破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「グシオ・ダムテ。最初は、もっと暗い雰囲気だったわね」
オッカは言って、カーシャを振り返る。
「暗い?」
「あとは、何ていうのか。切羽詰まっているというか、追い詰められているというのか。余裕があまりなかったわ。とにかく、魔王軍を叩く。そんな風だった」
「――魔王軍の攻撃はそれほどまでに?」
カーシャが疑問を口にすると、
「確かに、前々から周辺の国も攻撃されていた。だけど、十分に戦える軍備はあったはずよ。一般人も肌感覚でわかっていたはず」
「ふむ……」
カーシャは顎を撫でながら、グシオの顔を思い出す。
そして。
わずかな所作や、自分を止めた時の表情なども。
「あれだけの力を持っていても、余裕がなかったと?」
納得がいかない。
そんな顔をしながら、カーシャはオッカを見る。
「なかったわね。とにかく、敵を叩く。そして、仲間を守る。何か、贖罪でもしてるような、そんな風にも見えた」
「ますますわからぬな」
オッカの言葉に、カーシャは嘆息。
「そも、どのような修業を経て、あの強さを得たのやら」
「あまり話したがらないわね。それも――」
「謎多き男か」
少しおどけるように、カーシャは首をすくめた。
「そう。不思議な子ね。色んな被害を防いだり、敵の攻撃に前もって備えていたり……。いえ、そうとしか思えないような……」
「……」
オッカがそう言った後、カーシャは微妙な表情をした。
「彼が魔王軍に通じてる。そんなことはない。少なくとも私はそう信じてるわ」
カーシャの心情を察してか。
オッカは強い口調で断言した。
「うむ……。そうだな、私も信じると決めた身。そこは同意しよう」
素直にうなずくカーシャへ、
「ふふ」
「むむ。なんだ?」
「いえ、あなた。ドラゴンみたく強いくせに妙に可愛いところがあるのね」
「ドラゴンのようにか。そうあれば良かったがな。で、あれば。
「ヤオアムト、だったかしら」
オッカは少し興味ありげに、
「男尊女卑がひどい国って聞いたけど、本当なの?」
「そうだ。噂には尾ひれがつくものだが、本当だよ。最低な国だ……」
カーシャはそっと横を向く。
「女が生きていくには、つらいところだ。魔導大国などと言われているが、お勧めはしない」
「……そう」
オッカのしんみりとした声を背に受けながら、
――ええ、そう。あなたみたいな、半端なタイプはね。
カーシャは故郷に想いを馳せる。
男尊女卑。
特に、貴族階級では間違っていない。
いないが。
――別に女だから立身出世できない場所ではないわ。
確かに、国王の玉座に座れるのは男子のみ。
しかし?
絶大な権力や富を手にした女など、古代から現代まで無数にいる。
宮廷で辣腕を振るう女傑など珍しくもない。
女の宰相がいたこともあった。
・ ・ ・
――未来を予言……。いや、
今にも崩れそうな古書。
いわゆる風土記に分類されるもの。
風土記とはいわゆる地誌。
あるいは、行政報告書とも言える。
真偽の怪しいものもたくさんある。
だが、中には、
「下手な地元の伝承よりも正確な……」
事例も少なくない。
その風土記は、グシオの出身国について記したもの。
ゴトクはそれを読みながら、
「ふむ?」
何度も何度も、首をかしげていた。
後世に書かれる歴史書の中では、グシオが最初に登場するであろう場所。
地元ではほぼ忘れられかけている。
そんな場所であり、神だが――
・予言の神。女神らしい。
・未来を教え、未来の知恵を伝えるものである。
・託宣を受けた者は、未来の経験を糧に偉業を成したという。
・あるいは、遠い未来より
要約すれば、こんなことが言及されている。
「……なんだぁ?」
読み終えてから、ゴトクは思わずつぶやいた。
それから、宿の天井を見上げる。
――写本だが……。内容は変わってないはずだ。しかし……。
少し考えてから、
――そうか。これが書かれた後、政変やら何やらが起こって壊れたり、廃れた神殿もあったのか。
横に置いていた、歴史書のページをめくっていく。
――地元じゃ忘れられたか、葬られた信仰、女神……。そいつが、外国の記録に残っているとはな。皮肉なもんだ。いや、そういうことはわりとあるか。
時の権力に都合の悪い事実。
それは往々にして、改竄されたり、なかったことにされる。
――だから、第三者視点のほうが正確ってのはあることだったな。しかし……未来を見せるねえ?
ゴトクは身を起こして、右のこめかみを指で揉んだ。
――未来を知る。見てきたように……。未来を
何度か思考を巡らせた後、
――予言の女神か……。ふううん……。
現地で調べ、まとめていた資料。
それを同時に読み返して、思考する。
――グシオ・ダムテは、女神だか何かに未来を予言された――と、仮定して。だが、知ってるイコール強くなれるわけでもねえ。ふむ……。
ゴトクは――
腕組みをして、何かヒントはないかと考えるうちに、
「強くてニューゲームとか、逆行? そういうジャンル? がありまして――」
いつか話した、バッキーとの会話。
それを思い出す。
――黒炎のグシオ。表舞台に出てくる前は、ただの一般人としか思えん経歴だったか。それが、未来で何かを体験して、それを持ったまま過去に戻る?
話としては面白い。
あるいは、誰もが一度は考えることかもしれない。
否定するのも笑うのも簡単ではあるが――
――
グシオという若者は――
『未来の亡霊』に肉体を奪われた、ということになるが。
不穏な仮説を立てたゴトクだが、
「いや、予言か」
つぶやいて、仮説に訂正を加えていく。
――女神か何かわからんが、妙な力を持った誰かに未来の記憶、知識、経験を教えられた。それをもとに力をつけて、今のような英雄となった……というのは、どうだ? こいつもアホな仮説だが。
ゴトクは頭を掻いて、資料をたたむ。
――どっちにしろ? 実際に英雄様の姿かたちを見てみなきゃわからんか。鬼が出るか蛇が出るか。もしも、魂の在り方が他と違うのなら……。