破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-15 ルーブと官僚と宰相と

 

 

 ――おやおや……。

 

 カーシャは、遠目からルーブの様子を観察し――

 口元を右手で覆う。

 

 自然と浮かんでしまう、冷たい笑み。

 それを隠すためだった。

 

 会場は、姫君だと正式に発表されたオルマ――

 そして彼女を護る英雄グシオ。

 次に、その仲間たちの順番で注目が集まっている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()と、若い官僚の会話。

 そんなものに注視する者は、カーシャだけだった。

 

 華やかな席に背を向けて、ふたりの青年はバルコニーのほうへ移動。

 そこで、何やら熱心に語り合っている。

 

 カーシャは何気ないそぶりで、ふたりを観察する。

 

 時々、男女の区別なく話しかけている者がいたが――

 そこは適当にあしらう。

 中性的な礼服姿のカーシャは目立つ。

 加えて、絶世の美女。

 ハッとする者は多いのだ。

 

 やがて……。

 あしらってばかりもいられず、若い貴族の青年の相手をした。

 この途中で、

 

「時に――バルコニーでルーブと話しているかたは、どのような?」

 

「ああ。カピオ・ヘアロング氏、宮廷に仕える文官ですよ。まだ若いですが、優秀で克己心旺盛という話ですね」

 

「ほお? そんな人物がなぜ?」

 

「はて……。何かの打ち合わせでしょうか――」

 

 青年貴族も不思議そうだった。

 

「暇だからといって、適当なことをする人物とは思えんですし」

 

「打ち合わせ。なるほど……」

 

 そんなことを話している途中、

 

 ――おや。

 

 ルーブとカピオは、連れ立って会場を後にした。

 

 ――ふふん。これが、バッキーの好きな衆道ものなら色っぽいシーンになるのでしょうけど。

 

 どうやら?

 そのようなモノではないらしい。

 

 ――政治的な()()()()()が、あるのでしょうね。ルーブがそれに気づいているかは、知らないけど。

 

 後をつけられないことを、少し残念に感じながら――

 カーシャは、とりあえず青年貴族の相手をするのだった。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 その人物は、額をハンカチでふきながら歩いている。

 ひどく落ち着かない足取り。

 途中途中で、大きなため息。

 年齢は60を超えているだろうか。

 

「閣下、こちらにおいででしたか」

 

 それに声をかけたのは、金髪にオールバックの青年。

 カピオ・ヘアロングだった。

 となりには、ルーブもいる。

 

「カピオか。何事かね」

 

「いえ。是非ともご紹介したい人物がおりまして、失礼ながら……」

 

「かまわんよ。それで……」

 

 閣下――と言われた男は、ルーブのほうを見たが、

 

「おおう。これは、英雄殿の……」

 

「え、ええ。僕はルーブ・ルーブ・ターニオ。一応、パーティーメンバーのひとりです」

 

「ルーブ氏、こちらは」

 

「いや、私から名乗ろう。ゼン・ガーマシュ、一応この国で宰相を務めておるものだよ」

 

「こ、これはご無礼を……!」

 

 ルーブはあわてて礼を取るが、

 

「いや、構わんよ。ここにいるのは3人だけだ。そうか、そういえば先日のドラグーン試験でも、協力をしてもらったそうだな。感謝するよ」

 

「いえ、そんな。感謝されるほどのことでは……」

 

 少し赤面するルーブに、

 

「ははは。君は奥ゆかしい男だな。だが、才ある者の謙遜は、時として悪徳だぞ?」

 

 ゼン宰相は笑いかけた。

 

 それから――

 3人はしばらく談笑していたが、

 

「おお、いかん。そろそろ会場に戻ったほうが良い。本日は、君たちが主役なのだからな」

 

「いえ……。主役は、オルマ……姫殿下でしょう。僕は端役にもなりませんよ」

 

 ルーブは少しだけ暗い顔をして、頭を掻く。

 

「君は利発な青年だが、自己卑下の癖があるようだな。それではいかんよ」

 

 ゼンはルーブの肩を叩き、まっすぐにその顔を見た。

 

「じ、自己卑下、ですか?」

 

「うむ。君は祖国で、仮にも騎士爵をもらった身だろう。もっと胸を張り給え。能力は決して、他者(ひと)から愚弄されるようなものではないぞ」

 

「こ、光栄です!」

 

 ルーブは、やや顔を紅潮させて、再び礼を取った。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

「どのように思われます、閣下?」

 

 ルーブが会場に戻った後――

 カピオは眼を鋭くして会場のほうを見た。

 

 いや、あるいは。

 その視線は会場に戻ったルーブを見たのかもしれない。

 

「少し気弱だが、鍛えれば相応のものにはなるだろうな。しかも、君の見立てだ」

 

「これはこれは。過分なお言葉です」

 

 カピオはやや大げさな態度を取る。

 

「計算高い君のことだ。能力があり、役に立つ。その上、気性的にも恩人には何かと甘くなる。こういう人物だと見て取ったうえでのことではないのかね?」

 

 ゼン宰相は、わずかに目を鋭くした。

 

「そのように言われましては、まるで私が計算高いだけの男のようですな」

 

「違うのかね」

 

 ゼン宰相は葉巻を取り出し、目を閉じる。

 

「計算高い()()というのは、返上したいところです」

 

 ゼン宰相の葉巻に火をつけながら、カピオは笑った。

 道具は、ライターのような魔道具である。

 

「そうだな。外国人ではあるが、こちらに取り込みやすい人物でもある。色んな部分で如才がない。得難い男だよ。平時でも、いや戦時下であっても有用な人材だ。使いかたさえ間違えなければ……だが」

 

 煙を小さく吐き、ゼン宰相はカピオを見た。

 

「かの魔導大国では、『兵站こそ最強の武器』という言葉もあります。ゆえに、軍事国家ながら文官を粗末にはしない――」

 

「英雄が十全に戦うにも準備がいる。黒炎が操るドラグーンにしても、整備だけでそれなりの金や物資が必要となる。さらに、ただ物資があれば良いわけでもない……か」

 

「おっしゃる通りです、閣下」

 

 カピオはうなずく。

 

「だが、こちらに引き入れるにしても、むやみやたらにすれば良いというものではない。裏切り者というのは、嫌われるからな」

 

「そこはご心配なく。有能でありながら、場に恵まれないために不遇の扱いを受けている。そのような筋書きで、かつ清潔感のある美形ならば、同情も買いやすい。ま、これは事実でもありますが」

 

「ふむ……。では、そっちの方面は任せよう」

 

「了解いたしました」

 

 カピオは静かに礼を取る。

 

「ついでながら、閣下にお願いいたしたいことが……」

 

「何だね?」

 

「は。鎖をさらに強くするため、薄幸の美青年にふさわしい――」

 

「ふむ……。ま、その話は後日にしてだ? 我々も会場に戻ろう。薄幸の青年に紹介したい人物も何人かいるのでね」

 

 ゼン宰相は葉巻の火を消しながら、何気ない声で言った。

 

 

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