破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-17 古い予言の女神

 

 

「グシオ・ダムテ。最初は、もっと暗い雰囲気だったわね」

 

 オッカは言って、カーシャを振り返る。

 

「暗い?」

 

「あとは、何ていうのか。切羽詰まっているというか、追い詰められているというのか。余裕があまりなかったわ。とにかく、魔王軍を叩く。そんな風だった」

 

「――魔王軍の攻撃はそれほどまでに?」

 

 カーシャが疑問を口にすると、

 

「確かに、前々から周辺の国も攻撃されていた。だけど、十分に戦える軍備はあったはずよ。一般人も肌感覚でわかっていたはず」

 

「ふむ……」

 

 カーシャは顎を撫でながら、グシオの顔を思い出す。

 そして。

 わずかな所作や、自分を止めた時の表情なども。

 

「あれだけの力を持っていても、余裕がなかったと?」

 

 納得がいかない。

 そんな顔をしながら、カーシャはオッカを見る。

 

「なかったわね。とにかく、敵を叩く。そして、仲間を守る。何か、贖罪でもしてるような、そんな風にも見えた」

 

「ますますわからぬな」

 

 オッカの言葉に、カーシャは嘆息。

 

「そも、どのような修業を経て、あの強さを得たのやら」

 

「あまり話したがらないわね。それも――」

 

「謎多き男か」

 

 少しおどけるように、カーシャは首をすくめた。

 

「そう。不思議な子ね。色んな被害を防いだり、敵の攻撃に前もって備えていたり……。いえ、そうとしか思えないような……」

 

「……」

 

 オッカがそう言った後、カーシャは微妙な表情をした。

 

「彼が魔王軍に通じてる。そんなことはない。少なくとも私はそう信じてるわ」

 

 カーシャの心情を察してか。

 オッカは強い口調で断言した。

 

「うむ……。そうだな、私も信じると決めた身。そこは同意しよう」

 

 素直にうなずくカーシャへ、

 

「ふふ」

 

「むむ。なんだ?」

 

「いえ、あなた。ドラゴンみたく強いくせに妙に可愛いところがあるのね」

 

「ドラゴンのようにか。そうあれば良かったがな。で、あれば。故郷(くに)を捨てることもなかったろうさ」

 

「ヤオアムト、だったかしら」

 

 オッカは少し興味ありげに、

 

「男尊女卑がひどい国って聞いたけど、本当なの?」

 

「そうだ。噂には尾ひれがつくものだが、本当だよ。最低な国だ……」

 

 カーシャはそっと横を向く。

 

「女が生きていくには、つらいところだ。魔導大国などと言われているが、お勧めはしない」

 

「……そう」

 

 オッカのしんみりとした声を背に受けながら、

 

 ――ええ、そう。あなたみたいな、半端なタイプはね。

 

 カーシャは故郷に想いを馳せる。

 

 男尊女卑。

 特に、貴族階級では間違っていない。

 いないが。

 

 ――別に女だから立身出世できない場所ではないわ。

 

 確かに、国王の玉座に座れるのは男子のみ。

 しかし?

 

 絶大な権力や富を手にした女など、古代から現代まで無数にいる。

 宮廷で辣腕を振るう女傑など珍しくもない。

 女の宰相がいたこともあった。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ――未来を予言……。いや、()せる神?

 

 今にも崩れそうな古書。

 いわゆる風土記に分類されるもの。

 

 風土記とはいわゆる地誌。

 あるいは、行政報告書とも言える。

 

 真偽の怪しいものもたくさんある。

 だが、中には、

 

「下手な地元の伝承よりも正確な……」

 

 事例も少なくない。

 

 その風土記は、グシオの出身国について記したもの。

 ゴトクはそれを読みながら、

 

「ふむ?」

 

 何度も何度も、首をかしげていた。

 

 後世に書かれる歴史書の中では、グシオが最初に登場するであろう場所。

 地元ではほぼ忘れられかけている。

 そんな場所であり、神だが――

 

 ・予言の神。女神らしい。

 ・未来を教え、未来の知恵を伝えるものである。

 ・託宣を受けた者は、未来の経験を糧に偉業を成したという。

 ・あるいは、遠い未来より(さかのぼ)ってきた知識だろうか。

 

 要約すれば、こんなことが言及されている。

 

「……なんだぁ?」

 

 読み終えてから、ゴトクは思わずつぶやいた。

 それから、宿の天井を見上げる。

 

 ――写本だが……。内容は変わってないはずだ。しかし……。

 

 少し考えてから、

 

 ――そうか。これが書かれた後、政変やら何やらが起こって壊れたり、廃れた神殿もあったのか。

 

 横に置いていた、歴史書のページをめくっていく。

 

 ――地元じゃ忘れられたか、葬られた信仰、女神……。そいつが、外国の記録に残っているとはな。皮肉なもんだ。いや、そういうことはわりとあるか。

 

 時の権力に都合の悪い事実。

 それは往々にして、改竄されたり、なかったことにされる。

 

 ――だから、第三者視点のほうが正確ってのはあることだったな。しかし……未来を見せるねえ?

 

 ゴトクは身を起こして、右のこめかみを指で揉んだ。

 

 ――未来を知る。見てきたように……。未来を(さかのぼ)る……。

 

 何度か思考を巡らせた後、

 

 ――予言の女神か……。ふううん……。

 

 現地で調べ、まとめていた資料。

 それを同時に読み返して、思考する。

 

 ――グシオ・ダムテは、女神だか何かに未来を予言された――と、仮定して。だが、知ってるイコール強くなれるわけでもねえ。ふむ……。

 

 ゴトクは――

 腕組みをして、何かヒントはないかと考えるうちに、

 

「強くてニューゲームとか、逆行? そういうジャンル? がありまして――」

 

 いつか話した、バッキーとの会話。

 それを思い出す。

 

 ――黒炎のグシオ。表舞台に出てくる前は、ただの一般人としか思えん経歴だったか。それが、未来で何かを体験して、それを持ったまま過去に戻る?

 

 話としては面白い。

 あるいは、誰もが一度は考えることかもしれない。

 否定するのも笑うのも簡単ではあるが――

 

 ――()()()()()()と仮定して、未来のグシオの魂が現在のグシオの体に宿った? と、なれば。

 

 グシオという若者は――

 『未来の亡霊』に肉体を奪われた、ということになるが。

 

 不穏な仮説を立てたゴトクだが、

 

「いや、予言か」

 

 つぶやいて、仮説に訂正を加えていく。

 

 ――女神か何かわからんが、妙な力を持った誰かに未来の記憶、知識、経験を教えられた。それをもとに力をつけて、今のような英雄となった……というのは、どうだ? こいつもアホな仮説だが。

 

 ゴトクは頭を掻いて、資料をたたむ。

 

 ――どっちにしろ? 実際に英雄様の姿かたちを見てみなきゃわからんか。鬼が出るか蛇が出るか。もしも、魂の在り方が他と違うのなら……。

 

 

 

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