破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-8 あきれたひとびと

 

 

「待ってほしい――」

 

 ()()が終わり、見物客も去っていく中で……。

 カーシャはグシオに声をかけた。

 

「その、余計な手間を取らせたな……」

 

「はは。大したことじゃないさ。気にするな」

 

「……そ、そうか」

 

 苦笑するグシオと、うつむくカーシャ。

 

 この様子を……。

 ウルゴ卿は見るともなく見ていた。

 

 ――どうも、いかん。若者の会話を盗み聞きするような真似は……。

 

 と。

 自分の行為に後ろ暗さを感じるわけだが、

 

 ――しかし、気になる。

 

 それも事実だった。

 

「どう、見た?」

 

「いや、どうって言われても……」

 

「とぼけるな。貴公ほどの男なら、わからぬはずもない」

 

 カーシャは小さいが、それでもよく通る声で言った。

 目を伏せて、どこか哀しそうに――

 

「それは……」

 

 グシオは、言いよどむ。

 

 ――ふうむ……。

 

 ウルゴ卿は顎をなで、先ほどの戦いを想い返す。

 

 見目麗しく、まさに姫騎士のようなカーシャ。

 それこそ、

 

 ――例の、アヴァータス嬢よりもそういった戦装束は映えるようだろうな。

 

 という、立ち振る舞いから高貴な気配を香らせる。

 

 ――アヴァータスが紅い戦乙女なら、こちらは……。そうさな、蒼い姫騎士という風情か。だが……。

 

 カーシャの戦いぶり。

 それは、美麗さ、華麗さ、そんなものとは程遠い。

 血と暴力の漂うものだ。

 強さ、実用性のみであり、そこに、

 

 ――精神性などは欠片もなし。いや、戦場ではあれこそ正統派と呼べるが……。

 

 ウルゴ卿は、昔出会った剣士の話を思い出す。

 幼少時から傭兵として育ってきた恐るべき男で、

 

 ――わしとて、十全の状態で力の限り戦ったとして、勝てるとは思えなかった剛の者であったな。

 

 その男が言っていた言葉。

 

「ウルゴ卿。つまるところ、剣術とか、武術とかいうモノは……。基礎は、まあともかく? 結局はヒト殺しをしながら強くなっていくものですよ」

 

 あの言葉を、ウルゴ卿は何度も思い返している。

 

 ――そうなると、彼女の剣はまさしく、

 

「ヒトを殺して覚えた剣」

 

 であろう。

 そこが、あの容姿と所作にまるで噛み合わない。

 

 ――ふうん。やはり、気になるな……。不自然と言えば、実に不自然だが……。

 

「それは別に、俺だって他人(ヒト)のことを言えるほど、器用で上品な戦いはできないし」

 

「……不審に思わぬのか?」

 

「まあちょっと驚いたけど、何かあるならこんなところで試合したりしないだろ?」

 

「……そ、そうか。気にしないか。そうか」

 

 カーシャの声に、一瞬明るいものが走った。

 

「ええと……。それで、その」

 

 グシオのほうも、照れた顔で頭を掻く。

 

「……すまぬ」

 

「え? 何が?」

 

「最初に出会った時からだ。勝手に寄ってきて、無礼な態度ばかり……。汗顔の至り、赤面の至りだ。謝罪させてくれ」

 

「ああ。ちょっと驚いたけど、別に気にしてないさ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。酒場でのことも、さっきのも、俺が勝手にやったことだし。元からそんなにモテないからな」

 

 あはは、と軽く笑うグシオに、

 

「え?」

 

 カーシャは驚いた顔で、その顔を見つめる。

 

「し、しかしだな? お前を慕っている女が大勢いるのではないか? あの最初に会った時のふたりも……」

 

「え。それって、アヴィーとオルマちゃんか? まいったな、アヴィーは子供の頃から、まあ幼なじみだし。オルマちゃんは、兄貴くらいに思ってるだけだ」

 

「だ、だが!? お前は英雄だぞ!?」

 

「……そんな肩書で誰かを好きになるようなヤツらじゃないよ」

 

 グシオはまた苦笑した。

 

「う……。そ、そうなのか」

 

 カーシャは少しうなだれた。

 

「え? ど、どうしたんだ?」

 

「いや……。あのふたりには、及ぶところがないと思ってな。笑ってくれ」

 

「えっと、いや急にどうしたんだ。別に、比べることじゃないだろ」

 

「……すまぬ」

 

 あわてるグシオに、カーシャはまた謝る。

 

「ま、また?」

 

「最初に会った時、私は下心で近づいたのだ。名の知れた英雄はどんなものであろうとな……」

 

「あはは……」

 

「しかし、お前の横にいたふたりや、噂を聞いて、勝手に失望して、軽蔑してしまった。自分の愚かさを棚に上げて……」

 

「よくわからないけど……。誤解がとけたんなら、別にいいさ」

 

 グシオは少し困った顔ではにかんで、頭を掻く。

 

「……許してくれるのか?」

 

「だから言ってるだろ、最初から気にしてないって」

 

「そうか!」

 

 カーシャは顔を明るくして、グシオを見つめた。

 ジッと、どこか上気した顔で――

 

「では、その期待しても良いのだな? いや、別に何番目でも良いのだが……」

 

「? 何の話だ」

 

「いや! こちらのことだ!」

 

 怪訝な顔のグシオ。

 あわてて首を振るカーシャ。

 

「グシオ殿、貴公には借りができた! 何か力になれることがあれば、すぐにでも言ってくれ! 何を置いても助勢に参るぞ!」

 

「え? いやあ、その。ありがとう?」

 

「うむ! きょ、今日のことは忘れぬ。ま、また会おう! こ、今晩でも良いぞ!」

 

 言いながら――

 カーシャは逃げるように、駆け去っていく。

 

「……えええ?」

 

 グシオ。

 黒炎の竜騎士と呼ばれる男は――

 その後ろ姿を、ポカンとした顔で見送るばかり。

 

「……モテモテですね、グシオさん?」

 

 その背中に、冷え冷えとした声がかかる。

 

「オルマちゃん?」

 

 振り返ったグシオの前には、銀髪の美少女が立っている。

 ひどく不機嫌そうな顔だった。

 

「あのー、何か誤解してない?」

 

「誤解ってなんですか!? またあんな風に……」

 

「あんな風って……」

 

「知りません!」

 

 銀髪の少女――オルマはプイッと横を向いた後、

 

「だけど、これから一緒にお茶を飲んでくれるなら、許してあげます……」

 

「う、うん。それだけでいいんなら、いくらでも」

 

「じゃ、私の作ったクッキーも食べてくれますね?」

 

「え。オルマちゃん、クッキーって」

 

「練習したんです!」

 

「そうなのか。すごいな」

 

 微笑むグシオに対して――

 オルマはふくれっ面となり、

 

「なんですか、それ。私、子供じゃありませんよ、クッキーぐらい……」

 

「あはは。そうだな。ごめん、オルマちゃんは立派なレディだ」

 

「も、もう……!」

 

 と。

 さっきまでの勢いはどこに消えたか。

 オルマはモジモジしながら、うつむいてしまう。

 

「あれ? どうしたんだ?」

 

「な、何でもありません! いきますよ!?」

 

「っと、ちょっと引っ張らなくっても大丈夫だって」

 

 グシオに軽く引きずられるように、オルマに連れていかれる。

 

 一連の様子を見ていたウルゴ卿は、

 

 ――いやはや。あきれ果てたと言おうか……。いや? 若いというのは何とも。

 

 白髪頭をなでて、苦笑するばかりだった。

 

 

 

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