破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
スタイルとしては――
両手で大剣を持ち、柄を顔に近づけている。
そこから。
刀身を背中に隠すような形。
このような体勢から、
「ヂィィエエエエエエエエエッッ!!!」
奇声というべきか。
咆哮というべきか。
とにかく、尋常ならざる叫び。
これを発しながら、一直線に突進。
カーシャの場合……。
敵の遠距離攻撃を進みながら避けて、
「ぎゃああああ!?」
肉薄して、敵を両断する。
その殺意と迫力に、ほとんどの敵は戦う前から引いていた。
というか。
味方も引いているわけで――
「頼りにはなるけど、アレばっかりはねえ……」
戦闘後。
武装の手入れをしていたオッカがつぶやく。
パーティーには魔導技術を用いた武器や防具が多いのだ。
「いちいち、あの……そう、絞め殺される猿みたいな声出さないといけないわけ?」
「ダメか?」
自分の剣を手入れしつつ、カーシャはたずね返した。
「……気持ちの良いものじゃないわね」
「だが、気合を出さぬと力が入らぬぞ?」
「ま、そうかもしれないけど……」
オッカは、非常に困った顔をしていた。
――ま、フツーはそういう反応よね。
カーシャも内心では同意している。
――わざわざ騒いで自己アピールする意味もないと思うし。
あの戦闘スタイル。
当然、カーシャ本来のものではない。
故郷であるヤオアムト。
その中でも尚武の気風が強いマウサスト流のスタイルだ。
正式には、重装甲かつ高機動の鎧をまとう。
そこに魔力を込めて最大限に強化された武器を振るう。
大剣やグレイブなどの重量武器だ。
戦争の際。
ヤオアムトにとっては恐怖の象徴だったという。
近づかれる前に倒す。
最悪、初手の一撃を空振りさせる。
当時の軍人たちはそれに骨を折っていたらしい。
「何千人もの兵士が、少数のマウサスト戦士に殺された……」
と。
多くの歴史書に記されていた。
こういう気質なだけに、扱いづらい連中だが――
――逆に、その武力を認め、いえ、誉めそやされると弱い。
だから。
戦後は主力となる下級の貴族や騎士たちを、地方の開拓地へ送ったのだ。
身分を与えて――
貴族の娘を与えて――
領地を与えて――
「グシオ殿も、いかぬと思うか?」
と。
カーシャは急にグシオへと顔を向けた。
「え?」
いきなり話を振られた。
「いけないことは、ないさ。最初はちょっと驚いたけどな」
「そうか……。驚いたか……」
「い、いや! 別にダメとか悪いって意味じゃない。そりゃ、戦い、殺し合いだからな。早々お上品じゃいられないのは、当たり前さ。俺だって……」
「貴公の戦いぶりは、英雄らしく雄々しいものだと思うぞ?」
「あははは……。ありがとう。でも、やっぱり誉められるもんじゃないさ、本質的にはな」
「グシオ殿」
カーシャはいきなり真顔となって、グシオを見つめた。
「え? な、なに?」
「貴公は優しい男なのだな」
「え!? そ、そうか。優しいとか言われても、困るんだけど……」
グシオは困った顔で頭を掻く。
『所在無さげ』。
つまり――
どうにも身の置き所がない雰囲気。
そういう表情だった。
「うむ。優しいのだ」
そう言って、カーシャはグシオの顔を見つめた。
少しだけ――
白い顔、その頬が赤くなっていた。
「な、なんなの、あの雰囲気……」
オッカはムッとして、不満げな顔となる。
・ ・ ・
周りのゴタゴタを気にもせず――
近くの小高い場所で、カーシャとグシオはふたりだけになっていた。
「気にしない。そう言ってくれて、ホッとしている」
「そうか?」
「ああ。自分でもわかっているのだ、自分のブザマさはな……」
「ブザマって……」
グシオは少し面食らった。
カーシャには、あまり似合わない言葉だと思った。
洗練された美貌と所作。
その美しさは、かなうものなどいないのではないか。
グシオ自身……。
未だに、カーシャには気後れしている部分がある。
しばらく沈黙が続いた後、
「なあ」
不意に、カーシャは声音を変えた。
どこか弱々しい、いつものとは違うもの。
「うん?」
「私の技、武術などと呼べるものではないが……。アレは全て我流でな、血生臭いやりとりで、自然に覚えたものだ。だから、下品で見苦しい。これはもう矯正できるものではないのだ」
「……」
「元々、私はある国では貴族の地位にいた。だが、親の不祥事でな、家も名前も失って、このありさまだ。今の名前だって適当にこしらえたもの。元の名前など、もはやなんの意味もない」
「そうか……」
「生き延びるために、つまらないことをしてきた。卑怯者と謗られたこともある。味方の血肉を喰らうような真似をした。時には、男に媚びへつらって、雌犬のような真似もな……」
「……」
「もっと、もっと早くお前に会いたかった。そうすれば、お前に
「カーシャ……」
「ははは。何を言ってるのだろうな。こんな、つまらぬことを……」
カーシャは、そう言ってグシオに背を向ける。
「よせ!」
自嘲的なカーシャの言葉を、グシオはさえぎる。
「何があったって、君は君じゃないか。つまらないっていうなら、そんなもの捨ててしまえばいい。誰が何を言ったって、俺は……君の」
「――なってくれるか?」
「え?」
「なってくれるのか? 私の白馬の騎士に」
「あははは。俺はその、黒装束だけどな。それでよければ」
「すまぬ……」
「謝ること、ないさ」
「そうだな」
カーシャは苦笑してから――
「ならば、お前に甘えてもよいのだな?」
「ああ……。頼りないかもしれないけど、俺でよければ」
「ははは。お前が頼りないというのなら、他全ての男どもは赤ん坊同然ではないか」
「いや、誉めすぎだろ……」
この時。
グシオに完全に照れていた。
視線をそらして、遠くを見ている。
「少しよいか?」
「え」
「少し、しゃがんでみてはくれぬか」
「あ、ええと。こうか?」
「うむ」
カーシャは、そっとグシオの頭をかかえ、抱きしめた。
自分の胸に沈めるかのように。
「ちょ、何を……!?」
柔らかい乙女の感触。
グシオはそれにあわてふためくが、
「もう私はお前のもとを離れぬ」
「いや、それは……」
「私はお前の女だ」
「お、女って……」
「わからぬか。では、こう言おう、英雄グシオよ。お前の獣欲、いつでも私にぶつけてほしい。決して拒まぬ。いや……むしろそうしてくれると嬉しい」
「ななな……」
パニック状態のグシオ。
と。
「「「「いいかげんにして!!」」」」
甘い甘い雰囲気。
そこに、複数の怒声が割って入った。
オルマを始めとした数人の少女や乙女が、場に乱入してきたのだった。