破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
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「ふむ」
大剣を鞘に納める。
カーシャは、自分が狩った獲物を見下ろす。
サンダーグリフィン。
雷撃を操る、グリフィンの上位種。
――首都の近くに、こういうものがわいている……。防衛力は今少し頼りないわねえ?
おそらく――
ダンジョンの対処も後手後手なのだろう。
――しかし、魔王軍か……。
聞いた話ではかなりの規模で、それなりに統率が取れた集団らしい。
――よくわからない理屈で軍を作り、それであちこちに戦争を吹っかけていると……。
よく、諸国から袋叩きにされないものだ。
カーシャは冷笑気味に思いながら、
「さて……」
カーシャはグリフィンの耳を切り取る。
自分が討伐したという証拠。
ギルドへ報告の際、必要となるものだ。
――……。おや。
作業に取り掛かる直前――
カーシャは複数の気配が近づくのを察知していた。
――悟られないようには、しているか。
わざと気配を無視して、カーシャは作業を続ける。
すぐに、ふたつの耳を切り終えた。
さて。
ちょうどその時、
ヒュン――と。
カーシャの近くへ矢が突き立ったのである。
ただ。
明らかに矢は軌道を外れていた。
――下手くそ。
かわす必要すらない。
「……」
カーシャは一瞬目を細めた後、
「誰だ!!」
わざとらしい大声で振り返った。
と。
少し離れた茂みから出てくる複数の影。
――ん?
出てきたのはいずれもヒト型モンスター。
ゴブリン系、オーガ系などなど……。
しかし。
最後に出てきたのはいかにも野盗風の粗野な男。
「何だ、お前は」
カーシャは大剣を構え、吐き捨てるように言った。
「気にするな、ただの物取りさ」
バカにしたように笑う野盗。
――ああ、そう。
内心では特に何も感じなかったが……。
これまたわざとらしく、
「他人の獲物を横取りか。ゲスめ」
カーシャは眼を怒らせた。
――いつか見たお芝居では、こんなだったかしら?
自分でも白けた気分で、カーシャは演じ続ける。
そして、まあ。
当然の流れとなった。
数体のゴブリンを倒したところで、オーガの一撃。
――腑抜けたものね。
自分を冷笑して、カーシャは敵の出方を探った。
わざと攻撃を受け、わざと転がり、わざとうめく。
――茶番。
である。
――ふむ。考えてみれば、懐かしい……。
貴族時代――
上流貴族の娘ばかりが集まっての、素人芝居。
そんな催しに、何度か参加した。
単なる暇つぶしの座興――ではない。
要するに、貴族の娘たちの品評会みたいなものである。
芝居も演技も二の次、三の次。
貴族の正妻、あるいは側室。
そういった候補を物色する場なのだ。
もちろん、表立って語られることではないが――
――下手な芝居を、大舞台でやったものだけど……。今思い出せば赤面ものよねえ?
そう思いながら、カーシャは芝居を続ける。
――うん。これなら……。
遊ぶ余裕はいくらでもある。
余裕の分、
――何かあった際の対処、心構え。
それも、十分にできるのだ。
全力での戦闘。
……そのように見せかけた、
それを少しやった後、
――……! 何かやるつもりね?
カーシャは密かに身構えた。
野盗が妙な仕草をしたからだ。
ピュイィィ……と。
そんな音だろうか。
指笛が響いた。
すると。
残ったゴブリンやオーガが一か所に集合していく。
――これは……。
見ていると、ヒト型モンスターたちがひと塊に……。
「なっ……!?」
カーシャは、目を見開いて
身長にして6メートル近い巨体。
筋肉や神経がむき出しになったような――
ヒト型だが、醜悪な肉体。
「へっ! なかなかの腕だが、こいつはどうかな!!」
またもや、野盗は指笛を鳴らす。
それと同時に、
「ぶらあああああああああ!!」
口から泡を飛ばし、巨人は襲いかかってくる。
――
大きく、重くなった分攻撃力は増したのだろう。
だが、
――その分遅くなっているか。
どうする?
受けるか、それとも避けて、
――もう終わらせるか。
受け身をする芝居も少々飽きてきた。
――む。
そんな時、また気配を感じた。
近い。
しかも、
――速いわね?
横から、影が跳んで、走った。
巨人の手を弾き飛ばし、カーシャを抱きかかえて移動する。
それをした人物の顔、姿。
カーシャは最初から最後まで、じっくりと確認できた。
――おや? 黒炎のグシオ。これはまた。ナイスタイミングというやつかしら?
いわゆるお姫様抱っこの状態。
それをされながら、カーシャは興味深く観察していた。
「下がってろ」
グシオはカーシャを優しくおろすと、巨人に向かって走る。
「はああああああああ!!」
裂帛の気合、というやつであろう。
グシオの持つ黒い刃が稲妻をまとい、赤く輝いた。
稲妻は黒い刀身と重なり、炎となる。
――なるほど。だから、
別に、ドラグーンの装甲だけではなかったらしい。
――しかし全身黒づくめとは。葬儀の場でもあるまいし。
改めて見ると、いささかセンスはよろしくない。
そんな……。
カーシャの淡々とした視線にも気づかず――
グシオは振り下ろされた巨人の腕を駆け登り、
「ぜやあああああああ!!」
巨人の頭部を一撃で叩き割った。
――お見事。
カーシャは拍手しそうになるのをこらえ、目を細める。
「て、てめえ……!」
「ふっ」
次に――
カーシャはグシオが野盗を斬り倒すのを、最後まで観察した。
「――大丈夫か?」
「~~……!!」
手を差し出されたカーシャは、悔しそうにグシオを睨む。
「恩義など感じぬし、礼も言わぬぞ!!」
「別にいいさ。ケガはないか?」
「くっ……!」
カーシャは唇を噛み、そっぽを向いた。
「すぐに
「よ、余計なお世話だ!!」
カーシャは顔を赤くして怒鳴る。
「そうだな。元気そうだ、良かった」
「何故、笑う」
「え?」
「助けられたのに、えらそうにわめく女だぞ!? そんなに気を遣う道理があるか!?」
「ははは。ちょっと驚いたけどな、無事ならそれでいいさ」
グシオはちょっと困った顔で笑うばかり。
カーシャの瞳の奥。
そこに、冷たい好奇心と嗜虐心があるのにも気づかずに。
・ ・ ・
「なんちゅう猿芝居だ……」
遠く離れた距離から――
何重にも『隠形』の魔法を重ねたゴトク。
金髪のエルフはカーシャたちの様子を見ながら、つぶやいた。
――あのねえちゃん、あそこまでやることはねえだろうに……。