破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その116・5-2、年の終わり

 

 冷気の強い朝。

 いよいよ年の終わり――

 そういう日だった。

 

 マコネとバッキーは屋敷の玄関にいた。

 バッキーは魔法でマコネを宙に浮かせ……。

 マコネは手にしたものを扉に飾りつけている。

 

「よっと……」

 

 作業が終わった後――

 マコネはつぶやいて、地面に着地した。

 

 そこにあるのは、シンプルな丸形の藁細工(わらざいく)

 太陽の女神……そのシンボルである。

 

 ――似たようなの、日本(むこう)でも見たなあ。お正月に。

 

 バッキーはそんなことを考えながら、

 

「これって再誕祭が終わった後どうするんです?」

 

「庭先とかで焼く。ちっちゃな土の(かまど)作ってな」

 

「へえ……」

 

「焼いた後は埋めて、上に酒をかけるんだ」

 

「色々風習があるんですねえ」

 

「めんどくせーけどな」

 

 マコネは苦笑してパンパンと手を打ち、

 

「掃除も終わったし、お飾りもした。後はのんびりするだけだなあ」

 

 そんな会話の途中だった。

 

「あれ?」

 

 マコネは顔を上げ、バッキーは振り返る。

 

 いつの間に――

 カーシャが門扉の前に立っていた。

 

「姐さん」

 

 マコネが言いかける前に、

 

「急用ができたから。じゃあ」

 

 その言葉を終えた時には……。

 もうカーシャの姿は消えていた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「ダンジョンを潰せ、と」

 

「潰すというか……。ともかく、中のモンスターや宝箱を全部片づけたいんですな」

 

 ギルドマスターの言葉に、

 

「まあ、どちらも街中……それもこんな時期にばらまかれたら厄介ね」

 

 カーシャは淡々と言って外を見る。

 うっすら雪の降る中、街が浮足立っている。

 

「すでに向こうの手はずは整っていますので」

 

「ふん」

 

 困った顔のギルドマスターへ、

 

「ギルドマスター殿……いいえ、辺境伯。私が断るとは思わなかった?」

 

 まさに、こんな時よ?

 休暇をゆっくりしたいと思うのが人情じゃあないかしら。

 

「もちろんです。そういうわけですから……」

 

 ギルドマスターは頭を掻き――

 黒いトランクを机の上に置いた。

 

「前金になります」

 

「なるほど」

 

 中身を確認してからカーシャはうなずいた。

 

「相応の報酬、ということなら納得しましょう」

 

「ありがたい」

 

 そういうわけで――

 

 カーシャは転送魔法陣(ポータル)で急遽現場に向かった。

 

「おやおや。これはまた、何とも」

 

 問題のダンジョン。

 それを目の前にして、カーシャは肩をすくめる。

 

 なかなかに大きい。

 単純な『出入り口』のサイズ。

 それだけでわかるわけでもないが……。

 基本、大きなモノほど相応のモンスターがいる。

 これに間違いはなかった。

 

「ボスモンスターは、ケルベロスとオルトロスです」

 

「へえ。確かに危険ね?」

 

 三つ首の巨犬。

 双頭の魔犬。

 グリフィンやマンティコアに匹敵するモンスターだ。

 

「偵察班が必死でやりましたよ。死人が出なかったのが奇跡だ」

 

「ボスはどうでもよいとして、問題は雑魚ねえ」

 

「ど、どうでもよいですか……」

 

 初めてカーシャに会ったギルドナイトは、一瞬震えた。

 

 ――何なんだよ、こいつ……。そばにいるだけで冷や汗が……。

 

 彼とて、ギルドナイト。

 しかも隊長職を任されたひとり。

 ランクで言えばSR、相当の実力者であり経験者。

 だが、

 

 ――バケモノ。

 

 それゆえに――

 鍛えた勘と経験が、青い乙女の危険性を理解させる。

 

「……で。時間をかけてダンジョンのモンスターを全滅させろと?」

 

「い、いいえ!?」

 

 話を振られたギルドナイトは、あわてて首を振る。

 

「できる限り、戦力を送って数を減らしてます。できるだけ深い階層から」

 

「なるほど」

 

「しかし、如何(いかん)せん……」

 

「さすがにギルドナイト全員を送るわけにはいかないか」

 

「ええ……」

 

「なら――」

 

 カーシャはダンジョン入り口を見ながら、

 

「一般冒険者も使えば良いでしょう」

 

「それも幾人か腕利きを送っています……」

 

「ああ」

 

 うなだれたギルドナイトに、カーシャは察した。

 

「予算ね」

 

「ええ。恥ずかしながら――」

 

「ふうん」

 

 カーシャは自分の顎をゆっくりなでながら、

 

「この街も、冒険者は多かったわね?」

 

「え? はい。まあ場所柄のせいで、流民が追い立てられてきますからね」

 

「なるほど、なるほど」

 

「でもですね? どこもそうですが、使えそうな(レア)ランクだって多くはないんです」

 

「それはこの際良い。NやHNランクでも、数人がかりでゴブリンに負けるほどではないでしょう」

 

「はあ。それはまあ……」

 

「よろしい――」

 

 カーシャは急に顔を上げ、手を打った。

 パンパンと――

 

「手の空いてる冒険者全員に伝えなさい」

 

 緊急クエスト。

 街中に発生したダンジョンのモンスターを討伐せよ。

 倒したモンスターの数に応じて報酬を増やす。

 なお、値段は相場の五倍とする。

 以上。

 

 よく通る美声。

 聞き取りやすいハッキリとした発音。

 それで――

 カーシャはギルドナイトへ命じた。

 

「は? い、いやそんな予算は」

 

「誰がこの支部に出せと言ったの」

 

 あわてるギルドナイトへカーシャは淡々と、

 

「私が出したクエストだから、私が出すのよ、当然でしょう」

 

 そう言って、数枚のカードを出した。

 

「え。それは――」

 

「いわゆるプラチナのカードね。一枚で一千万ジュラ換金できる。わかるでしょ」

 

 それが、数枚。

 

「いや、はあ。まあ、それは……」

 

「足りなければ、後で補填しましょう。ギルドが()()なクエストを出してくれれば、スムーズにいくわね」

 

「わ、わかりました。早急に、支部長へ報告します!!」

 

 そして。

 ギルドナイトは走り出した。

 

 こういうわけで――

 

「金を出してくれるなら、是非もない」

 

 支部長は二つ返事で対応し、

 

「ギルドナイトにも臨時手当を出そう。きばってくれ」

 

 ダンジョンには街中の冒険者が押しかけることになった。

 その動きを管理、制御するのはギルドナイトである。

 

 中には――

 腕に自信がないため、宝箱だけを狙うパーティーもあるが……。

 

「街中に放り出されるより百万倍もマシだろう」

 

 と、いうことだった。

 

 この間……。

 カーシャは遭遇するモンスターを駆除しながら、最下層へ。

 

「……」

 

 最下層。

 ボスの部屋。

 そこへ至る巨大な扉。

 壁越しに気配を感じる。

 カーシャはその前に立ち、待っていた。

 

 途中で邪魔なモンスターは駆除してきたが、

 

 ――やはり全滅させるにはほど遠いか。大きめのダンジョンだものね。

 

 四角形の水晶をポケットから取り出す。

 

 ――こういうものを使っても限界はある。まあ、多少時間も食うし。

 

 それは一種の魔道具で――

 モンスターのヘイトを使用者に向けさせるものだ。

 戦闘で盾となるタンク役、あるいは囮役が使うものである。

 

 さらに、紐のついた水晶には匂い袋をくっつけていた。

 モンスターを誘引する特殊なもの。

 

 ――時間があれば、ひとりでも……。いえ、どっちにしろダラダラ長いのは面倒だわ。

 

 そんなことを思いつつ、カーシャは水晶と袋を握り潰した。

 もはや効果は失せているからだ。

 効果はものによるが、いずれも時間制限がハッキリしている。

 もちろん、その危険性ゆえに――

 

「……」

 

 しばし待っていると、

 

 RuRuRuRuRuRu……

 

 獣の臭いと、這いよる音。

 

 振り返ってみれば、

 

 RuRuRuRuRuRu……

 RuRuRu……

 

 数体のモンスターが廊下から進み出てきた。

 

「……ふうん」

 

 モンスターを見ながら、右の肩を揉む仕草。

 

 巨大な馬だ。

 ただし――

 その口は大きく裂け、ナイフのような牙が見える。

 

 吸血馬(ディオメデス)

 馬でありながら、肉食で血を好む凶暴なモンスター。

 

 一説によると……。

 古代のある王国で暴君が飼っていた肉食馬が起源とされる。

 暴君の名前が、今はモンスターの名前となっている、と。

 

 怪物の馬たちは、殺意と食欲の視線でカーシャを睨む。

 これに対してカーシャは、

 

「ふん」

 

 腰の黒い剣(カーラナーガ)を投げた。

 カーラナーガは回転しながら飛び――

 吸血馬の群れを一瞬でバラバラにした。

 

 そして、

 

「便利なものねえ?」

 

 意思があるかのように戻ってきた剣を、カーシャは受け止める。

 

 ブーメラン術。

 少し前にゴトクより教わった技だった。

 

 ゴトク曰く――

 

「刃物や盾を使った投擲術の一種さ」

 

 投げたものが自分の元に帰ってくる。

 いや、帰ってこさせる技だな。

 本来は魔力を使う技だが……。

 あんたの使うオーラでもいけるかもしれねえ。

 ナイフから大剣までけっこう幅広く使える。

 ただ。

 石やハンマーみたいなのは向かねえな。

 

 そんな言葉を思い出しながら――

 カーシャは血まみれのカーラナーガを握る。

 シュウシュウと……。

 握った手から流れる黒いモノが、モンスターを蒸発させていく。

 

 そうこうするうちに、

 

<ミズ。モンスター、宝箱共に全て片づきました>

 

 連絡用の魔導符へ、ギルドナイトから通信が入った。

 

<良いでしょう。これからボスモンスターを駆除します>

 

 それから――

 一分……否、数十秒後。

 ボスの間にいたケルベロスは『粉砕』されて転がっていた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「リーダー、遅いですねえ」

 

 バッキーは柱の時計を見て言った。

 料理やお茶、酒。

 テーブルには用意が整っている。

 

「どーも、緊急のクエストが入ったっぽいな……」

 

 窓の外を見つつ、マコネはため息。

 

「こんな日に……」

 

 バッキーは少し不服を感じる。

 

「こんな日だからだろうね。姐さんなら、モンスターを片づけるのに苦労をしねえ」

 

 マコネは苦笑して、パンパンとバッキーのヒップを叩く。

 

「そりゃまあ……」

 

「とはいえ。腹へったな」

 

「そうですね」

 

「けどま、もうちょいゆっくり待ってもいいか」

 

 今日は――

 夜更かししても許される日だからよ。

 ガキでもさ。

 

 と。

 マコネはケラケラ笑う。

 

 その横で、

 

「はああ~~~~…………」

 

 ソファーの上。

 ボロンは寝転がりながら、大きなため息。

 

旦那(だん)さん、早う帰ってきてくださいませんですかねえ……」

 

「腹へってるのは、みんな同じさ」

 

 マコネはクスッと笑い、

 

「腹へってるなら、お前だけ先に食っててもいいんじゃね?」

 

「あー、リーダーは多分怒らないと思いますよ」

 

 バッキーも同じように笑った。

 

「いやあ」

 

「何がいやあだよ」

 

()()()()、わたくし、仮にも御当家で旦那(だん)さんにお仕えする身でございます」

 

「特に何もしてないけどな」

 

「でも、色々と活躍することもあるじゃないですか」

 

 あきれたマコネ。

 フォローするバッキー。

 これにボロンはひょいと起き上がり、

 

「それがですよ?」 

 

 このような日にですよ?

 いかにお許しをいただいたとして……。

 よっしゃあ。

 と、自分だけ勝手にもぐもぐ食べたりできますか?

 そんな風に思われておるとすれば。

 わたくしもつらい。

 いわゆるところの、矜持に傷がつきますねえ。

 

 何やら――

 大げさなことを言いながら、演説風に言った。

 

「ああ、そう……」

 

 マコネは反応に困り、頬を指で掻く。

 

 と。

 不意に、ガタリと音がした。

 

「え?」

 

 瞬間。

 

 マコネは身構えた。

 肩には、テイムモンスターの守宮猫(ゲカット)が飛び乗る。

 

 バッキーは杖を握っていた。

 杖の先端に魔力が集中し、魔法が編まれている。

 

「用心深いのはけっこう」

 

 言いながら入って来たのは、カーシャ。

 

「あ、姐さん」

 

「リーダー?」

 

 拍子抜けするふたりへ、

 

「はい」

 

 カーシャは何かを順番に手渡していく。

 最後には、ボロンにも――

 

 それは、きれいに包装された箱。

 大きさはそれぞれ違う。

 

「あのう、鍵がかかっていたんですけど」

 

 疑問のバッキーに、

 

「家主である私なら、どこでも開けられる」

 

 そういう仕組みにしておいたの。

 建てる時にね――

 

「は、はあ」

 

「で。それは年越しのプレゼント。ま、行事だから」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 少し遅れて、バッキーは微笑んだ。

 

「えっと。こいつを用意してたんで遅くなったとか?」

 

 マコネがたずねると、

 

「まあ、そうね」

 

 カーシャはうなずき、服の雪を払う。

 

「か~~~~!! 普段からお世話になっておりますのに、こんなご心配……!」

 

 ボロンはプレゼントを手に、へりくだっている。

 

「さてと……」

 

 カーシャは時計を見上げる。

 

「ここでもうすぐ年明けだったら、絵になるのだけど。まだ時間があるわね」

 

「あのう、リーダー」

 

「なに?」

 

 バッキーの声に、カーシャは振り向く。

 

「私たちも、一応? プレゼントを用意してるんです」

 

「全員でまあ、色々とやってさ」

 

「口はばったいことを申しますとですね、わーたくしもその一助を担ったというようなわけでして。あははー」

 

 三人娘はやや照れくさそうにそう言った。

 

「そう」

 

 カーシャはそっけなく応えて――

 少しだけ笑った。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 お互いのプレゼントが何であったのか。

 それはここでは記さないことにする。

 読者諸氏のご想像にお任せする次第。

 

 




ちょうどひと区切りの投稿回数となりました
アレコレ失敗や成功を重ねつつ、こんなところまで
これも皆様の応援あってこそ――

次回の新エピソードもがんばりますので
どうぞよろしくお願いいたします!
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