破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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 ※こちらのほうどうぞもよろしくです


その117、悪魔が来りて嘘をつく-21 悪鬼の国・先行きの暗い国

 

 

「ヤオアムト面ねえ? あんな遠くの国、私はぜんぜん知らないけど……」

 

 しかめっ面のエルフに、オッカは苦笑。

 

「ヤオアムトで暮らしてたことがあるからね。100年くらい前だけど」

 

 エルフは、つまらなそうに言った。

 

 より正確には――

 半分エルフで、半分人間の混血(ミックス)

 名前は、マーヤ・シオロという。

 

「100年って、ああ……。あなたは」

 

「そう。半分はエルフ。父は、騎士だったかしら。騎士といっても、上からこき使われるだけの下っ端だけど。」

 

 マーヤは肩をすくめ、

 

「騎士なのに?」

 

「向こうじゃ騎士は軍人、それも下士官みたいなものよ。殺し合いにばかり秀でてる。そういう連中」

 

「あまり良い思い出は、なさそうね」

 

 オッカは少し口調を変えた。

 やや、硬く真面目なものへ――

 

「向こうじゃ、女の扱いはひどいものだったわ。特に冒険者なんてものはね……。女が殴られても、苦しんでても、誰も助けないわ」

 

「それは……」

 

「騎士道なんて、あいつらにはないもの」

 

 ――騎士道ねえ……? そりゃ、貴族の淑女でもない限り、そんなものの対象になるわけがない。

 

 カーシャは、すでにオルマとの話を終えていた。

 優れた感覚は、離れたふたりの会話も聴き取っている。

 しかし、あくまでも素知らぬ顔だ。

 

 確かに……。

 ヤオアムトでは女の価値は低い。

 

 ――極論で言えば、一般の女には『穴』と『袋』の価値しかない。

 つまりは、性的欲望と母胎としての機能。

 

 ――いえ、それすらも怪しいか。

 

 サキュバスという種族が、それこそ建国の時点からいる。

 ごく当たり前の存在として。

 美女な母胎も、欲望発散の相手も全く事欠かない。

 

 結果。

 同族……人間の女には、ブランド的な価値しかないわけだ。

 

 貴族社会でも、高い能力や権力、政治力がなければ、

 

 ――政治的交渉の道具でしかない。

 

 白馬に乗った王子様に迎えられる者など、物語の中にしかいない。

 

 ――いや……。

 

 王子様に迎えられたら、それはそれで苦労が付きまとう。

 国の重鎮としての仕事や責任が嫌でものしかかるのだ。

 

 ――リーンも、さぞ苦労しているでしょうね。

 

 一見優雅な舞踏会もお茶会も、

 

 ――水面下で火花を散らすものだしねえ?

 

 わがまま娘として、好き勝手していた過去のカーシャですら、

 

 ――まったく無縁ではいられなかったのよねえ……。

 

 いや。

 むしろ貴族として淑女として、騎士たちにかしずかれる身分であれば、

 下手な平民の女よりも過酷だ。

 

 最高級のドレスを着て、幾人もの従者を従える。

 そんな淑女が過労や心労で倒れたり、精神を病むことは珍しくもない。

 代わりに、

 

 ――上位者は下手な男以上の権力を手にできるもの。

 

 建国以来、国の法としての決まり――

 王位につけるのは王族の男子だけ。

 それは絶対だが……

 王自身が絶対的な権力者である保証はない。

 

 過去には――

 

 幼い息子を王位につけ、自分は後見人として実質女王の立場にいた女傑もいる。

 彼女は強力な富国強兵を進め、ヤオアムトの勢力を増大させた功労者だ。

 同時に。

 他国や他民族、種族を大量虐殺した流血の女でもあったが。

 

 とはいえ。

 女が苦労する国であることは、まぎれもない事実。

 

 ――まあ、そこは男も同じだけど?

 

 求められるのは、『労働力』と『軍事力』。

 金を稼ぎ、戦闘員として戦う。

 それができない者は、切り捨てられるのみ。

 

 ――まあ、ようするに? あの半エルフは敗北者(まけいぬ)だったわけか。

 

 カーシャは密かに笑いつつ、

 

 ――しかし、好戦的で凶暴ねえ……。ああ、まあ……。そういう面もあるけど、特に マウサスト系は。

 

 ヤオアムトの南方に位置する マウサスト地方。

 元々は、マウサスト帝国と呼ばれる国であった。

 長年の抗争を経て、ヤオアムトに敗れて吸収されたわけだが――

 

 敗れてもなお、軍は精強。

 たとえ死んでも滅びても、引かぬ。

 そう言われるほど、狂気に満ちた軍隊を率いる。

 

 これと同時に……。

 男尊女卑の気風が激しい土地柄でもあるわけだ。

 

 ――ヤオアムト国内ですら、『マウサストの狂犬ども』と揶揄されることもあるし……。

 

 まあ、だからこそ――

 軍は解体され、個別に各所へ爵位と領地を与えられて送られたわけだが。

 

 ――そこで、モンスターや野盗相手に蛮勇を振るって開拓や防衛に励んでいるわけで。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 この夜――

 カーシャは宿の部屋でひとり過ごしていた。

 グシオのパーティーに加わっても、カーシャは個室で寝泊まりする。

 支払いも全て自腹。

 

 他のメンバーはグシオをのぞいてふたり、あるいは三人で部屋を取る。

 よく、グシオの部屋に訪ねていくものが出るが……。

 その度に、他がすぐ気づいて騒ぎとなる。

 

 ――宿屋としては、さぞ迷惑でしょうねえ?

 

 ま。

 それはさておき。

 

 カーシャは壁に寄りかかり、背をあずけていた。

 背中越しの振動で、となりのゴトクと会話中。

 

 <……どうやら、黒幕さんは本気らしい>

 

 <なにが?>

 

 <英雄殿を、王座に据えることをさ>

 

 <バカらしい……>

 

 <そうだな。しかしだ、繰り返すが本気らしいぜ>

 

 <ふうん。で、黒幕さんは?>

 

 <……王妃様だよ>

 

 <王妃?>

 

 カーシャは、オルマの素性を発表した場――

 例の舞踏会で見た、女王の顔を思い出す。

 

 なるほど。

 確かに、母子を感じさせる顔立ちだった。

 

 ――ふうん。よく似ているわね。

 

 王族らしい、威厳と高貴さを持った美女。

 

 ――優雅な所作と表情でいたけれど。アレがねえ……?

 

 <元々、カカァ天下で王様を尻にしいてたらしいからな。亭主を見下してたんだろうよ>

 

 <これはこれは……。だけど、王太子はどうなるの? まさか、愛人の子というわけでもないでしょう?>

 

 <さあねえ。少なくともそういう情報はない。だが、王子は男ばかりながら、みんな若い、というか幼いからなあ……。年長の王太子でさえ15だぜ>

 

 <王族なら、結婚しててもおかしくない年齢じゃないの?>

 

 <そりゃまそうだが……。どうやら、王妃様、再会した娘をえらく気に入ったらしくてな――>

 

 <こんな時に、よく内戦を起こすようなことを考えるものね。そんなバカが権力を振るうようでは、未来は暗いわ>

 

 <だからさ。そうならんように、周りがアレコレ動いてるのさ。とはいえ、王妃様の勢力はなかなかでなあ>

 

 <おやおや。ますます先は暗いわね>

 

 

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