破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――おやおや……。
カーシャは、遠目からルーブの様子を観察し――
口元を右手で覆う。
自然と浮かんでしまう、冷たい笑み。
それを隠すためだった。
会場は、姫君だと正式に発表されたオルマ――
そして彼女を護る英雄グシオ。
次に、その仲間たちの順番で注目が集まっている。
そんなものに注視する者は、カーシャだけだった。
華やかな席に背を向けて、ふたりの青年はバルコニーのほうへ移動。
そこで、何やら熱心に語り合っている。
カーシャは何気ないそぶりで、ふたりを観察する。
時々、男女の区別なく話しかけている者がいたが――
そこは適当にあしらう。
中性的な礼服姿のカーシャは目立つ。
加えて、絶世の美女。
ハッとする者は多いのだ。
やがて……。
あしらってばかりもいられず、若い貴族の青年の相手をした。
この途中で、
「時に――バルコニーでルーブと話しているかたは、どのような?」
「ああ。カピオ・ヘアロング氏、宮廷に仕える文官ですよ。まだ若いですが、優秀で克己心旺盛という話ですね」
「ほお? そんな人物がなぜ?」
「はて……。何かの打ち合わせでしょうか――」
青年貴族も不思議そうだった。
「暇だからといって、適当なことをする人物とは思えんですし」
「打ち合わせ。なるほど……」
そんなことを話している途中、
――おや。
ルーブとカピオは、連れ立って会場を後にした。
――ふふん。これが、バッキーの好きな衆道ものなら色っぽいシーンになるのでしょうけど。
どうやら?
そのようなモノではないらしい。
――政治的な
後をつけられないことを、少し残念に感じながら――
カーシャは、とりあえず青年貴族の相手をするのだった。
・ ・ ・
その人物は、額をハンカチでふきながら歩いている。
ひどく落ち着かない足取り。
途中途中で、大きなため息。
年齢は60を超えているだろうか。
「閣下、こちらにおいででしたか」
それに声をかけたのは、金髪にオールバックの青年。
カピオ・ヘアロングだった。
となりには、ルーブもいる。
「カピオか。何事かね」
「いえ。是非ともご紹介したい人物がおりまして、失礼ながら……」
「かまわんよ。それで……」
閣下――と言われた男は、ルーブのほうを見たが、
「おおう。これは、英雄殿の……」
「え、ええ。僕はルーブ・ルーブ・ターニオ。一応、パーティーメンバーのひとりです」
「ルーブ氏、こちらは」
「いや、私から名乗ろう。ゼン・ガーマシュ、一応この国で宰相を務めておるものだよ」
「こ、これはご無礼を……!」
ルーブはあわてて礼を取るが、
「いや、構わんよ。ここにいるのは3人だけだ。そうか、そういえば先日のドラグーン試験でも、協力をしてもらったそうだな。感謝するよ」
「いえ、そんな。感謝されるほどのことでは……」
少し赤面するルーブに、
「ははは。君は奥ゆかしい男だな。だが、才ある者の謙遜は、時として悪徳だぞ?」
ゼン宰相は笑いかけた。
それから――
3人はしばらく談笑していたが、
「おお、いかん。そろそろ会場に戻ったほうが良い。本日は、君たちが主役なのだからな」
「いえ……。主役は、オルマ……姫殿下でしょう。僕は端役にもなりませんよ」
ルーブは少しだけ暗い顔をして、頭を掻く。
「君は利発な青年だが、自己卑下の癖があるようだな。それではいかんよ」
ゼンはルーブの肩を叩き、まっすぐにその顔を見た。
「じ、自己卑下、ですか?」
「うむ。君は祖国で、仮にも騎士爵をもらった身だろう。もっと胸を張り給え。能力は決して、
「こ、光栄です!」
ルーブは、やや顔を紅潮させて、再び礼を取った。
・ ・ ・
「どのように思われます、閣下?」
ルーブが会場に戻った後――
カピオは眼を鋭くして会場のほうを見た。
いや、あるいは。
その視線は会場に戻ったルーブを見たのかもしれない。
「少し気弱だが、鍛えれば相応のものにはなるだろうな。しかも、君の見立てだ」
「これはこれは。過分なお言葉です」
カピオはやや大げさな態度を取る。
「計算高い君のことだ。能力があり、役に立つ。その上、気性的にも恩人には何かと甘くなる。こういう人物だと見て取ったうえでのことではないのかね?」
ゼン宰相は、わずかに目を鋭くした。
「そのように言われましては、まるで私が計算高いだけの男のようですな」
「違うのかね」
ゼン宰相は葉巻を取り出し、目を閉じる。
「計算高い
ゼン宰相の葉巻に火をつけながら、カピオは笑った。
道具は、ライターのような魔道具である。
「そうだな。外国人ではあるが、こちらに取り込みやすい人物でもある。色んな部分で如才がない。得難い男だよ。平時でも、いや戦時下であっても有用な人材だ。使いかたさえ間違えなければ……だが」
煙を小さく吐き、ゼン宰相はカピオを見た。
「かの魔導大国では、『兵站こそ最強の武器』という言葉もあります。ゆえに、軍事国家ながら文官を粗末にはしない――」
「英雄が十全に戦うにも準備がいる。黒炎が操るドラグーンにしても、整備だけでそれなりの金や物資が必要となる。さらに、ただ物資があれば良いわけでもない……か」
「おっしゃる通りです、閣下」
カピオはうなずく。
「だが、こちらに引き入れるにしても、むやみやたらにすれば良いというものではない。裏切り者というのは、嫌われるからな」
「そこはご心配なく。有能でありながら、場に恵まれないために不遇の扱いを受けている。そのような筋書きで、かつ清潔感のある美形ならば、同情も買いやすい。ま、これは事実でもありますが」
「ふむ……。では、そっちの方面は任せよう」
「了解いたしました」
カピオは静かに礼を取る。
「ついでながら、閣下にお願いいたしたいことが……」
「何だね?」
「は。鎖をさらに強くするため、薄幸の美青年にふさわしい――」
「ふむ……。ま、その話は後日にしてだ? 我々も会場に戻ろう。薄幸の青年に紹介したい人物も何人かいるのでね」
ゼン宰相は葉巻の火を消しながら、何気ない声で言った。