破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「ヤオアムト面ねえ? あんな遠くの国、私はぜんぜん知らないけど……」
しかめっ面のエルフに、オッカは苦笑。
「ヤオアムトで暮らしてたことがあるからね。100年くらい前だけど」
エルフは、つまらなそうに言った。
より正確には――
半分エルフで、半分人間の
名前は、マーヤ・シオロという。
「100年って、ああ……。あなたは」
「そう。半分はエルフ。父は、騎士だったかしら。騎士といっても、上からこき使われるだけの下っ端だけど。」
マーヤは肩をすくめ、
「騎士なのに?」
「向こうじゃ騎士は軍人、それも下士官みたいなものよ。殺し合いにばかり秀でてる。そういう連中」
「あまり良い思い出は、なさそうね」
オッカは少し口調を変えた。
やや、硬く真面目なものへ――
「向こうじゃ、女の扱いはひどいものだったわ。特に冒険者なんてものはね……。女が殴られても、苦しんでても、誰も助けないわ」
「それは……」
「騎士道なんて、あいつらにはないもの」
――騎士道ねえ……? そりゃ、貴族の淑女でもない限り、そんなものの対象になるわけがない。
カーシャは、すでにオルマとの話を終えていた。
優れた感覚は、離れたふたりの会話も聴き取っている。
しかし、あくまでも素知らぬ顔だ。
確かに……。
ヤオアムトでは女の価値は低い。
――極論で言えば、一般の女には『穴』と『袋』の価値しかない。
つまりは、性的欲望と母胎としての機能。
――いえ、それすらも怪しいか。
サキュバスという種族が、それこそ建国の時点からいる。
ごく当たり前の存在として。
美女な母胎も、欲望発散の相手も全く事欠かない。
結果。
同族……人間の女には、ブランド的な価値しかないわけだ。
貴族社会でも、高い能力や権力、政治力がなければ、
――政治的交渉の道具でしかない。
白馬に乗った王子様に迎えられる者など、物語の中にしかいない。
――いや……。
王子様に迎えられたら、それはそれで苦労が付きまとう。
国の重鎮としての仕事や責任が嫌でものしかかるのだ。
――リーンも、さぞ苦労しているでしょうね。
一見優雅な舞踏会もお茶会も、
――水面下で火花を散らすものだしねえ?
わがまま娘として、好き勝手していた過去のカーシャですら、
――まったく無縁ではいられなかったのよねえ……。
いや。
むしろ貴族として淑女として、騎士たちにかしずかれる身分であれば、
下手な平民の女よりも過酷だ。
最高級のドレスを着て、幾人もの従者を従える。
そんな淑女が過労や心労で倒れたり、精神を病むことは珍しくもない。
代わりに、
――上位者は下手な男以上の権力を手にできるもの。
建国以来、国の法としての決まり――
王位につけるのは王族の男子だけ。
それは絶対だが……
王自身が絶対的な権力者である保証はない。
過去には――
幼い息子を王位につけ、自分は後見人として実質女王の立場にいた女傑もいる。
彼女は強力な富国強兵を進め、ヤオアムトの勢力を増大させた功労者だ。
同時に。
他国や他民族、種族を大量虐殺した流血の女でもあったが。
とはいえ。
女が苦労する国であることは、まぎれもない事実。
――まあ、そこは男も同じだけど?
求められるのは、『労働力』と『軍事力』。
金を稼ぎ、戦闘員として戦う。
それができない者は、切り捨てられるのみ。
――まあ、ようするに? あの半エルフは
カーシャは密かに笑いつつ、
――しかし、好戦的で凶暴ねえ……。ああ、まあ……。そういう面もあるけど、特に マウサスト系は。
ヤオアムトの南方に位置する マウサスト地方。
元々は、マウサスト帝国と呼ばれる国であった。
長年の抗争を経て、ヤオアムトに敗れて吸収されたわけだが――
敗れてもなお、軍は精強。
たとえ死んでも滅びても、引かぬ。
そう言われるほど、狂気に満ちた軍隊を率いる。
これと同時に……。
男尊女卑の気風が激しい土地柄でもあるわけだ。
――ヤオアムト国内ですら、『マウサストの狂犬ども』と揶揄されることもあるし……。
まあ、だからこそ――
軍は解体され、個別に各所へ爵位と領地を与えられて送られたわけだが。
――そこで、モンスターや野盗相手に蛮勇を振るって開拓や防衛に励んでいるわけで。
・ ・ ・
この夜――
カーシャは宿の部屋でひとり過ごしていた。
グシオのパーティーに加わっても、カーシャは個室で寝泊まりする。
支払いも全て自腹。
他のメンバーはグシオをのぞいてふたり、あるいは三人で部屋を取る。
よく、グシオの部屋に訪ねていくものが出るが……。
その度に、他がすぐ気づいて騒ぎとなる。
――宿屋としては、さぞ迷惑でしょうねえ?
ま。
それはさておき。
カーシャは壁に寄りかかり、背をあずけていた。
背中越しの振動で、となりのゴトクと会話中。
<……どうやら、黒幕さんは本気らしい>
<なにが?>
<英雄殿を、王座に据えることをさ>
<バカらしい……>
<そうだな。しかしだ、繰り返すが本気らしいぜ>
<ふうん。で、黒幕さんは?>
<……王妃様だよ>
<王妃?>
カーシャは、オルマの素性を発表した場――
例の舞踏会で見た、女王の顔を思い出す。
なるほど。
確かに、母子を感じさせる顔立ちだった。
――ふうん。よく似ているわね。
王族らしい、威厳と高貴さを持った美女。
――優雅な所作と表情でいたけれど。アレがねえ……?
<元々、カカァ天下で王様を尻にしいてたらしいからな。亭主を見下してたんだろうよ>
<これはこれは……。だけど、王太子はどうなるの? まさか、愛人の子というわけでもないでしょう?>
<さあねえ。少なくともそういう情報はない。だが、王子は男ばかりながら、みんな若い、というか幼いからなあ……。年長の王太子でさえ15だぜ>
<王族なら、結婚しててもおかしくない年齢じゃないの?>
<そりゃまそうだが……。どうやら、王妃様、再会した娘をえらく気に入ったらしくてな――>
<こんな時に、よく内戦を起こすようなことを考えるものね。そんなバカが権力を振るうようでは、未来は暗いわ>
<だからさ。そうならんように、周りがアレコレ動いてるのさ。とはいえ、王妃様の勢力はなかなかでなあ>
<おやおや。ますます先は暗いわね>