破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その29、異世界転生とはなにか?

 

 

 

「いやはや。とんだハプニング続きだったなあ」

 

「……寿命が縮みました」

 

 ネビズに戻ってきたギルドマスターとライワ。

 ギルド本部へ戻った後、やや脱力していた。

 

「おやまあ。お二方(ふたかた)そろってずいぶんお疲れのようで」

 

 お茶を出しながら、ミゾイが苦笑した。

 

「……本当に色々疲れたよ。他のSR連中には気の毒したもんだ。あのドタバタで、まともに話も食事もできなかったようだしなあ。とばっちりもいいとこだよ」

 

「後で、フォローの必要があるかもしれません」

 

 ライワは、

 

「ほう」

 

 と、ため息をつく。

 

「……だなあ。すまんが、また仕事をしてもらわにゃならん」

 

「仕方ありません」

 

「よろしく頼む。この分は手当につけとくよ」

 

「おっしゃるあなたも、色々お仕事……後始末がおありのようで」

 

 空になった茶器におかわりを入れつつ、ミゾイが言った。

 

「実はその通り。まいったねえ、領主としての仕事もあるんだが――とはいえ、新しくドラゴンスレイヤーが増えたのは喜ばしいこと、かな?」

 

「その分、余計な面倒もついてきますがねえ」

 

「あんまり現実的なことばかり言わんでくれ。いいかげんできつくなる」

 

「ですが、あの女……。最近、多少人間らしいところも見せると思っていた矢先に、アレですからね……」

 

 ライワは胃痛をおぼえながら、茶器を覗き込んだ。

 

 

 本部で上層部が心労を語り合っている頃。

 

 

「……」

 

 カーシャは冒険者食堂にいた。

 肉。野菜。魚。他にもキノコなどなど。

 色んな料理を黙々と食べ続けている。

 動きは作法にのっとったものだから、スピードは速くない。

 だが、運ばれてくる料理はとぎれなかった。

 かなりの量だ。

 

「おっ。帰ってたのかい」

 

「ええ」

 

 カーシャは食事をしながら、視線も合わせずに応えた。

 話しかけたのは、となりの宿泊所からやってきたマコネ。

 

 マコネはカーシャの前に座りながら、

 

「で。どーだったい、舞踏会は。ダンスとかしたりしたかい?」

 

「するわけないでしょ」

 

「けど踊れるんだろ?」

 

「ああいう場所で踊るのは、1人じゃなくってペアでやるダンスよ。相手がいなければ無理ね」

 

「はー、そういうもんか……。あ、そうだ。ドラゴンスレイヤーの称号ってのは、もらえたんだろ?」

 

「……」

 

 カーシャは、左の(そで)をまくってみせた。

 そこには独特の赤い紋章が刻まれている。

 

「おーっ。これがドラゴンスレイヤーの紋章ってやつか。実物見るのは初めてだぜ! 腕に彫るんだなあ」

 

刺青(タトゥー)じゃないのよ。魔法で刻印する特別な紋章。つける場所は、まあ本人の自由だと言われたわ」

 

「じゃあ、カッコよくおでことかに入れりゃよ良かったのに。注目されるぜ?」

 

「嫌よ。趣味の悪い」

 

「そうかあ? おいらは、良いと思うけどなあ」

 

「なら、あんたがスレイヤーになった時、そうすれば?」

 

「ムチャ言うなよ。そう簡単にできりゃ、あちこち英雄だらけだぜ?」

 

「……ああ、そうだったわね」

 

「オイオイオイ。忘れてたのかよ……」

 

 マコネはあきれ笑いをした後、

 

「そういやさ? 姐さんがいない時、あのシーフが来たぞ。ほら、バタムでエルフ討伐の……」

 

「トクベー。そんな名前だったかしら」

 

 ――〝露払い〟のクエストも、一緒だったわね。なにか、妙なことを言ってたけど。

 

「うん、そうそうソレ。変な名前だったからおぼえてたんだけどさ、あいつとバッキーが……どう言やあいんだか。なんか、わけのわかんねーことを熱心に話してたんだよなあ」

 

 ――どこか雰囲気が似ている気はしたけれど、まさか血縁者って落ち?

 

 バッキーと、トクベー。

 2人の顔を思い返しつつ、カーシャは首を横にかたむけた。

 

「で、なにをどうを話していたというの?」

 

「だからぜんぜんわかんねーんだってば。なんか、ゼンセとかテンセイとかヒョーイとか? どっかの方言なのかね、それとも合言葉か?」

 

「……あの()、まさか変なクスリでもやっているんじゃないでしょうね?」

 

「え、そのパターン? いやぁ、そういうヤツは何度か見たことあるけど……。んー、バッキーの場合はちがうと思うぜ、たぶん」

 

「ふむ……」

 

 カーシャが少し考えこんだ時、

 

「あっ、リーダーお帰りなさい」

 

 タイミング良く、バッキーが食堂に入ってきた。

 

「……」

 

「……」

 

「えっ? あれっ? なんですか? あの……? 私、なんかやっちゃいました……?」

 

 バッキーは若干おびえながら、カーシャたちを見まわす。

 

 

 

「あなた、それ――愉快なジョークでも言っているつもり?」

 

 バッキーが自分の素性を話すと、カーシャはそっけなく言った。

 

「いやぁ……確かにそう思われて当然ですけど。全部お前の妄想だって言われても、反論できないです。けど、私の記憶にあるのは、そういうことで」

 

 ――妄想ね……。私の経験だって似たようなものか。普通なら狂人の妄言としか思えないもの。

 

「わかったわ。とりあえずそういうことにしておきましょう。あなたの過去が真実だろうと妄想だろうと、どっちでも良い。極めて優秀な治癒魔法が使えるヒーラー。それは事実なのだから、それで良し。後は良し」

 

 カーシャはパンパンと手を打った。

 

「んまあ、それでいっか。いいよな」

 

 マコネも同意して笑う。

 

「確認しようもねーこと、グダグダ言っても時間の無駄だ。確認したって、どーってことねーし」

 

「あ、そですか。ありがとうござい、ます?」

 

 バッキーも、

 

 ――ううーん。そう言われたら、良いのかな。いいことにしよ。

 

「ところで、あなたと話したシーフ……トクベーとかいうヤツも、同じようなこと言ってのかしら?」

 

 カーシャは、空の食器を店員にさげさせながら、話を変えた。

 

「いえ? 彼はあんまりよくおぼえてないって……。いえ、前世の記憶? なんか、フツーおぼえてないものですし」

 

「ふーん……。アレがねえ。ああ……」

 

 カーシャは、トクベーと一緒にやったクエストを思い出す。

 

「あの時も、あなた……バッキーのことを聞いてきたわ。どうでもいいことだから、忘れてたけど」

 

「えっ。そうなんですか」

 

 ――バタムでのエルフども……。あのことがあったし注意しておくべきだったわ。また、洒落臭(しゃらくさ)いことをされたら、不愉快だもの。

 

「ふむ……。他にも、長々とツマラナイ自分語りをしてたかしら。いくらか暇つぶしになったからいいけど」

 

「うーん、そうだったのかー……」

 

 考えているバッキーに、

 

「もうひとつ。マコネから聞いたけど、ヒョーイテンセイとか言ってたらしいけど」

 

「え!? あ、はい……。言ってましたです」

 

「テンセイは転生。要するに生まれ変わりのことね。なら、ヒョーイとはどういう意味?」

 

「あの、気を悪くされるかもしれないけど、怒らないでくださいね? 憑依、なにかにとり憑く――の、あれです」

 

「それって、悪霊とか幽霊がとり()くってやつか?」

 

 マコネが目を丸くする。

 

「そうです、そうです。つまりはですね、別の誰かが死んじゃうとかした後で、ぜんぜんちがう人間に憑依して、その人間として生きていくってことで」

 

「……いやさあ? それもう完全に悪霊の(たぐい)じゃねーか。生まれ変わってないよ? 生まれてないじゃん」

 

「ですよねー……」

 

 バッキーは、若干引きつり気味の笑い。

 

「……ふーん。そういう意味ね」

 

 カーシャは指で頬をかきながら、

 

「察するところ、〝私〟がカーシャという女にとり憑いて乗っ取った悪霊かと疑っていたわけかしら」

 

「いえ、その、決してそういうような……」

 

 バッキー、あわてて弁解をしようとしながら、

 

 ――けど……実際そういうことだよね。ネットとかでもさんざんつっこまれてるし。

 

「別に怒ってない。なるほど? そういう風に見えても仕方がないか」

 

 ククク、と。

 カーシャは面白そうに笑う。

 

 ――姐さんのこういうの、初めて見たかも。

 

 ――あんまり笑ったりしない人だよね。うーん、笑った顔とか見たかな? 見たような、見ないような……。

 

 マコネ、バッキーは何となく視線を合わせた。

 

「でも? それであなたたちに何か不都合があるの?」

 

 カーシャは髪をかき上げ、

 

「チーフウォール公爵家の娘カーシャ。人格面ではハッキリいって最低よ? そいつの目からしたら、あなたたちなんか虫けら同然。傲慢でヒステリックで、そのくせ他人が自分を大事にしてくれないと憎んで怨む。公爵家の権力を後ろ盾に気に食わない相手はいびる。他にも、数えてみたらキリがない」

 

「……あのさ、自分のことだろ?」

 

「…………」

 

 マコネは面食らい、バッキーが何も言えない。

 

「まさに自分のことだから。振り返ってみればわかることもある」

 

 カーシャは椅子に座り直し、組んだ両手に形の良い(あご)をのせた。

 

「そうかといって。別に反省や後悔もしていないわ。言い訳だと思うだろうけど、周りの連中が善男善女だったわけでもないのだから。お互いの立場ってものがあるから、だからどうだとも言えないけれど」

 

「ほえー……。やっぱ、なんかあったンかい? 今みたいになったのって」

 

「確かにあったわね」

 

「あ。ヤなら別に……」

 

「嫌というわけじゃない。でも、言えばバッキー、あなたの話したこと以上に狂人の妄想だと思われるでしょうね」

 

 カーシャはマコネに軽く片手を上げてから、バッキーを見た。

 

「……そ、そうなんですか」

 

 ――しかし。異世界転生、ねえ……。自分のことを考えれば、あるのかもしれないわ。ふむ? 考えてみれば勇者の召喚というのも、似たようなものかしら?

 

 と、すれば。

 ヤオアムトだけではなく、あちこちの国で、

 

 ――似たような連中を呼び寄せたことがある、ということか。

 

 

 

 

 

 

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