い娘に、あんなむごいことを……! そも彼女はすでに刑罰を受けているではないか。

 

 王宮の裁きがなされているのに、さらに無体なことを強要するなど、

 

 ――引退した老骨といえど、看過できぬ。

 

 だが。

 間近でカーシャの姿をハッキリ見た瞬間、震えて動けなくなった。

 

 ――戦場も修羅場も縁のない連中にはわからぬかもしれんが……。あの娘は尋常な存在(モノ)ではない。人の姿をした恐ろしいナニカだ。

 

 

 そして闘技場。

 

 向かいの門から、のっそりとモンスターが出てきた。

 手には、巨大な戦斧を握っている。

 

 ――何が出てくる?

 

 ほんの少しだけ、カーシャは面白くなった。

 

 しかし、

 

「……!!!」

 

 モンスターの頭部が見えた時、カーシャの顔に緊張と動揺が走った。

 いつも冷たい光を宿して揺らぐこともない、水色の瞳。

 それが大きく見開かれ、モンスターを凝視している。

 

「なんだ、あの反応は……?」

 

 観客席のライワは思わずつぶやいた。

 

 ――彼女があんな顔を見せるとは……。いや? そういえば、まともな表情も初めて見たぞ。

 

 出てきたのは、牛の頭をした筋肉の塊みたいなモンスター。

 

「ミノタウロス……」

 

「それも、野生のもんじゃない。ありゃあ、おかしな薬や魔法でいじくり倒してるぞ」

 

 ライワの声に、ギルドマスターは睨むようにモンスターを見る。

 

 その一方で、

 

 ――ミノタウロス……?

 

 カーシャは、拍子抜けした。

 まさにそういう状態。

 

 腐った血肉が焼け焦げる臭い。

 あの場所で――

 何度も、何度も、何度も見て。

 殺されて、殺されて、恐れて、恐れて、憎んで。

 やがて、殺せるようになったあの牛の頭をした――

 

 だが、これは違う。

 地上にいる、ただのモンスターだ。

 

 カーシャは予想しかけたものではないことがわかると、

 

 ――ウシアタマ(・・・・・)じゃない!! おどかしてくれたものね!!

 

 笑みを浮かべた。

 ゾッとするような、おぞましさを発散させる笑み。

 

 しかし。

 

 観客たちのほとんどは、それを絶望の顔だと受け取っていた。

 人間は、限界を超えた恐怖にはただ笑うしかないという。

 カーシャへの敵意や悪意を持っている者たち――

 彼らは完全な勘違いした結果、満足のいく反応だと喜んだ。

 

 1分もたたないうちに、その期待も想像も裏切られたが。

 

 

 まさに。

 文字通り。

 

 ミノタウロスはメチャクチャにされた。

 生きながら肉体をバラバラに解体されて、どこの部位だか判別できなくなった肉片は、

 

「ひいいいい!?」

 

「きゃあああーーーー!!」

 

 観客席まで飛んでいき、散らばる。

 たちまち、闘技場は悲鳴と血の臭いに包まれていった。

 

「しかし……何だったんだろうな、最初の反応は」

 

 予想どおりとも言える結果を目の当たりにしながら、ギルドマスターは魔法で肉片の雨を防ぐ。

 

「何か別のものと思い違いをした――私にはそんな風に見えました……」

 

「ふむ、そりゃ大正解かもしれんね」

 

「それと、あの姿はまるで……八つ当たりでもしているように思えます」

 

 ギルド上層部の両者が会話をしている間。

 闘技場は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していく。

 

 

 

 

 

 

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