破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その28、カーシャは地獄を思い出す・バッキーはトクベーと語り合う

 

 

 

 カーシャが舞踏会、そして闘技場という流れになっていた頃。

 

「あれ? お前、確かエルフ討伐ン時の……」

 

 マコネはその少年を見て、首をかしげた。

 宿泊所のとなりにある、冒険用の食堂。

 

「腹へったし、飯でもいこーぜ」

 

 というマコネの提案でここに来た2人。

 

「さて、なぁに食うかな? ちょっとゼータクしてみっか? 姐さん、向こうで美味いもの食ってるかもだし」

 

「んんー……。でも、キャラ的にあんまりそういうのはしてなさそう」

 

「ああー、だな。うん、確かに」

 

 のんびりどうでもいいことを話している時、

 

「ん?」

 

 マコネはこちらにやってくる相手に気づいた。

 

 それが、

 

「えと、こんばんは。この前は大変だったね」

 

 シーフの、トクベーだった。

 

「そっちもな」

 

「ふひひひ……。ど、どうも」

 

 ――こいつ、親しくないヤツにはよくこの笑いが出るな。癖か、これ?

 

 最初に何度も見た、ネチャッとしたバッキーの笑顔。

 

 ――何回か注意してみたけど、いまだに直らねーなあ。

 

 マコネは密かに少し肩をすくめた。

 

「そんでナニよ? デートのお誘いでも来たのか」

 

「さすがにそこまで図々しくないよ」

 

「気にせずに図々しく行くほうがオンナくどけんじゃねーの? 知らんけど」

 

「かもね……」

 

 少年シーフは困った顔で笑いながら、チラリとバッキーを見る。

 

「おめーバッキー狙いか? なんなら席はずしてやろーか? けど、下手打つと後で姐さんがこえーぜ」

 

 マコネは意地悪く笑う。

 

 ――実際、ホントに姐さんが動くかどうかは確証ねーけど……。

 

 脅しとしてはかなりの効果がある。

 そこは確信していたマコネ。

 

「ちがうよ? そういうんじゃない」

 

 あわてて否定するトクベーに、

 

 ――まあ、いや……。わかってましたよ? わかってたけどね……。

 

 バッキーは内心、けっこう傷ついた。

 

 ――モテたことはぜんぜんないけどね、こうハッキリと言われると。あはは……。

 

「だから、なんていうか。ちょっと真面目な話だよ」

 

「なんなんだよ」

 

 トクベーのハッキリしない物言いに、マコネはちょっとイラつく。

 

「話があんなら、座ればどーだ?」

 

「うん。ちょっと失礼……」

 

 トクベーは席につきながら、

 

「変なこと聞くけど、あなた――バッキーさんは……」

 

「えっと、そのえっと……。バッキーってのは愛称と言うか? 本名はえと、古井椿、です」

 

 ――そういや、そんな名前だっけ? やっぱり、言いにくい名前だよなー。

 

 マコネがそんなことを思っている横で、

 

「フ・ル・イ、ツ・バ・キ?」

 

 トクベーはハッキリとした発音でつぶやいた。

 それから、紙とペンを取り出して、

 

「………えーと?」

 

 紙にたどたどしい手つきで、

 

【ふるい つばき】

 

 と、日本語のひらがな(・・・・・・・・)で書いた。

 ただし。

 まるで幼児が書いたような、ヘタな字で。

 

「どこの言葉だよ。らくがきか?」

 

「……!!」

 

 マコネは怪しそうに眉をひそめたが、バッキーは驚いてトクベーを見つめた。

 

「あ、あの……私の故郷では、他にもこう書きます……!」

 

 悲鳴に近い声で言いつつ、ぎこちない手つきで、

 

【古井 椿】

 

 漢字(・・)でそう書いてみせた

 

「なんか、ぜんぜん違う文字じゃねーか、これ」

 

 マコネがあきれていると、

 

「……えーと、あれ?」

 

 トクベーは、文字を見つめながら何度も首をひねっている。

 

「あの……」

 

 バッキーはトクベーに、やや気まずそうな顔つきで、

 

「あなたは、日本人ですか?」

 

「ニホ、ン? ん? え? あれ……?」

 

 トクベーは何かを思い出すように、

 

「**ケン、**シ、**チョウ……。いや、セイカ? にじゅうさんねん」

 

 おかしな単語を口走る。

 

 

 

 

 

「とんだブラッド・スポーツでしたな」

 

「……結果的にはほどよい暇つぶしでしたわ」

 

「はは、良かったと申すべきですか」

 

「かもしれません」

 

 舞踏会の帰り。

 カーシャとギルドマスターは、静かに会話していた。

 

 ――それにしても、本物の馬車……ね。しかもご立派な貴族用の。

 

 ネビズまで運ばれる時は、乗り心地最悪の囚人用馬車だった。

 

 ――今どきなら、魔導馬車のほうが効率も良いのにね。時間をかけて、さらしものにするためか……。

 

 王都やその周辺では、ほとんど魔導馬車が主流。

 

 ――馬を使わない馬車というのも、考えれば変だけど。私が生まれた時にはとっくにあったものだし。

 

 ただ、地方や見栄っ張りの貴族は昔ながらの馬車を使う。

 

「風情や優雅に欠けて、品がない」

 

 と、いうことで。

 

「……このへんも、そういう連中が多いということかしら?」

 

「ミズ。何か気になることでも?」

 

「いえ、失礼。どうでもいい独り言ですの」

 

 カーシャはギルドマスターに軽く手を振って、

 

 ――冷静に考えれば、人間の魔法でウシアタマが制御できるわけがないわ。

 

 〝赤い地獄〟を思い返し、自嘲しかけた自分を抑える。

 

 あそこで、

 

 ――何度あいつらに殺されて、すり潰されたか……。

 

 時間さえわからない殺意と苦痛の世界。

 あの場所には、見たこともないバケモノが山ほどいた。

 

 絶望しかない時間と場所。

 

 その中で、特に多く見かけたもの。

 牛や馬に似た頭部を持った、巨大な異形。

 様々な武器を振るって、もがき苦しむ人間をオモチャのように殺す。

 口からは黒い炎を吐き散らし、時には時間をかけてなぶり殺しに。

 

 ――ヤツらを殺せるようになるまで、どれだけ死んで苦しんだか考えたくもない。

 

 他にも、わけのわからないモノはいくらでもいた。

 鋼のようなクチバシを持った、ニワトリみたいなモノ。

 刃物のような牙を持つ象に似た、炎を吐き散らすモノ。

 針を並べたような口で、頭を貪り喰う巨大イモムシ。

 

 あのおぞましい異形たちと比べれば、この世界にいるモンスターなど子猫同然。

 ドラゴン種だろうが、同じこと。

 

 ――凄まじい殺気だ……。

 

 同乗しているライワは、息をすることさえできなかった。

 自分たちに向けられたものではない。

 それを理解してもなお、カーシャの殺気は耐えかねるものだった。

 

 

 

 

「……つまりというか、やっぱり?お互い、もと日本人ってことはおんなじみたい……ですね。ふひ」

 

 向かい合うトクベーとバッキーは何度もため息をつき、とぎれとぎれの会話。

 

「そうなんですかね? やっぱりアレは前世の記憶か……。師匠の言ったとおり、だったのかな?」

 

「違うところも、たくさんでしたけどね。ふひっ……」

 

「そう言われても……。 どれだけ確かな記憶かなんて、保証できないし。ホントかどうかも怪しいし……」

 

「あ、まあ……」

 

「……」

 

「……」

 

 お互いに困った顔で沈黙しているのを見ながら、

 

 ――こいつらの言ってること、ぜんぜんわかんねーなあ。

 

 マコネにとっては、ほとんど酔っぱらいのタワゴトに近かった。

 

「僕は……小さい頃に気づいたら1人で……。前世? のことも、バラバラでよくわかんないし……」

 

「私はなんか変な声から転生の説明されて……いつの間にか、この街に。年は、二十歳(はたち)くらいに」

 

「……はあ? え? わかがえ? え?」

 

「あ。いえ、こっちのことなので」

 

「そ、そうですか……。でも、すみません。その、ニホンっていうのが自分のいた国だってのは、なんとなくわかるんだけど……」

 

「そ、そうですか……」

 

 バッキーは正直ガッカリとした。

 この世界で、同じ境遇の同郷人と会えた――と思いかけたのに。

 

「けど……。私なんか、先に死んじゃった親不孝ですよ。それもだけど、あの後自分の遺体? がどうなったかは、ちょっとだけ気がかりです。ほとんど孤独死みたいなもんだったから……」

 

「え、それは……」

 

 バッキーのぼやきに、トクベーは対応に困った。

 

「ああいうのって、かなり迷惑かけるらしいですね。特殊清掃に頼まなきゃいけないそうで……」

 

 はあ。

 

 女は、実に辛気臭いため息をついている。

 

 ――やっぱりぜんっぜんわかんねー、コイツらの話……。なんだよ、死んだとか若返っただとか。おとぎ話じゃねーぞ! まさかお前らアンデッドか?

 

 2人をジロジロ見ながら、マコネはやや混乱中。

 

 ――でも、そんなんウロついてたら気づかれねーわけねーよな。ギルドにはネクロマンサーがいやがるし。

 

 と――

 

「ああ。そういえば……話は変わるんだけど。あのひと、カーシャさん? 彼女はどういうひとなんですか?」

 

「へ?」

 

「話に聞いた貴族時代と、今の姿がぜんぜん結びつかなくって」

 

「ううーーん。でも……私、今のリーダーしか知りませんし。昔のこと言われても」

 

「今までの戦いを見た感想だけど……。アレは魔法とかのバフじゃない。経験値を積み重ねたものだ」

 

 言いながらトクベーは、

 

 ――やっぱり、師匠の言っていた〝黄泉がえり〟なのか? それとも、僕と同じようなパターンで修業?

 

 だが。

 

 ――いや、やっぱりアレは訓練とかで身についたものじゃない……。

 

 カーシャの技術は、実際に何度も何度も手を汚して。

 殺戮を繰り返して身につけたものだ。

 

 トクベーが内心確信していると、

 

「……あ」

 

 バッキーはハッとして、顔を伏せた。

 

「どうかしました?」

 

「おいおい、どしたバッキー」

 

 かけられる声を半ば無視して、

 

 ――まさか、自分みたいな転生のパターンがあるんなら、ひょっとして……。

 

「おいっ?」

 

 マコネに肩を揺すられながらバッキーは、

 

「憑依転生――?」

 

 そんな言葉をつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 





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