破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「リブオ・サッコだな」
「まあ、そうですけど」
薄緑の髪をした子供のような人物。
尖った耳からエルフの流れを汲む、とわかる。
「
「なになに……」
リブオは紹介状とカーシャを見比べ、
「あー。猫の……。で、あんたが……」
「カーシャだ。カーシャ・オーサ・ガヴェル」
適当に考えた偽名を名乗り、カーシャはリブオと同じ席に座る。
「で。何すか?」
「この国は初めてでな。色々と教えてもらいたい」
「まあ、いいですけど」
「差し当たって、私がやりやすいクエストだな」
「そんなん、会ったばかりでわかるわけねーっす」
「ふふん」
カーシャは、注文した飲み物を飲み干すと、
「ふ」
コップを空中に放り投げた。
それから、片手でコップをキャッチ。
ただ。
コップはいつの間にか、4分割されていた。
「よ、よく見えなかったすね……」
リブオは誤魔化すように言いつつ、
「でもあなたなら、たいがいのクエストはいけると思いますよ」
「それは重畳。で、どんな?」
「えーと。そうっすね……」
リブオは、ちょっと視線を上げて考え出す。
この時――
「……」
カーシャも同じように、視線を上げる。
それから、
「ついてこい」
「え? 何すか?」
「いいから。支払いはここへ置くぞ」
カーシャは銀貨を一枚テーブルに置く。
そして。
小柄なリブオを脇に抱えてその場を後にした。
街中を駆け、飛び――
カーシャが向かうのは小高い場所。
そこへ到着と同時に、
GAAAAAAAAAAA……!!
遠くから、凄まじい音が響いた。
いや。
音ではない。
叫び声である。
「な、なに、何???」
あわてふためくリブオを放り出すと、
「ドラゴンだ」
カーシャは、新調した剣を背中から外した。
いわゆる大剣――
ツヴァイハンダー。
刀身も長さばかりではなく、横幅も広め。
見るからに重量のある大型武器だった。
「ど、ど・ど・ど・ど、ドラゴン!?」
空の向こうに、大きな翼が見えた。
「火炎竜か。サイズは……」
以前倒したものよりは小さい。
また。
あくまで単体。
他のモンスターはいないようだ。
「街ひとつを潰すには、十分すぎる」
「えええ……!?」
真っ青になるリブオに、カーシャはそう言った。
「こ、こういう時は勇者、英雄の出番っすね……!」
「そんな都合の良い者がいればな」
「え?」
「ん?」
「いや、いるじゃないっすか」
「どこに――」
言いかけた時、
――これは。
何か高速で迫る気配。
カーシャはそれを察知して、また空を睨む。
「
別方向から、ドラゴンへ向かっていく影。
黒い装甲。
鋭角的なブレードアンテナ。
ドラゴンと
飛行型魔導アーマー。
魔導技術の結晶――
「ああ、なるほど。確かに対抗手段ではあるか」
カーシャは、いったん大剣を下におろす。
「あ、ほら。あれ」
リブオはドラグーンを指して言った。
カーシャが気づいていることに、気づかずに――
それから。
ふところから小型の望遠鏡を取り出して、
「あー、やっぱり。黒炎の竜騎士ですね。行動が早い」
黒いドラグーンは、高速でドラゴンの周辺を飛び回る。
そして。
的確に急所や死角を狙い、打ち抜いていく。
「これは……」
芝居がかった顔で目を見開く。
「強い」
「そりゃそうっすわ。周辺国を含めても、随一の英雄ですから」
「ドラゴンの騎士か。そう呼ばれるヤツがドラゴンを狩るとは皮肉な」
「詩的っすね」
そんなやり取りの中――
ついにドラゴンは討伐され、横倒しに崩れ落ちた。
「ああー、あのサイズだとだいぶ素材取れますね。儲かるんやろなあ……」
リブオは
「国は大喜びだな」
「まあ、そうっすね。また黒炎の名が上がるなあ」
「黒い火か」
確かに。
魔力の炎を噴き出して空を駆けるドラグーン。
黒い装甲も映えて、異名にふさわしい。
「この国は、ずいぶんと高性能なドラグーンを持っている。単騎で、しかもこの短時間でドラゴン討伐だ」
「いやー、アレはスペシャルっていうか例外ですよ」
「例外?」
「スペシャルな機体を、スペシャルな乗り手が操ってるんで」
「なるほど……?」
「まあ、遠くから来たヒトだと珍しいかもしれないっすね」
「チラリと聞いたが――」
カーシャはリブオを見て、
「ナーロッパ全域は、『魔王軍』の攻撃を受けていたとか」
数年前。
まだ貴族令嬢時代に、そんな噂を少しだけ聞いたことはあった。
だが、ヤオアムトから見れば――
遥か離れた遠方の、おまけに『未開』の田舎である。
真面目に考えるものはほぼいなかった。
――高速トンネルは使われていなかったしね。いや、複数のドラゴンが棲みついていては使えるわけがないか。常識的には。
一方でリブオは、
「あー。まあ、そうっすね」
微妙な顔で頭を掻く。
「なんだ、その曖昧な返事は」
「いえね? 確かにそれはそうなんすけど、あの黒炎さんの活躍でだいぶ押し返してるんですよね」
「ほう?」
「だから稀代の英雄として有名になってるんすよ」
「ドラグーンありきとはいえ、ドラゴン討伐の
「まあ、そのおかげで僕らは商売が安定してるんで感謝ですけどね」
「英雄か――」
カーシャは少し考える。
――規格外の強さ……。
カーシャは思い浮かべる。
年明け早々にやり合った首切りのプラジナ。
ワシローで出会った魔獣人マクニオ
同じくワシローで戦ったガイストとかいう男。
セーヅで出会った放浪者テラ。
――考えてみれば、けっこう同類に出会ってきたわけか……。
と、すれば。
「……ふむ」
カーシャは大剣を担ぎ直し、ドラゴンが倒れた辺りを見る。
「お前、今後の予定は」
「え? あー、夜には飲みに行くつもりですけど。あなたも飲みたい感じですか?」
「夜にまた落ち合おう」
そう言って――
リブオから店の名前や場所を聞いてから、走り出した。
「うわ、何だアレ……」
カーシャの速度。
リブオには瞬間移動しているようにしか見えなかった。
・ ・ ・
現場は、大勢が集まって騒がしかった。
騎士や魔法使い、その他兵士がドラゴンを見上げている。
そして――
黒いドラグーンのそばには、黒衣の男が立っていた。
ドラグーンと同じ色のヘルム。
目元を隠した、暗い紫髪の男。
カーシャは男の背中を見ながら、一瞬目を細める。
――強い。確かに強い。
離れて見ても、それは理解できた。
――生身でドラゴン討伐も、可能かもね……。
そう思いながら、ゆっくりと男に近づいていく。