破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-5 遠国での仕事(クエスト)

 

 

 宿屋の一室で、カーシャはベッドに座っていた。

 壁際に設置されたベッドの上――

 背中を壁に引っ付けている。

 

 手には1枚の写真。

 映っているのは、兜姿のグシオだ。

 

 写真。

 ナーロッパでは――

 写真技術は未発達であり、値段はけっこうなものだった。

 

 <――あんたさあ? 何だい、昼間のヤツは。ひっでえもんだ>

 

 <お気に召さない?>

 

 <……やるほうもやるほうなら、騙されるほうも騙されるほうだよ>

 

 <ふん>

 

 壁づたいのわずかな振動。

 ネズミが歩く程度の……。

 いや、それ以下の小さな音。

 

 わずかな振動。

 カーシャはそれを用いて、隣室のゴトクと会話していた。

 

 <まあ、ある程度の()()()()()はわかった。しかし、面倒な仕事(クエスト)ねえ?>

 

 <……それには同感だな。正直、十中八九断られると思ったんだが>

 

 <嫌なら、そっちに来た段階で断れば良かったでしょう?>

 

 <こっちにも事情があってなあ。色々と義理が重なって、即座に否とは言えなかった>

 

 <へえ?>

 

 <あんたが断ってくれたら、しょうがないで終わったんだが>

 

 <私のせいだと?>

 

 <カンベンしてくれ、おっかない>

 

 <あの英雄を殺せというなら、すぐにでもやるけど。ちがうのよねえ?>

 

 <そこが面倒なところでなあ……>

 

 <英雄と姫君の結婚。定番のお話ではあるけど――>

 

 <依頼側としちゃ、それだけなら問題ないんだ。むしろ、英雄との繋がりができるのはありがたいとも言える>

 

 <確かに、自分たちの勢力に取り込むための結婚。これもありふれてるわ。だけど>

 

 <ああ、そう簡単じゃない。姫君と夫婦になるのは良いんだが、玉座に座ってもらっちゃ困るんだ>

 

 <すでに王太子も含め、男子が何人もいる。そうだったかしら?>

 

 <黒炎のグシオは確かに、ナーロッパ随一の英雄だ。しかし、素性は異国の、それも王族や貴族とは無縁。庶民の生まれだ。一代で成り上がるならそれも良かろうが……>

 

 <この国、シーマ王国のような体制が確立している国では為政者の素養はないというわけね>

 

 <あんたはどう見る?>

 

 <さあ? まあ、本人のその気はなさそうだったけど。周りはどうかしら?>

 

 <その周りが問題なんだ。正式な王太子を押しのけて、英雄を玉座に据える。そういうきな臭いことを考えてるのがいるわけさ>

 

 <おやおや。簒奪の後押しとは……。まあ、私も簒奪者の娘と呼ばれてたけどねえ。うふふ>

 

 <あの英雄さんが女に好かれやすいのはわかってるだろ>

 

 <ふむ。ああ……? つまり、彼を気に入った女がそういうことを考えてると>

 

 <大体は、そういうこと>

 

 <面倒なものね>

 

 <今のところ魔王軍との戦いには必要不可欠だし、戦後も自陣に取り込めば良いコマになる。人気取りもしやすいしな。だが、簒奪はまずい>

 

 <やれやれ。彼も気の毒に。古い言葉で言う『親愛の情で相手を殺す』というやつだわ>

 

 <どうもな。黒炎の英雄様はそのへんの機微がわかってねえようだ。おかげで……>

 

 <いざとなれば、殺せ――か>

 

 <簒奪の絵を描いているヤツがもうすぐ失脚する。その時に英雄さんが暴れるようなら、な……>

 

 <まさに魑魅魍魎の戦いだわ>

 

 カーシャは、もう一度グシオの写真を見て――

 薄く笑った。

 

 <ふふふ。それにしても……>

 

 <何だね?>

 

 <いえ。ついこの間、刺客に襲われたかと思えば、今度は自分が刺客になるとはねえ? しかも、間者(スパイ)の真似事も一緒ときてる>

 

 カーシャは子供のように笑い続けた。

 それから。

 会話を打ち切り、ベッドから降りる。

 

 ――さて……。そろそろ、酒場が開く頃か。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「はあ。それは、紅の戦乙女(ヴァルキリー)と、銀色の天使っすねえ」

 

 グシオに引っ付いていた女ふたり。

 彼女らはそういう異名を持っているらしい。

 

 ――大仰な……。まあ、他人のことは言えないか……。青色の悪鬼(フィーンド)。プッ、なにそれ。

 

 カーシャは内心の自嘲を抑えながら、

 

「名が知れているようだな?」

 

「あー、そうっすねえ。ヴァルキリーさんは地元じゃ名が知れてたようで。あの美貌で、武芸百般に通じてて、魔法にも強いっすから」

 

「ヴァルキリー」

 

「ええ。まあ、きれいで強い女神様みたいだから、似合ってるんじゃないっすか?」

 

「そうか」

 

 カーシャは顎に手を当てて考える。

 

 ――ヤオアムト周辺じゃ、ヴァルキリーなんて疫病神と同義語なんだけど? ところ変わればなんとやら、か……。

 

 それから、

 

「で……。銀髪のほうは、天使か」

 

「あー、まー。あの通り、神秘的で愛らしいですからね。それが強力な魔法を操って英雄を助けるんですから、絵になりますよ」

 

「そうだな――」

 

 カーシャは座り直し、天井を仰いだ。

 酒場の天井は染みだらけで汚い。

 

 紅の戦乙女(ヴァルキリー)

 アヴァータス・タリワ・ジャービック。

 某国の、聖騎士の家柄に生まれた才女。

 

 銀色の天使。

 オルマ・ボログ。

 孤児であるが、天賦の才能を持つ最強クラスの魔導士。

 

 ――なるほど。美女ふたりに愛されている最強の男か。華があるわねえ? いや……。

 

「で、ふたりだけか?」

 

「え。あー、女関係ね。何か派手らしいって噂は聞きますよ。パーティーメンバーも女ばっかだし」

 

「ふん。()()()()というやつか」

 

「そういう感じすかね。まあ、パーティーというよりは分隊みたいな? ヴァルキリーさんの故郷で、魔王軍への遊撃隊としてできたらしいですよ。だから正式な軍隊じゃなくって冒険者扱いっすね」

 

「つまり、身軽な立場か……」

 

 ナーロッパにおける冒険者。

 それは――

 ヤオアムトのような扱いではないらしい。

 

 カーシャが色々と考えている最中、だった。

 

「あんたが、カーシャさんかい?」

 

 なれなれしい声が横から飛んでくる。

 冒険者らしいガラの悪い男が、いきなり同じテーブルへ座ってきた。

 

「なんだ、お前は」

 

 カーシャが睨むと、

 

「まあ、そう睨むなよ。噂の大型新人さんをスカウトに来ただけさ」

 

「スカウトだと?」

 

「おう。登録してすぐに、しかもソロでサンダーグリフィンを()()()()()。すげえじゃねえか」

 

「……」

 

「だけどよ、色々わからんこともあるだろう。そこをな、お互いに補おうっていうんだよ。な?」

 

 男は、後ろに控えていた仲間らしき連中に言った。

 

「ああ、そうだ」

 

「おねえさんなら大歓迎!」

 

「悪いようにはしないって」

 

 一見愛想よく言っているが――

 その目つきには、明らかに好色な輝きがあった。

 

 ――まあ、しょうがないわね?

 

 自分の美貌には、相応の自負と自信を持つカーシャ。

 そんな視線は幼少時から慣れ切っている。

 

 だが。

 この場ではあくまで不機嫌そうに、

 

「失せろ」

 

 吐き捨てて、男に水をひっかけた。

 パシャリ、と――

 

 

 

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