破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――音をたてずに食べるのが面倒くさい。
そう思いながら……。
カーシャは麺料理を食べていた。
担い屋台の店である。
屋台といえば、車輪のついた車で引っ張って移動する――
これを思い浮かべるパターンが多いかもしれない。
だが、これはひとりで担ぎ、移動できるものだ。
それはさておき。
「まあ、とりあえず主要人物は4人としようか」
作業をしながら、何の気ない声でゴトクは言った。
完全にどこにでもいる、担ぎ屋台の麺料理売り。
エルフであることすらわからない。
「……ふーん」
カーシャはため息のような返事をした。
ゴトクには背を向け、麺料理に集中――
しているように見える。
「グシオ・ダムテ。こいつはもうお前さんも知っているだろう。噂に名高い、ドラグーン乗りの英雄さんだ」
ゴトクは皿を拭きつつ語る。
「次に、女騎士アヴィー。本名はアヴァータス・タリワ・ジャービック。このシーマとは少し離れちゃいるが、シーマの同盟国、そこの騎士だ。ま、騎士爵をもらってはいるが、宮仕えというわけじゃない」
「ふん」
「ま、ナーロッパじゃ騎士ってのはある種エリートに与えられる証明書みたいなもんだ。ヤオアムトみたいに、武芸百般の即戦力ってわけじゃないがね」
「……」
「どうやら、グシオ殿とは幼馴染の関係らしい。元は親父が地方で部隊指揮官を務めてたが、後で栄転して王都に移ったんだな。その時に一時離れ離れで――」
成長したアヴァータスは魔法と武術に秀でた才女になった。
女王の親衛隊へ抜擢されるって話もあったようだな。
だが、本人は魔王への遊撃隊に参加。
この時に同じく遊撃隊に参加していたグシオと再会したらしい。
ま、そこで初恋が炎となって再燃したって感じか。
ゴトクの
「おかわり」
カーシャは空になった器を突き出す。
「あいよ!」
ゴトクが片手で受け取る。
もう片方の手に、カーシャから小銭が渡された。
「――で、だ。次なるは
元は――
ある孤児院……。
こいつぁ、何というのか。
才能のある子供を引き取って魔法の英才教育を施す、ちょいとうさんくせえ場所だ。
だが、それなりの信用はある。
魔王の出現でどこも人手不足。
特に優秀となりゃなおさらに。
そこで、国が遊撃隊にスカウトしたって流れだな。
どっちにしたってうさんくせえが。
……さて。
このお嬢さん、どうやらグシオと古い知り合いらしい。
ただなあ。
どこでどうやって知り合って親しくなったのか。
そこがよくわからん。
来歴を調べたが、どうも接点がねえのだ。
確実なのは……。
グシオ殿にホの字で、アヴァータスやら他の女とゴチャゴチャしてる。
って、ところだねえ。
いや。
実はもうひとつ重要なことがあるが……。
そりゃまた、別の時だな。
めんどくせー事案なんだ、これが。
「……」
「こうしてみると、どうにも胡散臭いことばっかだが……」
最後のは、ちょいと拍子抜けするかもなあ?
お前さんが見かけたっていう優男。
本名は、ルーブ・ルーブ・ターニオ。
アヴァータスと同じく、騎士爵持ちのエリートさん。
簡単に言えば?
ま、よくいる育ちの良い秀才ってとこだね。
お国じゃ、次代の官僚候補と目されてたようだ。
確かに。
青二才じゃあるが、そっちの才覚はかなりのもんだよ。
わりと大所帯で、色々面倒臭いアレコレを必死こいてこなしてるそうだ。
あんたが受けてる試験もさ?
シーマの人材不足……。
特に文官の足りないところを、こいつが補ってくれているようだ。
そっちの方面じゃ、評判は良いとよ。
如才はないし、物腰は柔らかい。
しかもイケメンだからな。
と。
ゴトクがある程度しゃべってから、
「そんな人材が――」
「ん?」
「そんな人材が遊撃隊に入ったのか……」
「言っちゃなんだがね? お前さん、わかって聞いてるだろ」
「色恋沙汰」
「ああ」
ゴトクは苦笑して頭を掻く。
「この美青年、国自慢の才女、アヴァータス嬢に惚れてるようだ。こっちはお嬢様が王都にやってきた時からの顔馴染で昔から惚れてたようだねえ」
「……ふふん」
「で、あれこれ健気な努力をしてたようだが?」
結局想い人は再会した初恋の男に夢中。
しかも?
そいつは大活躍をして見る見るうちに英雄にのし上がった。
おまけに……。
想い人の他にもたくさん女を引きつれてる。
そりゃモテるわなあ、何せ現物の英雄様だ。
さて。
そんな圧倒的格差のある相手が恋敵。
だが、しかし。
諦めきれずに、想い人のいるパーティーに加わったまま。
いやはや何とも……。
ゴトクは言い終えてから――
何とも言い難い顔で首を振った。
「――ごちそうさま」
そのまま。
カーシャは何も言わずに屋台から去っていく。
ゴトクも――
何も言わず、そのまま屋台で商売を続けていた。
「愚か」
つぶやき、カーシャは雑踏を歩く。
・ ・ ・
「ちょっと、あなた!? 時間ギリギリですよ!?」
「いや、すまんすまん。ちと昼食をな」
プリプリしている係の者に、カーシャは手を振って詫びる。
「はあ、まったく……。あなたは優秀な成績ですので、おかしなことで失格にしたくはないんですよ?」
「それは光栄だ」
「急いであっちの……。そう緑の機体です、そちらへ向かってください」
こういうわけで。
カーシャは基本の操縦をレクチャーされた後――
ドラグーンを動かしたわけだが……。
結果。
「な、何てこと……」
試験官を始め、大勢の者が青ざめている。
その中には、かの青年・ルーブもいた。
手足がグシャグシャに曲がったドラグーン。
半ば半壊とも言える試験用の機体。
そのコクピットから、
「イメージで動くと聞いたが、難しいものだな?」
カーシャは頭を掻きながら降りてきた。
単純な話。
機体がカーシャの動きや力に、耐えきれなかったのである。
試験の判定はアレコレ揉めた。
しかし、
「き、基本操縦は問題なかったのでよし!」
そういうことになった。