破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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https://kakuyomu.jp/works/16818093082887030996

 ※こちらはカクヨム版っす


その117、悪魔が来りて嘘をつく-24 古代竜

 

 

 ――やれやれ。面倒なもんだ。

 

 トクベーは暗い岩陰にいた。

 月は雲に隠れている。

 星もない。

 暗い闇夜だった。

 

 少し気配を探った後――

 トクベーは音もなく走る。

 

 岩屋のずっと奥。

 さらに、下に隠れた場所。

 そこで止まると、岩に耳をつける。

 

 ――ここだな。

 トクベーは小さくうなずく。

 それから。

 あたりを探って、小さな穴を見つけ出した。

 

 わずかな隙間、通り道を探り、あるいは造り、進んでいく。

 やがて。

 

 ――出た。

 

 小さな隙間から、外が見えた。

 広く、巨大な空洞となっている場所が見える。

 

 その奥に、

 

 ――おいおい……。

 

 巨大な顔のような物体。

 ごく一部だが、それだけで巨大さが理解できた。

 

 ヒト型ではない。

 突き出した獣のような顎。

 爬虫類のような鱗。

 それは、巨大な兜を思わせる頭部。

 

 ――ドラゴンか。いや、しかし……。

 

 巨大すぎる。

 

 以前ヤオアムトのミズイを襲った中間体の火炎竜。

 あれにしても、

 

 ――情報じゃせいぜい20メートル……。しかしこりゃあ……。

 

 その全体――

 大ざっぱな計算でも、おそらくは、

 

 ――倍……。50メートル近くなるぞ、これは。完全な成体じゃないか。初めて見た……。

 

 しかも、どうやら死体などではない。

 一見死んだように動かないが……。

 

 ――鼓動が岩越しに伝わってくる。冬眠状態か。なるほど、これが切り札ってわけね?

 

 50メートル近いドラゴン。

 それを自由に操れれば、

 

 ――まさに、無敵だ。国どころか、ナーロッパ全域を叩き潰せるかもしれない……。まあ、操れたらの話だけど……。

 

 ドラゴンに限らず――

 モンスターは成長すればするほど制御が難しくなる。

 当然の話だった。

 

 ――下手すれば、自分たちも踏み潰される。諸刃の剣どころの騒ぎじゃないぞ……?

 

 それとも、

 

 ――死なばもろともってつもりか? しかしなあ……。

 

 これまで探った魔王軍の動向からして――

 『魔王』の言動からして――

 

 ――勝つつもりではあるようだけど……。ああ、そうか。

 

 ドラゴンを操る魔道具。

 あれをより強化発展させる。

 

 ――そういうつもりだな? まあ、中間体あたりなら、例の青いお姫様が出張れば解決するんだろうな。いや、待て……。

 

 青い姫君(カーシャ)のやることは、別にある。

 詳しくは知らないが、政変に関係のあることなのだろう。

 

 ――と、すれば。彼女が特に意味のない戦闘をするとも思えない……。やることをやればさっさと退散することだって……。

 

 そも。

 依頼主が、カーシャの能力をどの程度把握しているモノやら、

 

 ――わかったもんじゃないからね?

 

 トクベーはあれこれと、思考を錯綜させてしまう。

 

 ――しかし、あのドラゴン、どれだけ生きてるんだ? あそこまで成長するまで……。

 

 俗に――

『海に千年。山に千年。地下に千年』という。

 

 これは、ドラゴンが完全な成体になるまでに必要な時間だ。

 どこまで真実かはわからない。

 だが……。

 

 ――ドラゴンが中間体になるまででさえ、千年近くかかるとも聞いたかな……。

 

 千年。

 それは一つの国が興って滅ぶまでに十分な時間だ。

 

 

 トクベーが複雑な気分で偵察を続けていると、

 

「もうすぐだな――」

 

 低い声がした。

 威厳があり、同時に感情を抑えた響きがある。

 

 ――魔王……。

 

 いや。

 魔王と呼ばれている男が、ドラゴンの前に歩み寄っていた。

 

 若くはない。

 しかし、老人というほどでもなかった。

 どうやら人間らしい。

 

 暗い緑の軍服のような服装をしていた。

 青ざめた頬をして、どこかやつれているようだ。

 鋭い目が、ギラギラとしたものを含んだ眼光をドラゴンに向けている。

 

 

「閣下、あまりお近づきにならないほうが……」

 

 後ろに控える従者が、おずおずと声をかける。

 

「この距離では、何かあればまず助からん。余計な心配だよ」

 

「は……」

 

「それで、進捗は?」

 

「まだ6割というところです。やはり、ドラゴンを制御するための要素が不足しておりまして」

 

「竜使いの血肉か」

 

 『魔王』は従者を振り返る。

 

「まだ十分な確保ができておりません」

 

「志願者は?」

 

「竜使いの流れを汲む者、それも優れた資質でなければ無用な犠牲を出すだけです。いえ、まったく無駄ではないのですが、それで得られるものがあまりにも……」

 

「少ないと――」

 

「はい」

 

「だが、ドラゴンオーブの完成なくしては、古代竜の制御はできん」

 

「はい……」

 

「古代竜が使えねば、完全な勝利にはならん。ダラダラと戦争を長引かせれば、こちらが不利だ。ドラゴン・ホルンでは一度に操れる数にも制限がある。ましてや、古代竜の制御など――」

 

「ドラゴン種自体の血肉と人間の血肉を使えば、疑似的ながら必要な素材はできるのですが……」

 

「それはコストに見合わん。そう言ったのは君自身だぞ」

 

「は……」

 

 何やら、不穏なやり取りは続いていく。

 これを見ながら――

 

 ――なるほど……。やっぱり兵隊が少ないから、いくらドラゴン種を操れても陣地を広げることは難しいのか。いくら強力な武器があっても、使えるのがモンスターばかりじゃあなあ。街ひとつ支配するのも難しそうだ。

 

 トクベーは状況を記憶しながら、ため息を吐く。

 

 ――ヤケクソになって片っ端から潰さない所を見ると、先を見ているのか、理性があるのか。どっちにしても、ジリ貧になるけど。

 

 ナーロッパ全域の脅威。

 多くが、魔王軍をそのように認識しているようだが……。

 

 ――犠牲は多く出る。だけど、とても支配できる力はない。仮に、古代竜の力で戦争に勝っても、後をどう治めるつもりなんだろ?

 

 トクベーは首をひねりながら、そっと外へと抜けだしていく。

 無事外へ出た後――

 

「ふっ」

 

 何かを手のひらに乗せて、息を吹きかけた。

 

 瞬間。

 乗っていたものは、宙に浮かびあがり、空の向こうへと飛んでいく。

 シーマ国の方向だった。

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

「陰気な晩だぜ――」

 

 

 ゴトクは、窓を見ながらひとりつぶやく。

 場所は王都から少し離れた宿場町。

 一介の行商人として、ゴトクは宿をとっていたわけだが――

 

「……」

 

 ゴトクは窓を開き、ゆっくりとベッドに座り込んだ。

 

 と。

 窓の外から何かが部屋に飛び込んできた。

 音もなく、ふわりと。

 

 ゴトクの手に着陸したそれは、翼のはえたヒキガエル。

 ヒキガエルの開いた口に、ゴトクは指を突っ込んだ。

 何かが引き出されると同時に、ヒキガエルは煙となって消える。

 

 中身は、小さな紙片だった。

 ゴトクはそれに魔力を流してから、目を細める。

 

 ――おいおいおいおい……。古代竜だぁ?

 

 紙に記録された情報をひと通り確認してから……。

 ゴトクは紙を握りつぶす。

 拳の中で、紙は灰となって消えた。

 

 

 

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