破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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※カクヨム版です
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 将来的にはサポーター様への小咄も考えておりますが
 まだ先ということで……(苦笑)


その117、悪魔が来りて嘘をつく-3 黒炎の英雄

 

 

「見事だな――」

 

 カーシャが声をかけるのと――

 男が振り返ったのは、ほとんど同時だった。

 

「君は……」

 

「私は、カーシャ。カーシャ・オーサ・ガヴェル」

 

「……」

 

「つい最近、ナーロッパに来たばかりでな。恥ずかしながら世情には疎い」

 

「そうか」

 

「なので――英雄たる貴公の名前さえ知らぬ。ご容赦願いたい」

 

 言いながら、

 

 ――よくもまあ、こんな台詞を。

 

 自分自身に呆れつつ、カーシャは男を観察した。

 

 まだ若い。

 18かそこら、少なくとも20は超えていないだろう。

 

 ――違うわね。

 

 少なくとも……。

 

 ――同類ではない。他の連中みたいな臭いが、こいつにはない。

 

 だが、強さのほうは本物らしい。

 ヤオアムト基準でも、間違いなくSRランク冒険者だ。

 

 ――ギルドナイト、いやあちこちからスカウトが来るレベルでしょうね。

 

「俺はグシオだ。グシオ・ダムテ」

 

「グシオか、覚えておく」

 

「それと、別に英雄と呼ばれるガラじゃないさ」

 

「ほう?」

 

 カーシャはこの時、本心から驚いた。

 謙遜か、あるいは嫌味か――

 

「これだけのことをやって、英雄ではないというのか? ならば、他の者は一体なんだ」

 

「ドラグーンと、それなりの経験がうまく噛み合った結果だよ」

 

「そうか」

 

 カーシャはうなずいた後、

 

「はッッ!!!」

 

 大剣を振りかぶり、男に斬りつけた。

 鞘に納めたまま――

 

「ぬ」

 

 カーシャは小さくうめいた。

 

 剣は、男の片手で受け止められたのである。

 

「冗談はやめろ」

 

「避けもしないか」

 

「本気じゃなかっただろ」

 

「……どうかな」

 

 カーシャは身を引きながら、

 

「英雄か否か、それはさておき。見事な腕だ」

 

「あんたもな。さっきの一撃、正直怖かったよ」

 

 この時。

 グシオは少しだけ笑った。

 どこか寂しげな、子どものような微笑。

 

 ――ふうん? これは、これは……。

 

 カーシャは内心で意地悪く笑っていた。

 ある種の、女が好みそうな顔つきだ。

 

 ――女に好かれる才能はありそうねえ。仮にもドラゴンスレイヤーがこういう顔をするとは……。そう、何と言ったかしら。ギャップ萌え?

 

「おかしな男だな」

 

「え? 何が?」

 

 カーシャは微笑した。

 何か痛ましいものを見るような――

 同時にどこか幼い子を慈しむような――

 

 もっとも。

 全て演技にすぎないわけだが。

 

 この直後、

 

「グシオ!」

 

「グシオさん!?」

 

 思わぬ声。

 それがふたつ重なって飛んできた。

 

 ――おや?

 

 ふたりの女が、ふくれっ面でこちらを睨んでいる。

 

 ひとりは騎士風の女。

 グシオと同年代くらいで、長い黒髪と紫の瞳。

 出で立ちや所作からして――

 

 ――騎士か。しかし、まあ……。うん。いかにも、式典専用という感じだわ。

 

 実力も実戦経験もかなりある。

 ただ。

 どこか、良くも悪くも気品がある。

 血と焼け焦げた臭いがしみついた軍属の空気ではない。

 

 ――うん。HR、SRとか一部……。ああ、何とか言ったかしら? あの弓使い(アーチャー)とつるんでいる女……。

 

 弓使い(アーチャー)のボッツ。

 正確には……。

 彼のパーティーメンバーである少女・ミーシャ。

 

 女騎士の雰囲気は、それに近いようだ。

 

 

 ――で……。

 

 少女のほうはと言えば。

 少しだけ水色に近い銀の髪。

 魔力を感じさせる金色の瞳。

 年齢は、12から13ほどか。

 

 美しい顔に浮かぶのは――

 ふたりとも、露骨なまでの嫉妬。

 

 ――おやまあ……。

 

 カーシャは失笑をこらえながら、

 

「英雄、色を好むか」

 

「ちょっと待て。俺はそんなんじゃ……」

 

 グシオはあわてたように言った。

 

「そうは見えぬがな?」

 

 カーシャは水色の瞳を、少しだけ鋭くした。

 無論、わざとである。

 

「あまり、女遊びはせぬことだな」

 

 言い捨てて、カーシャは背を向けた。

 

「おい、絶対誤解してるだろ!?」

 

「誤解ってなに!?」

 

「誤解ってなんですか!?」

 

 女ふたりが、グシオに叫ぶ。

 距離が近い。

 

「ふん」

 

 カーシャはチラリと振り返り、鼻を鳴らす。

 

「噂の英雄とは、存外軽薄なのだな」

 

 そう言い捨てて、歩き出す。

 

 ――まあ、そうでしょうね。

 

 実際……。

 あの若者には、そんなつもりはないのだろう。

 妙に女を惹きつけやすい。

 少なくとも、自発的に口説くつもりはなかった。

 

 しかし、器用にさばくことはできない。

 突き放すこともできない。

 グダグダしているうちに、女のほうがのぼせ上がり、

 

 ――バカバカしい痴話喧嘩を起こすと……。

 

 くだらない。

 微笑ましいと言えなくもないが。

 

 ――さっきの感じからして、他にもいるわね。確実に。

 

 カーシャは冷笑を抑えるのに苦労していた。

 

 立ち去ろうとする、その途中、

 

 ――む。

 

 ひとりの男とすれ違った。

 

 やはり若い。

 見た感じ、グシオたちと同年代か。

 

 中性的で線が細く、きれいな顔をしている。

 男というよりは、青年か。

 あるいは少年。

 単純な顔立ちだけなら、グシオよりは勝る。

 

 青年は忙しそうに動く合間に、

 

 グシオと女たちを見ていた。

 そこには、明確な敵意――

 

 ――いえ。嫉妬か。

 

 視線の先から推測するに、

 

 ――黒髪のほうか。年齢も近い。

 

 カーシャの視線に気づくこともなく――

 青年は苦しげに目を伏せた後、仕事を再開したようだ。

 

 ――ああ、なるほどね。

 

 何となく、関係が察せられる気がした。

 

 ――まあ、なんというのかしら?

 

 一種の三角関係?

 いえ、片想い?

 あんまり、実りはなさそうね。

 

 あの女に入れ込んで、尽くしてはいるけど効果はない。

 健気な奉仕も、単なる親切。

 あるいは、お友達の友情。

 それとも当然の行為、義務か。

 下手すれば、認識すらされていないか。

 なんとも哀れな、いえ、

 

「愚か」

 

 カーシャは小さくつぶやいた。

 

「……!?」

 

 青年は顔を上げ、訝しげに周辺を見回す。

 それから。

 首をかしげて腕組みをした。

 

 歩きながら、カーシャは考える。

 

 黒炎のグシオ。

 ここ一年ほどで名を馳せた腕利きの冒険者。

 いや、

 

 この国から、正式に騎士の称号を授与されている。

 

 ――ドラグーンを駆る、黒い炎の騎士か。絵になるわねえ。

 

 少し世間話をするだけで、いくらでも情報が集まる。

 

 特に、

 

 ――女関係か。

 

 そっち方面の話が、あることないこと語られる。

 

 妬み嫉みは買っているだろう。

 

 ――しかし……。

 

 地獄(ナラカ)帰りではない。

 だが、カーシャはグシオにどこか近しいものを感じた。

 

 近しいが――

 

 ――好ましいものでは、ないか。まさか、近親憎悪? ん? 近い? なにが?

 

 自分でも、疑問だった。

 

 

 

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