破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-14 宴とお誘い

 

 

 <お姫様?>

 

 壁伝いに、カーシャは驚きの声を返した。

 

 <そういうこった>

 

 となりの部屋では、ベッドに寝転んだゴトクが応える。

 片手が、壁に添えられていた。

 

 ここから――

 微細な振動で会話を交わしているのだ。

 

 <例の天使様、オルマ・ボログお嬢さんは間違いなく王族、お姫様らしい>

 

 <それが冒険者? ありえないわ>

 

 <ありえんよな。ただ、前にも言ったがあのお嬢さんは元々は孤児。いや、そう思われてたが>

 

 <つまり、御落胤だったと?>

 

 <というか、国王夫婦の子どもだな>

 

 <……そんな子が、孤児院? 今までわからなかった? 何ともはや、お粗末な>

 

 <……こいつぁ、シーマ王家の習わしらしい。王族のうち、ひとりは死産と偽って市井(しせい)

の中で育てるとな>

 

 <断絶の危機に備えて――というわけね?>

 

 <そういうことらしい>

 

 <だけど。手違いで行方不明になってしまった。それが、無事に見つかったというわけか>

 

 <いかにも。ヤオアムト製の血筋を確かめる魔法で丹念に調べた結果だ。間違いないとさ。しかも、お姫様の姿かたちは、王妃様とよく似ていらっしゃる、ときたもんだ>

 

 <実に面白い話ね。まるでお芝居だわ>

 

 <本来なら、そこでメデタシ・メデタシさ。そのまま市井で……となるはずだが――>

 

 <……。なるほど、それに少しもったいない逸材だったと>

 

 <ああ。何せ不世出の天才魔導師だ。その上、勇者パーティーで大活躍だろ? 人気取りにはバッチリってな>

 

 <ま、そうね>

 

 カーシャは納得する。

 

 <ふうん……。確かに、その縁で黒炎の英雄と婚姻を結ばせる。貴種流離譚、加えて英雄と姫の結婚……。国民には受けるか>

 

 <そうだ。そこまでならば宮廷も歓迎してるだろう……。しかし――>

 

 <黒炎に王冠を渡すと? 話としては面白いけど、賢い選択ではないわ>

 

 <まったくだな。しかし、それに乗っかろうと連中もいる。だから話はややこしいのさ>

 

 <ふふん>

 

 <時に。今日は王城で英雄たちを招いて舞踏会があるそうだな?>

 

 <ええ、今頃英雄殿は踊っているのかしら?>

 

 <ダンスどころじゃ、ないかもな……>

 

 <ふむ? ああ、なるほどなるほど。オルマお嬢様の素性を明らかにする、絶好の場というわけかしら?>

 

 <で。あんた行かなくっていいのか?>

 

 <遅れるか、欠席するかもとは言ってあるわ>

 

 <ふーん>

 

 <なるほど、そうね。では少しだけのぞいてこようかしら>

 

 言って――

 カーシャは会話を打ち切り、ベッドから降りた。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 宴の席は、騒然とした。

 それから。

 一気に盛り上がり、オルマへと視線が集中していく。

 

 王妃によって、オルマの素性が明らかにされた直後だった。

 

「父上、母上。私を迎えてくださり、感謝の念に()えません。ですが、一つだけお願いを申し上げてよろしいでしょうか?」

 

 オルマは国王夫妻にそうたずねた。

 美しいドレス姿……。

 まさに、天使の異名にピッタリの出で立ち。

 

「魔王を倒して平和が戻るまで、私は英雄……グシオ様のお手伝いをしたいと思います。今日までそうやって過ごしてきた身。今少しだけ、その役目を続けさせてください」

 

 この()()な言葉に、会場はさらに盛り上がった。

 オルマとグシオを中心に、パーティーメンバーたちへも注目が集まる。

 

 そんな中――

 

 やや離れた位置。

 ルーブはため息を吐いていた。

 こういう状況下ですら、注目されない。

 

 ――日陰者としての臭いが、しみついたんだろうか……?

 

 自虐的なことを考えながら、ルーブは自虐的に笑う。

 

「お前はなにによって立つのだ?」

 

 カーシャの冷酷な言葉が脳裏を走る。

 

 ――クソ……。

 

 忌まわしい気分。

 かといって、ヤケ酒を抑制する半端な理性もある。

 少しだけ――

 甘めの果実酒で唇を湿すだけだった。

 

「少しよろしいか?」

 

 そんなルーブに、声をかけた者がいる。

 金髪をオールバック風にした、清潔感のある青年だった。

 いかにもエリートという物腰の美男子。

 

 年齢は、ルーブよりは上だろう。

 しかし。

 まだ30にはなるまい。

 

「あなたは……?」

 

「や、これは失礼。私はカピオ・ヘアロングというもので――王城で、まあ官僚の末席にいる者です」

 

「あ、こちらこそ失礼を……」

 

「いやいや。そうご丁寧なあいさつを受けるほどの者ではありません。ターニオ氏、あなたにお礼を言いたくって声をかけたのですよ」

 

「お礼、ですか? そんな覚えは……」

 

 ルーブは、思いがけない言葉に困惑していた。

 パーティーにいる間、まともな感謝も評価もされていない。

 あったとしても、ごくおざなりなものだ。

 

「何をおっしゃる。先日、ドラグーン乗りの選抜テストでご協力をいただいたばかり」

 

「あ、ああ……。いや、アレはほんの少しお手伝いをさせてもらっただけで」

 

「ご謙遜をされてはかえって困りますな。試験の準備から片づけまで、大いに助けられたと、関係者はみんな感謝しておりますよ。もちろん、私もそのひとりです。おっと、直接試験場には顔を出しておりませんが……」

 

「そうですか。お役に立てたなら、幸いです」

 

 ルーブは素直に嬉しさを感じた。

 仕事が評価され、感謝されるというのは、

 

 ――こんなに満たされるものなんだな……。

 

 それだけで、

 

 ――やって良かった。

 

 そう思えた。

 

「どうでしょう? 少しお話する時間をいただけませんかな? 相手が美しいご婦人ではなく、野暮な役人で申し訳ないが」

 

「ええ。構いませんよ。どうせ暇な身ですし……」

 

「そうですか、では……」

 

 こういう具合に――

 最初は軽い自己紹介、そして世間話などから入ったのだが、

 

「思い切って申し上げるが……。ターニオ氏、我々の力を貸していただけませんかな?」

 

「力ですか? 僕にできることはあまりないと思いますが……」

 

「いえ。華々しい戦場ではなく、野暮で地味なことで申し訳ないが……」

 

 カピオの話を要約すると、

 

「魔王軍との戦いで、文官も非常に忙しく人材に苦労している。なので、一緒に働いてもらえないか」

 

 こういう内容だった。

 

「いや、しかし。僕は部外者ですし、文官の経験もありません。お役に立てるとは……」

 

「もちろん、重要事項や機密に関わる部分はノータッチでお願いしたい。しかし、先日のご活躍ぶりから、是非ともお力をお借りしたいと思っていたのですよ」

 

 カピオはルーブの顔を見つめ、強い声で言った。

 紳士的だが、ぐいぐいと迫る雰囲気。

 

「それは……」

 

 この時、ルーブの心は大きく揺らぎだしていた。

 

 

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