破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その117、悪魔が来りて嘘をつく-19 神話と密談と間者と

 

 

「ナイ。ニャル。あるいは、ニ・ルア……か」

 

 ゴトクは、集めた資料からその名前を並べる。

 

 廃墟の神殿跡に祭られていたという存在。

 予言の女神。

 確かに、そのように伝えられる神ではある。

 

 だが、

 

 ――どうにもなあ?

 

 類似する神が、他の地域でもいくつか発見できた。

 現在ゴトクのいるシーマ国にも。

 

 しかし――

 

 ――どうにこうにも。あまり拝みたくない神様だな……。

 

 

 確かに、予言の女神という側面もある。

 だが――

 

 黒髪の女神。

 夜を象徴する男神。

 黒い獣神。

 共通するのは『黒』という色。

 

 破壊。

 遊戯。

 混沌。

 酒乱。

 戦争。

 

 いわゆる、『トリックスター』に分類される神性。

 

 ヒトを破滅させ、時には国を滅ぼす。

 ある神話では、世界の終わりを導く存在としても描かれる。

 

 ――神々の黄昏か。それのきっかけを作る混沌の神。

 

 また。

 いくつもの姿と異名を持ち、判然としない。

 男神か女神さえ曖昧である。

 

 無貌の神。

 闇をさまよう存在(もの)

 大いなる黒き使者。

 黒衣の神官。

 顔のない黒いスフィンクス。

 

 そして、

 

 ――這い寄る混沌か。

 

 この名前の場合、かなり恐れられ、忌避されてきたようだ。

 

 ――『あれ』とか『例のヤツ』とか。

 

 曖昧な呼び方ばかりする。

 名前を語ること。

 それさえ禁忌だった。

 よほど、おぞましく思われていたらしい。

 

 ――そういやあ……。

 

 黒。

 

 グシオのドラグーンも黒く塗装されている。

 いや。

 グシオ自体がいつも黒衣を着ているのだ。

 

 ――まあ、偶然ではあるんだろうが……。

 

 ゴトクは何度も首をひねった。

 

 黒色で象徴される混沌の神。

 幻視の中で――

 神殿跡の風景が、妙にグシオと重なって見えた。

 

「ふう」

 

 思考を打ち切り、ゴトクは広げた資料を手早く整理。

 所定の場所にしまってから、ベッドに上がった。

 

 息を吐いてから、壁に背を預ける。

 目を閉じて、見た感じ眠っているか、瞑想でもしているようなスタイル。

 

 <――ついでだが、わかったよ>

 

 壁越しに、小さな振動で伝えた。

 それで十分会話が成り立つ。

 

 <魔王軍の本拠地?>

 

 となりから、カーシャの返事が伝わってくる。

 

 <ああ……。それと、おおよそだが正体もな>

 

 <異世界からやって来た侵略者?>

 

 <そんなトンチキ……いや、浪漫のあるもんじゃない。まあ、面白くもないが>

 

 <あら。それは残念。で?>

 

 <100年ほど前に、ちょっとした宗教戦争があった>

 

 <よくある話ね>

 

 <ああ。しかも厄介なことに、身内同士の戦争さ。当時は、ガーモ派と呼ばれた宗派だ>

 

 <そういうのがあるわけ?>

 

 <今はない。少なくとも、表立ってはな。100年前にガーモとかいう神官が興したもんで、異端として主流派に潰された。魔王軍はその末裔。魔王は現在の大司教様だ。いや、どういう役職なのかは知らんけどな。ま、ボスであることは間違いない>

 

 <ふうむ……>

 

 <で、そのガーモ派が今になって復讐を?>

 

 <ぶっちゃけそういうことだ>

 

 <このへん……ナーロッパ地域の主な信仰は――>

 

 <マユリー女神だ。悪竜を食い殺す神鳥ガルーダの化身とも言われるな>

 

 <ガルーダねえ。聞いたことがあるような、ないような……>

 

 <討伐されるようなモンスターじゃなく、あくまで神話で語られる存在だからな。モデルになった鳥型モンスターはいるのかもしれんがね>

 

 <なるほど>

 

 <ガーモは、悪竜を制するってことは、ドラゴン種を操れる。そういう解釈をする宗派だ>

 

 <偉大な女神だから、悪の化身を屈服させて隷属化できるというわけ?>

 

 <そんな感じだろうよ。実際ナーロッパはドラゴンの被害で犠牲を出してるし、ドラゴンの活動期には世界の終わりみたいな騒ぎだったろうな>

 

 <ふーん。そういう場所柄では、ドラゴンを制御できるというのは大きいわね。いえ、ヤオアムトでだってその意味は大きいわ>

 

 <ああ。しかし、やはり悪魔の化身という考えもある。だから>

 

 <ドラゴン使いは、悪魔に魂を売っている。そういう解釈もできるわけねえ>

 

 <そうだ。だから今使われてるドラグーンも、当初はドラゴンキラーと呼ばれてたらしい。ま、ドラグーン自体がここ100年以内、それもヤオアムトから輸入されたもんが最初だけどな>

 

 <乗って使った感想だけど、アレは中間体相手では危ないわね。あくまで英雄殿が異例なのだわ>

 

 <そうだな。しかし、数をそろえれば対抗・撃退はできる。ドラゴンじゃなくってもでかい戦力だ。飛行能力があれば、なおさらな>

 

 <雷霆兵器(ケラウノス)のような、破壊力の大きいものは、ないようだし>

 

 ケラウノス。

 現代地球で言えば、ミサイルのようなものを連想するとわかりやすい。

 ヤオアムトのドラグーンでは、半分標準装備である。

 

 <あっても、単なる火薬武器じゃドラゴンには望み薄し……だな。相手の魔力を打ち破るだけのものがなけりゃ、怒らせるだけだ。いや、周りの者を吹っ飛ばすから、よりたちが悪い>

 

 <……しかし、よくもそれだけ情報を集めているものね>

 

 <ひとりでやってるわけじゃないからな>

 

 <魔王軍にも、間者を放っていると?>

 

 <そうだな――>

 

 <そいつは私よりも先に送り込んでいる>

 

 <……>

 

 <沈黙は肯定と捉えてよいのかしら?>

 

 <わかった、わかった。そうだよ、あんたよりもひと月ほど前に送り込んだ>

 

 <やっぱりね>

 

 <危険な仕事だが、その分料金をはずんだ。下手すりゃ赤字だぜ>

 

 <そんな割の合わない仕事を、なぜ?>

 

 <単純な銭だけの話じゃないからな。知ってると、後々商売に有利になることもあるのさ。ま、情報代だな。先行投資とも言えるか>

 

 <それで。私の仕事はいつやればいいの。勇者様のパーティーを全員殺せと言うのなら、今すぐにでも終わらせる>

 

 <先走ってもらっちゃ困る。言っただろ、簒奪計画の黒幕が潰れるまでの間だ。そっからは、『英雄グシオとその仲間たち』次第さ。おとなしくテキトーな爵位か領地でももらって落ちついてくれたら、それでOKなのさ>

 

 <すると思う? あの連中が>

 

 <……しねえだろうなあ>

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 ――ふむ。

 

 その少年――

 シーフ職のトクベーは、暗がりの中で腕組みをしていた。

 

 ドラゴンオーブ。

 巨大な眼球のようなそれは、城の奥で不気味に輝いている。

 魔王軍の決戦兵器。

 

 より広範囲かつ多数のドラゴン種を操れる巨大な魔道具。

 

 ――据え置き式なのと、魔力の消費量がネックか。しかも、まだまだ完成前と……。

 

 だが、

 

 ――完成すれば成体のドラゴンでも操れるか。成体のドラゴンねえ……。そんなのが都合よくそこらにいるもんかね。中間体だって珍しいほうなのに。

 

 

 

 

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