破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-9 工場見学

 

 

 訪れた場所は、巨大な工房だった。

 いや。

 その規模と、その性質。

 むしろ工場というべきものである。

 

「あー、どうも」

 

 ()()をいじくっていたリブオは、ぴょんと飛び降りた。

 

「これは――……」

 

「はあ。ドラグーンっすねえ」

 

 その物体を見上げるカーシャに、リブオはうなずいた。

 魔導強化鎧装。

 

 高度な魔法技術や素材を用いて造られた、ドラゴン種への切り札。

 

「本職は鍛冶職だと聞いていたが」

 

「まあ鍛冶もやってますね。こういう機械いじりもしてます」

 

「腕は良いと聞いていたが? こちらに関しても腕利きと思っていいのか?」

 

 ドラグーンを指すカーシャにリブオは、

 

「そのへんは自信ありっすね。この国じゃ、少なくとも5番以下ってことはないですよ」

 

「ほう。ならば、かの黒炎――彼のドラグーンも整備したことはあるのか?」

 

「あるわけないじゃないすか。専門の整備士がついてますよ。部外者が気安く(さわ)れませんって」

 

「ふむ、なるほど。確かに道理だ。つまらぬことを言った」

 

 カーシャは笑い、ドラグーンへと近づいた。

 

「見たところ、軍事用のものらしいな。武装はないが……」

 

「え。よくわかりますね」

 

「多少はな」

 

 実際。

 カーシャは故郷で……。

 特に、令嬢時代は何度もその演習やデモンストレーションを見ている。

 好奇心で装甲に触ったり、内部をのぞいたりもした。

 

「しかし、大きいものだな」

 

「まあ、基本サイズは6メートルから7メートルですからね。あ、ちょっと……?」

 

 リブオの横を通りすぎ、カーシャはドラグーンのそばへ。

 ひょいと駆け上がり、『コクピット』を開いた。

 

「これは――鎧というより、乗り物という感じだな?」

 

 カーシャは首をかしげる。

 ヤオアムト製のものは、もっと小さく、構造も鎧に近かった。

 それでも。

 大型サイズのものは、4メートルほどはあったか。

 

「勝手に触らないでくださいよ。っていうか、当たり前じゃないすか。色々必要なもの詰め込んだら、これぐらいになりますって……」

 

「話に聞けば、ヤオアムト製のものはもっと小さいそうだが」

 

「いや、そりゃ。魔導大国とここらを比べたらおかしいですよ。高性能小型化するには、こっちじゃぜんぜん基礎技術が足りないんですから」

 

 と。

 リブオはあきれた顔で首を振る。

 

「っていうか、あんな遠い国の話、よく知ってますね?」

 

「知り合いにそういう情報に詳しいヤツがいるのでな」

 

「ああ、そういう……」

 

「それで? お前は何故こんなものを個人で整備しているのだ?」

 

「趣味とかじゃないですよ。これ、一応国に納品するもんですから。だから、触らないでください」

 

「国? このシーマにか?」

 

「そうですよ。まあ、テスト用ですけど」

 

「テスト?」

 

「詳しいことは聞いてないっすね。まあ、新しい技術をぶっこむのに使うんじゃないですか?」

 

「そうか」

 

 応えた後。

 カーシャはドラグーンから飛び降りて――

 入り口のほうへ視線を向けた。

 

「注文したものはできてるかしら?」

 

 ブラウンの髪をした女が入ってくる。

 作業着らしき服を着ており、気の強そうな目つきだ。

 

「できてますね。部品類はあっちの青いコンテナの中っす」

 

 と。

 リブオは大型の青いコンテナを指さす。

 それから、

 

「カーシャさん。あの、いじくったりしてませんよね?」

 

 猫や猿のような身軽さでドラグーンのコクピットへ――

 

「するわけがないだろう」

 

「でも、これ商品ですからね。ちゃんとしないと……」

 

「余計なことをしたかな……」

 

「ホントにそうですね」

 

「はは、こいつめ」

 

 カーシャはリブオに苦笑を返してから、女を見る。

 いや、

 

「グシオ――」

 

 女の後ろに立っている人物を見たのだ。

 

「え? あれ? カーシャ、か」

 

 黒衣の男は、驚いた顔をした。

 相変わらずの兜姿である。

 正直目立つ。

 

「ああ、そうだ。また会えて嬉しいぞ」

 

 カーシャは女を完全に無視して、グシオに駆け寄る。

 

「あははは……。昨日の今日だからな」

 

「昨夜にでも、呼び出してくれたらすぐに駆けつけたのだがな」

 

「い、いや。そりゃさすがに……。理由もないし」

 

「理由、か」

 

「あ、ああ。うん」

 

「うむ。そうだな。うん、そうだ。立ち会いに来てもらった礼をしていない。是非礼をさせてくれ!」

 

「い、いやいや。そういうのは、まずウルゴさんにでも……」

 

「ウルゴ卿には、先ほど礼にうかがったばかりだ。貴公にもよろしゅうと言っておられた」

 

「あ、ああ。そうなんだ」

 

「うむ」

 

 事実である。

 ウルゴ卿は隠居後本邸を離れ、別宅として小さな屋敷に住んでいた。

 いや。

 屋敷とも言えないサイズだったが。

 

 カーシャは手土産を持って礼を述べたばかり。

 その足で、ここに来ていた。

 

「次は貴公に礼をせねばならぬ。何かあれば言ってくれ。正直できることは少ないが……」

 

「いや、そんなこと別にいいんだ。きっかけも、俺が勝手に首を突っ込んだだけだし」

 

「しかしだな……」

 

 その時――

 

「お話の途中で悪いんだけど?」

 

 女が引きつった笑顔で割り込んできた。

 

「なんだお前は」

 

「それはこっちの台詞なんだけど。いきなり図々しいというか()()()()()()というか……!」

 

「むう」

 

 カーシャはグシオと女を交互に見て、

 

「そうか。()()も、そのひとりなのだな。困ったな」

 

「は? 何よそれ」

 

「お前も、グシオの愛妾、そのひとりであろう?」

 

「はあああ!? あ、愛妾!?」

 

 カーシャの発言に、女は顔を真っ赤にした。

 ただ。

 どうやら、怒りではないらしい。

 

「なに、ちがうのか? もしや、正室か? とすれば、無礼なことをした……」

 

「いやいや! あの、ちょっと待ってくれ」

 

 グシオは大あわてで女たちに割って入る。

 

「せ、正室とか愛妾とか、俺は貴族も何でもないんだ。そんなもの、いないよ!」

 

「しかし……」

 

「言っただろ? みんなは仲間で、別に恋人じゃないって」

 

「むむ……。そうなのか?」

 

 カーシャは胡乱な顔で女を見る。

 

「あ、あんたが私に振るな!」

 

 女は真っ赤な顔で、怒鳴る。

 それとほとんど同時に――

 

「えらいこっちゃああああああ!!」

 

 いきなり。

 工場に飛び込んでくる者があった。

 

「ああ、ご近所の……。何なんすか?」

 

 転がりこんできた男にリブオが言うと、

 

「国境近くの村に、魔王軍が近づいてるってよ!? それも、またドラゴンが……!!」

 

 

 

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