破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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 ※カクヨム版もよろしく


その117、悪魔が来りて嘘をつく-23 猿叫

 

 

 スタイルとしては――

 両手で大剣を持ち、柄を顔に近づけている。

 そこから。

 刀身を背中に隠すような形。

 このような体勢から、

 

「ヂィィエエエエエエエエエッッ!!!」

 

 奇声というべきか。

 咆哮というべきか。

 とにかく、尋常ならざる叫び。

 

 これを発しながら、一直線に突進。

 カーシャの場合……。

 敵の遠距離攻撃を進みながら避けて、

 

「ぎゃああああ!?」

 

 肉薄して、敵を両断する。

 

 その殺意と迫力に、ほとんどの敵は戦う前から引いていた。

 というか。

 味方も引いているわけで――

 

「頼りにはなるけど、アレばっかりはねえ……」

 

 戦闘後。

 武装の手入れをしていたオッカがつぶやく。

 パーティーには魔導技術を用いた武器や防具が多いのだ。

 

「いちいち、あの……そう、絞め殺される猿みたいな声出さないといけないわけ?」

 

「ダメか?」

 

 自分の剣を手入れしつつ、カーシャはたずね返した。

 

「……気持ちの良いものじゃないわね」

 

「だが、気合を出さぬと力が入らぬぞ?」

 

「ま、そうかもしれないけど……」

 

 オッカは、非常に困った顔をしていた。

 

 ――ま、フツーはそういう反応よね。

 

 カーシャも内心では同意している。

 

 ――わざわざ騒いで自己アピールする意味もないと思うし。

 

 あの戦闘スタイル。

 当然、カーシャ本来のものではない。

 

 故郷であるヤオアムト。

 その中でも尚武の気風が強いマウサスト流のスタイルだ。

 

 正式には、重装甲かつ高機動の鎧をまとう。

 そこに魔力を込めて最大限に強化された武器を振るう。

 大剣やグレイブなどの重量武器だ。

 

 戦争の際。

 ヤオアムトにとっては恐怖の象徴だったという。

 

 近づかれる前に倒す。

 最悪、初手の一撃を空振りさせる。

 当時の軍人たちはそれに骨を折っていたらしい。

 

「何千人もの兵士が、少数のマウサスト戦士に殺された……」

 

 と。

 多くの歴史書に記されていた。

 

 こういう気質なだけに、扱いづらい連中だが――

 

 ――逆に、その武力を認め、いえ、誉めそやされると弱い。

 

 だから。

 戦後は主力となる下級の貴族や騎士たちを、地方の開拓地へ送ったのだ。

 

 身分を与えて――

 貴族の娘を与えて――

 領地を与えて――

 

「グシオ殿も、いかぬと思うか?」

 

 と。

 カーシャは急にグシオへと顔を向けた。

 

「え?」

 

 いきなり話を振られた。

 

「いけないことは、ないさ。最初はちょっと驚いたけどな」

 

「そうか……。驚いたか……」

 

「い、いや! 別にダメとか悪いって意味じゃない。そりゃ、戦い、殺し合いだからな。早々お上品じゃいられないのは、当たり前さ。俺だって……」

 

「貴公の戦いぶりは、英雄らしく雄々しいものだと思うぞ?」

 

「あははは……。ありがとう。でも、やっぱり誉められるもんじゃないさ、本質的にはな」

 

「グシオ殿」

 

 カーシャはいきなり真顔となって、グシオを見つめた。

 

「え? な、なに?」

 

「貴公は優しい男なのだな」

 

「え!? そ、そうか。優しいとか言われても、困るんだけど……」

 

 グシオは困った顔で頭を掻く。

 『所在無さげ』。

 つまり――

 どうにも身の置き所がない雰囲気。

 そういう表情だった。

 

「うむ。優しいのだ」

 

 そう言って、カーシャはグシオの顔を見つめた。

 少しだけ――

 白い顔、その頬が赤くなっていた。

 

「な、なんなの、あの雰囲気……」

 

 オッカはムッとして、不満げな顔となる。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 周りのゴタゴタを気にもせず――

 近くの小高い場所で、カーシャとグシオはふたりだけになっていた。

 

「気にしない。そう言ってくれて、ホッとしている」

 

「そうか?」

 

「ああ。自分でもわかっているのだ、自分のブザマさはな……」

 

「ブザマって……」

 

 グシオは少し面食らった。

 カーシャには、あまり似合わない言葉だと思った。

 洗練された美貌と所作。

 その美しさは、かなうものなどいないのではないか。

 

 グシオ自身……。

 未だに、カーシャには気後れしている部分がある。

 

 しばらく沈黙が続いた後、

 

「なあ」

 

 不意に、カーシャは声音を変えた。

 どこか弱々しい、いつものとは違うもの。

 

「うん?」

 

「私の技、武術などと呼べるものではないが……。アレは全て我流でな、血生臭いやりとりで、自然に覚えたものだ。だから、下品で見苦しい。これはもう矯正できるものではないのだ」

 

「……」

 

「元々、私はある国では貴族の地位にいた。だが、親の不祥事でな、家も名前も失って、このありさまだ。今の名前だって適当にこしらえたもの。元の名前など、もはやなんの意味もない」

 

「そうか……」

 

「生き延びるために、つまらないことをしてきた。卑怯者と謗られたこともある。味方の血肉を喰らうような真似をした。時には、男に媚びへつらって、雌犬のような真似もな……」

 

「……」

 

「もっと、もっと早くお前に会いたかった。そうすれば、お前に処女(おとめ)の証を捧げられたのにな」

 

「カーシャ……」

 

「ははは。何を言ってるのだろうな。こんな、つまらぬことを……」

 

 カーシャは、そう言ってグシオに背を向ける。

 

「よせ!」

 

 自嘲的なカーシャの言葉を、グシオはさえぎる。

 

「何があったって、君は君じゃないか。つまらないっていうなら、そんなもの捨ててしまえばいい。誰が何を言ったって、俺は……君の」

 

「――なってくれるか?」

 

「え?」

 

「なってくれるのか? 私の白馬の騎士に」

 

「あははは。俺はその、黒装束だけどな。それでよければ」

 

「すまぬ……」

 

「謝ること、ないさ」

 

「そうだな」

 

 カーシャは苦笑してから――

 

「ならば、お前に甘えてもよいのだな?」

 

「ああ……。頼りないかもしれないけど、俺でよければ」

 

「ははは。お前が頼りないというのなら、他全ての男どもは赤ん坊同然ではないか」

 

「いや、誉めすぎだろ……」

 

 この時。

 グシオに完全に照れていた。

 視線をそらして、遠くを見ている。

 

「少しよいか?」

 

「え」

 

「少し、しゃがんでみてはくれぬか」

 

「あ、ええと。こうか?」

 

「うむ」

 

 カーシャは、そっとグシオの頭をかかえ、抱きしめた。

 自分の胸に沈めるかのように。

 

「ちょ、何を……!?」

 

 柔らかい乙女の感触。

 グシオはそれにあわてふためくが、

 

「もう私はお前のもとを離れぬ」

 

「いや、それは……」

 

「私はお前の女だ」

 

「お、女って……」

 

「わからぬか。では、こう言おう、英雄グシオよ。お前の獣欲、いつでも私にぶつけてほしい。決して拒まぬ。いや……むしろそうしてくれると嬉しい」

 

「ななな……」

 

 パニック状態のグシオ。

 

 と。

 

「「「「いいかげんにして!!」」」」

 

 甘い甘い雰囲気。

 そこに、複数の怒声が割って入った。

 オルマを始めとした数人の少女や乙女が、場に乱入してきたのだった。

 

 

 

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