破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-4 黒い旋風?

 

 

「ふむ」

 

 大剣を鞘に納める。

 カーシャは、自分が狩った獲物を見下ろす。

 サンダーグリフィン。

 雷撃を操る、グリフィンの上位種。

 

 ――首都の近くに、こういうものがわいている……。防衛力は今少し頼りないわねえ?

 

 おそらく――

 ダンジョンの対処も後手後手なのだろう。

 

 ――しかし、魔王軍か……。

 

 聞いた話ではかなりの規模で、それなりに統率が取れた集団らしい。

 

 ――よくわからない理屈で軍を作り、それであちこちに戦争を吹っかけていると……。

 

 よく、諸国から袋叩きにされないものだ。

 カーシャは冷笑気味に思いながら、

 

「さて……」

 

 カーシャはグリフィンの耳を切り取る。

 自分が討伐したという証拠。

 ギルドへ報告の際、必要となるものだ。

 

 ――……。おや。

 

 作業に取り掛かる直前――

 カーシャは複数の気配が近づくのを察知していた。

 

 ――悟られないようには、しているか。

 

 わざと気配を無視して、カーシャは作業を続ける。

 すぐに、ふたつの耳を切り終えた。

 さて。

 ちょうどその時、

 

 ヒュン――と。

 カーシャの近くへ矢が突き立ったのである。

 

 ただ。

 明らかに矢は軌道を外れていた。

 

 ――下手くそ。

 

 かわす必要すらない。

 

「……」

 

 カーシャは一瞬目を細めた後、

 

「誰だ!!」

 

 わざとらしい大声で振り返った。

 

 と。

 少し離れた茂みから出てくる複数の影。

 

 ――ん?

 

 出てきたのはいずれもヒト型モンスター。

 ゴブリン系、オーガ系などなど……。

 しかし。

 最後に出てきたのはいかにも野盗風の粗野な男。

 

「何だ、お前は」

 

 カーシャは大剣を構え、吐き捨てるように言った。

 

「気にするな、ただの物取りさ」

 

 バカにしたように笑う野盗。

 

 ――ああ、そう。

 

 内心では特に何も感じなかったが……。

 

 これまたわざとらしく、

 

「他人の獲物を横取りか。ゲスめ」

 

 カーシャは眼を怒らせた。

 

 ――いつか見たお芝居では、こんなだったかしら?

 

 自分でも白けた気分で、カーシャは演じ続ける。

 

 そして、まあ。

 当然の流れとなった。

 数体のゴブリンを倒したところで、オーガの一撃。

 

 ――腑抜けたものね。

 

 自分を冷笑して、カーシャは敵の出方を探った。

 わざと攻撃を受け、わざと転がり、わざとうめく。

 

 ――茶番。

 

 である。

 

 ――ふむ。考えてみれば、懐かしい……。

 

 貴族時代――

 上流貴族の娘ばかりが集まっての、素人芝居。

 そんな催しに、何度か参加した。

 

 単なる暇つぶしの座興――ではない。

 要するに、貴族の娘たちの品評会みたいなものである。

 芝居も演技も二の次、三の次。

 

 貴族の正妻、あるいは側室。

 そういった候補を物色する場なのだ。

 

 もちろん、表立って語られることではないが――

 

 ――下手な芝居を、大舞台でやったものだけど……。今思い出せば赤面ものよねえ?

 

 そう思いながら、カーシャは芝居を続ける。

 

 ――うん。これなら……。

 

 遊ぶ余裕はいくらでもある。

 余裕の分、

 

 ――何かあった際の対処、心構え。

 

 それも、十分にできるのだ。

 

 全力での戦闘。

 ……そのように見せかけた、()()()

 それを少しやった後、

 

 ――……! 何かやるつもりね?

 

 カーシャは密かに身構えた。

 野盗が妙な仕草をしたからだ。

 

 ピュイィィ……と。

 そんな音だろうか。

 

 指笛が響いた。

 すると。

 残ったゴブリンやオーガが一か所に集合していく。

 

 ――これは……。

 

 見ていると、ヒト型モンスターたちがひと塊に……。

 

「なっ……!?」

 

 カーシャは、目を見開いて()()を見上げた。

 

 身長にして6メートル近い巨体。

 筋肉や神経がむき出しになったような――

 ヒト型だが、醜悪な肉体。

 

「へっ! なかなかの腕だが、こいつはどうかな!!」

 

 またもや、野盗は指笛を鳴らす。

 それと同時に、

 

「ぶらあああああああああ!!」

 

 口から泡を飛ばし、巨人は襲いかかってくる。

 

 ――(のろ)い。

 

 大きく、重くなった分攻撃力は増したのだろう。

 だが、

 

 ――その分遅くなっているか。

 

 どうする?

 受けるか、それとも避けて、

 

 ――もう終わらせるか。

 

 受け身をする芝居も少々飽きてきた。

 

 ――む。

 

 そんな時、また気配を感じた。

 近い。

 しかも、

 

 ――速いわね?

 

 横から、影が跳んで、走った。

 巨人の手を弾き飛ばし、カーシャを抱きかかえて移動する。

 それをした人物の顔、姿。

 カーシャは最初から最後まで、じっくりと確認できた。

 

 ――おや? 黒炎のグシオ。これはまた。ナイスタイミングというやつかしら?

 

 いわゆるお姫様抱っこの状態。

 それをされながら、カーシャは興味深く観察していた。

 

「下がってろ」

 

 グシオはカーシャを優しくおろすと、巨人に向かって走る。

 

「はああああああああ!!」

 

 裂帛の気合、というやつであろう。

 グシオの持つ黒い刃が稲妻をまとい、赤く輝いた。

 稲妻は黒い刀身と重なり、炎となる。

 

 ――なるほど。だから、()()というわけね?

 

 別に、ドラグーンの装甲だけではなかったらしい。

 

 ――しかし全身黒づくめとは。葬儀の場でもあるまいし。

 

 改めて見ると、いささかセンスはよろしくない。

 そんな……。

 カーシャの淡々とした視線にも気づかず――

 

 グシオは振り下ろされた巨人の腕を駆け登り、

 

「ぜやあああああああ!!」

 

 巨人の頭部を一撃で叩き割った。

 

 ――お見事。

 

 カーシャは拍手しそうになるのをこらえ、目を細める。

 

「て、てめえ……!」

 

「ふっ」

 

 次に――

 カーシャはグシオが野盗を斬り倒すのを、最後まで観察した。

 

「――大丈夫か?」

 

「~~……!!」

 

 手を差し出されたカーシャは、悔しそうにグシオを睨む。

 

「恩義など感じぬし、礼も言わぬぞ!!」

 

「別にいいさ。ケガはないか?」

 

「くっ……!」

 

 カーシャは唇を噛み、そっぽを向いた。

 

「すぐに治癒魔法(ヒール)を使える仲間を呼ぶ。だから」

 

「よ、余計なお世話だ!!」

 

 カーシャは顔を赤くして怒鳴る。

 

「そうだな。元気そうだ、良かった」

 

「何故、笑う」

 

「え?」

 

「助けられたのに、えらそうにわめく女だぞ!? そんなに気を遣う道理があるか!?」

 

「ははは。ちょっと驚いたけどな、無事ならそれでいいさ」

 

 グシオはちょっと困った顔で笑うばかり。

 カーシャの瞳の奥。

 そこに、冷たい好奇心と嗜虐心があるのにも気づかずに。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「なんちゅう猿芝居だ……」

 

 遠く離れた距離から――

 何重にも『隠形』の魔法を重ねたゴトク。

 金髪のエルフはカーシャたちの様子を見ながら、つぶやいた。

 

 ――あのねえちゃん、あそこまでやることはねえだろうに……。

 

 

 

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